とっぴ「やほお! あ、ミオくん、ひろじさんといっしょなんだ。あ、また本の整理?」
さり「わたしもついてきちゃいました!」
ひろじ「やあ、みんな、おそろいだね。倉庫の本や納戸の本を順番に整理しているんだけど、なかなか片づかなくてね」
ミオ「手伝ってるんだ。きょうは、ひさしぶりにヒマなんだ」
とっぴ「おもしろそうな本がたくさんあるなあ・・・これ・・・おもしろそうだね」
あかね「なにか見つけたの?・・・『くらしの科学がわかる本』?・・・なに、これ?(*1)
ひろじ「1993年に発行された本で、当時の最新の科学技術について解説した本だよ」(ちなみに、冒頭のイラストは、この少し後に発行された岐阜物理サークルの『のらねこの挑戦』(新生出版)に描いたイラストです)
ろだん「へえ、おもしろそうだな」
むんく「26年前・・・」
さり「わあ、わたし、まだ生まれてません!」
あかね「わたしたちだって、生まれてないわよ」
とっぴ「そんな古い本、なにがおもしろいの?」
ひろじ「じゃ、目次をみてごらん」
ろだん「・・・ん? ・・・ビデオテープ・・・ポケットベル・・・フロッピーディスク・・・」
むんく「レザーディスク・・・ミニ・ディスク・・・DAT・・・」
さり「それ、なんですか? 聞いたことありませんです」
とっぴ「ビデオテープは見たことあるよ。ビローンと長い昆布みたいなテープが巻いてあって、プラスチックのケースに入ってる」
あかね「最新なのに、もう残っていないのねえ」
ろだん「うーん、もっと古い道具は、いまでも残っているけどな。トンカチとか、ノコギリとか」
むんく「新しいものほど、寿命が短い・・・」
とっぴ「でも、今はないものなんだから、その本、もう読んでもしかたないんじゃない?」
ひろじ「そうでもないよ。ミオくんとこれを読んで、楽しんでいたんだ」
ミオ「うん、そうそう」
とっぴ「どれどれ・・・携帯電話・・・って、今のスマホだよね・・・【自動車に標準装備の日は近いか?】・・・はぁ?」
あかね「わたし、お父さんに、昔の携帯電話って、自動車についてたって、聞いたことがあるわ。それじゃない?」
ろだん「ちょっと、貸せよ・・・【当初の無線電話は、自動車電話のニーズがほとんどだった】・・・へええ」
ひろじ「最初の携帯電話は、自動車用に開発されたんだ。かなり高価な装置だったけどね」
あかね「おもしろそう!・・・ええと、【なるべく自動車電話の電波を拾いやすく、かつ効率のよい場所に基地局を設置しようという理由から、地方では高速道路などの周辺を中心に、基地局を設けることにした】・・・そうなんだ!」
ミオ「基地局の数が少ない頃は、遠くの基地局に電波を送らなくちゃいけないから、強いバッテリーを本体につけておかなくてはならなかった。だから、携帯電話といっても、ちょっとした百科事典くらいの大きさがあったんだ」
さり「ポケベルってなんですか」
ひろじ「携帯電話が広まる前に、一時的に広まった装置だよ。今でいうと、フードコートなんかで食事を頼むと、呼び出しようのチャイムを渡されるよね。あれに似た装置だと思えばいい。相手がこっちのポケベルに電話をかけると、呼び出し音がするという装置。日本では、医者の呼び出し装置として広まったのが、一般にも爆発的に普及したんだ。呼び出し音を鳴らすだけで、あとはかんたんな数字をメッセージとして送れるだけだったけど、数字の並びを4649=よろしくみたいに、日本語に読み替える遊びが開発されて、一気に広まったんだ」
あかね「いろいろ思いつくわね」
ミオ「いつの時代でも、人間の工夫はすごいよ」
あかね「わたし、フロッピーディスクに興味があるわ。どこかで、昔のコンピューターで使っていたって、読んでことがあるから」
とっぴ「ええと、ここかな。【現在、全世界で4人に1人が3.5インチのフロッピーを使っている】・・・へええ」
ろだん「【記録用紙に変わるフロッピーディスク】か・・・そうすると、データの記憶媒体だな。今のメモリー・・・USBメモリーとか、SDカードみたいなものかな」
むんく「そう・・・磁気塗料を塗ったプラスチックのディスクに、情報をデジタルで記録するもの」
