ヨルノヒカリ

畑野智美 中央公論新社 2023年9月





いとや手芸用品店を営む木綿子は、35歳になった今も恋人がいたことがない。台風の日に従業員募集の張り紙を見て、住み込みで働くことになった28歳の光は、母親が家を出て以来“普通の生活”をしたことがない。そんな男女2人がひとつ屋根の下で暮らし始めたから、周囲の人たちは当然付き合っていると思うが……。不器用な大人たちの“ままならなさ”を救う、ちいさな勇気と希望の物語。



恋愛感情がわからない木綿子。

普通の生活をしたことのない光。


木綿子が経営する手芸用品店で、光は、住み込みで働くようになる。

付き合っているのかと、うわさされるが ……



このふたり、まわりが思っているような関係ではないけれど、ふたりは、とても幸せそうだから、それでいいんだと思う。



最近、多様性という言葉をよく聞く。


女装をするのが楽しみな司さん。

奥さんや娘さんがそれを認めている。

本人が幸せで家族が理解しているのだから、世間にどう思われようと堂々としている。


そういうことだと思う。

木綿子と光もふたりの生活を大切にして欲しいと思った。


手芸が好きな私だから、手芸店の話は、より興味が持てた。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐

木挽町のあだ討ち

永井沙耶子 新潮社 2023年1月





疑う隙なんぞありはしない、あれは立派な仇討ちでしたよ。
語り草となった大事件、その真相は――。
ある雪の降る夜に芝居小屋のすぐそばで、美しい若衆・菊之助による仇討ちがみごとに成し遂げられた。父親を殺めた下男を斬り、その血まみれの首を高くかかげた快挙はたくさんの人々から賞賛された。二年の後、菊之助の縁者だというひとりの侍が仇討ちの顚末を知りたいと、芝居小屋を訪れるが――。



芝居小屋のすぐそばで起こったあだ討ち。

二年後、その目撃者たちに話を聞く。

芝居に関係したその 目撃者達の今までの生きざまの話も聞くが、 さまざまな苦難を乗り越え、ここにたどり着いたんだなと思う。

生い立ちの話だけでもおもしろいのだが、それが、 最終話へとつながっていく。


人の気持ちを大切にした温かい気持ちになる物語だ。


あだ討ちって、こういう手続きを経て成り立つものなのだと、今さらながら知る。


時代小説は、ほとんど読まないのだが、この話はよかった。




お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

彼女はそこにいる

織守きょうや KADOKAWA 2023年6月





第1話「あの子はついてない」
母と共に庭付きの一軒家へ引っ越してきた中学生の茜里。妹の面倒を見ながら、新しい学校に馴染んでゆく茜里だが、家の中で奇妙なことが起こり始める。知らない髪の毛が落ちている。TVが勝手に消える。花壇に顔の形の染みが出来る。ささやかだが気になる出来事の連続に戸惑う茜里。ある夜カーテンを開けると、庭に見知らぬ男性の姿が――。
第2話「その家には何もない」
不動産仲介会社に勤める朝見は、大学の先輩でフリーライターの高田に「曰わく付きの物件」を紹介して欲しいと頼まれる。次々に貸借人が入れ替わる家の話をしたところ、「内覧したい」という高田に押し切られて現地へ向かうことに。そこは最近まで中学生の娘と母親が暮らしていた庭付きの一軒家だった。
第3話「そこにはいない」
その家にはなぜ人が居つかないのか? 新たな住人をきっかけに、過去の「ある事件」が浮かび上がる。



第一話

一軒家に引っ越してきた中学生と母親。

テレビが勝手についたり消えたり…

髪の毛が落ちていたり…

 人影が見えたり…

捨てても人形が戻ってくたり…

気になる出来事が起きる。


ゾクッとする話。

これは霊の仕業なのか?


こういう話が続くのかと思いきや、

第二話、第三話で

この一軒家の謎が明らかになる。


他の恐ろしさがあった。



そこまでして、家から追いだそうとする執念がこわい。



お気に入り度⭐⭐⭐


この夏の星を見る

辻村深月 角川書店 2023年6月








亜紗は茨城県立砂浦第三高校の二年生。顧問の綿引先生のもと、天文部で活動している。コロナ禍で部活動が次々と制限され、楽しみにしていた合宿も中止になる中、望遠鏡で星を捉えるスピードを競う「スターキャッチコンテスト」も今年は開催できないだろうと悩んでいた。真宙(まひろ)は渋谷区立ひばり森中学の一年生。27人しかいない新入生のうち、唯一の男子であることにショックを受け、「長引け、コロナ」と日々念じている。円華(まどか)は長崎県五島列島の旅館の娘。高校三年生で、吹奏楽部。旅館に他県からのお客が泊っていることで親友から距離を置かれ、やりきれない思いを抱えている時に、クラスメイトに天文台に誘われる――。
コロナ禍による休校や緊急事態宣言、これまで誰も経験したことのない事態の中で大人たち以上に複雑な思いを抱える中高生たち。しかしコロナ禍ならではの出会いもあった。リモート会議を駆使して、全国で繋がっていく天文部の生徒たち。スターキャッチコンテストの次に彼らが狙うのは――。



