指南車 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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指南車
 

とっぴ「やほほ~! ・・・あれ? 今日は珍しい本を読んでるね。っと、【世界の神話百科】(*1)に【中国の神話伝説】(*2)・・・そっちは古い本だね・・・【神々の誕生】(*3)・・・自然科学の本じゃないね」
ひろじ「ぼくだって、科学の本ばかり読んでいるわけじゃないよ」
あかね「でも、科学に関係あるんでしょ?」
ひろじ「するどいね。じつは、ちょっと指南車のことを調べてて・・・」
とっぴ「しなんしゃ・・・何、それ?」
ひろじ「指南車・・・南を指さすクルマ、だよ」
あかね「方位磁石みたいなもの?」

ひろじ「うん。それが微妙でね。だから、本をあれこれ読んでいたんだけど」
ろだん「何が微妙なんだよ」
ひろじ「歴史上、羅針盤、つまり方位磁石が発見されたのは1180年のネッカム(イギリス)ということになっている。それ以来、航海に方位磁石が使われるようになった。アシモフの【科学と発見の年表】によれば、科学史上、磁石の最初の研究は6世紀のタレスによるものだけど、2世紀には中国の文献に方位磁石の記述があるというからね。タレスの研究がいったんアラビアに渡り、ふたたびヨーロッパに戻ってきて、ネッカムの研究に繋がったんだろうけど・・・」
とっぴ「? 何が微妙、なの?」
ひろじ「黄帝の時代は紀元前3000年といわれているんだ」
あかね「あ・・・じゃ、紀元前30世紀? すごく前、なのね」
ひろじ「これは古い中国の【伝説の時代】の話だから、どこまで信じていいかわからないんだ。でも、【指南車】という言葉時代が、羅針盤を想定させるよね。イギリスで書かれた【世界の神話百科】では、黄帝(こうてい)が蚩尤(しゆう)の霧に対抗して羅針盤を用いたと書かれているから、そういう解釈が一般的なのかもしれない」

とっぴ「こうてい・・・しゆう・・・何それ?」
ひろじ「伝説では、雷雨の神黄帝と蚩尤の祖父にあたる、炎の神炎帝の闘いは黄帝の勝利に終わり、蚩尤は祖父の敵討ちとして闘いを起こしたと伝えられている。激烈な闘いの最中、蚩尤が白い濃霧を発生させると、黄帝軍は方向感覚が狂い、窮地に陥る。黄帝の臣下、風后が北斗七星の性質から【指南車】を作り上げて正しく方角を示し、劣勢を挽回したと伝えられている」 
ろだん「いつも南を指さす・・・って、方位磁石だな。でも、紀元前3000年って、いくらなんでも古すぎないか。ヨーロッパで見つかったのが、紀元後1200年くらいなんだろ」

ひろじ「そこで、この伝説にある【指南車】は磁石を使っていないんじゃないかと考える人たちもいる。ぼくは、以前、その装置を見たことがあってね」
とっぴ「え? え? 磁石を使わずに、いつも南を指す装置なんて、作れるの?」
あかね「そうね。それは無理だと思うけど」
ろだん「いつも、同じ方向を示す装置か・・・待てよ・・・できないこともない・・・かも」
ひろじ「さすが、ろだんくん、何か思いついたみたいだね」
ろだん「うん・・・方角がどう、というのは置いておいてさ・・・いつも同じ方向を示すだけなら、歯車を組み合わせればできると思う。イラストの人形の下に歯車を置いて・・・それに垂直に歯車を組み合わせて、台車の車輪が回るようにすればいい。両方の歯車の数を同じにしておいてさ。・・・たとえば、台車が30度だけ南から東へ回転したとすると、その分だけ、台車のクルマが回転するだろ。それにくっついている歯車も30度分回転する。それにかみ合っている人形の歯車はクルマの回転と逆方向に30度分回転するから、結局、人形の向きは変わらなくなるだろ」
むんく「すごい!」
あかね「ホント・・・! そうなるね!」
とっぴ「ろだん、やるなあ!」

