ひまわりと銃弾

麻宮好 小学館 2026年1月



 

 

関東大震災後の浅草。
太平洋戦争に向かいつつある世情。
それぞれ重い過去を背負って生きている冴子・ハジメ・卓三の三人は細々と演劇で口を糊している。
芸術芸能に対して、警察や軍部による検閲、大衆の冷たい視線がますます厳しくなる中、卓三が兵役に取られた上に、東京大空襲に巻き込まれるふたり。
戦後、奇跡的に生き残ったふたりは、卓三不在のまま、舞台の幕を上げられるのか?
そして、GHQの嫌がらせに、どう抗うのか?
感動の戦争小説。





矯正院を出たハジメは伯父からも、浮浪児になりかけたとき拾ってくれた堂島にも冷たくあしらわれる。

ハジメは、親切に声をかけてくれた牛飯屋で働き始める。そこに客と して来た卓三と知り合い、演劇を始める。富美、冴子が加わり、「 一三座」を作り、野球ネタをするが……


戦争の色が濃くなる。

世間からは、冷たい 目で見られ、検閲も厳しくなる。兵役にとられたり、慰問を迫られたりと演劇を続けることがむつかしくなる。


そんな中で、

「大事な我が家」だと「一三座」を守ろうとしたハジメの強い思いに心うたれる。

それぞれが重い過去を背負っていたからこそ、 この居場所を大切にしたかったのだと思う。


必ず戻ってこいというハジメから卓三への言葉。

卓三と倉田のキャッチボールの約束。

それは果たせるのか?

胸が熱くなった。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

さらば!店長がバカすぎて

早見和真 角川春樹事務所 2025年9月



 

 

カリスマ書店員・谷原京子は、長いスランプが続いていた。
そんな中、「おもしろい本の話と店長のグチを言い合える」唯一無二の元同僚・磯田さんの結婚式が行われた。
京子の心配をよそに、マイクを握りしめ、颯爽と燕尾服を脱ぎ捨てた山本店長が高らかに歌う――
その一週間後、磯田さんが京子を訪ねてきた。
「谷原さんにはこれからもちゃんと戦い続けてもらわないと困るんです、書店を守ってもらわなきゃ」という彼女の言葉に、京子は複雑な気持ちに駆られる。
ぶっ飛んだ店長や書店を取り巻く厳しい状況と日々闘いながらも、自らの人生と書店の未来を切り開いていこうとする京子だが……



「店長がバカすぎて」


「新!店長がバカすぎて」


に続く第三弾。


今までの登場人物たちに、新しい書店員も加わり、にぎやかな印象。

店長は、あいかわらず、はちゃめちゃに思える。


でも、幼稚園に絵本の読み聞かせに行ってたりして、良いところもある不思議な魅力の持ち主?


「問題。 」とコラボ。

十和ちゃんも登場してる。

武蔵野書店に来る子どもに対しての書店員の京子の接し方が、いいと思った。




京子は、武蔵野書店のこと、自分自身のこと、これからのことに悩みながら、答えを 出していく。


書店が減りつつある中、書店の意味についてのくだりは、よかった。

武蔵野書店は、なくならないでほしい。


アナグラムがいっぱい。

作者は、アナグラムのことも考えて、名前つけてるのか?


これまでと同じような話の展開もあったのに、気づかなかったなあ。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐



さよならジャバウォック
伊坂幸太郎 双葉社 2025年10月

結婚直後の妊娠と夫の転勤。その頃から夫は別人のように冷たくなった。彼からの暴言にも耐え、息子を育ててきたが、ついに暴力をふるわれた。そして今、自宅マンションの浴室で夫が倒れている。
夫は死んだ、死んでいる。私が殺したのだ。もうそろそろ息子の翔が幼稚園から帰ってくるというのに…。
途方に暮れていたところ、2週間前に近所でばったり会った大学時代のサークルの後輩・桂凍朗が訪ねてきた。「量子さん、問題が起きていますよね? 中に入れてください」と。




量子が夫から暴力を受けたので殺してしまった。というおそろしい内容から始まるが、話は、違う方向に進んでいき、殺人なんて忘れてしまうような展開。


一方、昔、有名だつた音楽家のマネージャーの話が交互に語られる。


それが最後につながるという話。


ジャバウォックとは、いつたい、何なのか?


暴力を振るうなどするのは、悪い何かが取り憑いている。その何かが悪さをしていると考えるは、楽なのかも。


量子は、母に息子のお迎えを頼んだ。その息子に早く会いたいのに、家になかなか帰してもらえない。さぞ、つらいだろうと思って読んでいたが…

予想外の展開だった。


音楽は、こんなふうに関係してくるのか……


お気に入り度⭐⭐⭐⭐

イン-ザ-メガチャーチ

朝井リョウ 日本経済新聞社 2025年9月


 

 

沈みゆく列島で、“界隈”は沸騰する――。
あるアイドルグループの運営に参画することになった、家族と離れて暮らす男。内向的で繊細な気質ゆえ積み重なる心労を癒やしたい大学生。仲間と楽しく舞台俳優を応援していたが、とある報道で状況が一変する女。ファンダム経済を仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側――世代も立場も異なる3つの視点から、人の心を動かす“物語”の功罪を炙り出す。
「神がいないこの国で人を操るには、“物語”を使うのが一番いいんですよ」






