いきいき物理工作教室2 | ひろじの物理ブログ ミオくんとなんでも科学探究隊

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 まんが「いきいき物理工作教室」の後半です。

 前回書いたように、1988年(たぶん)の科教協(科学教育研究協議会ASE)の全国大会ナイターで「いきいき物理わくわく実験」の実験を体験していただいた時の資料。当日はたしか「ミニ熱気球」を実際に作ってみる体験教室を開き、好評を博しました。

 理科教育に関わっていない方には聞き馴染みのない「科教協」という組織について、ちょっとだけコメントしておきます。科教協は日本の民間の科学教育団体としては長い歴史をもつ、最大規模の団体で、主に小学校から高校までの理科教師を会員として運営されています。各県に支部があり、年に一度、各県まわりもちで全国大会が開かれています。知らない人にときどき誤解されますが、日教組のようないわゆる組合組織とは異なる純粋に理科教育を研究する団体です。(ちなみにぼくは現在会員ではないので、全国大会には一般参加者として参加しています。ですから、科教協の説明も正確でないところもあると思いますが、ご容赦を。・・・それにしては、よくレポートしたり、ナイターに参加したり、分科会の司会者を突然割り振られたりしていますが・・・人間つきあいで頼まれることが多いんですね)

 ミニ熱気球は、今では誰でも知っている定番物理実験になりました。職場の先輩に初めて教えてもらったときにはかなりびっくりしました。

 というのは、熱気球は普通に考えられているのと違い、小さなモノほど作りにくいからです。人が乗れるほど巨大な熱気球は(安全面の対策には技術が必要ですが)、作れば必ず上がります。

 熱気球の上昇力は気球の受ける浮力と重力の差ですが、こちらはどちらも気球の体積に比例します。体積は長さ(大きさ)の3乗に比例する(体積=長さ×長さ×長さ)ので、例えば、気球の大きさが2倍になれば体積は2×2×2で、8倍になります。上昇力=浮力ー重力も、体積に比例するので、8倍になります。

 一方、熱気球内の暖かい空気の内部エネルギーは、気球の表面を通じて、熱エネルギーとして外気に逃げていきます。外へ逃げる熱エネルギーが大きくなると熱気球内部の空気の温度が下がり、浮力が減りますから、上昇しにくくなります。気球の表面を通じて逃げる熱エネルギーの量は、当然ながら、気球の表面積に比例します。面積は長さ(大きさ)の2乗に比例する(面積=長さ×長さ)ので、例えば、気球の大きさが2倍になれば表面積は2×2で、4倍になります。

 そう。気球の大きさが2倍になると、上昇力は8倍になるのに、逃げる熱は4倍にしかなりません。その分、気球内の空気の温度は上昇するので、気球は大きくなればなるほど、上がりやすくなるのです。

 逆に、熱気球を小さくしていくと、今の議論の逆になりますから、今度は逃げる熱が浮力に比べて大きくなって、上がりにくくなるというわけ。

 したがって、小さな熱気球を作るほうが、原理的にはずっと難しいのです。

 ゴミ袋1つをまるまる使って熱気球を作ると、全体の重量は十数グラムとなります。でも、この大きさだと、誰が作ってもたいてい上がります。

 これをもっと小さくできないか?

 それにチャレンジする生徒実験「ミニ熱気球コンテスト」を(毎年はできませんが)長く続けてきましたが、今までの最高記録は全体の重量が1.8グラムというもの。この記録はもう20年近く前に立てられたものですが、いまだに破られていません。(コンテストの詳細は「いきいき物理わくわく実験3」p8「Let's Physicon!」を参照)

 ところで、熱気球の上昇の原動力は浮力だけではありません。これについては、おもしろいエピソードがあるので、ちょっとだけ紹介します。

 やはり20年ほど前のことになりますが、理科が大好きなある女子生徒に「いきわく1」に載っている「ミニ熱気球」の最初の記事を紹介したことがあります。何日かして、その生徒がやってきて「本の記事にあるように気球内の温度を測ってみたんだけど、本の計算値より低かったんです。ひょっとして、気球が浮き上がる原因って、浮力だけじゃないんじゃないでしょうか。例えば、上昇気流とかも関係しているんじゃないですか」と質問されました。

