さりと量子の国06 第1章 量子の国へ6〜小6からの量子力学 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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「フーム」

 ヤングさんは、手であごをなでながら、さりの顔を見つめていました。

「きみのような子どもにもわかるように説明するのは、どうしたらいいかな。うん、やはり、絵を描くのがいいだろう」

 ヤングさんは地面を指でなぞりましたが、ミオくんのようにうまく描けません。

「ミオくん、私のかわりに、さっきのように地面に絵を描いてくれるかな」

 そういって、ヤングさんはミオくんに耳打ちしました。ミオくんはうなずいて、地面の上で指をすべらせました。ミオくんの指は地面に触れていないのに、くっきりとした線が描けるのです。

 最初にミオくんが描いたのは、まったく同じ波が重なった絵でした。

「同じ波が二つ?」

 さりが図を見てたずねると、ヤングさんは「そうだ」とうなずきました。

「同じゆれ方の波が二つあると、その波は足し合わさって、より強く、2倍の振れ幅(ふれはば)でゆれる波になる」

 ヤングさんはミオくんに目で合図しました。ミオくんはその図の上で指をすべらせて、新しい絵を描き加えました。2つの波の2倍の振れ幅の波です。

 

 

「こんな具合に、波はいつでも足し合わせることができる。これを、重ね合わせというんだ。言葉が少しちがうが、足し合わせも重ね合わせも、同じ意味だよ。同じゆれ方をする二つの波が重ね合わさったときは、より強くゆれる波になるので、波は強めあう、という。音の波なら、より大きく聞こえ、光の波なら、より明るく見える」

 重ね合わせって、こういうことだったのね。

 さりは納得(なっとく)しかけたのですが、ふと疑問(ぎもん)に思いました。重なれば、いつでもより強くゆれる波になるんだろうか、と。

「二つの波が同じゆれ方をしていないときは、どうなるんですか? たとえば、二つの波が反対のゆれ方をしていたら」

「子どもとはいえ、きみはなかなか頭が回るようだ。たしかに、見所がある」

 ヤングさんはまた「見所がある」といってくれました。悪い気はしません。

 ミオくんは、今度は、二つの波の山と谷とが逆に重なり合う絵を描き、さらに、真ん中に直線を一本引きました。

 

 

 ヤングさんは一つの波の山ともう一つの波の谷が重なっているところを指さしました。

「ほら、こちらの波は山を作り、もうひとつは谷を作っている。この二つを足し合わせると、山と谷が打ち消し合って、消えてしまう。つまり、まったくゆれなくなる。音だったら、聞こえなくなるし、光だったら、暗くなる。こういうとき、二つの波は弱めあうという」

 重ね合わさった結果、波は一直線になり、波がなくなってしまっています。

 不思議な気がしました。

 そんなことが、本当にあるんでしょうか。

「二つの波が重ね合わさり方により、波が強めあったり弱めあったりすることを、干渉(かんしょう)というんだ。干渉が起きるのは、重ね合わせが起きている証拠(しょうこ)で、重ね合わせができるのは、波だけだ。だから、干渉を起こすものがあったら、それは波だということができる。音も光も干渉を起こすから、まちがいなく波だといえるんだよ」

 さりはミオくんが「シャボン玉の色は光の干渉で見える色だ」といったことを思い出しました。

 シャボン玉でも、二つの光が重なり合って、強めあったり弱めあったりしているのでしょうか。

 

 さりはおそるおそる、ヤングさんに問いかけました。

「あのう、これがシャボン玉で起きているなら、光の波が二つあるってことですよね? 二つの光って、どこから来るんですか?」

 さりの言葉を聞いて、ヤングさんが感心したように「ほう」といいました。

「シャボン玉を見ているとき、シャボン玉からやってくる光は、どんな光だね」

「ええと、シャボン玉で反射した光です」

「その光は、シャボン玉のどこで反射するのかね」

「そんなの、シャボン玉の表面です」

「シャボン玉の膜(まく)の表面、ということかね」

 さりはこくんと、うなずきました。

「シャボン玉の膜の表面は、いくつあるかな」

 ヤングさんの問いかけに、さりは言葉がでなくなりました。

 シャボン玉の表面なら、一つに決まってるじゃない……

「ミオくん、シャボン玉の絵を描いて」

 ヤングさんにいわれて、ミオくんは地面に指先を向けて、ぐるっと回し、円を描きました。

「あっ、ミオくん! まだ描くの?」

 さりは声を上げました。ミオくんの指先は止まらず、さらにもう一回、ぐるっと回りました。最初の円の中に、少し小さい円が描かれました。

「それは、何なの?」

「大きい円がシャボン玉の外側の表面で、小さいのが内側の表面。膜には、厚みがあるから、表面は二つあるんだよ」

「じゃあ、光はその両方で反射するの?」

「その通り」

 ヤングさんはにやにやしています。

 さりは納得(なっとく)がいきません。

「シャボン玉の内側で反射するって、どういうこと?」

「波の反射はボールのはね返りとはちがう。ボールがはね返るのは壁や床に衝突(しょうとつ)するためだが、波の反射は衝突ではない」

 さりは波の反射は、壁に衝突するために起こるのだと思っていたので、ヤングさんの言葉にびっくりしました。

「それも、粒子(りゅうし)と波とで、決定的に異なるところだ。波は伝わる物質が変わる境目(さかいめ)があるところで反射する」

 ええと、それはシャボン玉の場合は……

「空気とシャボン液の境目は二つある。シャボン玉の外側と、シャボン玉の内側だよ。光はその二つの境目で、それぞれ反射するんだ」

 ミオくんはヤングさんのかわりにそういうと、地面に描いた二重の丸に、矢印を書き加えました。

 その矢印は、二つの道筋(みちすじ)に分かれます。

 一つは、シャボン玉の外側の面で反射します。

 もう一つは、シャボン玉の膜の中に入り、内側の面で反射し、シャボン玉を出て行きます。

「この二つの光が再び出会うとき、シャボン玉の厚みによって、重なり合い方が変わるんだ」

 