留学をめざす大学生の澄香は、物事の捉え方が重いとゼミ仲間から思われていて、仲間とうまくいってない。

音楽に関わる仕事をしている久保田は、ひとり暮らしだが、別れた妻との娘-澄香とは、定期的に電話している。しかし、話が盛り上がらない。

倫太郎を推していた絢子だが、彼が
亡くなり、生きる意味を失う。

この3人が視野を狭めていく様子が描かれている。

押しにのめり込む様子は、宗教のようで、おそろしい。
押しのためと、どれだけのCDを買ったのだろう?
そのように仕向けているのは、音楽業界の人たち。
全部仕組まれているというのが、もっとおそろしい。

押しの話から、警察やメディアを始めとする黒幕は、巧みに真実を覆い隠し、日本人を洗脳しているという、飛躍的な考え方、政治、国力という大きな問題にまで発展している。
そんなことはないだろうが、意図的に仕組まれた情報もあるのかも。今あふれている情報の中で何が真実なのか、見極めることは重要なことかも。


私は、久保田が若い出演者と友だちに なり、変わろうとしているところに共感できた。
結果はうまくいかなかったようだが。
それでも、行動に出たからこそ、わかったことがある から、意味があると思う。

最初の方で、〈今後還ってくるのは、やってきたことよりも、やってこなかったことのほうかもしれない〉というのが意味深。




ラストは、この3人が、仲間たちと共に集結。その時の様子が目に浮かぶ。
うまい構成だ。




お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐





放課後ミステリクラブ②

雪のミステリーサークル事件

知念実希人 ライツ社 2023年10月



 

 

ある雪の日。純白の校庭にとつぜんあらわれた巨大なミステリーサークル。 
だれが、なんのために、そしてどのようにして作ったのか。 
4年1組、辻堂天馬・柚木陸・神山美鈴、通称「ミステリトリオ」が先生の依頼で動き出す! 
「ぼくは読者に挑戦する」 
名探偵・辻堂天馬の挑戦に、キミはこたえられるかーー? 
 


放課後ミステリークラブ① 

が面白かったので②も読んでみた。


今回は、校庭に現れたミステリーサークルの謎に、前回活躍したミステリトリオが挑む。


真相を明らかにするための手がかりはすべてしめし、その上で、読者に挑戦している。


少年少女向けだけど、本格ミステリだ。


理科の勉強が謎解きに役立ってる!?


悪意でなく、善意が感じられるのもいいかも。


お気に入り度⭐⭐⭐⭐





私のせいではありません

水生大海 新潮社 2026年2月



 

 

美大の同級生だった陽向、瑠璃、未緒、乙羽。
四人展を開催するくらい仲が良かったが、卒業後に現れた男の存在が関係を歪ませる。
久しぶりの再会の場となった瑠璃の結婚式で明かされた、六年前に大学で起きた事件の真相とその罪とは。
ギャラリーストーカー、セクハラ、アカハラなど、美術業界の闇とタブーを炙り出す衝撃作。




四人展を開催するくらい仲が良かった陽向、瑠璃、未緒、乙羽。

なのに、瑠璃の結婚式に陽向だけ、なぜ、呼ばれなかったのか。

そんな謎から始まる。


六年前の大学時代におきた赤い扉の謎、そのまま放置?と思ったら、最後の章で解決されていた。


父親を信じきっている叶恵の行動は、思い込みが激しくおそろしかった。



絵画の作者の女性目当てで絵画を購入する男がいたり、友だちの画風をまねする人がいたり、セクハラ行為があったりと、いやな出来事が次から次へとおきる。


それがどうつながっていくのか、面白く読んだ。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐


退職クロスロード

安藤祐介 実業之日本社 2026年2月



 

 

年度末の3月31日、総合メーカー・万屋カンザキ本社ビル。清掃員の守田守は、早朝から退職や異動でごった返す社内を掃き清める作業に追われていた。就職氷河期の挫折を経て、派遣先で粛々と仕事に臨んできた守田は、この日で定年を迎え、会社を去る窓際部長の佐和山義男から突然朝食に誘われる。守田は5年前、図らずも佐和山の自死を阻止した「命の恩人」だったというのだ。バブル期入社の剛腕営業マンで、親分肌と慕われた彼に5年前、何が起きたのか。立場も世代も異なる二人の人生に、佐和山の同期や部下の願いと、因縁のライバル達の思惑が交錯する中で解き明かされる、封印された驚愕の真実とは――





万屋カンザキの定年を迎える佐和山。

今は、パトロール隊長であるが、以前は剛腕営業マンだつた。

以前どんな出来事があったのか?



