逆転正義

下村敦史 幻冬舎 2023年8月



 

 

もくじ:
「見て見ぬふり」教室のいじめ。僕は見て見ぬふりなんかできない!
「保護」コンビニの前で佇む制服姿の女性。彼女を一人にはできない!
完黙」麻薬の売人。麻薬取締官に口を割るわけにはいかない!

「ストーカー」人を殺めたトイレに男を入れてはいけない!
「罪の相続」罪のない俺の息子が殺されたなんて許せない!
「死は朝、はばたく」刑務所から出てきたら普通の生活を送っていいのか!




どれも、思っているのとは違う結末が 待っていて、正義が逆転する短編集だ。

見て見ぬふり」

いじめがあっても、見て見ぬふりをするの人が多い中、僕は行動に出た。

先生に訴えるが先生は何もしようとしない。


ネットで裁くことは、正義なのか?




保護」

行くあてのない彼女を家に連れてくる。

一緒に生活を始めるが……


同意があっても、17歳の未成年との行為は罪になる?


完黙」

麻薬の売人が裁判でも、完全黙秘した理由は?


「ストーカー」

ストーカーに悩まされていた女性。トイレで誰を殺めたのか。


「罪の相続」

先祖が犯した罪を相続せねばならないのか。


「死は朝、はばたく」

刑務所から出てきた人目当てに金を強請る少年たち。


この話は死刑問題にも迫っている。




どれも、ミスリードしてしまう。だまされる ことが楽しい。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐

カフェの帰り道

嶋津輝 東京創元社 2025年11月



 

 

時代を映す鏡であった仕事「女給」を通し、
大正から昭和を生きた市井の女性の人生を描き出す。
『襷がけの二人」著者、心ふるえる最新作。

東京・上野の片隅にある、あまり流行(はや)っていない「カフェー西行」。食堂や喫茶も兼ねた近隣住民の憩いの場には、客をもてなす個性豊かな女給がいた。竹久夢二風の化粧で注目を集めるタイ子、小説修業が上手くいかず焦るセイ、嘘つきだが面倒見のいい美登里を、大胆な嘘で驚かせる年上の新米・園子。彼女たちは「西行」で朗らかに働き、それぞれの道を見つけて去って行ったが……。大正から昭和にかけ、女給として働いた“百年前のわたしたちの物語”。




カフェ西行で働く女給たちの連作短編集。

竹久夢二に似ているという噂から、夢二に似せた化粧して人気を得たタイ子。


たわいもない嘘をつく、面倒見のいい美登里。


 女給募集に応募してきた、太った中年の園子。



さまざまな職を経験した後、カフェ西行の女給に戻ったセイ。

そんな女給たちの日常がいとおしい。

今まで家にこもっていた中年の園子が、「女給募集 十九歳」という求人に、  応募した勇気をたたえたい。   

女給として働くのは、お金のためではあるだろうけど、憧れの格好をしたい、この格好をみてほしい、自分という存在を誰かに認めてほしいという気持ちは、現代にも通じるのかもしれない。

後半は、戦争が色濃く、兵役に召集され、その家族の苦悩が描かれる。

子を想う親心を思うと切ない。

マスターのおおらかな人柄がよく、カフェ西行で過ごすゆったりした時間を貴重に思った。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



こまどりたちが歌うなら

寺地はるな 集英社 2024年3月



 

 

前職の人間関係や職場環境に疲れ果て退職した茉子は、親戚の伸吾が社長を務める小さな製菓会社「吉成製菓」に転職する。
父の跡を継いで社長に就任した頼りない伸吾、誰よりも業務を知っているのに訳あってパートとして働く亀田さん。やたらと声が大きく態度も大きい江島さん、その部下でいつも怒られてばかりの正置さん、畑違いの有名企業から転職してきた千葉さん……。
それぞれの人生を歩んできた面々と働き始めた茉子は、サービス残業や女性スタッフによるお茶くみなど、会社の中の「見えないルール」が見過ごせず、声をあげていくが――。
一人一人違う”私たち”が関わり合い、働いて、生きていくことのかけがえのなさが胸に響く感動長編!




