20世紀のギリシャを代表する作曲家、ミキス・テオドラキス(1925~)のバレエ音楽『その男ゾルバ』を紹介する。
もともとは、1964年に公開された同名のイギリス・ギリシャ・アメリカの合作映画をバレエ化したもので、映画をご存知の方も多いかもしれない作品だ。
バレエ化するにあたり、多少のストーリーの読み変えもあったようだが、大まかなあらすじは以下の通りだ。
「父親が遺した炭鉱を再開するためにギリシャを訪れた英国人作家バジルが、炭鉱のあるクレタ島に向かう船を待つ間にギリシャ人の男、ゾルバと出会う。気のよい頑強な風采のゾルバを、バジルは炭鉱に現場監督にするる事を決め、クレタ島で2人は安宿に泊まったが、そこのマダムとゾルバは親しくなり、バジルは村の未亡人と恋仲に陥る。」といったよくありがちな冒頭のストーリーである。
「その後、未亡人は殺され、マダムも病床に伏し亡くなってしまう。そして、ゾルバが創案した木材運搬用の炭鉱ケーブルが竣工式当日に倒壊。全てを失ったゾルバではあるが、動ずることもなくその姿に感動したバジルはギリシャのダンスの手解きを受ける」といったものだ。
テオドラキスの音楽は、20世紀における西洋のクラシック音楽の潮流とは全く無縁であり、映画のストーリーを引き立てることに徹した耳に障りのよい音楽といえる。バレエ版でも然りだ。情緒に溢れた音楽が特徴ともいえ、シーンごとに移りゆく心象の変容は劇的なまでに色を変える。とりわけ有名な終曲の『ゾルバの踊り』は、民俗的なパッションの高揚が、合唱を伴いここぞとばかりに炸裂している。
あまり聴く機会の少ない作品ではあるが、独自の文化を歩むギリシャの一つの姿を垣間見る事が出来る作品ともいえる。ギリシャの民族楽器、ブズーキが登場するのも興味深い。
なお、指揮はテオドラキスとカリティノスの二人が担当しているが、どのような役回りで振り分けていたかは不明である。
【推奨盤】
ミキス・テオドラキス/ルカーシュ・カリティノス/ソフィア・ミカエルディ(Ms)/Kostas Papadopoulos(ブズーキ)/Lakis Karnesis(ブズーキ)/ハンガリー放送合唱団/ハンガリー国立管弦楽団[1989年8月録音]
【INTUITION:INT 3103 2(輸)】