清掃員の守田 。万屋カンザキの社員の国橋、田代、柳らの視点で描かれる。


バブル期のお金の使い方ってあ然。こんなことか、まかり通ったんだ。

悪いやつが成敗されてよかったね。


働く中でも、人の縁って大切なんだと思う。


まじめに仕事する。それが報われる職場であってほしい。


佐和山の新しい仕事、応援したい。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐

俺たちの箱根駅伝

池井戸潤 文藝春秋 2024年4月



 

 


 

 

古豪・明誠学院大学陸上競技部。
箱根駅伝で連覇したこともある名門の名も、今は昔。
本選出場を2年連続で逃したチーム、そして卒業を控えた主将・青葉隼斗にとって、10月の予選会が箱根へのラストチャンスだ。故障を克服し、渾身の走りを見せる隼斗に襲い掛かるのは、「箱根の魔物」……。
隼斗は、明誠学院大学は、箱根路を走ることが出来るのか?

一方、「箱根駅伝」中継を担う大日テレビ・スポーツ局。
プロデューサーの徳重は、編成局長の黒石から降ってきた難題に頭を抱えていた。
「不可能」と言われた箱根中継を成功させた伝説の男から、現代にまで伝わるテレビマンたちの苦悩と奮闘を描く。





この作品が出版されたときは、人気でなかなか読めなくて、最近ドラマ化されると知り、それまでに読んでおこうと手にした。

箱根駅伝は毎年、正月の恒例行事としてテレビ観戦しているので、期待が高まる。


選手達の熱い想い、葛藤。
箱根駅伝を走るというのは、選手にとって特別なことなのだ。
走ることができなかった人の想いも背負って走るということ。

その選手をまとめる監督の存在。
監督の言葉がけひとつで選手の気持ちがこんなにも変わるのか。それが走りに影響する。
選手の性格、能力等、わかっているからこそ、監督の言葉が選手に響くのだろう。

レースは、実際のレースを見ているようで、臨場感があった。


学生連合に焦点を当てているのが目新しい。



選手、監督の話にとどまらず、それを放送するテレビ局の話も興味深い。


辛島の実況、とてもよかった。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐

モナリザの裏側

一色さゆり 新潮社 2026年5月



 

 

大好きな母親とルーヴル美術館を訪れた女性。パリ留学中に出会ったという父と母の、ある絵にまつわる秘密を知ることに。バブル期の好景気のなか、NYに出張し、ゴッホ「医師ガシェの肖像」のオークションに携わることになったシングルマザー。ムンクの「叫び」の実物を観るために、オスロへと旅立った、会社を辞めた男。名画に導かれ、自らの人生に向き合う人々をあざやかに描く、心温まる5篇の物語。



ムンク「叫び」
会議でうまく話せなくなり、会社に行けなくなり、家に閉じこもってしまった沙弥夫が、実物を見るためオスロへ旅立つ。


マルク「青い馬の塔」

戦時下のドイツにおいて、ナチスによる絵画への迫害に関わる話。


日本人領事館職員は、処分される美術品を守れるか?



ゴッホ「医師ガシェの肖像」

オークションに携ることになった真美。離婚してひとりで育てている中学生の息子とは、うまくいってない。

油谷がどうしても落札 したいわけとは?



マネ「スミレの花束をつけたベルト・モリゾ」

画家をめざす白舟ぼたんと黒川薫子だが、女性が画家をめざすことは、厳しかった。

育ちの違うふたりだが、次第に打ち解ける。



ティツィアーノ「田園の奏楽」

ルーブル美術館を訪れた母と 娘。

母からある秘密を聞く。


ルーブル美術館を貸し切るなんてことできるのかなあなんて思って読んでいたけど、なるほど、そういうことだったのね。




それぞれの絵画を検索して、鑑賞しながら読み進めた。

名画が、人々の人生に関わってきて、自分を見つめ直す。そんなお話だった。

美術品は、本物、偽物関係なく、見た人が、どれだけ心を動かされたかによるのだと感じた。



お気に入り度⭐⭐⭐⭐



DANGER

村山由佳 新潮社 2026年2月



 

 

世界的振付家・久我一臣にインタビューをすることになった、編集者の水野果耶と記者の長瀬一平。久我の半生を辿りつつ、戦前戦後の日本バレエを紹介するつもりだったが、彼が語る壮絶な戦争体験は、二人が思ってもみなかった縁を掘り起こしてゆく。芸術と戦争を通し、過酷な運命に希望を見出す人々に迫った、入魂の輪舞曲(ロンド)。




編集者の水野果耶と記者の長瀬一平は、振付師久我一臣にバレエの取材に行く。どのようにしてバレエを始めたのかや、どの先生についたかの話だったのが、いつしか戦争体験の話となっていく。


久我一臣が語る戦争体験は、あまりに過酷で読むのがつらい。志願して看護婦となった女性達の話も残酷極まりない。

気分がどーんと落ち込んでしまった。それでも先を読まずにはいられなかった。

その途中に、取材している果耶と一平の話がはさまれていて、一息つけた。

思ったことを口にしてしまい、チャラい感じの一平だが、時々みせる鋭い感覚、そして、果耶に対する思いやりが感じられた。


戦時下を生き延びた人の再会には 胸が熱くなる。

久我のバレエの新しい挑戦、果耶の再出発を応援したい。

お気に入り度⭐⭐⭐⭐⭐