名探偵再び

潮谷験 講談社 2025年4月


 

 

私立雷辺(らいへん)女学園に入学した時夜翔(ときやしょう)には、学園の名探偵だった大叔母がいた。数々の難事件を解決し、警察からも助言を求められた存在だったが30年前、学園の悪を裏で操っていた理事長・Mと対決し、ともに雷辺の滝に落ちて亡くなってしまった……。
悪意が去ったあとの学園に入学し、このままちやほやされて学園生活を送れると目論んでいた翔の元へ、事件解明の依頼が舞い込んだ。どうやってこのピンチを切り抜けるのか!?




時夜翔の大叔母は、有名な探偵であったが、凡人の翔は、そんな能力はない。

優秀な人材だと見せかけ、名探偵っぽさを演出していく。


そして、幽霊の協力のもと、事件を解決していく。



翔に反感を抱く輩がいて、翔を陥れようとする。


はたして、時夜翔は、乗り越えられるのか?


最後の方で明かされる事実!

まさか……

私は、まんまとだまされた。



自己顕示欲の強い翔が人間くさいし、どの事件にも関係している 水間先輩 が不屈の精神の持ち主で、この物語を面白くしている。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐


百年かぞえ歌

大崎梢 KADOKAWA 2024年10月



 

 

著者初の文学館ミステリ! 作家が遺した謎の「かぞえ歌」に隠された事件

百年という時の流れの背後に埋もれた人々の思い、
そして、愛する作家と文学館に自分が出来ること――

里海町の町役場で働く由佳利は、二週間前に婚約破棄をされてしまい人生行き詰まり中。
そんな中、担当している地元出身作家の文学館「貴地崇彦生家館」に関して、刑事二人が聞き込みに来た。貴地は明治末期の生まれで戦後に活躍した作家だ。没後二十年以上になるが知名度はまだまだ高い。
刑事は収蔵物について聞きたいということだったが、なにやら裏に不穏な事件があるらしい。
調べると、数日前に発見された身元不明の青年遺体のポケットから、貴地にまつわる葉書が発見されたようだ。
驚き戸惑う由佳利のもとに、以前いちどだけ会った老齢女性の艶子が訪れる。艶子は若いころ貴地の愛人だったと噂される存在だ。
生前の貴地先生から、やり残したことがあると聞いていたという艶子。その勢いに呑まれて調べを続けた先で由佳利は、中学高校で同級生だった夏央にも再会する。彼も調査に加わり、3人の凸凹チームが誕生した。








百年も前に作られたかぞえ歌にこめられた思いとは?


身元不明の遺体から、作家の貴地のはがきが発見されたので、文学館「貴地崇彦生家館」に刑事が来たことから物語は始まる。


文学館担当の由佳利と貴地の愛人だったと噂される艶子と由佳利の同級生だった 夏央と三人で調べるが……



百年も前のことだから、知っている人は少なく、少しの手がかりを頼りに調査は少しずつ進んでいく。


真相がわかった時、かぞえ歌にこめられた思いも感じられた。


ほのぼのとした話かと思いきや、重い内容が含まれていた。


お気に入り度⭐⭐⭐

あの子とQ

万城目学 2022年8月



 

 


見た目は普通の高校生、でも実は吸血鬼。
平穏な日々を送る嵐野弓子のもとに「Q」が出現、試練と冒険の幕が開く!

吸血鬼の一族である嵐野家。でも、現代の吸血鬼は人間社会に溶け込んでいて、人の血を吸うなんてもってのほか! 嵐野家の一人娘・弓子は親友のヨッちゃんと楽しい高校生活を送っていたが、ある朝突然「Q」というトゲトゲのばけものが出現。弓子が17歳の誕生日を迎えるまでの10日間、人の血を吸わないか監視に来たと言うのだが……。
「Q」にまつわる秘密、親友の恋の行方、そして巻き起こる大騒動の結末は……!? 
ミラクル吸血鬼ストーリー!