学校生活、部活、大会、修学旅行……

コロナのせいで、中止され、制限された生活を余儀なくされた中高生達。

どれだけ悔しい思いをしたことだろう。

コロナが原因で友達と、ぎくしゃくした関係になってしまうこともある。

これはつらいなあ。


しかし、コロナ禍だからこそ、つながった子たちがいる。

茨城、渋谷、五島。

リモートでつながった学生達。

できる範囲で考えて、工夫して、行動を起こす彼らの姿がよかった。



学生を見守る先生もいい感じ。

先生達のつながりのサプライズがあり、そこは、作者ならでは。


スターキャッチコンテストって初めて知りました。

楽しそう。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

おばちゃんに言うてみ?

泉ゆたか 新潮社 2023年8月





溜め込んだらあかんよ。人に話したら、そんだけで楽になんねんで。
東京から大阪の夫の実家近くに引っ越し、関西のノリについていけず疲れ果てた沙由美。モデルの仕事を餌に、詐欺師まがいの男にマウントされる華。ネグレクト育ちで転売ヤーとして荒れた生活を送る達也。大阪は岸和田のおばちゃん・小畑とし子が人生の袋小路で立ち往生する人々の背中をドンと押して勇気づける、抱腹絶倒&ちょっとほろりのヒューマンドラマ!





東京で時々タレントをしている岸和田のおばちゃん-小畑とし子と出会った人たち……。


夫が借金をし、東京から夫の実家近くに引っ越してきて、関西に馴染めないでいた沙由美。


いい仕事をもらうために男の言いなりになろうとするモデルの水野華。


新作スニーカーの転売している歯のない達也。


30年ぶりに岸和田に来て、同級生だったとし子と会う光代。


そして、とし子の家族は……



関西のおばちゃんは、

頼んでもいないのにお節介をやいてくるのがわずらわしい。

いやなこともズケズケ話してくる。

しかし、本音で話し、この踏み込んだお節介が、悩んでいる人の心に響くことがあるのだ。


人情が温かい物語だ。


おばちゃんパワーをもらった気分。


「おおさかのーおばちゃんー」のコーラス聞いてみたいなあ。




お気に入り度⭐⭐⭐⭐

伝言

中脇初枝 講談社 2023年8月





満洲・新京で暮らす女学生、ひろみ。
「尽忠報国」「一億玉砕」「五族協和」、そう信じていた――
永遠に失われた、もう、どこにもない国。
あの場所で見たこと、聞いたこと、
そして、わたしに託されたことを、わたしは忘れない。

終戦間際の満洲を、圧倒的な事実に基づき描く。
これは、いまを生きるあなたのための物語。





満州で暮らすひろみは、女学校にも行けず、お国のためにがんばってきた。

軍事機密と聞かされ、疑うことなく、与えられた作業をこなす。

弁当のおかずは、梅干しのみ。

国策だからと髪を伸ばしている。


ひろみが行っていた作業でなにを作っていたのかは、気象部の島田の視点で描かれる章で明らかになる。


そんなことのために、ひろみらががんばってきたのかと思うと、ひろみの一途さが切なくなる。


満州がなくなり、戦況が変わり、平穏な日々は失われていく。


中国人の季太太は、はるみたち一家に優しくしてくれていた。

こんな人もいたのに~。


終戦間際の満州の様子がていねいに描かれていて、読むのがつらくなってきた。


 戦時下を生き伸びたひろみは、運がよかったと言う。

こんな恐ろしい ことが二度と起こらないことを願う。





「世界の果てのこどもたち」の珠子が元気でいてよかった。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐


四日間家族

川瀬七緖  角川書店 2023年3月






誘拐犯に仕立て上げられた自殺志願者たちの運命は。ノンストップ犯罪小説!

自殺を決意した夏美は、ネットで繋がった同じ望みを持つ三人と車で山へ向かう。夜更け、車中で練炭に着火しようとした時、森の奥から赤ん坊の泣き声が。「最後の人助け」として一時的に赤ん坊を保護した四人。しかし赤ん坊の母親を名乗る女性がSNSに投稿した動画によって、連れ去り犯の汚名を着せられ、炎上騒動に発展、追われることに――。暴走する正義から逃れ、四人が辿り着く真相とは。

 


