科学架空放談〜AIとアトム今昔物語 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

 

 冒頭のイラストは手塚治虫著『アトム今昔物語』(復刻版)からの模写です。今回、この後出てくるイラストも、すべて同作品からの模写です。

 

 今回はこの本を題材として科学放談を進める都合上、いくつか作品に登場する絵が必要になりました。そのまま画像を載せるのは避けたいので、ぼくの描いたイラストで代用することにしました。

 

 本来はデフォルメして自分の画風にするほうがよいと考えましたが、今回は模写を描く方法をとりました。

 

 アトムは有名なキャラなので、かなりデフォルメしてもそれとわかると思います。でも、『アトム今昔物語』はあまり知られていない作品なので、他のキャラはデフォルメしてしまうと原型が想像しづらくなります。それで、模写を選んだんですね。一応、模写であることがわかるように、線をすこしビビらせてあります。

 

 なお、アトムシリーズのコミックスの別巻として収録されている『アトム今昔物語』は、復刻版(サンケイ新聞連載時のオリジナル版)とは量的にも内容的にも変更がなされています。今回の記事は復刻版を底本にしていますので、ご了承ください。

 

 では、ひさしぶりの熊さんと八つぁんの科学放談。今回はAIにまつわる、ひろじと友人こもりんとの架空対談です。(こもりんのモデルは実在しますが、こもりんが登場するときの対談はすべて架空対談です)

 

   ***   ***   ***

 

こもりん「よう、ひろじ、ひさしぶり」

ひろじ「ひさしぶり、こもりん。昔はこんなふうに、よくうちに突然現れてたよね」

こもりん「ああ、今日はおもしろいものを手に入れたんで、誰かとちょっと話したいと思ってさ。それで誰にしようかなと考えてたら、ひろじの顔がうかんだ。昔はよく、くだらないことを話したよな(手に持った本をかざす)」

ひろじ「あ、それ、手塚治虫の『アトム今昔物語』じゃないか。しかも復刻版だ」

こもりん「ああ、たまたま古本屋で手に入れたんだ。ひろじも、数千冊もマンガ持っているんだから、これもどうせ持っているだろ」

ひろじ「うん、ぼくもまえに、たまたま本屋で手に入れたよ」

こもりん「やっぱりな。ここに来て正解だった。今日はAIのことを話そうと思ってきた」

ひろじ「AIって、人工知能のAI?」

こもりん「そうだ。一口にAIっていっても、今までいろいろと発達の歴史があるんだそうだぜ。それも知ってる・・・か?」

ひろじ「いや、情報工学は専門じゃないから、さらっとしか。そんな専門的なことを話しに来たのなら、うちじゃなくて、べつのところへ行った方がいい」

こもりん「いやいや、そんなつもりじゃない。前みたいに、思ったことをお互いに話し合うだけで楽しいと思ってさ」

 

 

 

 

こもりん「(本をぱらぱらとめくって)これ、覚えてるか」

ひろじ「あ、ノバ・・・じゃない、ネバ2号だ。お茶の水博士の作った、2番目のロボット」

こもりん「1号はできてすぐ爆発したけど、2号は最初にクライクライって言葉を話してから爆発する。クライクライって話しているときって、AIはもうそれなりに働いているんだろ。でなきゃ、そんなふうに話せないよな」

ひろじ「そうだろうな。その言葉で自分の状態を表現しているんだから。スイッチを入れて短時間のうちに、現状認識をして言語化するところまで達しているというのは、かなりすぐれた人工知能だったことになるかな。今のSIRIなんかのAI的なプログラムは、人間から見て人間っぽくはみえるけど、自分自身について思考することはできないだろ。『2001年宇宙の旅』のコンピュータ、HALみたいにさ」

こもりん「あれこそ、AIの進化形だぞ。次の段階へ進化できる人類に対して、嫉妬するんだから」

 

 

 

 

