雨のあとに虹 その62
「話をしても大丈夫?」
久美子は電話で言った。休憩に入ったところであった。純子の事が気がかりだったので連絡をしたのだ。昨夜は及川の件で翔太に助けてもらった事もあって純子には連絡が出来なかった。とんでもない被害に会ったものである。久美子にとってショックは大きかったがこれで及川は罪を償う事になるのが唯一の救いかもしれない。余罪があるので実刑になりそうだと翔太は言っていたがそれは当然である。久美子には電話をかける精神的な余裕を取戻すのに時間が必要だったのだ。今になって電話をかける余裕が出来た。純子の妊娠が心配になったのであるが久美子も悩みを聞くだけで大きな助けにはなれそうもない。だからこそ心配が大きかった。
「大丈夫だよ。」
純子は言った。
「どうするか考えてみたの?」
久美子が言うと
「明日元彼の勝一くんに会ってこの事を伝えるよ。」
純子が言った。
「ひとりで大丈夫なの?」
久美子は言った。
「ひとりじゃないとこんな話はできないよ。」
純子は言った。
「それもそうだよね。」
久美子は言った。
「やはり榊原部長って嫌な奴でしょう?」
中村は露骨に言った。
「それは言い過ぎじゃないかな?」
俊之は言ったが
「いいのよ。」
まどかが言った
「あんな奴は能力が無いくせに部長になったのだから!」
中村もはっきりと言った。
「榊原も嫌われているね。」
俊之が苦笑いして言った。
「私はあんな薄気味悪い人は嫌いです。」
まどかが言った。
「僕も冷徹人間は嫌いですね。」
中村は言った。
「そんなに悪く言うものじゃないよ。」
俊之は言った。
「いっそのこと高村部長が会社に帰って来てくださいよ。」
中村が言った。
「私も高村部長だったら何でも言う事聞きますよ。」
まどかが言った。俊之は周囲を見回して
「小谷さん。」
俊之は言った。
「何ですか?」
まどかが言うと
「誤解される事を言ってはだめだよ。」
と言った。俊之にとっては嬉しい事であった。
「堀川さん。」
ひとみは言った。
「はい。」
と久美子は言った。
「トレンドカフェは年末年始も元日以外は営業するけど出勤できる日はどのくらいあるかしら?」
ひとみが言った。
「特に予定はないから3日意外なら出勤できますよ。」
久美子は言った。
「3日以外は出勤できるのね。」
ひとみは言った。
「私は2日以外なら出勤できますよ。」
小百合は言った。
「大石さんは2日以外が出勤できるのね?」
ひとみは言った。こういうスタッフルームでの会話も楽しいと久美子は思った。
雨のあとに虹 その61
翔太は、三友商事本社の建物を見上げながら
「いよいよ提携が本格的に進んでいくのか。」
と言った。年末と言う事もあって具体的な取り決めは年が明けてから動く事は俊之も容易に想像ができた。
「春香さんが帰って来ない事には間単には動けないな。」
翔太は言った。俊之が三友商事の建物から出て来て駅を向かうのをじっと見る翔太は何かを待っているようにじっと動かなかった。
育子がラケットを持って立った。相手と目が合うと。
「それ!」
声とともにラケットからボールが飛んで相手のコートに当たった。ボールが曲線を描くように動きが変化した。相手はラケットにボールを当てる事が出来なかった。
「試合終了!」
審判が言った。笛がなって育子の1回戦は順調に勝利した。
「高村くんとこれから食事でもと思ったのだが残念ながら先約があってね。」
山本は言った。
「それはかまわないですよ。」
俊之は言った。
「すまないが年があけたらゆっくり会おう。」
山本は優しく言った。
「気にしないでください。」
俊之が言った。
「年が明けたら会おう。」
山本は言った。
「年が明けたら僕からも連絡しますよ。」
俊之が言った。山本はエレベーターまで見送りに来てくれた。エレベーターが来ると
「それではここで失礼するよ。」
山本が言った。