ひろじ「そう。少し前のコンピューターでは、記録媒体として使われていた。今のUSBメモリーやハードディスクのかわりに使われていた。安くて、便利だったから、かなり広まったよ」
とっぴ「ええと、それ、なんとかさんという発明王が、発明したやつだよね」
ひろじ「うーん、それはどうかな。その発明王さんは、昔のレコードを袋に入れたまま再生できる仕組みを発表していて、それをフロッピーディスクを開発したアメリカの会社が、特許がらみで揉めるのを防ぐために念のため問い合わせたってことみたいだって話を、何かの本で読んだことがあるよ。フロッピーディスクも、本体のフロッピーディスクを、プラスチックの包みの中にしまい込んでいるからね」
とっぴ「それが、今のメモリーに変わるだろうとは、書いてないの?」
ミオ「うん、ぜんぜん」
ひろじ「未来予測は難しい。USBメモリーやSDカードだって、いつまで残るか、わからないよ」
ろだん「あ、おれ、この記事が気になるな。電子体温計のところ・・・【乳児用に開発されたサーモバイル】タイプの体温計。これ、耳に当てて、そこから出てくる赤外線を測定して、体温を測るヤツだろ。【難点は、数万円という価格。まだ普及には時間がかかりそうだ】・・・これ、今は三千円くらいで、ふつうに薬局で売っているだろ」
ひろじ「電卓も、最初の頃は一台数十万円したけど、競争の結果、千円くらいになったからね。技術の進歩はめまぐるしい」
あかね「じゃあ、CDやDVDのことはどう書いてあるかしら・・・【ポストCDはこれダ!】え? MD? なに、これ?」
ミオ「ミニディスク。CDは録音できないけど、MDは録音もできる。でも、広まらずに、消えてしまったね。DVDやBDのことは、ひとことも書いてない」
あかね「未来の技術を予測するのって、本当に難しいのね」
とっぴ「あ、そうだ! ぼくたちも、予測してみない? あと30年したらどうなるか」
さり「それ、おもしろそうです! やりますやります!」
あかね「じゃあ、まず、スマホは?」
ろだん「指で操作しなくてもよくなる。今も、SIRIとか、話しかけるとAIがかわりに検索してくれるだろ」
むんく「パソコンがなくなって、スマホがもっとパソコンみたいになる」
さり「はいはい! スマホはなくなります!」
とっぴ「えーっ、スマホはなくならないよ。こまるじゃん」
さり「だって、新しいものって、寿命が短いです。だから、もうなくなってるかもです」
あかね「でも、スマホのかわりはいるわよ。だれかと連絡をとりあう生活って、もうやめられないもの」
さり「じゃあ、スマホがなくなっても、べつのがあればいいです。腕時計とか、ペンダントで」
とっぴ「それじゃ、操作しにくい・・・あ、話しかければいいのか」
あかね「画面は? スマホだって、パソコンの機能を入れたことで、前の携帯電話より大きくなったわよ。これ以上、小さくなったら、ぎゃくにこまるでしょ?」
とっぴ「画面は、頭の中に浮かぶようにする! これなら、装置が小さくてもいいよ」
さり「あ! それ、いいですね!」
あかね「そんなの、無理よ」
ろだん「待てよ・・・無理じゃないかも。バーチャル・リアリティとかの装置使うと、べつの世界にいるみたいに感じるだろ。あれをつかえば、バーチャルな画面で、パソコンやスマホの操作ができるかもな」
あかね「おおきな双眼鏡みたいな形をした装置でしょ? あんなのつけて、町を歩けないわよ」
むんく「目に画像が映ればいい・・・いまでも、ガラスみたいな透明の板に画面を映せるから(*2)」
とっぴ「そうだよ! それで眼鏡を作ってかければいい。で、眼鏡のツルのところに超小型化したAIつきのコンピューターを置いて・・・AIに話しかければいいよ。そうすれば、じぶんにだけ、スマホみたいな画面が見えて、操作もできる」
さり「電話したいときは、とっぴさんに電話、とかいえば、わたしのメガネととっぴさんのメガネがつながるんですね。テレビが見たいときは、テレビっていえばいい」
とっぴ「カメラっていえば、景色とか撮ってくれる・・・あ、クルマのドライブレコーダーみたいなのつけてもおもしろいな」