あの子とO」という新刊が出たので、まずはこの本を読んでみた。

吸血鬼の話だが、 奇想天外で、冒険あり、友情ありで、とても面白かった。

最初は、高校生の弓子の友達のヨッちゃんの恋を応援する物語。
青春を感じた。

吸血鬼の弓子を10日間監視する役目のQは、トゲトゲで黒い物体、ばけもののよう。

このQにも、つらい過去があり、見た目で判断してはダメだと思った。

最初、Qの存在を嫌がっていた弓子だが、ある事故の真実を知るため、Qに会いに行こうとする。
それが、大騒動になり……

Qを助けようとする弓子の姿が勇ましく、弓子の想いが心に響いた。

吸血鬼の歴史や現在の吸血鬼が 人間と共存している話など興味深い。

ヨッちゃんの存在がとてもよかった。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

人間標本

湊かなえ 角川書店 2023年12月



 

 

人間も一番美しい時に標本にできればいいのにな

蝶が恋しい。蝶のことだけを考えながら生きていきたい。蝶の目に映る世界を欲した私は、ある日天啓を受ける。あの美しい少年たちは蝶なのだ。その輝きは標本になっても色あせることはない。五体目の標本が完成した時には大きな達成感を得たが、再び飢餓感が膨れ上がる。今こそ最高傑作を完成させるべきだ。果たしてそれは誰の標本か。――幼い時からその成長を目に焼き付けてきた息子の姿もまた、蝶として私の目に映ったのだった。イヤミスの女王、さらなる覚醒。15周年記念書下ろし作品。



この題名からして不穏な空気。
蝶を標本にする過程でさえ、気持ち悪かった。
まして、人間なんて……
猟奇的で、気分が悪くなる。
こんなの芸術でも何でもない。


しかし、湊かなえさんだけあって、後半の話の展開には、驚きがあった。

子を思う親の気持ち……
取り返せないことをしたという後悔……
どうしようもない。

お気に入り度⭐⭐⭐



クロエとオオエ

有川ひろ 講談社 2025年6月



 

 

恋と宝石。
「宝石の価値ってそんなに重要?」
思いがけない彼女の言葉がぼくを心地よく壊す。
当たり前を超えていけ

「いや、ごめん要らないわ、これ」
「は!?い、要らないってお前……嵌めてみもせずに!?」
横浜で三大続いた宝石商(ジュエラー)の嫡男・大江頼任と、彫金を家業とする職人の娘・黒江彩。
最初のデートで頼任が贈ったリングを突き返してから、二人の関係は「メシ友」と「恋人」の間で謎のまま。

頼任の店のお得意様のブライダルジュエリーのオーダーを皮切りに、クロエがジュエリーデザインを引き受けるようになってから、二人の関係性が変わっていく。

宝石をのぞくと見える美しい別世界。これを表現できるのは彼女だけ。




有川さんの胸キュン恋愛小説は、久しぶり。


宝石商の息子のオオエ頼任と彫金師のクロエ彩は、いっしょに食べに行く間柄でありながら、付き合ってないとはどういうこと?


頼任の元カノも登場。

この恋どうなる?


はっきりもの言うクロエに対し、タジタジの頼任とのやりとりに にやけた。


宝石のことは、私は知らないことばかりだったけど、クロエが作った指輪はステキだと思う。

自分の信念を持って仕事している姿がかっこいい。


宝石は、価格にかかわらず、気に入った物が一番!

愛情の証しだし、魔除けの意味もあるという。

私も欲しくなってきた。


バーコードを読み取ってスマホで、宝石を見られるのは、新しいやり方。

文章を読んでイメージしたものが、こんな感じになるのかと答え合わせをしているようで楽しかった。


石が上でなく横についている指輪なんて、斬新だわ。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐






君の顔では泣けない

君嶋彼方 角川書店 2021年9月



 

 

圧倒的リアリティで「入れ替わり」を描く小説野性時代新人賞受賞作!

