開運童子のブログ -99ページ目

雨のあとに虹・その65

「お先に失礼します。」

久美子が言った、

「お疲れ様でした。」

ひとみは明るく言ったが久美子には不自然に感じていた。

「元気がないみたいですけどすけど何かあったのですか?」

久美子は余計な事と知りながら言った。

「大丈夫よ。」

ひとみが言った。

「そうですか?」

久美子が言うとひとみは

「ありがとう。」

と言った。ひとみの思いつめたような表情を久美子は見逃さなかった。

「ごちそうさまでした。」

交差点が赤信号になった時に育子が言った。

「とんでもない。」

俊之が言った。

「このお店は値段が高そうだったけど大丈夫?」

育子が言った。

「育子さんのアドバイスで買った馬券が当たったからね。」

俊之は言った。

「それなら良いかな?」

育子が心配して言うと

「ほんのお礼だよ。」

俊之は言った。言っているうちに信号が青に変わった。

「ここを左に曲がると宿舎だから大丈夫だよ。」

育子が言うと俊之は

「気をつけてね。」

と言った。

「今度は会うのは年明けになりそうね。」

育子が言った。

「年が明けたけ落着いたらゆっくり会おうよ。」

俊之は言った。

「それじゃ!」

育子は言って歩いて行った。俊之は駅の方へ歩き出した。育子は細い道を通って宿舎へ急いで歩いた。細い路地を左に曲がって次を右に曲がった時に育子は後ろに人の気配を感じていた。さらに次の路地を右に行ってすばやく物陰に隠れると背が高い男が育子を追って来て急に立止まった。育子がいないので周囲を見回している。その男は翔太だった。

「見失ったかな?」

翔太は言った。育子は困った表情をしている翔太を見ていた。タイミングを見て育子は物陰から翔太の前に姿を現していきなり翔太の腕を掴んでぎゅっと締め上げた。

「痛い!」

翔太が言うと

「私に何か用があるの?」

育子は言った。

「野暮用がありましてね。」

翔太は言った。

「痴漢みたいにしてないで堂々と言いなさいよ。」

育子は言った。翔太は意外にも落ち着いて

「高村さんとは親しいようですね?」

と言った。

「高村さんは大事な友達だからね。」

育子は言った。それを聞いて翔太は

「それなら話が早い。」

と言った。

「どういう事なの?」

育子が言うと翔太は

「お願いがあってね。」

と言った。

「お願いってどんな事よ?」

育子が言うと

「これから先は何があっても高村さんの味方でいてください。」

翔太は言った。

「当たり前でしょ!」

育子は当然言う表情で言った。

「でしたら少しだけ僕に協力してくださいよ。」

翔太が言うと

「内容にもよるけどね。」

育子は言った。

「すべて高村さんの恋のためです。」

翔太が言った。

 電車を待つ俊之の携帯に久美子から電話がかかってきた。

「俊さん。」

久美子は深刻な声で言った。

「どうしたの?」

俊之は思わず言った。

「急だけど明日会える時間がありますか?」

久美子は言った。物静かだが思いつめた言い方だった。

「大丈夫だよ。」

俊之は言った。

「できれば競馬に連れて行ってくれませんか?」

久美子は言った。

「僕もそろそろ久美ちゃんとの約束を果たそうと思っていたところだよ。」

俊之は言った。

「競馬は良く解らないですけど。」

久美子は言った。

「その先は言わなくていいよ。」

俊之は言った。

「自分の都合だけを言ってごめんなさい。」

久美子は言った。

「そんなの構わないさ。」

俊之は言った。

「明日は楽しみにしています。」

久美子が言うと

「僕も会えるのを楽しみにしているからね。」

俊之は優しく言った。今は余計な事は聞かない方が良いと俊之は悟っていた。

雨のあとに虹 その64

「試合終了。」

審判は言った。試合が終了したのである。育子が接戦を制して優勝した。チームメイトはみんなが立ち上がって喜んでいた。育子はチームメイトの方に寄って来てゆき乃と抱き合って喜んでいた。俊之も育子の優勝が自分の事のように嬉しかった。喜んでいた育子は俊之を見つけると傍に走って来た。