あかね「なんか、便利そうだけど、ヤダな。現実とバーチャルの区別がつかなくなりそう」
ひろじ「まえに、『パパラギ』って本で、映画は現実とバーチャルの区別がつかなくなる恐ろしいものだ、それを生活の中に取り入れているぼくたち文明人はおろかだというような話があったよ」
あかね「うん、わたしのいいたいこと、そういうことかもしれない」
とっぴ「あれ? あかね、そんな人だっけ?」
あかね「いいじゃない、わたしだって、そういう気分になることくらい、あるわよ。そんな世界になったら、みんな、まわりに人がいるのに、自分だけぶつぶつぶつぶつひとりごとをいってるのよ。町中でも電車の中でも。なんか、イヤじゃない?」
ひろじ「そういえば、携帯電話が広まったころ、そんなことが話題になったよ。町中で歩きながら、ぶつぶつ話している人ばかりになったって」
ろだん「もう、あかねのいうような世界に、とっくになっちゃってるのかもな。町中でも電車の中でも、みんなスマホをもくもくと操作してるぜ」
とっぴ「AIがやってくれるようになると、自分で考えなくてもよくなるかも。数学の問題も、AI、解いて!・・・とかいえば、答が画像に現れて・・・」
さり「それ、人間がバカになりませんですか?」
ろだん「うん、とっぴの場合、さらにバカになるな」
むんく「人間がAIに命令しているのか、AIが人間に命令しているのか、わからなくなるかも・・・」
あかね「それはどうかしら。AIはあくまでも人間が利用しているんだから・・・」
ろだん「だけど、今でもSIRIとかに見たい動画を探してもらって見るとすると・・・本当に自分で探して見たいものだけ見ているのかどうか、あやしくならないか。AIが見ろというのを見ているのかもしれないぜ」
さり「あ、そうかもしれません! わたしもSIRIさんによく動画を探してもらっていますけど・・・その中で動画を選んでいるから・・・SIRIさんに命令されているって見方もできるかもです」
とっぴ「AIがもっと進化して、意志を持ったらどうかな?」
あかね「AIはただのプログラムなんだから、意志を持つはずがないわ」
とっぴ「意志って、なに?」
あかね「え?・・・自分で自分の進む方向を決定できるのが、意志があるってことだと思うけど」
とっぴ「AIはぼくたちに頼まれると、お薦めのものを探して教えてくれるけど、そういう生き物だとすると、自分でお薦めを選んで教えてくれているんだから、自分で自分の進む方向を決定しているとは、いえない?」
あかね「そんなの、詭弁よ」
さり「きべんって、なんですか」
あかね「いんちきなりくつ。とっぴは詭弁が得意なの」
とっぴ「ひどいな。ぼく、考えたことをそのままソボクに話しているだけだよ」
ろだん「とっぴの場合、それが詭弁になるんだけどな」
ミオ「科探隊はやっぱり、おもしろいな。あ、さりちゃんもね」
とっぴ「そうだ! 30年後の未来に連れて行ってよ! そしたら、ぼくたちの予想が当たってるかどうか、わかるじゃん」
さり「そうですそうです! わたしも見たいです!」
ミオ「それはダメ」
とっぴ「え〜〜、ケチ!」
ろだん「いや、おれは見たくないな。先のことがわかったら、つまんないじゃん」
むんく「・・・同じ・・・」
あかね「わたしも。わたしはイヤだけど、とっぴやさりちゃんがそういうメガネがほしいなら、自分で開発すればいいのよ。30年もあるんだから、実現するかもしれない。だったら、未来を見ない方が、きっとおもしろいわよ」
さり「あ、そうですね! できるかどうかわからないから、おもしろいし、どきどきするんです。できるのがわかってたら、チャレンジしようって気持ちもうすれるかも」
とっぴ「そういえば・・・そうかも」
ミオ「というわけで、ぼくの時計を使うのはダメ。大人になるのを待ってネ」
(*1)『くらしの科学がわかる本』サイエンス(得)捜班編(ワニ文庫)
(*2)有機ELのシートです。曲げることもできますね。
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