「ありがとうございます。」
俊之は言った。俊之が乗ったエレベーターが閉まり下降してすぐに止まった。30代後半の男子社員が慌ててエレベーターに乗って来たのだ。俊之を見て男子社員は
「高村部長じゃないですか?」
と言った。俊之は相手を見て
「中村くんだね。」
と言った。中村光二は
「はい。」
と言った。
「元気そうだね。」
俊之が言うと
「高村部長もお元気そうです何よりです。」
中村は懐かしそうに言った。
「今日は山本さんの所に来て帰るところだよ。」
俊之は言った。
「山本取締役のところですか?」
中村が言った。
「野暮用があってね。」
俊之は言った。
「ところでこれから時間ありますか?」
中村は言った。
「大丈夫だよ。」
俊之が言うと
「お昼でもどうですか?」
中村が言った俊之は
「久しぶりに懐かしい話しでもしたいね。」
と言った。
「それはなら小谷さんにも声をかけてみます。」
中村は言った。
雨のあとに虹 その60
都心部にある有名な体育館の前に育子とチームメイトの寺田ゆき乃は立っていた。今日は卓球の全国大会決勝戦であり周囲は活気に満ちていた。
「とうとうここまで来たね。」
育子が言うと
「ここまで来たら勝つしかないよ。」
ゆき乃が言った。育子は気合を入れる姿勢をとった。それは自分に対してもゆき乃に対しても必勝を意識する意味でとったポーズであった。
「高村さんが応援に来てくれるかな?」
育子が言うと
「高村さんっていつも応援に来てくれる人でしょ?」
ゆき乃が言った。
「そうだよ。」
育子は言った。
「見かけたら教えてあげるよ。」
ゆき乃は言った。
「絶対に教えてね。」
育子は言った。ふたりは言いながら体育館の中へ入って行った。育子とゆき乃はダブルスを組んでいるがそれぞれシングルスの方でも優勝を狙える実力があった。
「急に呼び立てしてすまなかったね。」
山本は俊之に言った。 まどかに案内された時に山本は既に応接室にいた。珍しい事だがそれだけ山本は俊之に敬意を持っていたのだ。
「とんでもありません。」
俊之は言った。
「私も気がせっかちのほうでね。」
山本が言うと
「僕も山本さんとは早くもう一度お会いしたかったですよ。」
俊之は言った。
「早速ですまないが本題に入ろう。」
山本は言った。
「はい!」
俊之は言って山本の目を見た。
「高村くんはそろそろうちに戻って来る気はないかね?」
山本は突然何の前置きも無しに言った。
「僕が三友商事に復帰ですか?」
俊之は言った。
「そろそろ考えてみてくれないかね?」
山本は言った。
「今の僕に出来る仕事があるでしょうか?」
俊之が言うと
「あるどころか高村くんに比べたら榊原も貴志も田所も足元に及ばないさ。」
山本は言った。
「そうでしょうか?」
俊之は言った。
「小谷くんだってそう言ってなかったかね。」
山本は言った。
「いろいろと問題があるらしいのは聞きました。」
俊之は言った。
「さすがだね。」
山本は言った。
「何がですか?」
俊之が言うと
「君が辞めて4年近くなるのに高村部長と親しく呼ばれるのだからね?」
山本は言った。
「聞いていらしたのですか?」
俊之は言った。
「私はそんなに耳は良くないよ。」
山本は言った。
「でも情報収集は得意のようですね。」
俊之は言った。
「小谷くんと話をすると君の話になることが多いからね。」
山本は言った。
「そうでしたか。」
俊之が言うと
「高村くんの事を未だに部長と役職で呼んでいるのを耳にしただけだよ。」
山本は言った。
「小谷さんが僕の事を役職で呼んでくれていたのですか?」
俊之は驚いたように言った。
「それに当社も念願の総武グループとの提携が出来きる目途だつきそうだ。」
山本が嬉しそうに言った。
「総武グループとの提携ですか?」
俊之が言うと
「君の出番だと思うよ。」
と山本は俊之から目をそらさずに言った。