「おめでとう。」

俊之は言った。

「ありがとう」

育子も言った。

「僕まで手に汗を握ったよ。」

俊之が言った。

「ありがとう。」

育子が言った。

「凄い試合だったね。」

俊之が言うと

「高村さんが応援に来てくれたからがんばれたと思う。」

育子が言った。

「それは育子さんの実力だよ。」

俊之は言った。

「高村さんがパワーをくれたからよ。」

育子は言った。

「僕はただ座っていただけだよ。」

俊之が言うと

「それが大事なのよ。」

育子は言った。

「そういうものかな?」

俊之が言うと

「座って応援してくれる人がいれば力が無い力も発揮できますよ。」

育子が言った。

「接戦だったし相手の選手も素晴らしかったよ。」

俊之は言った。

「今までで一番強い相手だったからね。」

育子が言った。

「とても立派だったよ。」

俊之は言った。相手選手は負けて悔しいだろうが勝負とは時には残酷である。勝つ事もあれば負ける事もある。今回は育子が勝ったが次回は相手選手が勝つかも知れない。

「期間があったら食事でも行かない?」

育子は言った。

「もちろん大丈ですよ。」

育子は言った。

「僕はここで待っているよ。」

俊之は言った。

「すぐに戻ってくるからね。」

育子は元気よく言った。

ひとみは榊原のところへ行こうと思っていたが年末の忙しさで時間が取れなかった。仕方ないので電話をかけてみる。榊原の携帯は呼び出はするがすぐに留守電に切り替わった。

「ふうっ!」

ひとみはとため息をついた。

「店長。」

と久美子が言った。

「はい。」

ひとみが言った。

「本社から電話ですよ。」

久美子が言うと

「ありがとう。」

ひとみは明るく言ったつもりだったが久美子には暗く聞こえた。

 レストランで俊之と育子が向かい合っている。会うのは久しぶりだが毎週のように競馬情報のやり取りをしていた。

「今日の試合は接戦だったね。」

俊之が言った。

「高村さんもそう思った?」

育子が言った。

俊之は

「実力は紙一重だったからね。」

と言った。

「これから強力なライバルになるかもしれない。」

育子が言った。

「あの選手は身のこなしが軽いよね。」

俊之が言った。

「動きが軽快で動きが読みにくいのよ。」

育子が言うと

「他に違うスポーツをしていたみたいだね?」

俊之が言った。

「他のスポーツ?」

育子が言うと

「育子さんが合気道をしていたようにね。」

俊之は言った。

雨のあとに虹 その63

 俊之は体育館に入って来た。中村とまどかに昼食に誘われたのは言いのだが愚痴を言われっぱなしで閉口していた。三友商事は俊之がいた頃にくらべて会社の業績も雰囲気も悪くなったようである。榊原の評判も悪いのは相変わらずであった。おそらく貴志と田所はもっと悪いのだろうと俊之は思っていた。山本はっと早く手を打つべきだったのではないか?と俊之は考えながら話をしていたら思ったより食事の時間が長くなっていた。今日は久しぶりに育子に会えるので俊之が歩くスピードは速かったのである。入口で

「関係者ではないのですが応援に来ました。」

俊之は言った。

「失礼ですがお名前はどちら様でしょうか?」

受付の係員が言った。

「高村です。」

俊之が言うと

「高村さん。」

と言って女性の係員は受付簿を見た。

「京野育子さんの応援です。」

俊之が言うと

「それなら伺っております。」

女性の係員は言った。近くに来たゆき乃が俊之の姿を見つけて

「こちらですよ。」

と言った。

「こんにちは。」

俊之はゆき乃に言った。観客席はほとんど埋まっていてちょうど決勝戦が始まるところだった。

「試合を開始します。」

審判が言った。育子と相手の選手が礼をした。

「ちょっといいかな?」

山本に言われて中村は緊張した。山本に直接声をかけられる事はめったに無いのである。

「何でしょうか?」

中村が言うと

「君は高村くんが帰って来てくれたらどうかね?」

山本は言った。

「そうですね。」

中村は正直に自分の意見を言う事をためらっていた。

「賛成するかね。」

山本は言った。

「それはもちろん大賛成です。」

中村は言った。

「そうかね。」

山本は言った。

「あんな優秀で人間的にも尊敬できる上司はいないと思っております。」

中村は言った。

「みんなも同じ意見かね?」

山本が言うと

「同じだと思います。」

中村は山本の目を見て言った。山本は少し間をおいて

「高村くんが羨ましいね。」

と言った。

「いらっしゃいませ。」

久美子はカウンターでお客に言った。午後のピークがそろそろやってくる時間だ。最近では久美子とひとみは呼吸がぴたりと合うようになっていた。さゆりだとなかなかこうはいかないのである。ひとみはその部分で久美子を評価していた。久美子は頭が良くて仕事が出来るだけでなく優しい性格で思いやりがある。自分より上にいけるかもしれないとひとみは久美子を高く評価していた。ひとみは店長になるだけあって冷静に久美子を分析していたのである。小百合は

後ほどお席にお届け致します。」

と言った。

「次のお客様ご注文は何になさいますか?」

久美子が言った。久美子は俊之とはかなり親しくなったように見える。それだけがひとみの不満材料だった。仕事の合間をみて榊原に電話をかけるつもりだがここ数日榊原とは忙しいと言ってゆっくり話ができない状態であった。