リカバリー-カバヒコ

青山美智子 光文社 2023年9月



 

 

5階建ての新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの日の出公園には古くから設置されているカバのアニマルライドがあり、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説がある。人呼んで”リカバリー・カバヒコ”。アドヴァンス・ヒルに住まう人々は、それぞれの悩みをカバヒコに打ち明ける。高校入学と同時に家族で越してきた奏斗は、急な成績不振に自信をなくしている。偶然立ち寄った日の出公園でクラスメイトの雫田さんに遭遇し、カバヒコの伝説を聞いた奏斗は「頭脳回復」を願ってカバヒコの頭を撫でる――




高校入学して急に成績が下がった高校生
ママ友と の付き合いに悩む専業主婦
職場の人間関係に悩み耳に不快感を感じるブライダルプランナー
駅伝大会にくじで選ばれるのがいやでねんざしたとうそをつく小学生
カバヒコの伝説を作ったクリーニング屋のおばあちゃんとその息子夫婦

悩みを抱える人たちが、
カバヒコに話しかけ、自分を見つめ直し、前向きになっていくところがよい

そしてマンションに住む人たちが仲良くなっていくところもよかった


クリーニング屋のお嫁さん、夫には黙って続けていたこと……義母を思う気持ちが暖かかった

年をとると、できないことが増えてくる
でも変わりゆく状況を受け入れて対応していく。
こういう関係が築けたらいいと思った



駅伝やったことないから、まずはやってみるっていう、それだけ。もしかしたら楽しいかもしれないし、やっばりすごくつらいかもしれないし、でもそれってやらないとわかんないじゃん

不安というのも立派な想像力

他人のことを思いやれる想像力を持つ人は、きっと優しい



不安な気持ちには、立ち向かうより、そらすってことも大事なんだ
の前のことだけ、集中して考える

人間って結局、見たいものだけ見たいように見てるんですよ
何が大事で必要か、その都度選択しながら生きているってことでしょ。なにもかも全部はっきり見てやろうなんて、そのほうが傲慢ですよ


心を打つ言葉がたくさんあった

私もリカバリーされた気分だ


気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



ツミデミック

一穂ミチ 光文社 2023年11月


 

 

大学を中退し、夜の街で客引きのバイトをしている優斗。ある日、バイト中にはなしかけてきた大阪弁の女は、中学時代に死んだはずの同級生の名を名乗った。過去の記憶と目の前の女の話に戸惑う優斗はーー「違う羽の鳥」  調理師の職を失った恭一は家に籠もりがちで、働く妻の態度も心なしか冷たい。ある日、小一の息子・隼が遊びから帰ってくると、聖徳太子の描かれた旧一万円札を持っていた。近隣の一軒家に住む老人からもらったという。隼からそれを奪い、たばこを買うのに使ってしまった恭一は、翌日得意の澄まし汁を作って老人宅を訪れるがーー「特別縁故者」  先の見えない禍にのまれた人生は、思いもよらない場所に辿り着く。 稀代のストーリーテラーによる心揺さぶる全6話。





緊急事態宣言が発出され、外出も ままならなかったあの頃……

コロナ禍のあの時期はなんだったんだろうと今思う。

ウクライナで戦争が起きるなんて思わなかったし……




この短編集は、その頃、こんな人がいてもおかしくないと思わせる内容だった。



最初の3編は、心が壊れた暗い話でゾッとしたが、「特別縁故者」で、ほっと一息つけた。



フードデリバリーのイケメン に会いたいためにデリバリーを頼み続ける主婦が、エスカレートしていく様は、精神を病んでいる。


持続化給付金、わりと簡単にもらえて、軽い気持ちで受け取った人、けっこういるかも?


