オームの法則のモデル実験 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 上のイラストは、電気抵抗に関するオームの法則のミクロな力学モデルです。

 

 どの教科書にも、概念図として似たような絵が描かれていますね。

 

 金属中を電子が移動するのが電流なので、それをビー玉の動きで表現します。

 

 これを実際に作って遊ぶと、意外にオモシロイ。でも、理論を知っていた方がさらにオモシロイ。

 

 高校生向けの装置なのですが、「電池の1.5ボルトというのは、電気の世界の高さのことで、電池につなぐとこんなふうに坂道ができるんだよ」程度の説明をすれば、小学生でもだいたいのイメージは把握してくれます。

 

 具体的な実験装置の写真は、最後のほうに載せておきますので、ご覧ください。

 

 なお、よく知られているように、電子の移動の向きと電流の移動の向きは逆です。これはベンジャミン・フランクリンが、最初に電流を電気流体の流れとして考えたとき、電気のプラスマイナスを定義したのが、実際に動く電子とは逆の電気だったことによります。

 

 

 はい、ベンジャミン・フランクリンさんはこちらですね。凧揚げをしてカミナリの電気をつかまえたという逸話が有名ですが、アメリカ最初の図書館をペンシルバニアに作った人でもあり、アメリカ独立運動の中心人物の一人でもあります。

 

 われらが博覧強記のアシモフ先生によれば、アメリカ独立宣言の起草をするとき、フランクリンさんを草案作成者に入れなかったのは、「多才な人フランクリンは、アメリカ独立宣言の文章を手伝わせてもらえなかった。ジョークをもぐり込ませるのではないかと警戒されて」(アシモフの雑学コレクション)だそうです。なかなかユニークな方だったようです。

 

 さてさて、オームの法則に戻ります。

 

 中学校では電圧を水を押し出すポンプによる圧力に例えて教えます。これは電圧の正しい姿ではありませんが、ファラデーとマクスウェルが電場の理論を生み出すまでは、このように考えるしかなかったのでしょう。

 

 オームの法則は実験的なルールで、金属に流れる電流は、金属両端の電圧に比例するというものです。

 

 

 こちらが、オームさん。オームの法則で一躍時の人となったのですが、その後はいろいろあって、不遇だったとか。

 

 オームさんのことも、われらがアシモフ先生がちょっとだけ書いています。いわく、「高校で習うのに、電流についてのオームの法則がある。1827年にドイツの高校の先生のオームの発見である。その業績で大学教授になりたがったが、却下されたどころか、高校の職もやめさせられた。階級が重視された社会だったのだ」(アシモフの雑学コレクション)そうです。

 

 ファラデー以降は、電圧ではなく電位や電位差という考え方で説明されるようになりました。電位差と電圧は、まったく同じものを別の言葉で呼んだ言葉です。

 

 電池が作り出すのは電気的な世界の高低差、つまり電位差であり、最初のイラストでは、金属抵抗にあたる、釘を打った板の両端の間に高低差が作られています。つまり、電池の役割は、板の片方をぐいっと持ち上げるジャッキのような働きになります。

 

 このジャッキの働きで板は傾き、斜面ができますから、ビー玉を置けば勝手に転がっていきます。これが電流になります。

 

 ビー玉はときどき釘に当たって止まりますが、また斜面を動き出し・・・ということをくり返しながら、斜面を下ります。たくさんのビー玉をこの装置に置けば、全体としては一定の速さで下りていくのが観察できます。そして、斜面の高低差を大きくすれば(つまり、電位差を大きくすれば)ビー玉が装置を下りる速さが増し、1秒間に通り過ぎる電子の数も当然増えます。電流量は1秒間で通り過ぎる電子の数で決まりますから、電位差を増すと電流も増えます。これが、オームの法則の理論的な(かなりざっくりしていますが)背景になります。

 

 これは、実物を作って、たくさんのビー玉をじっさいに落としてみせると、非常にわかりやすい実験となります。こちらが、実物の写真。

 

 

 以前は釘で作っていましたが、長く使っていると抜けてくるので、ねじ釘に変えました。

 

 釘が抜けないので、安全面でもすぐれています。

 

 ねじ釘は普通のネジと違って、ネジ山がシャープで間隔が広く、木材にねじ込みやすい形になっています。しかし、少し小さめの径のドリルで板に穴を開けておいてからねじ込んだ方が、作業は簡単になります。

 

 

 こうして、横からのぞくと、ねじ釘の形がよく見えますね。ネジ状の釘です。ホームセンターで売っています。大工さん用のねじ釘なので、大量に買ってもかなり安いのがウレシイ。

 

