開運童子のブログ -102ページ目

雨のあとに虹 その56

「このスープはどうですか?」

久美子が言うと

「おいしいよ。」

俊之は言った。俊之は女性が喜ぶ気の利いた事は言えないが心の中では嬉しいのである。40歳を過ぎた中年が20歳の女性に優しくされることは珍しい事である。久美子のように素直な美人で頭も切れる女性に優しくされているのだから俊之は嬉しさでいっぱいであった。久美子とは男と女の中になったのだから当たり前の事であるが何とも照れくさいのだった。

「デザートもどうぞ」

久美子が言った。

「ありがとう。」

俊之は言ってデザートを口にした。

「これで体力が戻りますよ。」

久美子が言うとすべて食べ終わった俊之が

「ごちそうさま。」

と俊之が言った。

「少ししたら寝た方が良いですよ。」

久美子は言った。

「そうしようかな?」

俊之が言うと

「私は後片付けをしたらそろそろ行かなくちゃ。」

久美子が言った。

「もう大丈夫だよ。」

俊之は言った。食事はもちろん水分もかなり接収したので熱は少し下がってきたようである。俊之は身体が少し楽になってきた。

「まだ楽にしていないとダメですよ。」

久美子は言って後片付けをしている。久美子の後姿を見た俊之は

「こういう生活もいいなかもしれない。」

とひとり言を言った。

「何か言いましたか?」

久美子は言った。

「何でもないよ。」

俊之はあわてて言った。ここでも俊之の心は変化していった。

「お呼びでしょうか?」

榊原は言って役員室に入った。取締役総務本部長の山本義和に呼び出されたのでる。

「座わりなさい。」

山本が言う。榊原は促されて

「失礼します。」

と言った。

「君は顔色が良くないがどこか身体の具合でも悪いのかね?」

山本は言った。

「そんな事はありません。」

榊原は言った。

「それなら構わないが気をつけたまえ。」

山本は言った。

「はい。」

榊原が言うと

「健康が第一だよ。」

山本が言いった

「気をつけます。」

榊原は山本と視線を合わせて言った。

「先日高村くんに会ったよ。」

山本は言った。突然に俊之の話題になったので

「高村にですか?」

と榊原は言った。

「そうだよ。」

山本は言った。

「そうですか。」

榊原は不機嫌な顔で言った山本は榊原を見て

「高村くんにうちへ帰ってきてもらうことは出来ないだろうかと思ってね。」

と言った。山本の一言に榊原は全身に電気が走ったような衝撃を受けていたのだ。

「あまり無理をしないでね。」

久美子が言うと俊之は

「大丈夫だよ。」

と言った。

「明日にでも電話をします。」

久美子が言うと

「僕からも電話をするよ。」

と俊之は言った。短い会話を終えて久美子は俊之の部屋を後にした。俊之は身体を横たえてゆっくり久美子が言った言葉や田崎の事を思っているうちに俊之に少しずつ睡魔が襲ってきていた。

雨のあとに虹 その55

俊之はさすがに空腹に耐えかねていた。そろそろ何かを食べよう。そう思いながら半分眠っていた。時間が経って空腹感が増してくる。俊之は空腹を意識するとキッチンの方から料理の匂いがしてきた。さらに空腹が増してくる俊之であった。俊之が起き上がろうとした時に

「俊さん。」

久美子は言った。

「うん。」

俊之が言うと

「食事が出来たから食べてください。」

久美子が言った。俊之はやっとも思いで重い身体を起こして周囲を見た。

「おいしそうだね。」

俊之は少しかすれた声で言った。

「何も食べていないのではいつまでたっても体力が回復しないですよ。」

久美子は言った。俊之は久美子の声を聞きながら出来上がった料理を見ていた。コンソメスープにサラダとオムレツにベーコンがある。デザートの果物を見ると俊之は喉が渇いてきた。久美子はやはり女性であった。細部に気遣いがあったのだ。