茉子はコネで製菓会社に転職するが、そこでは男女差別やパワハラが日常だった。

茉子は、納得できないことに声を上げていく。

強い心の持ち主かと思ったけど、実は以前 勤めていた会社で、もめ事があり、黙っていたことを悔いていたのだと知る。


「だいじょうぶ?」って聞かれたら、だいじょうぶでなくても「だいじょうぶ」って答えるしかないのかなあ。
だいじょうぶって聞く時は相手の返事をあんまり信用したらあかんし、だいじょうぶって答える時は、ほんまにだいじょうぶな時だけにせなあかん」

江島は部下の正置に大声でどなっていた。仕事ができる江島だが、パワハラはダメ。
しかし、彼にも意外な一面があり……

有名企業から転職してきた千葉さん。客のクレームに対して言い返した時は、スカッとした。

亀田さんは、今はパートだけど、会社のこと、働く人たちのこと、よく理解している印象だった。

社長の伸吾は頼りないけれど、話をよく聞いてくれる。
それぞれができることで協力し合い、伸吾社長のもとでやっていけたらいいなと思った。

お気に入り度⭐⭐⭐

神都の証人

大門剛明 講談社 2025年6月



 

 

昭和18年。戦時下、「神都」と称される伊勢で、弁護士の吾妻太一は苦悩していた。
官憲による人権侵害がはびこり、司法は死んだも同然。
弁護士は正業にあらずと、子どもたちにさえ蔑まれていた。
だが、一人の少女・波子との出会いが、吾妻の運命を変える。
彼女の父は、一家惨殺事件で死刑判決を受けた囚人だった。
「お父ちゃんを助けて」
波子の訴えを受け、吾妻は究極の手段に打って出る。
無罪の証拠を得るため、自らも犯罪者として裁かれる覚悟をして――。
だがそれは、長い戦いの始まりに過ぎなかった。




戦時中起きた冤罪事件。

無実を信じる娘の波子。

弁護士の吾妻が、無罪を証明しようとするところから物語は始まる。


自分が罪を犯してまでも、ある確証を取ろうとする吾妻に、強い意志を感じる。

しかし……

吾妻は、途中でこの事件から離れざるをえなくなってしまう。


この冤罪事件は、他の人に引き継がれていく。


 さまざまな人たちの深い人生がそこにあった。


再審請求が認められるまで、これほど長い時間を要したとは!

1度決定された判決を覆すことのむつかしさを感じた。



そして、思わぬラストに驚愕!


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

山に抱かれた家 迷い道

はらだみずき 小学館文庫 2025年6月



 

 

いきなり自給自足できるのか?

文哉は猟師の市蔵を訪ねた旅の途中で、山間にある畑付きの空き家を見つけた。縁もゆかりもない土地、限界集落でもあったが、運命を感じ購入を決める。地元住民との交流を重ねながら、古い家屋や休耕地だった畑に手を入れていく日々。畑の梅の収穫がいよいよ始まる頃、付き合って間もない凪子を迎え入れ、共同生活がはじまった。畑を守るために狩猟をはじめる決意を固める文哉だが、一方の凪子は口数が減り、引きこもりがちになっていく……。
人生の迷い道を彷徨いながら自立を目指すシリーズ最新作!






シリーズものと知らずに借りてきた。〔無知な私です〕

今まで、いろんなことがあったのだろうが、それを知らずに読んだとしても、山での生活を大切にしようとしている文哉のがんばりに感動する一冊だった。


梅を作るのも、畑で野菜を作る のにも、簡単なことではない。


土地の人たちに教えてもらいながらも、すべてまねするわけではなく、自分の方針を考えていく。


また、イノシシなどの動物の被害に対応するため、猟師の資格を取る。


文哉は、努力を惜しまないと同時に、人とのつながりを大切にしている。

そうして、山での自給自足の生活を目指していく。

それは、簡単なことではないなあというのが率直な感想。

でも、何に幸せを感じるからは人それぞれ。



凪子のことは……

女性にとって、風呂に1週間に1度しか入れないのはやはり苦痛だろうな。

凪子との関係が 、ぎくしゃくし始めたのは、そればかりではないだろうが。

ふたりがそれぞれの自分の世界を持った上で、ふたりが助け合う関係になれたらいいなと思った。




お気に入り度⭐⭐⭐



ひまわり

新川帆立 幻冬舎 2024年11月



 

 