 さて、このモデルは、オームの法則を理解する上で、じつにさまざまな見方を教えてくれますので、なるべく豊かに使いたいものですね。

 

 まず、金属に抵抗がなければ、電位差がなくても電流は流れ続ける、ということを示しましょう。

 

 このモデル板をひっくり返して、釘のない面を上にして、水平に置きます。

 

 その上で、ビー玉を転がすと・・・すーっと向こうまで、転がっていきます。ぶつかるものがないので、慣性でどこまでも進み続けるのが見せられます。まあ、厳密に言えば、摩擦力や空気抵抗があるので、いずれは止まりますが、この板を横切る距離なら、それらは無視できます。

 

 今度は釘面を上にして、入口からビー玉を投げ入れます。すると、すぐにどこかで釘にぶつかり、止まってしまいます。つまり、電流は抵抗のある金属を流れることができない、ということです。

 

 電池をつなぐことにより、金属の両端に電位の差をつくるのを、板を傾けることで示します。坂道になるので、最初に説明した通り、途中で釘にぶつかっても、ビー玉は坂を下り続けます。

 

 ・・・ということで、非常に明快なモデル実験装置です・・・と、いいたいところですが・・・

 

 これで終わると、電気抵抗のしくみを正確に伝えたことにはならないので、この後、もう少し、段階的なフォローが必要になります。

 

 実際の金属の電気抵抗は温度により変化します。温度が上がると金属原子(陽イオン)の熱運動が激しくなり、電子にとっては、衝突する金属のみかけの大きさが大きくなることになります。専門用語では「衝突の断面積」が大きくなるんですね。

 

 この装置の釘1本1本が、スイッチを入れるとぶんぶん揺れるようになると、理想的なんですが、それはムリです。でも、この装置で、温度が高くなると電気抵抗が大きくなる様子を、ざっくりと示すことはできます。

 

 ・・・

 

 ・・・

 

 ・・・どうしましょうか?

 

 ぼくは、いつも傾けた装置にビー玉を十数個落とした後、装置を両手で横揺れさせます。熱運動で金属原子が揺れる様子をおおざっぱにまねしてみせます。熱運動は一つ一つの金属原子が不規則に動きますが、そこまでは再現できなくても、金属原子が動くことで衝突の断面積が大きくなり、電子が通りにくくなることは、この装置でも示すことができます。

 

 装置を横揺れさせると、ビー玉の落ち方があきらかにゆっくりになります。

 

 金属抵抗が熱運動で大きくなることが直観的に示せるのは、大きいですね。

 

 余裕があれば、すこしレベルの高い生徒には、本当は、電子と金属イオンの衝突が抵抗の正体ではないことにも触れてもいいでしょう。

 

 量子力学では、電子は波の性質も持っています。物質波と呼ばれます。この性質を利用して作られた装置が電子顕微鏡ですね。

 

 金属結晶のように、金属原子が規則正しく並んでいると、そこに波を当てた場合、散乱されることはなく(これが、衝突ではね返ることに相当します)、波はそのまま原子を素通りしてしまうんですね。光が、透明な水晶などの結晶で散乱されることなく、そのまま通り抜けてしまうのと同じです。

 

 金属原子が熱運動をして、不規則に運動しているからこそ、電子波が散乱されるのですから、「電子は金属原子の熱運動と衝突している」と考えるのがもっとも正確な表現になるでしょう。

 

 似たようなことが、空の青色問題でも起きています。これは他の記事で詳しく書きましたので、そちらを参照されたいのですが、高校の教科書では空気中の分子やチリで青い光が散乱されるため空が青く見える、という説明が書かれています。

 

 しかし、空気の分子の場合は、可視光の光に対し非常に小さい粒ですので、空気が澄み切っているのなら、本来、散乱は起きず、水晶のように透明にならなければなりません。ところが実際にはチリの少ないときも空も青く見えます。これは、空気の分子が熱運動をしていて、空気の密度に疎密のゆらぎがあるからです。このゆらぎの大きさが可視光の波長程度になるため、散乱が起きているわけです。青い光は「空気分子のゆらぎで散乱している」というのが、正しい表現になります。ちなみに、この空気の密度の揺らぎは、夜空を見上げるときの星の瞬きの原因にもなっています。

 

 それでは、このへんで。

 

 フランクリンさん、オームさんも、ごくろうさまでした。

 

 ・・・本当は、こういう内容は対話形式で書いた方がよくわかるので、科探隊とミオくんの対話と冒険で描きたかったのですが、いろいろ事情があって、今、時間に余裕がありません。

 

 この形式で書くと半分以下の時間で書けるので、ご容赦を願います。

 

 

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