科学放談〜科学と対話の四方山話 その1 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 再び、ひろじとヒロさんの四方山話であります。

 

 長屋の熊さん八つぁんの放談再び。お暇な方は、お付き合いください。あいかわらず、話がいきあたりばったりに、あちらへこちらへと飛びますが、放談なので、ご容赦を。

 

 先日、ヒロさんがふらりとぼくの職場へ現れました。

 

ヒロ「いやあ、またいろいろ話したいと思ってね。相談したいこともあるし、議論したいこともあるし。ところで、ミオくんのブログ、あれは、毎回、すごく面白いよ。この間のもよかった」

ひろじ「あの『物理の勉強方法がわかりません』は、予想以上の反響があって驚きました。生徒と話していてふと思ったことを書いただけなんだけど。ブログといってもも、1ヶ月更新しないこともあれば、『ガリレオ島の秘宝』のときみたいに、一日で何十もの記事をいっぺんに更新することもあるんで、適当なブログですけどね。ところで、おりいって相談って、何です」

ヒロ「いろいろあるんだ。まず、これ(A4紙両面にびっしり字のかかれたものを見せる)」

ひろじ「はぁ(それにひととおり目を通して)・・・『提言』・・・お、なんか、すごいですね。『先進科学塾(*1)についての提言』、ですか」

ヒロ「うん、今度、先進科学塾のメンバーで今後のことを話し合うので、そのために作ったんだ。見てくれない?」

ひろじ「いいですよ・・・って、思いつくまま書いてありますね、これは」

ヒロ「まだまとまってなくてね。だから、相談に来たんだ」

ひろじ「と、いうと?」

ヒロ「リピーターとして来てくれる熱心な人もいるんだけど、もっと、広げたいと思ってね。特に、中学生や高校生に」

ひろじ「そうですねえ、参加者は小学生から一般の人まで、じつに多種多様だから、進め方も難しいですよね」

ヒロ「そうなんだ」

ひろじ「うーん、ぼくは、講師をやったことがないから、外野席の発言しかできませんけど・・・」

ヒロ「それでいいんだ。思った通りいってほしい」

ひろじ「じゃあ、率直な感想ですけど、やっぱり、テーマはともかく、扱う具体的な題材が小中学生には難しい気がしますね。まあ、参加者はテーマを見て自主的に参加するんだから、それは承知の上とはいえ、ちょっと、不親切かなとは思います」

ヒロ「難しいかな」

ひろじ「難しいんじゃないかなあ。ぼくなんかが見ていても、ややこしいなあと思う題材が結構ありますよ。じゃあ、小中学生はどう感じるか、ということです」

ヒロ「たしかに、そうかもしれない」

ひろじ「例えば、昔のイギリスの『クリスマス講演』(*2)は、一般大衆向けの専門家の講演ですけど、一般の人にもよく理解できるように、紹介する実験などの題材をすごく考えていますよね。あっちは講演、こちらは研究会ですけど、先進科学塾が今後の参考にするなら、クリスマス講演の精神こそ大切だと思います。実際、ファラデーだって、デービーの一般向けの講演会を聞いて、感激して、科学の道を選んだんじゃないですか。かつてのイギリス科学界のああいう伝統は、大いに参考にすべきだと思いますね」

ヒロ「感動か・・・」

ひろじ「やっぱり、参加者には、科学のすごさや楽しさに感動してもらいたいなあ。もし、ぼくが実際に講師をやるとしたら、参加者の構成をよく見て、題材を考えるでしょうね。自分がやりたいことをやる、というのじゃなくて」

ヒロ「今は、それができていないかな」

ひろじ「いや、ぼくも何度か手伝いにいっているので、参加者が楽しんでいるのは知っています。でも、ぼくが授業でやっているイメージとは違いますね。ぼくは授業はライブだと思っているので、そこで感動してもらうのにどうしたらいいか、毎回考えています。先進科学塾の場合は、参加者の層が多様なので、感動をしてもらうのには、かなり題材を考えないと無理でしょう。だから、安易には講師を引き受けられないです。もちろん、その人の人間性で、そのまま通用しちゃう人もいるでしょうけど」