鉛筆も握れず、六法全書も開けない。
言葉のみを味方に、果たして司法試験を突破できるのか?
「言葉は私の最後の砦。
言葉がある限り、私たちはつながれる」
 
おしゃべりと食べることが大好きな33歳のひまりはある夏の日、出張帰りに交通事故に遭い、頸髄を損傷してしまう。意識は明瞭。だけど、身体だけが動かない。過酷なリハビリを続けるも突きつけられたのは厳しい現実だった。「復職は約束できない。できればこのまま退職してほしい」。途方に暮れ、役所で就労支援の相談をすると、すすめられたのは生活保護の申請。
私は人の役に立てるのに、どうしてその力を発揮させてもらえないのーー?
ひまりは自立を目指し司法試験受験を決意する。思い通りにならない身体でロースクールに通い始めるが、次々と壁が立ちはだかり……。
 
落涙必至の、人生応援小説。





33歳のひまりは交通事故に遭い、頸髄を損傷してしまい、首から下がほとんど動かない身体になった。意識は明瞭なので、復職を目指し、リハビリに取り組む。
しかし、社会復帰するのはむつかしく……

重度障害者は普通働いたりしない。施設に入るか家でじっとしているか。最低限の生活費は生活保護でまかなえる。福祉に頼って、ゆっくり過ごすといい。
これが世間一般の考え方なのだろう。
働きたくても働く場所が見つからない。

守秘義務とか、前例がないとかいう理由で。

それなら、
資格がある自営業である弁護士になれという助言に従い、弁護士を目指すことに~。

健常者でもむつかしい弁護士の資格をとることは、並大抵のことではない。
試験を受けるにしても、問題が起きる。

そのたびに、ひとつひとつ解決していく。

彼女の諦めない心に力強さを感じた。

家族の援助、ヘルパーのヒカリ、弁護士の真鍋先生、幼なじみのレオ、ロースクールの仲間など、いい人たちに恵まれていたことは事実。

でも、ひまりの自身の努力は、人並みはずれたものだ。
人の役にたちたい。困っている人を助けたいという強い思い。

言葉の力を信じて、前に進む姿に勇気をもらった。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐




エデンの裏庭

吉田篤弘

岩波書店 2026年1月



 

 

「あなたに『本当のこと』をひとつかみ差し上げましょう」川のそばにあるお菓子屋〈おやつ〉。ある日店を訪れた青年は、チョコレートと引き換えに不思議な「種」を置いていく。それをきっかけに、店主のエリカはかつて出合った一冊の本を思い出して……表題作ほか4篇+エッセイ。忘れられない本をめぐるささやかな冒険。



 




物語の舞台袖

「不思議の国のアリス」「ガリバー旅行記」「星の王子様」「モモ」と有名な四作品に関連した創作と書評。


どれも有名な話なので、内容を知っているつもりでいた。

しかし、

物語に至るまでの 過程やその後のこと。また、主人公でない人たちの考えなど、深く考えたことない。

そうすることによって違う側面が見えてきておもしろい。


作者が言う「物語の舞台袖」という表現がいいと思った。

5 月4日の一致は、偶然?それとも運命?



エデンの裏庭

菓子屋〈おやつ〉の店主エリカの冒険小説。


エリカが中学二年生の時、通っていた図書館の案内係の青年が読んでいた本が気になり、カウンターを行ったり来たりして本の題名を突き止めたが、彼が辞めたことを知り、読む気が失せたことがあった。


その本を、あることをきっかけに、店を定休日にして図書館へ行き、読みすすめるが…


本を追い求めていく話だけど、作者が描く空気感が好きで、とてもよかった。

続きがあるなら、読んでみたい。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐


一次元の挿し木

松下龍之介 宝島社文庫 2025年2月



 

 

二百年前の人骨のDNAが
四年前に失踪した妹のものと一致!?


ヒマラヤ山中で発掘された二百年前の人骨。大学院で遺伝学を学ぶ悠がDNA鑑定にかけると、四年前に失踪した妹のものと一致した。不可解な鑑定結果から担当教授の石見崎に相談しようとするも、石見崎は何者かに殺害される。古人骨を発掘した調査員も襲われ、研究室からは古人骨が盗まれた。悠は妹の生死と、古人骨のDNAの真相を突き止めるべく動き出し、予測もつかない大きな企みに巻き込まれていく--。





二百年前の人骨のDNAが
四年前に失踪した妹のものと一致!?

というあり得ない事実から始まり、なぜ?と読者を引きつける。


読んでいくうち、

悠の担当教授の石見崎は誰に何故殺されたのか?