マスクの生活が当たり前だったけど、それがうれしい人もいたんだ。


書いた小説が事実になるって、こわいな。



思うようにいかない人生だけど、最後の章で、少しだけ見えた希望が救いだ。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



山ぎは少し明かりて

辻堂ゆめ 小学館 2023年11月



 


瑞ノ瀬村に暮らす佳代、千代、三代の三姉妹は、美しい自然の中をかけまわり元気に暮らしていた。大切な人が戦地から帰ってくる日も、村中から祝われながら結婚式を挙げた日も、家で子を産んだ日も、豊かな自然を讃えた山々の景色が、佳代たちを包み込み、見守ってくれていた。あるときそんな瑞ノ瀬村に、ダム建設計画の話が浮上する。佳代たちの愛する村が、湖の底に沈んでしまうという。佳代は夫の孝光とともに懸命に反対運動に励むが──。
定年退職まで営業部で忙しく働く佳代の娘・雅枝と、海外留学先であるイタリアで「適応障害」になり、1ヶ月と少しで実家に帰ってきてしまった孫・都。湖の底に沈んだ瑞ノ瀬への想いはそれぞれにまったく異なっていた。






イタリアへ留学していた都が、適用障害で実家に帰ってきたところから物語は始まる。

近くの祖母の家に入り浸りな都だが、母雅枝は祖母の家にいきたがらない。

雅枝は忙しく働き、夫は家事をしていて会話がほとんどない。


そんな都の話。雅枝の話。祖母の話と 時代をさかのぼる。



都は、以前の都を取り戻すことができてよかった。


雅枝は、夫の気持ちを知ることで、夫婦仲も変わってきそう。



瑞ノ瀬村に暮らす佳代、千代、三代の話は、瑞ノ瀬村の自然を愛し、仲良く暮らす三姉妹が貧しいながらも仲良く生活している様子がほほえましい。


それが、ダム建設の話が持ち上がる。

最初反対していた住民たちだったが、考えが変わっていく人が次第に増えていく。

そんななかで、佳代夫婦は、反対を貫いた。

村を守るという堅い信念はすごいなあと思う。

けど、娘や妹とも離れた生活を送ることは、寂しくなかったのだろうか。


大河ドラマを見ているような壮大な物語だ。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐



お菓子の船

上野歩 講談社 2023年2月


 


製菓学校を卒業した樋口和子(わこ)は、浅草にある奥山堂の門を叩く。
祖父が亡くなる前に作ってくれた特別などら焼きを再現すべく、和菓子職人への第一歩を踏み出すために。

だが、待っていたのは男ばかりの職人世界の逆風、なかなか工房に立たせてもらえない年功序列の社会。
荒波の中でもひたむきに努力を続ける和子は、やがて一人前の職人になっていく。
一方、調べていくうちに、祖父が太平洋戦争に出征していたころ、ある船に乗っていたことを知る。
「お菓子の船」と呼ばれていたその船にこそ、どら焼きの秘密があるかもしれない。
当時の乗員に会って話を聞いていくうちに、和子は祖父の知らなかった一面を見つけていく。






祖父の作ったどら焼きが忘れられず、和菓子職人になった和子(ワコ)。


女性の和菓子職人は珍しく、修行は厳しかった。

それでも、誠実にとりくみ、一人前の和菓子職人になっていく。


捨てなければいけない じょうよ饅頭に、捨てるのいやだと泣いたり、お菓子の対決で、見た目だけで勝負し、味は審査されないことに疑問を持ったりと、お菓子を大切に思うワコの気持ちがよくわかる。



祖父のどら焼きの味を求めて祖父のことを調べるが、戦争時代の知らない祖父の一面を知ることになる。

戦争の話は重い内容だった。




祖父のどら焼きの再現 には、相当苦労していたけど、試行錯誤を繰り返し、あきらめずに作り続けるワコを応援したくなった。



どの時代でも、お菓子は人を幸せにする食べ物だ。


気に入り度⭐⭐⭐⭐



夜しか泳げなかった

古矢永塔子 幻冬舎 2024年7 月




 

 

私が死ぬまでの一年間、くそみたいなこの世界に八つ当たりするのに付き合ってくれない?」
中高生に人気のベストセラー小説『君と、青宙遊泳』。それは、高校教師・卯之原朔也がかつて封印した物語に酷似していた。
今は亡き高校の同級生・日邑千陽と過ごした7年前の夏——あれは「僕たちだけの物語」だったはずなのに。
覆面作家ルリツグミの正体を探る卯之原の前に、当の本人が転校生として現われる。

