やはり、放送大学面接授業講座、最終日の冒頭イラストはアインシュタインですかね。
ついに、霧箱を使った定量実験を始めます。
霧箱全体に強力な磁場をかけ、ベータ線の軌道を曲げて、その円運動の半径から、ベータ線の正体である電子の速度を求めようという実験です。
まあ、画面を見ての通りですが、ベータ線の正体は高速の負電荷の電子ですから、ローレンツ力を受けて進行方向が変化します。
ローレンツ力は電子の進行方向に常に垂直になります。
ここで、物理の力学の常識をもってきましょう。
物体が、進行方向に対し常に垂直な方向に同じ大きさの力を受けると、物体は等速円運動をします。これは、古典物理学の常識でもありますね。
ローレンツ力=遠心力
のつりあいによって、運動を論じることができるようになります。
それを使って、電子の速度がわかります。
実際の実験では、大きなドーナツ形の磁石で霧箱の上下を挟み、霧箱の鉛直方向に磁場をかけます。
磁束計で測ると、霧箱中の磁場は300T(テスラ)ほどです。
霧箱の中には短い定規を入れておき、磁場で曲がるベータ線の軌跡をiPadで撮影。その画面中のベータ線の曲線(円弧になります)と、定規の目盛りをトレーシングペーパーで写しとります。
この曲線は円の一部になります。
円といっても、理論通りの完璧な円というわけにはいきませんが、データを探せば、円に近い形のものが見つかります。
また、ベータ線の速度が速ければ曲率半径の大きな円になり、おそければ小さな円になります。
円弧から中学校で習った数学の方法で、円の中心を求め、円の半径を図ります。(わりと、この方法を忘れている方が多かったですね。もちろん、物理とは関係のない部分ですので、中学校で習った垂直二等分線をコンパスで描く方法を思い出してもらいました)
トレーシングペーパー上での半径はそのままでは使えませんので、写し取った定規の目盛りから換算して、実際の円半径を求めます。
円の半径が測定できると、ローレンツ力と遠心力の釣り合いで、電子の速度を求めることができます。その計算が以下です。
さて、どのグループを四苦八苦しながら、円の半径を測定し、上の式を用いて電子の速度を算出することができました。
それを各班から発表していただきました。
各班とも、首をひねりながらの発表でした。
なぜ困っていたかは、その結果を見るとわかります。
われわれが事前に測定したデータを、同様に解析した結果を記しておきます。
秒速約80万キロメートル。
・・・
物理学の常識を持っている人なら、だれでも首を傾げるレベルの結果です。
「これがどうしたの?」と思われる方は、現代物理学の常識的知識がおわかりになっていない、ということでしょう。
幸い、どのグループの受講生の方々も、そのおかしさに気がついていました。
光の速度は秒速30万キロメートルで、それは、「光速測定実験」で調べた通りです。
そして、現代物理学では、この速度、光速を超えるものはないと、知られているのです。
秒速30万キロメートルというのは、その常識から考えると、いかにもおかしい。
そこで、受講生のみなさんには、その原因を考えていただきました。
測定はどの班でも問題なく行われました。
測定値の分析も、計算間違いなく行われました。
では、なぜ物理学の常識と異なる結果になったのでしょうか。
これが、この「実験で楽しむ物理学」講座、最後の探究活動です。
答はそう簡単にでません。
この講座の最初にお話したように、自然科学は未知を探求する学問であり、間違えるのが当然なのです。答がそんなに簡単に出るのだったら、今までの数千年、自然科学者たちが苦労するはずはありませんね。
実験方法も正しい、測定値も正しい・・・なのに、結果はおかしい・・・
こういう場合、実験のもとにしている「理論」を疑うことになります。
その原因は・・・
もうしわけありませんが、まだ来年も同じ講座を行う予定ですので、この答は今回の受講生のみなさんの特典ということにさせていただきます。
今回の受講生のみなさんからの要望にお答えして、今回は、1日め2日めに用いたキーノートの画面の大部分を公開させていただきました。
では、このへんで。
また、次回、新しい受講生の方をお待ちしています。
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