さりと量子の国04 第1章 量子の国へ4〜小6からの量子力学 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 虹とはちがうしくみで七色が見える?
 どういうことかしら……
 さりがほおに手を当てて考えこんでいると、ミオくんはシャボン玉の色づいた部分を指さしました。
「この色は、光の干渉(かんしょう)で見える色なんだ」
「かんしょうって、何?」
 さりは首をひねりました。あまり聞かない言葉だったからです。
「干渉というのは、いくつかの波が重なり合った結果、強めあったり弱めあったりする現象のことだよ」
「重なり合うって、どういうこと?」
 ミオくんが一言いうたびに、新しい疑問が一つ増えます。

 ミオくんは時計のリューズをまたカチリと鳴らすと、さりの背後を指さしました。
「干渉のことなら、その人に聞いてみたら?」
 そういわれて振り返ると、おしゃれな紳士服の男の人がいました。利発そうな、自信に満ちあふれた感じの人です。
 さりはミオくんの耳元でささやきました。
「この人、だれです?」
「私を知らないとは、けしからん」
 その人はたぶん、英語か何かの外国語で話したはずです。でも、不思議なことに、さりにはその人の言葉がきれいな日本語に聞こえました。
 ミオくんの時計の力のおかげです。
 ミオくんの時計は、お互いの言葉を勝手に翻訳(ほんやく)して、相手の耳だか脳だかに届けてくれるのです。
 

「この人は19世紀のイギリスの科学者、トマス・ヤングさん。光の干渉実験で、光が波であることをたしかめ、ニュートン以来の、光は波か粒子(りゅうし)かという論争(ろんそう)に決着をつけた人だよ」(*3)
「うおっほん、ロゼッタストーンの解読のことも忘れないように」
 ヤングさんは、わざとらしく、せきばらいをしました。
「そうそう、それもあったね。さりちゃんは、ロゼッタストーンって、知ってる?」
「なんですか、それ?」
「あまりものを知らない子だな。18世紀末にナポレオンがエジプト遠征をしたときに発見した、文字の刻まれた石碑(せきひ)だ。エジプトの神聖(しんせい)文字ヒエログリフ、民衆(みんしゅう)文字デモティク、ギリシャ文字の三種の文字で、同じ内容が書かれている」
 ヤングさんはあきれたような口調で、そういいました。
「ヒエログリフもデモティクも、まだ解読されていなかい謎の文字だった。誰も解読できないなら、私が解読してやろうと思ってね」
「わあ、おもしろそう!」
 さりが思わずそう叫ぶと、ヤングさんはほほえみました。
「ロゼッタストーンはフランスとの戦いの結果、わが国が保管することになったので、じっくりと研究することができた。その結果、デモティクがヒエログリフを崩したものだとわかったのだ」
「すごいです! それで、ヒエログリフは、解読できたんですか?」
「あー……うん、それは……」
「ヒエログリフの解読に成功したのは、フランスのシャンポリオンだよ」
 ミオくんはさりの耳元でこっそりささやきました。
「私の本業は科学者だ。科学の研究が忙しくなったからな」
「それもあるけど、たぶん飽きちゃったんだと思うよ。何にでも興味を持つ人って、飽きっぽいところがあるからね」
「げほげほっ……えへん、今日は、のどの調子がおかしいな。さて、本題に入るか。光の干渉の話だったかな」
 さりはさっきまでのミオくんとの話を思い出しました。ヒエログリフの話がおもしろかったので、夢中になって忘れていました。
 わたしも、何にでも興味を持つから、飽きっぽいのかな……

「そうですそうです、光です! 光のことがもっと知りたいです!」
 ヤングさんはさりの顔をのぞきこみました。何から話そうか、思案している様子です。
「ニュートンが光は粒子だといったのは、知っているかね。17世紀の話だが」
「えっ、粒子って粒(つぶ)ですか?」
 さりは聞き返しました。
 ニュートンの名前はさりだって知っています。万有引力を発見した、偉大な科学者です。光のことも研究していたのでしょうか。
「ニュートンさんは、光をプリズムで七色に分けたり、『光学』という本を書いたり、光の研究も熱心にやったんだよ」
 ミオくんがそういうと、ヤングさんも深くうなずきました。
「その通り。その頃、オランダのホイヘンスは、光は波だと主張した。その論争は百年続いた。当時の科学者の間では、偉大なニュートンがいうことだからと、光を粒子だと考える者が多かったようだ」
「えーっ、それはおかしいです。えらい人だからいつも正しいとは限らないんじゃないですか?」
 ヤングは大きくうなずきました。
「よろしい。きみはなかなか見所があるな」
「えへへ」
「有名な科学者のいうことだからなどという理由で判断するのは、科学的な態度とはいえん。実験によってこそ、判断すべきだ。そうすれば、光の正体はおのずと明らかになる」
「わたしも、そう思いますです! ……あ、でも……」
「でも?……なにかな?」
「ニュートンさんもホイヘンスさんも、他の人たちも、実験したんでしょ? それなのに、どうして光が波か粒子か、百年もの間わからなかったんですか?」
「光は他の波に比べ、波長つまり、波の長さが非常に短かかった。また、光はさまざまな揺れ方をする波が混ざっているので、干渉実験が非常にやりにくかったのだ。水の波の干渉実験と同様な実験を光で行うには、私がやったような工夫が必要だったが、それまでの科学者はそれを思いつかなかったのだろう。ふふん」
 ヤングさんは、自慢げに鼻を鳴らしました。
「だが、ニュートンはすぐれた科学者だ。光は他の波と同様、屈折する。ニュートンも当然、光が屈折することを知っていたが、ホイヘンスのように波だとは考えなかったのだ。ニュートンが光を波でなく粒子だと考えたのには、十分な理由があった」
 ヤングさんは腕を組み、空を仰ぎました。
「それは、まだ解決されていない謎でもある」
 さりは謎と聞いて、胸が高鳴りました。
 それはいったい、何なのかしら。
 

 

(*3)トマス・ヤング:19世紀イギリスの科学者・考古学者。イギリスがフランスとの戦争で勝利したとき、イギリスに持ち帰ったロゼッタストーンの神聖文字の解読を行った。最終的に神聖文字の解読に成功したのはシャンポリオンだが、ヤングの功績も大きい。色の3原色を発見している。また、2点波源の光の干渉実験を成功させ、光が波であることを証明した。なお、光の3原色を発見したのは、マクスウェル。
 

 

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