人魚が逃げた

青山美智子 PHP研究所 2024年11月


 

 

ある3月の週末、SNS上で「人魚が逃げた」という言葉がトレンド入りした。どうやら「王子」と名乗る謎の青年が銀座の街をさまよい歩き、「僕の人魚が、いなくなってしまって……逃げたんだ。この場所に」と語っているらしい。彼の不可解な言動に、人々はだんだん興味を持ち始め――。
そしてその「人魚騒動」の裏では、5人の男女が「人生の節目」を迎えていた。12歳年上の女性と交際中の元タレントの会社員、娘と買い物中の主婦、絵の蒐集にのめり込みすぎるあまり妻に離婚されたコレクター、文学賞の選考結果を待つ作家、高級クラブでママとして働くホステス。

銀座を訪れた5人を待ち受ける意外な運命とは。
そして「王子」は人魚と再会できるのか。
そもそも人魚はいるのか、いないのか……。




現実の 世界と 童話の世界がかみ合って、新しい世界を作っている。
ひとつひとつの話の中に、心に残る言葉がちりばめられている。

人魚のおとぎ話、いろんな解釈ができるものだ。

 最初の話に登場した人物が、次の話の主役になっていて、話がリンクしているのもよい。

ひとつの気づきが、自信へとつながり、新しい一歩を踏み出そうとする姿がよかった。

現実とも、ファンタジーともとれるその曖昧さが、この物語の魅力だ。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

明日もいっしょに帰りたい

織守きょうや 実業之日本社 2025年8月



 

 

やめてよ。恋なんかしないでよ。塩野の気持ちに気づいたときから、私はずっとそう思っていた。言えるわけがないけれど。
誰かのために卵焼きを作りたいなんて、そんなこと考えないでほしい。
料理なんてできなくたっていい。私がなんでも作ってあげるから。
誰かのために可愛くなんて、ならなくていい。塩野はそのままでいい。デートだって私とすればいい。どこにでも行くのに。
置いて行かないで。
(本文より)



女性どうしの友情?恋愛?を描いた短編集。


椿と悠

高校生の椿と悠。

それぞれの視点で描かれ、お互いが同じ男の子のことを勘違いしている。



友達未満

デザイン業界の話。

同性愛者というだけで、変な目で見られる?

大切に思うからこそ、友達でいようと決めるが……。


変温動物な彼女

大学の聴講生の珠璃は、普通に見えるように努力してきた。その大学で、以前アルバイトしていた喫茶店の常連客だった湯川雪と再会する。


この話が一番好き。


いいよ。

高校生の頃、松風と清良と三人でいっしょに行動していた真凜だったが、清良が、告られるのが疲れるというので、真凜は、清良の恋人のふりをする……


 「いいよ。」という返事が返ってくるのかドキドキだった。


相手のことを可愛いと感じる。

可愛いから好きなのではなく、 好きだから、可愛いと感じる……


相手のことを考えてドキドキしている様子が微笑ましかった。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐

パンダより恋が苦手な私たち

瀬那和章 講談社 2021年6月



 

 

動物たちの求愛行動が、恋の悩みをスパッと解決!?
イケメン変人動物学者 × へっぽこ編集者コンビがおくる、新感覚ラブコメディー!


「それでは――野生の恋について、話をしようか」
月の葉書房の「リクラ」編集部で働く柴田一葉。夢もなければ恋も仕事も超低空飛行な毎日を過ごす中、憧れのモデル・灰沢アリアの恋愛相談コラムを立ち上げるチャンスが舞い込んできた。期待に胸を膨らませる一葉だったが、女王様気質のアリアの言いなりで、自分でコラムを執筆することに……。頭を抱えた一葉は「恋愛」を研究しているという准教授・椎堂司の噂を聞き付け助けを求めるが、椎堂は「動物」の恋愛を専門とするとんでもない変人だった!
恋に仕事に八方ふさがり、一葉の運命を変える講義が今、始まる!




TVドラマ化されるというので読んでみた。


動物の求愛行動をもとに、恋愛相談に応じるという、今までにない話。

動物の求愛行動も人の恋愛模様もおもしろかった。



ファッション誌を刊行している出版社に入社したはずが、ファッション誌は廃刊となり、夢はなくなるが、その出版社で働く柴田一葉。

イケメンだけど、動物の求愛行動にしか興味のない社会行動学を専門とする椎堂司。

昔有名だったが、いつの間にか芸能界から消えた伝説のスーパーモデル灰沢アリア。

他、紺野先輩、カメラマンの瑞希、一葉の姉等の登場人物の恋の話。


アリアになりきって書く一葉のコラムが、動物の求愛行動と絡めての返答がおもしろく、また、ズバッと言い切る、容赦のない返答は、相談者を鼓舞していて、気持ちよかった。


一葉が仕事で成長していく姿がいい。
また、椎堂やアリアが、一葉と関わることで、変わっていくのもよかった。

ランナウェイを颯爽と歩く姿が目に浮かぶ。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

失われた貌

櫻田智也 新潮社 2025年8月



 

 

