のらねこ、海を渡る ハンガリー編 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

マンガ・イラスト&科学の世界へようこそ。

 

 初めてアメリカのAAPTに参加してから3年後の1992年8月、「日本ハンガリー物理教育会議」なるものがハンガリーの田舎町ヤスベレーニョで開かれることになりました。これまたどういうわけか、ぼくたち「のらねこ」も参加することになりました。

 

 ハンガリー? 面白そうだな・・・

 

 というのが、ぼくが参加することにした理由。

 

 東欧で一番最初に社会主義を捨てた国で、ソ連からの亡命者の西欧への窓口になった国でもあります。

 

 なんでも、ハンガリーで使っているマジャール語は日本語と同じ言語にあたるらしいぞと聞き、あわててマジャール語の入門書を買ってきました。

 

 なるほど、語順が日本語とそっくり。

 

 当時、日本から直通の飛行機はなかったので、ヨーロッパについてからバスで移動。途中、国境を越えるさまざまなバスに出会いました。人がびっしりのバスは、たぶんドイツの方に出稼ぎにいく人たちや、移住する人たちが乗り込んでいるんじゃないかとか、適当なことを話し合っていたのですが・・・通り沿いのどの家家にも、当時日本でもそんなに普及していなかった衛星放送用のパラボラが並んでいるのを見て、息を吞みました。「社会主義国の崩壊は情報によってなされたんだなあ」と。

 

 会議の開かれたヤスベレーニョは、ほんとうに素朴な町でした。

 

 でも、暑い。

 

 ハンガリーは日本より涼しい国だと聞いていたのに、なんだ、この暑さは!

 

 ・・・なんでも、30年とか40年とかぶりの猛暑だったそうです。

 

 そのクソ暑い最中に、日中のお庭でレセプション。倒れる人、出るよ・・・とひそひそ話。

 

 でも、歓迎の挨拶の人は猛暑の中、背広にネクタイ。きちんとしていました。なんか、英語ですごい堅い挨拶。延々と続きます。

 

 「あれ、どうも、ハンガリーの労働大臣らしいぞ」「えーっ、うそ~!」「おれたち、こんなラフな格好でいいのか」(いまさら、おそい)

 

 いい洋酒やワインがいっぱい並んでました。(というか、それしか覚えていないワタクシ)

 

 偉い人がいっぱいで、なんだか場違いな感じだったのですが、そもそも町についたときに出迎えてくれたにこにこしたおじさんは、後で聞いたら、町の市長さんだったそうです。うわあ・・・

 

 市長さんはもと物理の先生。なんでも、ハンガリーがソ連(いまのロシア)の支配から脱したとき、社会的に科学の教師の地位が上がったのだそうです。社会科の先生など、昨日と今日でいうことが180度変わったのに、理科の先生だけ変わらなかった。だから、信じられると。

 

 これをいったのは、ハンガリーの物理教師なので、どこまで信じて良いかわかりません。でも、戦時中の日本を見ればわかるように、理科の先生だって、影響は受けますよ。ソ連じゃ、生物学がマルクス・レーニン主義の影響でねじ曲げられたし。

 

 さてさて、ヤスベレーニョの話でした。

 

 朝になると、地元の朝市が開かれ、持ち寄ったいろんなものを売っています。

 

 この時期、岐阜の小川さんがNHKの番組の取材を受けていて、そのスタッフがぼくたちの旅行に同行しています。悪い人たちではなかったのですが、そのスタッフの一人のある行動に、ぼくはかちんときました。

 

 朝市の時、スカーフやらのキレイな織物を並べて座っているおばあさんの前に立ち、「おばあさん、そんなふうにただ黙って座っているだけじゃ売れないよ。ほら、こんなふうにやらなきゃ」。その人はおばあさんの広げていた布を両手に持ち上げると、「さあさあ、このキレイなスカーフ、買わなきゃ損だよ!」などと大声でがなりました。おばあさんは突然のことに、布を返して欲しいと両手をあげ、泣き顔。「なにやってるんですか! 返してあげなさいよ!」ぼくは怒って、このスタッフに布を返すようにいいました。

 

 おばあさんに連れの(一応、日本からいっしょに来たので、仲間ということになるのかなあ)非礼を謝りたいのですが、マジャール語はできないし、英語は通じないしで困り、結局、小さなハンカチを購入させてもらいました。

 

 もう、無遠慮というか、無神経というか・・・やれやれ。

 

 ・・・閑話休題。

 

 くだんのNHKの取材は1時間くらいの特集番組のためのものですが、ハンガリーの会議だけでとんでもない量のビデオを撮っていました。ここから1時間番組つくるのかあ・・・とプロのすごさを実感しました。実際、ハンガリーのシーンは、番組の中でほんのちょっとだけでしたから。

 

 ぼくも他の参加メンバー同様、インタビューを受けました。いや、小川さんの番組だから、ぼくらの個人インタビューって、いらないだろ・・・とは思いましたが、みんな、つきあっていました。ぼくは顔出しはしたくなかったので、一計を案じ、ビールを飲んでいるときにインタビューを受けました。

 

 でも、のらねこの発表で、ぼくが英語で描かれたOHP(*1)を見せながら、日本語で発表し、それをエステルさんがハンガリー語に訳すというのをやったんですが、それが番組で流れちゃったんですね。

 

 だから、そのシーン、姿は見えませんが、喋ってるのはぼくの声。見事にやられました。

 

 ところで、

ハンガリーと言えば、トカイワイン。日本では高価ですが、地元だとどの店にも信じられない安いのが売っています。町を歩いてみたら酒屋さん(いや、お酒以外のものも置いてあったな)にトカイワインがあったので、ゲット。さっそくみんなで飲んでみました。美味い!