ひろじ「まさにその通り。こういう仕組みで精巧に作られた模型を見たことがあるけど、台車を回転した角度分だけ、台車の人形が逆向きに回転して、いつも同じ方向を示すことができるんだ。だから、当時の指南車は本当は羅針盤じゃなくて、こういう機械的な装置だったんじゃなかったかって」
とっぴ「そうかなあ・・・」
むんく「数学的には、ろだんの方法で十分。問題ない」
あかね「何なの? また、いつもの疑問?」

 
ひろじ「まあまあ、とっぴくんの話を聞こうよ」
とっぴ「・・・その模型がここにあったとしてさ・・・テーブルの上だったら、たしかにろだんのいうようになると思うんだけど・・・伝説の時代に闘いがあった場所って・・・どんなところだろ」
ろだん「そりゃあ・・・野原とか、荒れ地だろう・・・今みたいに舗装道路があるわけじゃないし・・・あっ!!!」
あかね「何?」
ろだん「そうだ・・・でこぼこの地面なんだ。その頃は、どの場所も・・・」
とっぴ「でしょ? そんなでこぼこの地面にろだんがいうような歯車製の指南車を置いてもさ、ちゃんと車輪が回転して、人形に正確な動きを伝えられるのかな」
あかね・むんく「・・・!」

 
ひろじ「ぼくも、とっぴくんと同意見だよ。歯車製の【指南車】はたしかに磁石によらなくてもある一方向をずっと指し示すことができるけど、それはあくまでも地面が平らで、車輪の動きが狂いなく人形に伝えられるときだけの話だ。でこぼこの地面どころか、こうした闘いの起こる場所は丈の長い草が生えていたりして、とてもじゃないけど、イラストのような装置が滞りなくなめらかに動ける条件はなかったと思うよ。その悪条件の中で、いつも南を指し示す装置といったら、やはり羅針盤以外、考えつかないなあ」
とっぴ「うん、うん。ぼくもそういいたかったんだ」
あかね「うーん・・・なんか、悔しいな。その伝説には、磁石のことは書かれていないんでしょ」
ひろじ「うん。【指南車】には鉄製の小仙人が取り付けられていて、いつもその伸ばした腕が南を示している、としか書かれていない」
ろだん「鉄製、というのがひっかかるな。やっぱり、磁石を利用していたんじゃないか」
ひろじ「こういう文献はUFOの話と同じで、資料価値が微妙だからね。なんとでも解釈できるのが面白いけど、あまり決めつけて考えるのはどうかと思うよ。想像は自由にできるけど、証拠を出せといわれたら不可能だから」
あかね「そうね。霧で視界が遮られたとき、指南車で方向を定めて助かったっていうのも、なんだか話ができすぎている感じ」

とっぴ「そうかなあ・・・この伝説が書かれたのはいつなの? 羅針盤が発見された頃なら、そういう知識を元にして書かれたのかもしれないけどさ」
ひろじ「司馬遷が古い時代のことを史記にまとめたのは紀元前100年頃の話だから、やはりヨーロッパで羅針盤が発見される前のことだ」
とっぴ「え、そうなの?」
あかね「じゃ、【指南車】って、どういうところから発想したのかしら」
ひろじ「さあ、どうなんだろうね。正直、わからないよ。そういう歴史的な事実も踏まえると、【指南車】の記述は科学史の上でも意味があるのかもしれないね」

とっぴ「すごいな・・・昔の中国って・・・」
あかね「そういえば、製紙の技術も火薬も印刷も、中国が発祥って聞いたことがあるわ」
ろだん「なんで、そんなに歴史があるのに、中国じゃ科学が発達しなかったんだろ」
ひろじ「それは深いテーマだね。科学的方法とは何か、という話に繋がるだろう。また機会があったら、考えてみようか」

ろだん「じゃあさ、前に、陰陽五行とかあったよな。なんだか気になるから、それも!」
とっぴ「今度は、ぼくたちもいろいろ調べてくるよ。なんだか、面白そう!」
あかね「そんなこといって、あれこれ考えているうちに、どうせまた忘れるわよ。とっぴにこそ【指南車】が必要なんじゃないの」
とっぴ「・・・そうかも」

*1:「世界の神話百科 東洋編」レイチェル・ストーム著(原書房)
*2:
「中国の神話伝説(上下)」袁珂著(青土社)
*3:「神々の誕生」貝塚茂樹著(筑摩書房)
 
 

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