山奥で、顔を潰され、歯を抜かれ、手首から先を切り落とされた死体が発見された。不審者の目撃情報があるにもかかわらず、警察の対応が不十分だという投書がなされた直後、上層部がピリピリしている最中の出来事だった。
事件報道後、生活安全課に一人の小学生男子が訪れ、死体は「自分のお父さんかもしれない」と言う。彼の父親は十年前に失踪し、失踪宣告を受けていた。
間を置かず新たな殺人事件の発生が判明し、それを切っ掛けに最初の死体の身元も判明。それは、男の子の父親ではなかった。顔を潰された死体は前科のある探偵で、依頼人の弱みを握っては脅迫を繰り返し、恨みを買っていた男だった。





捜査係の日野が後輩の入江と共に殺人事件に取り組む。
二つの殺人事件、失踪事件が絡み合っていく。
地道な捜査で、事実が少しづつ明らかになっていく話は、先を読まずにはいられない。

小学生の隼人のまっすぐなところ、守ってあげたいと思ってしまう。大哉との友だち関係がいいなと思う。



〈〇〇を救いたいと願うなら、手伝えるのは罪の隠蔽じゃない。すべて壊れたあとの再生だ。〉


事実は事実として受け止め、その上で、再生の手助けをする。


日野のやり方があたたかいと思った。


ところどころの会話 に笑える。

重い内容の緩衝材となっている。


どうでもいい話だけど、
「ブールバード」という店名、私も青い鳥と思った。


どんでん返しというより、おおよその見当はつくのだが、そこに至る過程や、日野の人間性、羽幌刑事との関係などに読み応えがあった。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐


ポップ-ラッキー-ポトラッチ

奥田亜希子 U-NEXT 2024年4月



 

 

相田愛奈は、正しいことがなにより強いと信じている。無職の彼女の銀行口座には、幸運に得た約2億円があるにもかかわらず、節制した生活を続けている。その一方で、福祉団体等には多額の寄付をしていた。
そんな愛奈のもとに、無職かつ浪費家の従姉妹・忍が転がり込んできた。さらに、Amazonの<ほしい物リスト>で約3万円分の品を贈った相手から、お礼らしいお礼がないことに愛奈は気づく。
なぜ? どうして? 数々の出来事が正しさセンサーに引っ掛かり、悶々とする愛奈の日々が始まった。





2億円もの宝くじが当たったら、どんな使い方をするだろう?



正義感が強すぎる愛奈の部屋に、従姉妹で押しにお金を使う浪費家の忍が転がり込む。


正反対のふたりの共同生活は、どんな感じになるのか。



寄附すること。その見返りを求めることとは?

贈与の返礼は必要か?


いろいろ考えさせられる内容だった。



愛奈のように正しくは、生きにくい世の中だろうなと思う。


忍は、愛奈に反発しているようであるが、高校の 修学旅行のエピソードから、思ったより愛奈に親切なのだと思った。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐

最後のページをめくるまで

 水生大海 双葉社 2019年7月




 

 

小説の、最後の最後でおどろきたい方、ぜひどうぞ。
「どんでん返し」をテーマに描いたミステリー5編。

ベスト本格ミステリ2018に選出された「使い勝手のいい女」のほか、
「わずかばかりの犠牲」「骨になったら」「監督不行き届き」「復讐は神に任せよ」と、どの短編もラストで景色が一変します。



「使い勝手のいい女」

別れた智哉が訪ねてきて、お金を借りたいと 抱きしめてきた。手にしたシチューボールを振り下ろす。

その後、智哉の恋人であり、友だちだった加奈が訪ねてくる。



「わずかばかりの犠牲」

詐欺の受け子をしている大学生の諒。

公園で知り合った 老人が詐欺にあっているのを阻止するが、そのことで窮地に陥る。


「骨になったら」

妻の葬儀。

火葬で骨になったら、DNA判定もできないはず……


「監督不行き届き」

「いつ別れるんですか?」と夫と結婚するという城田という女が訪ねて来る。



「復讐は神に任せよ」

娘-淋を交通事故で亡くす。

事故を起こした男はつかまっていたが、事実は違うとその男の家族に事実を話してもらおうとつきまとう。



最後に違う結末が待っていて、おもしろかった。


お気に入り度⭐⭐⭐

 

 




パズルと天気

伊坂幸太郎 PHP研究所 2025年5月


 

 

伊坂幸太郎デビュー25周年に贈る、「幸せ」な短編集!
【パズル】
悩みを抱えた「僕」は、マッチングアプリでしか出会えない「名探偵」に依頼する。
【竹やぶバーニング】
出荷した竹にかぐや姫が混入!? 仙台七夕まつりで大捜索が始まった!
【透明ポーラーベア】
動物園で会ったのはシロクマ好きで行方不明になってしまった姉の、元恋人だった。
【イヌゲンソーゴ】
花咲か爺さん、ブレーメン……俺たちの記憶を刺激するあの男は誰だ?
【Weather】
友人・清水の結婚式に参加した大友は新婦からある相談を持ち掛けられていて――。