こもりん「(別のページをめくり)ところで、こっちが、軍事用ロボットの、えーと、なんだっけ」

ひろじ「バローだ。ロボット爆弾として使われるため開発されたけど、逃げ出すんだっけ」

こもりん「ロボットを作った博士とのやりとりが、ちょっと哲学的だったな。愛とは、形か心か、みたいな」

ひろじ「そうだっけ・・・」

こもりん「そうだよ。ロボットが博士の夢の中でかわいいぼうやの体に変身して、これならぼくを愛してくれるみたいなことを話し、博士が苦悩するんだ」

ひろじ「よく覚えているな」

こもりん「いや、このところはぐっときたんだ。親が子どもを愛する気持ちは、容姿と関係するか否かって話でもあるだろ」

ひろじ「たしか、バローはアトムに助けられて地下に潜って難を逃れるんだけど、博士が独裁者に撃たれたのを知って、博士を求めて地下からでてきちゃうんだ」

こもりん「そうそう、これって、ロボットの思考としては、どうなんだ?」

ひろじ「アシモフの3原則からは外れていると思う」

こもりん「おっ、出たな。アシモフ。それ、どういうのだっけ?」

 

 

ひろじ「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。・・・の3つだね」

こもりん「これ、AIの思考原理としてはどうなんだ。人間との関係で定義しているのってさ、なんか古くさくないか」

ひろじ「手塚治虫がアトムで書いたロボット法も、似たようなものだよ。第1条 ロボットは人間をしあわせにするために生まれてきたものである。第2条 その目的にかなう限り、すべてのロボットは自由であり、自由で平等の生活を送る権利を持つ。・・・どう?」

こもりん「なんか、アシモフのと似てるな」

ひろじ「手塚治虫はアシモフのロボット3原則とは別に、独自なものとしてロボット法を考えたといっている。手塚は、自分がアトムに書いたロボット法は、アシモフのロボット3原則より早いといっている。歴史的には、どちらも似たような時期に登場しているから、実際のところはよくわからない」

こもりん「でも、どっちも、AIの本質を書いたっつうより、人間とロボットの間の関係を人間側から整理したものに見えるな」

 

 

ひろじ「当然だろ。3原則もロボット法も、人間との関わりで定義しないと、ロボットの創造者が人間だという一番の基礎が崩れてしまうから。現実的ではないけど、AIが自立する日が来たら、AIの行動原理には人間のことはうたわれなくなると思うよ」

こもりん「3原則って、抜け道があるな。たとえば、おれがひろじを殺そうとしたとする。そこにロボットがいあわせたら、どうなるんだ。ろぼっとは人間であるひろじを守らなくてはいけない。でも、守るためには、おれに危害を加えないといけない。どうなるんだ」

ひろじ「身動きがとれなくなるね」

こもりん「おれが人類を抹殺できるとんでもない病原菌を入れたカプセルを持っていて、それをぷちっと割ったら、遠からず人類は滅亡するとする。そのとき、ロボットがいあわせたら、おれを殺してでも人類を守るだろうか」

ひろじ「それも、立ち往生してしまう。アシモフもそれに気づいて、のち、3原則を改定している。新しい3原則だとロボットは個々の人間より人類を守ることを優先するんだ。ロボットは人類を守るため、こもりんを殺してもいいことになる」

 

 

こもりん「こっちのは、アメリカから輸入された作業指示ロボットと作業ロボット。現実のロボット作業員は、こんな感じにはなっていないよな」

ひろじ「ロボットによる作業の自動化を最初にやったのは日本。たしか、愛知県の会社だったと思うよ。生産ラインに並んだロボットは作業に特化した、プログラムを組みこんだロボットアーム。今、一般的に使われている作業ロボットは、アトムに出てくるような人型じゃない。人間のように普通にバランスをとって歩き、細かい作業をするというロボットは、まだ開発途上だよ」

こもりん「そうだな。人型ロボットっていうのは、人間のできることはたいがいできるわけだ。ということは、ものすごくハイスペックなわけだろ。そんな高性能な装置を、荷物運びみたいな単純労働にあててちゃ、採算が取れないわな」

ひろじ「うん。だから、アトムに登場する作業ロボットというのは、現実的ではないと思うよ。作業に特化したロボットを開発した方が、はるかに安く上がるから。実際、今クルマを作っているロボットはアームだけで十分で、足をつけてひょこひょこと工場内を移動する必要がない」

こもりん「こっちの作業指示ロボットはどうだ」

ひろじ「うーん。これは作業を統括するロボットだから、まさにAIに当たるんだけど、そうすると、人間どころか、なんらかのボディを持つ必要はない。SIRIみたいに、コンピュータ内のプログラムとして存在すればいい」

こもりん「そう考えると、ロボットやらAIやらのあるべき姿というのは、人型に拘る必要はないってことだな」

ひろじ「でも、それを使う人間の側から見た場合は、機能だけでははかれない価値を付加しないといけなくなるかも。一時期流行ったロボット犬みたいに、人間とコミュニケーションを取れるAIの方が、好まれるだろうね」