「生まれ変わったら、深海魚になるのもいいよな」
愛とか死とか幸せとか、その言葉の本当の意味を僕たちはまだ知らなかった……。




不治の病に冒された美少女が、陰気で無気力な主人公をはげます。『君の分まで生きる』という展開。
ふたりは、最高の思い出を作る。
そんな小説や映画が、ヒットする。

しかし、小説や映画 と現実の世界は違う。

明るく行動力のある美少女ばかりではない。
癖毛の一重のブスだって余命宣告される。
病気に怯え、 日中の光の中で行動できない。
不安を抱えながら日々を過ごしている。
そういう人だっている。

 綺麗に描かれたフィクションの世界とは違う。
それでも、誰にでも、現実で輝く一瞬はあると思う。


卯之原朔の暗いおいたち。

日邑千陽と最後のけんか別れ……


卯之原が、封印していた過去と向き合い、

日邑の最後の気持ちを知ることができてよかった。



妻鳥の前では先生らしくない卯之原。

ふたりの会話がほほえましい。



気に入り度⭐⭐⭐⭐

存在のすべてを
塩田武士 朝日新聞社 2023年9月


平成3年に発生した誘拐事件から30年。
当時警察担当だった新聞記者の門田は、旧知の刑事の死をきっかけに被害男児の「今」を知る。
異様な展開を辿った事件の真実を求め再取材を重ねた結果、ある写実画家の存在が浮かび上がる――。





平成3年に発生した誘拐事件から30年後、担当していた中澤刑事がガンで亡くなり、中澤と懇意にしていた新聞記者の門田は、この解決していない事件をあらためて 調べる。


現場に 足を運んだり、関係者に取材したりと、各地を動きまわる地道な調査。

ネット上で書かれていることを鵜呑みにすることなく、事実を求めて行動している様子は、真面目に事件に対峙していると思えた。


新聞記者としてなぜ書くのか?

その重みを感じずにはいられない。


この門田の取材と、ある画商の娘の学生時代の話がひとつにまとまった時、真実が明らかになる。



空白の3年間、切なくて、切なくて…。

子どもにとっては、幸せな3年だったと思う。

深い愛情を感じた。



絵画の世界。

教授が支配していて、才能があっても、光をみない多くの画家がいることを知る。ここも欲の世界なのかと嫌気がさした。




お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



約束した街
伊兼源太郎 幻冬舎 2023年7月



世の中のはみだし者の幼馴染み3人は、十五年後の再会を約束する。
かつてやり残した「宿題」を終わらせるために。 
 
                                                                                         商社に勤める結城隼は、ロンドンへの勤務を命じられる。
東京での最後の出社日、送別会もなくまっすぐ家に帰ると玄関でひとりの少女が待っていた。
中学卒業以来一度も会っていない、幼馴染の娘だった。
彼女の頼みは、行方不明になった母親を探すこと。
タイムリミットは、ロンドンへ旅立つまでの五日間。
少女と共に、故郷である神戸に向かうがーー。







が失踪したので探してほしいとニナの娘というジーナが結城隼を訪ねてくる。

ニナは高校時代の同級生だが、卒業後28年間、会っていなかった。


隼は、ジーナの頼みを聞いて、神戸にむかう……



高校時代の、隼、ニナ、ジョンホ、3人。

阻害されていた3人は、仲良くなる。

そして15年後の再開の約束は果たされず、

それからまた、13年が経つ。


ニナを見つけることはできるのか?

高校時代、何があったのか?



ニナを探していく過程で、邪魔が入る。


誰が誰をだましている?

話が、だんだんややこしくなっていく。


どんな展開になるのかとどきどきしながら読んで、おもしろかったのは確かだが……


失踪までする必要があったのか?

話し合いすればわかりあえる間柄では?


ラストは、友情の再確認ができてよかったとは思う。



お気に入り度⭐⭐⭐

今日のかたすみ

川上佐都 ポプラ社 2023年12月



 

 

人と暮らすって不自由で息苦しくて、でも時々たまらなく愛おしい。

好きなのに分かり合えない同棲カップルに、
母との喧嘩を機に別居していた父のところに転がり込んだものの、距離感に戸惑う女子中学生。
アパートの隣室に住む人懐っこいおばあさんに友人認定され、交換ノートを始めた女子大生。

暮らしの中で経験してきた悩みも、喜びも、きっとそこにある。






愛が一位

同棲して、初めてわかる相手のことってある。

別れるのか?