いろんな年代に書かれた短編らしい。


最初の話は、

マッチングアプリで知り合った女性のことをマッチングアプリで探偵に依頼する。

名探偵は真実を言い当てられるのか。

話が、二転三転してどこに落ち着くのか。


仙台の七夕まつりとかぐや姫を合わせた話は、設定がおもしろいと思った。
 美人の範囲を広げるには笑えた。

姉の元彼と再開。
つて微妙な関係だろう。
けど、今、お互いに恋人がいて、一緒に行動できることはいいと思った。

前世にうらみを持った犬たち……
花咲か爺さん、ブレーメンの音楽隊、フランダースの犬、忠犬ハチ公など、昔話に関係した話は、盛り込み過ぎに思った。

最後、結婚式の話でまとめた所はいいと思った。

伊坂さんらしく、クスッと笑える会話などあり、おもしろく、思っていたのと違うあたたかい結末はよかった。


他人のことはパズルだと思うよりも、天気だと思った方が良い〉

なるほど!




お気に入り度⭐⭐⭐




あの子とO

万城目学 新潮社 2025年5月



 

 

吸血鬼一家が営む山奥のピッツェリア。
ある日、新たな仲間が加わることに!
漫画家を目指す双子の小学生吸血鬼、ルキアとラキア。
二人はスランプから抜け出すため、ピッツェリアに見習い職人としてやってきたオーエンさんにキャンプに連れて行ってもらうことになった。
オーエンさんには吸血鬼だということは知られてはいけない。でもその夜、ある事件に遭遇し――。
変速するヴァンパイアストーリー全3篇。



あの子とQ

続編


「あの子と休日」

新聞部の須佐見は、バス転落事故に遭っても、ほぼ無傷な4人を不思議に思い、取材をしようと試みる。そのひとり、吉岡優を追ううち、吉岡優から「高校生クイズ&ゲーム」に突然誘われ、嵐野弓子と3人で参加する。


予選落ちしそうになっとき、何かの力が働いた?

嵐野弓子の本気の活躍がみられて、最高!

ヨッちゃんの前向きなキャラ、全開!好きだわ。


「カウンセリング-ウィズ-ヴァンパイア」

カウンセリングに来た ヴァンパイアは、あの人!?


あの子とO」

双子の兄弟ルキアとラキア。

家のピッツァの店で働き始めたオーエンさんとキャンプに行くことになるが…

まさか、〇〇が登場するとは!



このヴァンパイアのシリーズおもしろい。

まだ話は続きそうだけど、今度は、「あの子と?」何になるのだろう。



気に入り度⭐⭐⭐

鯨オーケストラ

吉田篤弘 角川春樹事務所 2023年3月



 

 

人はみな、未来に旅をする

『流星シネマ』『屋根裏のチェリー』
そして――。
静かに心が共振する、希望の物語。

僕は地元のラジオ局で深夜の番組を担当している。
ある日、17歳の時に絵のモデルをしたことを話したところ、
リスナーから、僕によく似た肖像画を見た、と葉書が届く――。
土曜日のハンバーガー、流星新聞、キッチンあおい、行方不明の少年、多々さん、鯨オーケストラ――すべてが響きあって、つながってゆく。
小さな奇跡の物語がここに終わり、ここから、また始まる。





流星シネマ 」
屋根裏のチェリー 」

続く物語があると知り、さっそく読んでみた。



僕がラジオ放送で担当している「サイレントラジオ」で話した内容から、リスナーから葉書が届き、行動に移したことで、さまざまな人とつながっていく。


以前の話は、ほとんど忘れていたが、この作品を読んでいるうち、思い出してきた。

ここに登場した人物とも、関係していく。


失われたものが、形を変えて生まれ変わることもある。


奇跡的な出会いを大切に、僕は新しい未来へ踏み出す。


静かでゆったりとした、この世界観が好き。




お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐



されどめぐる季節のなかで

はらだみずき 新潮社 2025年8月



 

 

人生の種まきは終わらない。四季の花々、旬の食材、彩り豊かな成長の物語。
念願のカフェを開いた真芽だが集客が伸びない。打開策として自分で種から育てた作物をメニューに取り入れようと試みるものの、予想外のトラブルが――経営や人間関係、さまざまな課題に直面しながらも真芽はどう生きたいのかを問い直し、新たな目標を見つけてゆく。



やがて訪れる春のために

続編



カフェを始めた真芽は同級生のナスビーと遠藤君と一緒に暮らすようになる。


しかし、口論が続き、遠藤君は黙っていなくなってしまう。


カフェも順調とは言いがたく、この先どうなるのか、不安がつきない。






化学肥料を使わない自然農法って、むつかしそうだけど、そういう野菜作りができて、その野菜を使ってカフェがやっていけたらいいだろうなと思う。


行き違いがあったり、困難な出来事もあるけれど、新しい目標を見つけて、少しづつではあるが前に進もうとする姿はよかった。



認知症の祖母ハルは、突拍子もない行動をすることはあるが、味覚など忘れていない部分もあって、病人扱いされることを嫌う気持ちがある。 

接し方はむつかしそうだけど、やさしい気持ちで接するしかないのかな。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