ネットで知り合い、集団自殺するために集まった四人。

しかし、赤ん坊を捨てる現場に出くわしてしまう。

四人は、赤ん坊を一時保護するが、動画を撮られSNSに赤ん坊の誘拐犯として投稿され、炎上する。



SNSってこわい。

名前も素性も暴かれ、国民みんなが敵のような状態になってしまう。


誘拐犯となってしまった四人は、警察に赤ん坊を届けるわけもいかず、悪人を突き止めるために奔走する。


自殺とか、他にも、重い内容の話もあるが、テンポよく話が進んでいって、喜劇のようなおもしろさもある。


 自殺するはずだった四人。

年齢も性別も自殺する 理由もばらばら。

最初はまとまりがなかったのに、同じ目的を持ったことで、それぞれの役目を果たし、協力しあい、なくてはならない存在になっていく。

その過程がよかった。



悪と対決する所は、すごい盛り上がり。

面白かった。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐


リラの花咲くけものみち

藤岡陽子 光文社 2023年7月







動物たちが、「生きること」を教えてくれた。 家庭環境に悩み心に傷を負った聡里は、祖母とペットに支えられて獣医師を目指し、北海道の獣医学大学へ進学し、自らの「居場所」を見つけていくことに――北海道の地で、自らの人生を変えてゆく少女の姿を描いた感動作。



聡里の成長を描く。

少女期は、つらい思いをしていたけど、祖母チドリに助けられて、本当によかった 。


動物が好きな聡里は、獣医師を目指し、チドリと暮らしていた家を離れて北海道の大学へ進学する。

寮の同じ部屋の人とも、親しくすることができず……


動物たちの命を助けるだけでなく、時には、死と向き合わなくてはならないこともあり、聡里は悩む。


牛や馬の獣医としての役目が、詳しく描写されていて、たいへんな職業だと思う。

また、ペットに対して、飼い主によって、手術を受けられたり、そうでなかったりと、命についても考えることとなる。



動物が好きというだけでは、やっていけない厳しい職業だと思う。


聡里は、多くの人と出会い、多くの経験を積み、成長していく姿がよかった。


 


 〈耐えられないなら、やらなくていい。

やりたくないことは、できないって言えばいい。他の人に頼んでくれって、頭を下げればいいだけだ。〉

〈自分にできないことがあったら、できる人に代わってもらったらいいんだ。そのかわり、自分が

できることは 他の人の分まで頑張る。〉


こういう言葉は、気持ちが楽になる。


どんな時も前向きなチドリって、ステキ!


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

この限りある世界で

小林由香 双葉社 2023年6月





15歳の少女が同級生に刺殺された。加害者の少女は、ある新人文学賞の最終選考で落選し、哀しくなったので殺したと供述。

さらに、その新人文学賞を受賞した作家が自殺。遺書には、新人賞を受賞して申し訳ないと書かれていた。
その後、加害少女は犯行の動機を二転三転させ、少年院にやってきた篤志面接委員(少年院などの矯正施設に収容されている者の更生と社会復帰を手助けする民間ボランティア)に「本当の犯行動機を見つけてください」と告げる。
『ジャッジメント』で鮮烈なデビューを果たした著者が描く、赦しと再生のミステリー。


 

15歳の美月が、同級生を殺す。

彼女は、動機を二転三転させる。



美月の発言が元で

新人 文学賞をとった作家が、自殺に追い込まれる。これは、悲しすぎる。


今や、ネットの世界は恐ろしい。


ミステリーとしては、本当の動機はなになのか?

篤志面接委員が加害者少女と面会して、本心をさぐる過程がおもしろい。

その時、ちょっと、ひっかかるところがあったのだが…

まさか、そういうことだったとは!

これ、気づかないよ。


加害者少女、美月の 本当の動機……

美月の境遇に同情するところはあるけれど、

う~ん、そのために人を殺すとか、ありえないと思う。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐

白い巨塔が真っ黒だった件

大塚篤司 幻冬舎 2023年7月






患者さんは置き去りで、俺様ファースト⁉ この病院は、悪意の沼です!
現役大学病院教授が、医局の裏側を赤裸々に書いた、“ほぼほぼ実話⁉”の教授選奮闘物語。


古狸が居心地のいい世界に、明るい未来はない。
僕は必ず、新しいカタチの医局を作る!


実績よりも派閥が重要? SNSをやる医師は嫌われる?
教授選に参戦して初めて知った、大学病院のカオスな裏側。
悪意の炎の中で確かに感じる、顔の見えない古参の教授陣の思惑。
最先端であるべき場所で繰り返される、時代遅れの計謀、嫉妬、脚の引っ張り合い……。
「医局というチームで大きな仕事がしたい。そして患者さんに希望を」――その一心で、教授になろうと決めた皮膚科医が、“白い巨塔”の悪意に翻弄されながらも、純粋な医療への情熱を捨てず、教授選に立ち向かう!




ほとんど事実という大学病院の教授選についての物語。


最初、パワハラやセクハラを受けた医師が、うつ病になった話から始まる。

作者もそのひとりだった。


でも、作者に声をかけてくれるいい医師もいて、医師を辞めることなくよかった。

 


教授選とは、どのような方法で行うのか。

教授がきまるまでの長い道のり。


派閥争い。

相手を陥れるためのデマを流す。

味方だと思っていた人からの裏切り。

こんなことが本当にあるのかと思うほどの悪意。


純粋に、病気を治したい。患者さんを元気にしたいという医師としての根本とはかけ離れたことだ。


でも、めげずに三度も挑戦した作者に頭が下がる。


医療現場における古い体制を新しくするのは、たいへんなことだろうけど、変わってほしいと思う。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