高校1年の坂平陸は、プールに一緒に落ちたことがきっかけで同級生の水村まなみと体が入れ替わってしまう。いつか元に戻ると信じ、入れ替わったことは二人だけの秘密にすると決めた陸だったが、“坂平陸”としてそつなく生きるまなみとは異なり、うまく“水村まなみ”になりきれず戸惑ううちに時が流れていく。もう元には戻れないのだろうか。男として生きることを諦め、新たな人生を歩み出すべきか――。迷いを抱えながら、陸は高校卒業と上京、結婚、出産と、水村まなみとして人生の転機を経験していくことになる。





坂平陸と水村まなみは、入れ替わってしまう。

違う環境で、相手になりきり生活していかなければならないのだから、その苦労は想像以上だろう。


入れ替わったことにより、異性の体の戸惑い、家庭環境の違い、高校での友達関係など、ていねいに描かれている。


秘密を共有している陸とまなみが会うことが、ホッとできる時間だったのだろう。


元に戻った時の相手のために正しく生きる。

その相手を思う気持ちがやさしいと思った。


入れ替わりの状況はいつまで続くのだろう?

もし今元に戻ったとしたら、それはいいことだと思うけれど、今まで別の人間として生きてきたのだから、それはそれで大変だろうと思った。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐


詐欺師と詐欺師

川瀬 七緒 中央公論新社 2024年5月



 

 

海外で荒稼ぎして帰国した詐欺師の藍は、ある政治家のパーティーで知り合ったみちるに興味を抱く。みちるは親の仇を捜しており、そのために金がいるという。仇とは、世界的企業に成長した戸賀崎グループ筆頭株主の戸賀崎喜和子。隙だらけの復讐計画を聞いた藍は、みちるに協力することになるが……。
稀代のストーリーテラーが贈る、衝撃のラストにご注意を。





潔くお金を使い、豊富な知識のもと、スマートに詐欺を働く藍。

親のかたきを討つため、

戸賀崎グループ筆頭株主の戸賀崎喜和子を探しているみちる。


ふたりは政治家のパーティーで出会い、藍はみちるの手助けをすることになる。


ふたりは戸賀崎喜和子にたどり着くことができるのか?

誰が誰をだましているのか?



藍は

ブランドの価値もすぐに見抜く。

珍しい野菜を知っているし、その調理法もわかる。

その知識量はすごいと思う。


みちるは

藍と違って、上流社会のことには疎いが、生真面目で道理を重んじ、余裕がないくせに弱い者を思いやる心まで備わっている。

そして、人を殺した人間は輪郭が黒く見える特殊能力を持っている。


全く違うふたりが力を合わせる。

姉妹のような関係になっていくのだが……





予想だにしない展開。

いや~なラストだった。


お気に入り度⭐⭐⭐

springスプリング

恩田陸 筑摩書房 2024年4月



 

 


自らの名に無数の季節を抱く無二の舞踊家にして振付家の萬春(よろず・はる)。
少年は八歳でバレエに出会い、十五歳で海を渡った。
同時代に巡り合う、踊る者 作る者 見る者 奏でる者――
それぞれの情熱がぶつかりあい、交錯する中で彼の肖像が浮かび上がっていく。
彼は求める。舞台の神を。憎しみと錯覚するほどに。
一人の天才をめぐる傑作長編小説。




JUN、稔、七瀬から見た HALを語る。


HALは天才だと思うが、HALと関わったまわりの人たちも優れた能力の持ち主だと思う。

この人たちとの出会いがHALを成長させた。


HALの印象

〈フワフワしたそよ風男〉

〈お花畑のチョーチョ野郎〉

には笑ってしまった。

しかし、

振付師としてHALが

「 エロくなーい」

「コワくなーい」と指摘する。

そのお手本を踊るHALの姿にみんなは圧倒される。

すぐに踊れるのだから、天才としか言い様がない。


最後はHAL本人が語る。

 天才ゆえに、まわりから孤立していた少年時代には葛藤が、あったことを知る。

胸が「カチッ」と鳴るものを探していたんだな。




この本で紹介されているバレーの演目「メルヒェン」「三つのオレンジへの恋」「アネクメネ」「ある母親の物語」「アサシン」等、興味を持った。

中でも、「春の祭典」は圧巻だった。



踊っているバレーの情景が目に浮かぶ。

芸術を堪能した気分だ。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



熟柿 

佐藤正午 角川書店 2025年3月



 