 

 でも、一方で、ビールは不味いし高い。なんだか、粉っぽかったなあ。ハンガリーの人に聞いたら、ビールは国産のは不味いから飲まず、ドイツのを飲むんだといっていました。納得。

 

 ビールを冷やして飲む習慣はハンガリーにはなく(というより、日本に特化した風習かもしれません)、売店には冷えたビールはなし。ぼくたちより先に宿についた東京の人たちが頼んで冷やしてもらったビールは、当然その人たちが飲んでしまいました。

 

 この国際会議で獅子奮迅の働きをしていたのが、トス・エステルさん(最初のイラスト)。ハイレベルな高校で、かなりハイレベルな内容を高校生に教えている先生です。

 

 のらねこをハンガリー語に訳そうというときに、ぼくの描いた絵を見て、「子猫(コボール・マチカ)」がいいんじゃないかと提案してくれたのも、エステルさんでした。

 

 地元の小学生を集めてデモンストレーションを見せたときは、ブーメランや宙返り猫(これもコボール・マチカといってやりました)を担当しました。会の最後にたくさんの紙猫を紙テープよろしくばらまいて、子どもたちにプレゼント。

 

 失敗談を一つ。

 

 最初にエステルさんと話したとき、お互いに国が違うと年令が判別しにくいとい話題になり、「私は何歳に見えますか」と聞かれました。事前に飯田さんから「東京の人から聞いたんだけど、向こう(ハンガリー側)の取り仕切り役の女史は70歳くらいの人らしいぞ」という話を聞いていたので、ぼくたちは20歳くらい鯖を読んで、「50?」とおそるおそる答えました。とたんに、エステルさんが「ふー」と溜息。

 

 本当は30代。当時のぼくより、ちょっとお姉さん、くらいの歳。ごめんなさい、エステルさん、仕入れた情報が間違ってました。みんな飯田さんが悪いんです。じつはこんな事情で・・・。

 

 と説明しようと思ったのですが、そんな複雑なこと、英語で弁解できないし・・・ばつが悪かったなあ・・・ごめんなさい、エステルさん。

 

 英語という共通語がうまく利用できない環境(日本側もハンガリー側も一部を除いてまともに喋れない)でしたが、なんとかお互いに交流しました。(まあ、前にも別の記事で書きましたが、物理という共通語があるので、なんとかなったわけです)

 

 

 

 こちらが、ハンガリーの物理学会の会長をしていたジョージ・マルクスさん。ぼくらのもっていった二段式水ロケットにまたがるマンガを描いたら、おもしろがって、ハンガリーの学会誌に使ってくれてました。

 

 ぼくにとって、このハンガリーの会は、非常に大きなものでした。

 

 マルクスさんの基調講演。ヒヤリング能力の低いぼくでも、マルクスさんがOHPに広げたイラストはわかりました。

 

 

 試験のために教育するのか?

 

 まさに、世界共通のテーマです。

 

 さらに、マルクスさんの提言は、ずしんと来ました。

 

 

 未知の未来のために教育するんだ!

 

 マルクスさんのイラストの通り、ぼくたちの周りには、最新の科学技術があふれ、さらにスターウォーズ構想や、UFO、ESPなど、科学の外にある話題も関心を集めている。これらの情報のあふれる現代で、本当に教えるべき科学教育とはなんなのか。

 

 まさに、ぼくが「質問リレー」や「未知への挑戦」などを通じて訴えてきたことと同じ!

 

 それを遠い異国の地で、こんな風に目の当たりにできるとは思いもよらなかったことでした。自信になったなあ。

 

 マルクスさんは癌のため、この会議から数年後に亡くなりましたが、この出会いは忘れられません。日本にも、エステルさんたちと来てくれて、わざわざサークルの例会にも顔を出してくれました。

 

 ちなみに、マルクスさんの主張をそのまま取り入れたような物理の教科書がイギリスの新しい物理教育運動の一環として出版されたことがあります。「アドバンス物理」(1と2があります)という本。ぼくもどんなものか知りたくて読んでみましたが・・・

 

 これはちょっと、違うかな・・・

 

 なんだろう。少し趣味的というか・・・羅列的というか・・・

 

 ピンと来ませんでした。

 

 例えば、ファインマンがベクトルでやった光の位相差の重ね合わせの説明を本文で使ってみたり。

 

 わかりませんよ、それ。

 

 ベクトルによる説明は、たしかに簡潔で見事だけど、そこに至るまでの説明にすごく時間がかかる。対面で個人に説明するならまだしも、数十人相手に同時に講義するのには向きません。

 

 現場でしかわからないことって多いんだけど、「アドバンス物理」はそれが無視されているように感じました。

 

 マルクスさんがこれに直接関わったのかどうかは知りませんが、マルクスさんがいっていたのは、もうちょっと違うことだと思います。

 

 

関連記事

 

のらねこ(STRAY CATS) 海を渡る/物理教育国際交流〜ミオくんと科探隊セレクション

 

コボール・マチカ

万国共通語「物理」

(*1)

のらねこの自己紹介~We are Stray Cats from Japan

 

 

〜ミオくんと科探隊 サイトマップ〜

このサイト「ミオくんとなんでも科学探究隊」のサイトマップ一覧です。

 

 

**   お知らせ   ***

 

日本評論社のウェブサイトで連載した『さりと12のひみつ』電子本(Kindle版)

Amazonへのリンクは下のバナーで。

 

 

 

『いきいき物理マンガで冒険〜ミオくんとなんでも科学探究隊・理論編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。

 

 

『いきいき物理マンガで実験〜ミオくんとなんでも科学探究隊・実験編』紙本と電子本

Amazonへのリンクは下のバナーで。紙本は日本評論社のウェブサイトでも購入できます。