それとも、折り合いをつけて、このまま続けていくのか?


毎日のグミ

両親が離婚して、別々に暮らしていた 父のところで生活することになった 女子中学生。

どう接していいのかわからないふたりだった……

父の、不器用だけど精一杯の愛情が伝わってきた。


避難訓練

ルームシェアしていて、仲良く暮らしていたとしても、相手が悩んでいることに気づかないことはあると思う。


ピンクちゃん

女子大生と隣の住民のおばあさんと始めた交換ノート。

交換ノートか。なつかしい。

学生時代してたなあ(年ばればれ)

ふたりは、楽しく交流を深めていったのに、まわりから誤解されて、おばあさんがかわいそう。


荷ほどき

記憶の記録のためにレシートを保管してるって、なんかいいなあと思った。



一緒に暮らすことで問題が起きる。

日常のかたすみで起きる出来事を切り取った短編集。

登場人物は、リンクしている。

次は、どの人の話なのか、わくわくした。



最後の1行が意味深なのがある。
これから、何か変わりそう!?

お気に入り度⭐⭐⭐⭐

ヒマかっ!

日明恩 双葉社 2023年9月


 


 


広島から家出して上京した17歳の桧山光希は、ふとした出会いから足場工事会社「須田SAFETY STEP」の見習い社員になることに。
そこには、見た目はいかついがナイスガイな先輩たちがいて、光希にとっては新鮮な驚きの世界だった。
実は、光希はかつては強い霊感を備えていたが、ある事件がきっかけでその能力を失っていた。
だが、先輩の頭島が一緒にいるときだけ再び“見える”ことに気づく。
かくして、光希と頭島、さらにはもう一人の先輩である奥を加えた3人による幽霊退治が始まる――。





めて読む作家さんだけど、日明恩と書いて、たちもりめぐみと読むのか。



幽霊が見えるけど触れない光希と幽霊をつかまえることができるけど見えない頭島と彼らの先輩である奥の3人で行う幽霊退治の話。



幽霊を触ることができるなんて。

新しい設定。

それもボコボコ にされた幽霊が、やめてくれって叫んでる。

幽霊でも痛みを感じるのかと笑ってしまった。



幽霊って、恨みを持っていて成仏出来ずにいるというイメージだが、ここに登場する幽霊は、生きている人たちの ことを心配している。

温かい心の待ちの持ち主の幽霊だ。


幽霊よりこわいのは、生きている人の恨みや行いだった。


17歳の光希が、家出した理由、光希の過去とは……。

その光希を暖かく迎えてくれた足場工事会社の社長やそこで働く奥や頭島と光希の交流がとてもよかった。


〈誰かから受けた親切を、別の誰かにする〉

その精神、すばらしい。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐


伯爵と三つの棺

潮谷験 講談社 2024年7月



 

 

時代の濁流が兄弟の運命を翻弄する。

フランス革命が起き、封建制度が崩壊するヨーロッパの小国で、元・吟遊詩人が射殺された。
容疑者は「四つ首城」の改修をまかされていた三兄弟。五人の関係者が襲撃者を目撃したが、犯人を特定することはできなかった。三兄弟は容姿が似通っている三つ子だったからだ。
DNA鑑定も指紋鑑定も存在しない時代に、探偵は、純粋な論理のみで犯人を特定することができるのか?




中世ヨーロッパの話なので、私が興味を持って読めるのかと心配したが、杞憂に終わった。

とてもおもしろい。

この時代設定だからこそ、出来た物語なのだ。



殺人事件が起きるが目撃者は5人。

顔の同じ三つ子の三兄弟のうちのひとりが犯人。


その犯人を論理的に追求していくところも読み応えがあるのだが、犯人がわかってからもフランス革命の時代背景と相まって物語は続く。


次々と新事実が判明していって、物語は、二転三転する内容だった。



三兄弟と私(エル)との友情。

茶目っ気のあるD伯爵。

官能小説家を目指しているというリコイ子爵夫人。

など、魅力ある人たちも登場する。


ちょっとした違和感から真実へたどり着くのか?



ラストの手紙にある生きざまは、自分勝手で褒められることてはないだろうが、この時代を精一杯生きたのだと思った。




お気に入り度⭐⭐⭐⭐