ヒロ「今度、Dさんに講師をやってもらうんだが」

ひろじ「ああ、Dさんなら、そのままやっても、参加者に感動してもらえると思いますよ。いつものメンバーと違って、彼の発表は相手を選びませんから」

ヒロ「それは、どういうこと?」

ひろじ「ぼくの思うに、彼は、いつものメンバーみたいに、専門的な理屈にこだわらないんです。自分でこういうことやってみたら、楽しかった、と。それを純粋に、他の人にも伝えたい、というスタンスですよ」

ヒロ「うーん、ぼくたちは、原理にこだわるからな。楽しいのが一番とは思うけど、楽しいだけじゃなくて・・・」

ひろじ「わかりますよ。いろいろな科学の実験がTVの番組なんかでいろいろ伝わるようになったので、単に『楽しい』が強調されるようになってきてますけど、科学の本質的な楽しさは、面白い実験を見て楽しい、とは違いますからね。『いきいき物理わくわく実験』のスタンスが誤解されがちですけど、『いきいき物理わくわく実験』の実験は見ても楽しいけど、それ以上に、科学の本質的な楽しさを伝えたいという思いにあふれていますから」

ヒロ「あ、それ! それなんだ」

ひろじ「ぼくも、自分の授業では『いきわく』実験も使いますけど、中心においているのは、科学的思考の本質的な楽しさを伝えることですからね。それが感動を呼ぶんだと思ってます」

ヒロ「まさに、それだ。ぼくは、先進科学塾では、もっと科学というものをたくさんの人、特に子どもたちに広めたいと思っているんだ。ひろじさんが科学塾の講師をするとしたら、どうやる?」

ひろじ「たぶん、じぶんがやりたいことより、来た人に感動してもらえることを優先しますかね。だから、準備に時間が必要だし、安易には引き受けられません。ぼく、昔、いろんな会でたくさんの人の前でデモンストレーションを含めた講演をしたことが何度かありますけど、どのときもかなり時間をかけて準備しました。今考えると、やっぱり、『クリスマス講演』に通じるものがあると思いますけど」

ヒロ「ひろじさんが授業でやっている、発見実験みたいなのは、どう?」

ひろじ「やれば絶対に楽しめるとは思いますけど・・・今はぼくの方に余裕がないので、無理ですね。やっぱり、科学は、伝える側も伝えられる側も、余裕を持って楽しめないと、難しいんじゃないでしょうか」

 

ヒロ「じゃ、次のところ。ぼくは、伝えるテーマも、古典的なものばかりじゃなく、現代物理も含めてやりたいと思っているだけど、うまくできないだろうか」

ひろじ「先日の『光子の裁判』ですか」

ヒロ「そうなんだ。先日、高校の物理の先生と話したんだけど、受験との関係で原子核物理のところを詳しくはやる余裕がないというんだな。それじゃあ、だめじゃないかと思って。生物や化学では高校レベルでも量子力学の成果が容赦なく入ってきている。かんじんの物理がそれを適当にしかやれないというのはどうなんだろう」

ひろじ「センターの受験範囲が変わったから、その分野もじっくりやっていると思っていたんだけど、そうでもない学校が多いんですかね。以前、受験範囲に原子核が入らない期間に、ぼくが物理サークルで受けた衝撃を思い出しますね」

ヒロ「ああ、原子核をきちんと最後まで授業で教えている人、というアンケートをとったら、挙手したのがひろじさんだけだったというアレね」

ひろじ「そうですよ。受験があろうがなかろうが、高校物理でそこまで教えないというのはぼくには信じられませんね。物理サークルに参加している人は当然そういう信念があると思っていたのに、実行していたのがぼくだけだったのは、愕然としました」

ヒロ「ぼくは、大学の授業で、霧箱の実験のお世話をしてきているんだけど、あの時期は高校で原子核を教わっていない学生が圧倒的多数だったので、ずいぶん苦労した。α線やβ線、γ線がなんなのかも知らないんだから」

ひろじ「ひどいありさまですね」

ヒロ「そうそう、この本(*3)。ひろじさんと議論した後手に入れたんだけど、偏光板の光子の裁判で問題になっていた、過去の履歴の変更という問題にも言及があるんだ。先日の『丸と四角』の話(*4)でひろじさんがいったのと同じことを、この著者たちがいっているんだ。波動が見える実験をすると波動が見え、粒子が見える実験をすると粒子が見える、と。本の最後が、ファインマンの言葉というのもふるっている」