 

取り返しのつかないあの夜の過ちが、あったはずの平凡な人生を奪い去った。

激しい雨の降る夜、眠る夫を乗せた車で老婆を撥ねたかおりは轢き逃げの罪に問われ、服役中に息子・拓を出産する。出所後息子に会いたいがあまり園児連れ去り事件を起こした彼女は、息子との接見を禁じられ、追われるように西へ西へと各地を流れてゆく。自らの罪を隠して生きる彼女にやがて、過去にまつわるある秘密が明かされる。




交通事故で、人を死なせてしまう。車を運転する人にとって誰にでも起こりうること。

もちろん、逃げる行為は、絶対にしてはいけないこと……


ひき逃げ犯としてかおりは服役し、獄中で息子-拓を出産する。

出所後、警察官の夫からは離婚を言い渡され、拓は夫が育てることになり、母親は死んだことにしてくれと言われる。


一時はそれを受け入れたものの、息子をひと目見たいと思うあまり、幼稚園、小学校 へと侵入を試みる。しかし、パトカーに乗る羽目になってしまう。


そんなことがあって、拓のために、自分にできることはと考え、……


拓に出すことのない手紙を書き、一生懸命働き、お金を稼いだ。


職場を転々としなければならなかったのは、過去のことがわかってしまったから……

世間の目は厳しい。


ずっと変わらず持ち続けた息子拓への思い……


かおりの夫や友達の鶴子は好きになれなかったけど、久住呂さん親子や土居さんの存在に救われた。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐





骨を 喰む真珠

北沢陶 KADOKAWA  2025年1月



 

 

横溝正史ミステリ&ホラー大賞三冠作家による、新たな恐怖と悲哀。

「僕はこの家から逃げられへん身にさせられてしもうた」

大正十四年、大阪。病弱だが勝ち気な女性記者・苑子は、担当する身上相談欄への奇妙な投書を受け取る。
大手製薬会社・丹邨製薬の社長令息からの手紙であり、不審を覚えた苑子は、身分を偽り丹邨家に潜入することに。
調査を進めるうち、その異様さが明らかになっていく。苑子を苦しめていた咳をただちに止める、真珠のような丸薬。
一家の不可解な振る舞い。丸薬を怪しんだ苑子は、薬の成分分析を漢方医に頼む。
返ってきた結果には、漢方医も知らない「骨」が含まれていた――。

もう逃げられない。気付いてからが、本当の地獄の始まりだった。
「丹邨家に巣くう災厄をあなたが払えることを祈ります」




新聞社の身の上相談欄に送られてきた丹邨製薬の息子からの詩が書かれた謎の手紙。



新聞記者の苑子が丹邨製薬の社長の家に潜入調査に入る。

 

家族内の不穏な空気。


一方、咳に苦しめられていた苑子は、丹邨の娘-礼以がくれる薬を飲むと咳はピタリと止まった……


新聞社は男性社会で女性の立場は大きくなかった中で、彼女は記者として調べたことをちゃんと記事にしようとするその心意気は すごいと思うが、

深みにはまっていく苑子に、早く逃げてと語りかけながらの読書。



えっ!

そんなものが出てくるとは!

この話の展開にゾワッとした。



後半、
主人公がふたりの女性に交代。
果敢にも真相に迫るが、その展開が、もうおぞましくて、吐きそうになった。

それでも、
ある人物のことを思うとやるせない。
残念なこともあったが、
安心できるラストだった……

お気に入り度⭐⭐⭐⭐