 素晴らしい慧眼ですね。

 「いきわく3」の記事のイラストに描いておいたんですが、じつは上昇気流を利用して上がるタイプの熱気球も作れます。

 とある定時制高校で「ミニ熱気球コンテスト」をやっていたときのこと。ある生徒が、ゴミ袋をハサミでじょきじょきと切り開き、シートにしてしまったのです。

ぼく「どうするの、それ。あとで貼り合わせるわけ?」
生徒「このまま使うよ。パラグライダーみたいに、上昇気流を受けて上がる、みたいな」
ぼく「・・・(それは絶対に上がらないぞ!と思ったけど、いつものルールで、いっさいコメントをしなかった)まあ、お好きにどうぞ。この実験は、何してもいい実験だからねえ」

 数分後、ふわふわと浮いている彼の「熱気球」を見て、ぼくは絶句。

 このときの記録は5.6グラム。ミニ熱気球の最高記録を半分以下に縮めました。

 技術革新は「常識」の内側での工夫では生まれない・・・

 「質問リレー」で得た「うかつにヒントを与えない」という鉄則が、重要な教訓として生きた例です。ぼくが自分の「常識」に基づいて熱気球の浮力の原理を彼に説明していたら、彼はパラグライダー方式を試すことはしなかったでしょう。アドバイスは、むしろ新しい発見の足を引っ張ることもある・・・

 発見実験をやっているときには、こうした例をいくつも目の当たりにしてきました。(詳細は「いきわく3」の「Let's Physicon!」や「エウレカ・エクスペリメンツ」の記事をご覧ください)

 そうそう、この熱気球、ゴミ袋一つで作ることができるのが楽しいのですが、ご家庭で行うのは危険ですので、学校の実験室のような火に強い場所で、消火の準備を用意した上、適切な指導者のもとに行ってください。

 「空き缶オカリナ」は作るのが簡単で、成功しやすいので、小学生のみなさんにも十分楽しんでいただける実験装置です。

 缶の中に立体的な定常波ができて音の高さが決まるのですが、高校の物理でならう気柱の定常波の理論は通用しません。物理学ではいわゆる「ヘルムホルツ管」と呼ばれるものです。どういうわけか、穴の数や穴の大きさで音の高さが決定されますので、いくつか穴を開けて実際に吹いてみて音を聴きながら、穴の大きさを調整してください。それなりにおもちゃ楽器として使えるモノになります。

 ストローの位置はマンガの通りですが、ちょっとした角度で音が出たり出なかったりするので、いろいろ調整しながらやってみてください。原理はマンガに描いたように、ストローから吹き出た空気が缶口に当たって渦を巻いて振動し、それが音源となります。押さえる穴の数を変えると(おさえる穴の位置にはあまり関係なく)音が決まります。

 最後の「紙猫コンテスト」はルールだけ描いてあって、実物例が載せてありません。これは、さきほどの熱気球と同じで、一つの例を教えるとそこからの派生ばかり考えて、自由な発想でものを考えることができなくなるからです。

 A4の紙1枚から、猫と同じように空中で反転して(別に何回転しても構わないのですが)、足を下にしてすっくと立つものを作ってみようという実験です。(こちらも、詳細は「いきわく3」の「Let's Physicon!」にありますので、興味のある方はそちらをご覧ください)

 「紙猫コンテスト」は、「手でモノを考える」訓練には最適です。知識に頼る人は、こういう「何をしていいか見当もつかない」実験に直面すると、本当に何も出来なくなります。まず手を動かし、そこから知識を増やしていって考え、さらに手を動かす、こういったフィードバックがないと、ブレークスルーは生まれません。

 ぼくはこの「紙猫コンテスト」をさまざまなグループで行ってきました。できあがった「紙猫」の性能を比べると、グループの「手でモノを考える」能力の差が見えて、考えさせられます。

 もっとも性能の高い「紙猫」を成功させたのは、定時制の生徒たちでした。その次は音楽科の生徒。高校生でもっとも成績が低かったのは進学校の生徒でした。

 でも、それ以上に成績の低いグループがありました。議論ばかりして、まったく手が動かず、ろくな紙猫がほとんどできなかったグループです。

 ・・・それは、学校の先生たちのグループでした。

 ちゃん、ちゃん。
 

 

 
 

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