 

「ええと、二つの光が進む距離がちがうから……山と谷の重なり方が変わります……ですか?」

 さりは頭の中で考えたことをそのまま声に出してしまいました。

 ヤングさんは両手をぽんと、合わせました。

「よく理解したようだ。内側で反射する光は、シャボン玉の膜を往復する分だけ、よぶんな距離を進んでから、表面で反射する光と重なり合う。そのよぶんな距離が、波いくつ分かで、波の重なり方がちがって、光が強め合ったり弱めあったりする。つまり、二つの光が干渉することになるな」(*6)

 

 それはなんとなく、わかったような気がするけど……

 かんじんなことが、まだ、モヤモヤしてるよ……

 さりは、ミオくんとヤングさんの顔を交互に見て、そのモヤモヤを聞いてみました。

「シャボン玉がいろんな色になるのは、今の話と、どうつながっているの?」

 ミオくんは、再び大きなシャボン玉をふくらませました。きれいに色づいています。

「光は色によって波の長さ、つまり波長(はちょう)がちがうんだ。たとえば、赤い光の波長は、青い光の波長の2倍くらいある。だから、同じ厚みの膜でも、青い光にとっては波1個のずれになり、赤い光にとっては波半分のずれになる。そうすると、青い光は強め合い、赤い光は弱めあうから、その場所は青く見えることになる」

「あっ、そうか!」

 さりはようやくわかった気がしました。

 シャボン玉がいろいろな色に見えるのも、場所によって強めあう光の色がちがうからでしょう。(*7)
 そう考えたら、シャボン玉の色が時間とともに変化するのも、説明できるような気がしてきました。

「シャボン玉の膜って、ひょっとして、時間がたつと、うすくなる?」

 それはちょっとした思いつきでした。

 シャボン玉が最後にはじけて消えてしまうのは、だんだん膜がうすくなっていっているからじゃないかしら。(*8)

 ミオくんはそうだよとうなずきました。

「だから、シャボン玉の色も、だんだん変わっていくんですね!」

 シャボン玉の膜がうすくなるにつれ、干渉で強めあう光も波長の短いものに変わっていきます。だから、シャボン玉の色も、波長の長い赤い光から、波長の短い青い光へ変わっていくのでしょう。

 光の色は波長が長い方から短い方へ、赤、橙(だいだい)、黄、緑、青、藍(あい)、紫と変わります。これは虹の七色の順です。

 せきとうおうりょくせいらんし……

 虹の七色を覚える呪文(じゅもん)のような言葉。

 なんでもノートにメモする友だちから、教えてもらった呪文です。

「だから、シャボン玉の色の変わる順は、赤から橙、黄、緑って、虹の七色の順に変わっていくんですね」

 シャボン玉の色の変化を見ていると、だいたい、さりの思った通りの順に色が変わっていきます。

 じっとシャボン玉を見つめていたさりは、あっと声をあげました。

「青や紫のつぎは、また赤にもどったです! どうして?」

 さらにシャボン玉の色は虹の七色の順に変化し、最後に紫になったあと、透明になって、はじけました。

「なあに、かんたんなことだ。さっきまでは、シャボン玉の膜が厚くて、波2個分のずれだった。その最後は紫の光の波2個分のずれだったが、さらにうすくなって、赤い光の波1個分のずれになったんだよ」

 

 ヤングさんはちょっとだけ笑って、すぐに真顔(まがお)になりました。

「光はこのように、干渉を起こすから、波であるにちがいない。しかし、波ならつたわる物質がかならず存在するはずだ。だが……」

 さりは、ヤングさんの次の言葉を待ちました。

 なんだか、とても重要なことのように思えたからです。

「光を伝える物質が何なのか、当時の私たちにはまったくわからなかった。非常に残念だが……」

 ヤングさんは、そういうと、光の中にすーっと消えていきました。

「行っちゃった……」

 さりは、ヤングさんの残念そうな顔が、忘れられませんでした。

「さあ、もう少し、光の街を進もうか。量子の国まで、もう少しだ」

 ミオくんはそういうと、空中を浮いたまま、前に進んでいきました。

「あっ、待って。はぐれちゃうじゃないですか!」

 光がまぶしすぎて、だんだん目がよく見えなくなってきていました。うっかりすると、ミオくんの姿を見失いそうです。

 さりは、息をはずませて、ミオくんを追いかけました。

 

 

つづく

 

(*6)より正確には、シャボン玉の干渉では、二つの波が進む距離の違いの他、シャボン玉の表面で反射するときに山谷が入れ替わることと、シャボン玉の膜の中で光の波長が短くなることの影響がある。いずれにせよ、二つの反射光が波いくつ分ずれるかで、波の重なり方が変わることが、光の干渉の本質である。

(*7)強めあう光が場所により異なるのは、膜の厚みが場所により違う他、反射光を見る角度によって、二つの反射光のずれかたが変わることによる。

(*8)重力のため、シャボン玉の液はじょじょに下へ流れ、シャボン玉の膜はどんどん薄くなり、最後には弾ける。

 

 

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