ひろじ「まさにそうですね。ファインマンの言葉が本の最後にきちゃダメだと思うんですよ。そこから一歩も進んでいないということですから。ぼくもあの後、ファインマンの素粒子論の講演記録なんかを読んでいるんですけど、やっぱり、『すべての可能性のある経路について計算する』とか、『反粒子が過去へ移動する』みたいな発想とかが、謎を解く重要なカギだと思いますよ」

ヒロ「今度、夏休み中に、高校生や中学生向けに、霧箱の作成をして宇宙線を見る実験をやるんだけど、中学生は希望者が多くて、もう満杯なんだ」

ひろじ「そうなると、ますます量子力学を一般向けに説明する機会が増えますね」

ヒロ「そうなんだ。それもあって、今日ここへ来たんだけど」

ひろじ「ぼくも、最近、化学基礎と化学の教科書を見てみびっくりしました。p軌道は鉄アレイ形とか、化学の習い始めの段階で、平気で出てますからね。たしかに、物理だけが遅れている感じはします。ハンガリーに行ったとき、ジョージ・マルクスさん(*5)が、現代の科学技術はずいぶん進歩しているのに、高校大学で教える物理の内容が旧態然としているのはいかがなものか、という問題提起をしていたのを思い出しますよ。慧眼ですね」

 

(イラストはマルクス氏による)

 

ヒロ「うん。それをどういう形でやるか、なんだな。霧箱以外に、例の偏光板の干渉とかも考えているんだが」

ひろじ「偏光板の実験はレベルが高いですよ。普通の弱い光での干渉結果でじゅうぶんだと思いますね。題材を選ばないと、クリスマス講演のレベルには達しないですよ。講師が一番興味を持っている題材を持ってくるのは講師にとってのモチベーションにはなりますけど、こういう一般相手の講演会や研究会では、主役は参加者なんだから、それを意識しないと。正直な感想を漏らすなら・・・」

ヒロ「うん。いってほしい。そのために来たんだから」

ひろじ「じゃあ、ぼくの勝手な感想でもうしわけないですけど、今までの先進科学塾は、講師のやりたい題材が優先されているように感じています。ともすれば、参加者がボランティアの講師たちの議論の中で置いて行かれることもあるし。特に、小中学生にとっては、理解できずに呆然とするケースも少なからずあったんじゃないでしょうか。本来、ああいう研究会は、参加者がうるさいくらい発言して議論する雰囲気が大切だと思いますよ。それをセッティングするのは、講師の役割だと思いますけど」

ヒロ「気がつかなかったけど、そういう面があったかもしれないな」

ひろじ「ぼくはお手伝いくらいしかしたことがないので、本当は、あれこれいう立場にないと思いますよ。今回は『提言』の内容を深めるために相談したいということだったので、あえていいましたけど」

ヒロ「いや、ここに来ると、まっとうな議論ができるから、いいんだ。今日も来てよかった。遠慮無くいってほしい」

ひろじ「ぼくはやっぱり、科学は対話と議論がないと得られない学問だと思います。授業でもそれを優先していますけど、それが感動も生むんだと思いますよ。科学塾に参加する人が、その日一日、真剣な対話と議論を楽しめる場となったら最高ですよね」

 

 

*1)名古屋大学で行われている一般向けの科学研究会。講師がテーマを決めて参加者が実体験できる実験等を設定し、簡単な講義と、実体験、議論を、安価な参加費(材料費)で楽しむ講座。詳しくは名古屋大学のホームページを参照してください。

*2)ファラデーの『ろうそくの科学』など、有名な講演がめじろおし。いくつかの講演記録は本として出版されている。一般大衆でも理解しやすいように、講演で紹介される実験は興味深いだけでなく、本質が見える、小難しくない単純な実験が中心になっている。

*3)「量子論の果てなき境界:ミクロとマクロの世界にひそむシュレーディンガーの猫」クリストファー・C・ジェリー等著(共立出版)

*4)当ブログ記事「科学放談~光子の裁判その1/その2」

*5)故人。ハンガリー物理学会会長。好奇心旺盛で精力的な人でした。

 

 

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