悠の父は何の研究をしていたのか?

悠の妹の生死は?

悠の母が信じていた宗教団体と関係はあるのか?

などなど、さまざまな疑問が湧いてきて、次を読まずにはいられない。


最後には、それが、うまく回収されていた。



「ちゃぽん」という音とともに迫ってくる大男がこわいよー

お気に入り度⭐⭐⭐

ミステリ-トランスミッター

謎解きはメッセージの中に

斜線堂有紀 双葉社 2024年9月


 

 

いま、もっとも注目されるミステリ作家による短編集。収録した全5編、時代背景や描かれた国、人物は異なりますが、すべての作品で共通するのは「人に伝える」ということ。
今は携帯電話で他人と簡単に連絡が取れますが、では携帯電話を使うことなく大事なことを伝えるにはどうしたらよいのか? 手紙なのかチェス盤なのかカメラなのか……。
伝えるのは、愛か動機か犯人か……。驚きの設定に驚きのラスト。すべてが新鮮、すべてが傑作。




えるをテーマにした短編集。

何を伝えるのか。

どのような方法で伝えるのか。



ある女王の死

悪高利貸しの女の死

ダイイングメッセージとは?


 女王が最後にしたこと。すごい!


 

妹の夫

宇宙飛行士、

翻訳機が壊れ、言葉がわからない中、伝えたいことは伝わるのか?


地球と短距離ワープする宇宙では、時間の進み方が違うという設定がおもしろい。


雌雄七色

妻が夫に書いた七通の手紙。
 妻の真意とは?



ワイズガイによろしく

イタリアンマフィア

ジュークボックスから声が聞こえる。その声に従うと命が助かるが…





ゴールデンレコード収録物選定会議予選委員会

人類から宇宙へのメッセージとして何を持っていくのかの会議が開かれる。


我々地球人のことを理解してもらうために、地球外の知的生命体に届けるメッセージを送るという発想がおもしろい。


それにしても、参加したくせ者、御竈門が写真だけで見破る、その能力がすごいと思った。



短編で描かれているのは、全然違う話だけど、それぞれ、楽しんで読むことができた。


 うまく伝わったのか?


気に入り度⭐⭐⭐


タクジョ!あしたのみち

小野寺史宣 実業之日本社 2025年11月



 

 


客さんと交わす言葉が道しるべになる――やさしい明日にあなたを運ぶ お仕事×青春小説!

タクシードライバーが不要になることはないと、わたしは勝手に思ってる。高齢のお客さんや外国からのお客さんに対して、人、が不要になるとはとても思えないのだ。(本文より)

終電を逃したアラフォー女性、危篤の母親の病院へ急ぐ息子、崖っぷちのプロ野球選手……タクシー運転手は、目的地までお客さんの人生にそっと寄り添う。「人と関わる仕事」への誇りを抱き、誠実に仕事に臨む高間夏子と東央タクシーの同僚たちを描く大人気シリーズ、最新刊!





タクジョ!

タクジョ!みんなのみち

続く第三弾。

高間夏子は29歳になっている。



夏子を始め、東央タクシーの人達のその後が読めてうれしい。


たくましくなった夏子の姿を見ることができてよかった。



タクシーに乗ったお客さんは……

お客さんに怒られてへこんでいる雑貨店で働く女性。


不倫相手と別れた37歳女性。


休みの日、授業公開で娘の参観をした後、取引先に苦情処理に向かう課長。


姉と僕を再婚せずに育ててくれた母が危篤。その病院に向かう男性。


プロ野球選手。


タクシー運転手とお客さん、一期一会の出会い。目的地に着くまでの会話。


お客さんとの会話が、客だけでなく、タクシードライバー自身のことをも見直すきっかけとなる。やさしい物語だ。



夏子が三十になる前に何か始めてみるか。ということで、読書を始める。



読書を始めた、

ひとりでタクシーに乗れた、

タクシードライバーと話ができた、そんな小さなできごとが、次の一歩を踏み出すこととなるのだと感じた。


夏子のおばさんが、旦那さんとケンカして、家を出てきたというエピソードも描かれ、夫婦とは何か?と夏子が考える場面もあった。


 息子がタクシードライバーになりたいと言っていることに、複雑な気持ちでいる父親のタクシードライバー。その息子と話する夏子の対応がいいと思った。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