「ありがとう。」

俊之が言うと久美子は

「いいえ。」

と言って少し照れていた。

「久美ちゃんは料理が上手だね。」

俊之は嬉しそうに言った。

「そんなことないですよ。」

久美子が言うと俊之は

「これほどの料理を作れる女性は少ないよ。」

と言った。

「これは家庭科の調理実習で勉強した料理のひとつです。」

久美子が言うのを聞いて。

「調理実習とは懐かしい言葉だ。」

俊之は言った。

「お母さん!」

千晴は言った。

「どうしたの?」

静江が言う。

「最近はおじさんに会ってないけど良いの?。」

千晴が言った。

「うん。」

静江は言った。

「寂しくないの?」

千晴が言った。

「どうして私が寂しいの?」

静江は言った。

「ふたりだけの兄妹でしょ?」

千晴が言うと

「そういう言い方もあったわね。」

静江は言った。石井園の玄関は綺麗に見えるがよく見ると誇りで汚れていた。

「掃除をしないとね。」

千晴が言った。その時

「おい!」

と言って純一が顔を出した。

「何か?」

千晴が言うと

「何かうまいものでも食べに行こう。」

純一が言う。

「本当に?」

千晴が言い。

「たまにはいいわね。」

静江も言った。

「少しまとまった金が入ったからな。」

純一が嬉しそうに言った。

「賛成。」

千晴は久しぶりに笑顔を見せた。

「昨夜はすみませんでした。」

田崎は社長室に入って来て言った。

「風邪引かなかったか?」

矢島は言った。

「それは大丈夫です。」

田崎は言った。

「お前も身体は丈夫だな。」

矢島が言うと

「家に帰ってすぐに着替えましたからね。」

田崎は言った。

「それはよかったな。」

矢島が言った。

「風邪は大丈夫ですか?」

田崎が言うと

「俺は大丈夫だ。」

と矢島は言った。

「昨日はどうかしていました。」

田崎は恐縮して言った。

「お礼なら高村に言ってくれ!」

矢島は田崎の目を見て言った。

「次にいらした時にはきちんとご挨拶をさせていただきます。」

田崎は言った。

「そうしてくれ!」

と矢島が言う。

「高村さんは不思議な魅力がありますね。」

田崎が言うと

「不思議な魅力?」

矢島が言った。

「大手のエリートビジネスマンのようにクールで頭脳を駆使して事務的に物事を処理しているかと思えば昨夜のように人間的な一面も見せてくれる。」

田崎は言った。

「お前もそう思うか?」

矢島は言うと

「意外と庶民的な面もありますね。」

田崎は言った。

「高村を理解するのは時間がかかるぞ。」

矢島が言うと

「僕のそうも思います。」

田崎が言った。

「俺もそうだったからな。」

矢島が言った。

雨のあとに虹 その54

朝日が差してきた。俊之はいつもの時間に起きるはずであった。身体が重いのは昨夜の事が原因のようだ。だるさがあり少し熱もあった。いや少しどころではない。座っているのがとても辛かったのだ。体温計で測ってみると40度以上もあった。これだけ熱があれば辛いはずだ。俊之は思った。そんな俊之でも頭脳はめまぐるしいスピードで回転していたのだ。

「今日は仕方がないから休む事にしよう。」

それだけ言うと俊之はそのまま再び眠ってしまった。

 俊之の頭の中でインターホンが鳴っている。今日は仕事を休む事は連絡をしているはずである。誰が来たのだろう?急な用件であろうか?家に人が訪ねて来る事は珍しい事である。俊之は重い身体を起こしたが体調は最悪の状態である。やっとのおもいで玄関まで行ってドアを開けた。ドアの向こうには久美子が立っていた。

「何度電話をしても出ないから来てみました。」

久美子は言った。

「そうだったの?」

俊之は言った。今になってやっと俊之の頭がはっきりしてきたのだ。

「すまないね。」

俊之はかすれ声で言った。

「どうかしたのですか?」

久美子は言った。

「体調を崩したようでね。」

俊之は言が言うと

「ちゃんと食事は取ったのですか?」

久美子は言った。

「食事はこれからだよ。」

と俊之は言った。

「熱はありますか?」

久美子が言うと

「熱は高いみたいだね。」

俊之が言った。

「こんな時間まで食べていないのは良くないですよ」

久美子は言った。

「自炊はしないのでね。」

俊之は言った。

「食事はどうしているのですか?」

久美子が言うと

「そのうち出前でも取ろうと思っていたところでね。」

俊之は言った。久美子が部屋玄関から部屋の中に入って来て

「熱が高いみたいですね。」

と言った。

「熱は40度近くあるみたいだよ。」

俊之は言った。

「それでは辛いはずですね。」

久美子は言った。

「久美ちゃんに風邪がうつるといけないよ。」

と言う俊之を遮るように

「そんな事を言っている場合じゃないですよ。」

久美子は言ってキッチンを見た。

「うん。」

俊之は言った。

「食材を買ってきますから寝ていてください。」

久美子は言った。

 商店街では八百屋だけが開いていた。早い店は営業を始めていたのである。スーパーやコンビニもいいが新鮮なものは専門店で多く売っている。自分ができる料理に必要な食材を選ぶのは久美子にとって楽しかった。俊之にはかわいそうだがたまにはこういうのも悪くないと久美子は思っていた。

「それにしても冬に噴水に落ちるなんて子供みたい。」

久美子は独り言を言った。俊之にも子供っぽいところがあるのは久美子にとって以外であり安心もした。

「俊さんは絶対に悪い人ではないわ。」

久美子は心の中で言った。