こもりん「そうすると、お掃除ロボットがときどき足下から、今日は湿気が多いからお出かけのときは傘をお忘れなく、なんて声をかけるようになるのかな」

ひろじ「一部では、それに近いことが行われ始めてるんじゃないかな」

 

 

こもりん「こっちの無表情なのがチルチルミチル・・・じゃなかった、チルチルだ。(本を見ながら)なになに、お茶の水博士の63番目のロボット。こっちの髪の毛がないのが、『ベイリーの惨劇』のベイリーだ」

ひろじ「どっちも悲劇だけど、それまで出てきたロボットに比べると、2人とも汎用の人型ロボットとしては高性能だ。もう一息でアトムの時代、だね」

こもりん「チルチルは人間が犯した罪のせいで処刑され、ベイリーは市民権を取ったために暴徒に壊される。じつに手塚的なストーリーだよな」

ひろじ「ベイリーの惨劇は、ローマ時代のヒュパティアの惨殺事件にヒントを得たんじゃないかな」

こもりん「それは、どういうの?」

ひろじ「アレクサンドリアの女性哲学者だったヒュパティアが、キリスト教の暴徒に襲われ、牡蠣の貝殻で肉をそがれて殺害された事件。ヒュパティアは新プラトン主義の優れた哲学者だけど、キリスト教の勢力が増しつつある時代で、アレクサンドリアでは提督とキリスト教徒が対立関係にあった。提督には手が出せないので、提督と仲のよいヒュパティア(提督はヒュパティアの講義を取っていた)が狙われたといわれている。事件の背景には宗教的な問題だけでなく、知的な仕事をする女性への蔑視もあったといわれる」

こもりん「マンガみたいなことが、本当にあったのか。そりゃあ、ひどいな」

ひろじ「チルチルもベイリーも、自由意志を持っていて、確固とした自我がある。AIとしては、ひとつの完成形といえるんじゃないかな。日本のAI研究は手塚治虫のアトムに影響を受けすぎているといわれることもあるそうだけど、ぼくはそれは日本の研究の特質で、アトムを知らない研究者には見えない到達点が見えているんじゃないかと思っている」

こもりん「目標は高いほどいいもんな」

 

 

ひろじ「AIプログラムが変異と増殖をくり返して、生物のように進化・分化していくシステムができれば、AIが高度に進化するのは、ぼくらが想像する以上に簡単かもしれないよ」

こもりん「それは、どういうこと?」

ひろじ「昔、サンタフェの複雑系の研究所で、生物進化をプログラムによって代替して調べるという、とんでもない発想で研究を進めた研究者がいた。今なら、それをAIプログラムでそのまま行うことで、AI自体が変異や掛け合わせによって進化するプロセスが生み出せるかも。それに、プログラム上の進化は細胞レベルの世代交代を必要としないから、生物が何十億年もかかって実現した進化の過程を、とんでもない短時間で実現できるだろう?」

こもりん「そりゃ、すごいな」

ひろじ「SF小説の『ハイペリオン』シリーズでも、今話したのに似たAI進化プロセスが描かれているから、興味があったら、読んでみたら? 1冊1冊がすごく太い本で、全部で4冊もあるから、読みではあるよ」

こもりん「それ、なんかで見たな。なんだっけ」

ひろじ「ライトノベルの『涼宮ハルヒの憂鬱』で、長門ユキがよく読んでいる本だよ。原作ではたしか、本の題名は隠されていたけど、アニメだと『ハイペリオン』の表紙がちゃんと描かれている」

こもりん「へえ、ラノベってやつか。そんなのも読むのか?」

ひろじ「たまたまだったけど、あとで筒井康隆が『涼宮ハルヒ』を読んでラノベに関する認識を改めたって逸話を知ったよ。なるほどと思ったくらい、SFギミックがあふれかえっていて、おもしろかった。ウチでは、ムスメもアニメ『ハルヒ』の大ファンだからね」

こもりん「古〜い『アトム』を持ってきたのに、最後はラノベか。ひろじ、振り幅広くなったな〜」

ひろじ「いや、『ハルヒ』だって、もうずいぶん前の話だからなあ。ムスメはアイパッドでボカロの歌を歌ったり、東方系の2次創作見たりしているから、こどもの最前線にはまだついて行けてないよ。日々、子どもから教わっておりまする」

 

 

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