前回、経営上のリスクに対して、備えをどう考えるかという話を書きました。
もう一つ違う観点からリスクを捉えてみましょう。


特に新規事業を始めるシーンを思い浮かべると分かり易いと思いますが、経験のない世界に足を踏み出すことは、どのような産業であれ、規模であれ、企業にとって当然リスクを伴うものです。もちろんある程度の調査なり事業計画作りをやるわけですが、やってみなければ分からないことの方が圧倒的に多い。むしろうまくいかない理由を探そうと思えば、いくらでも出てくるというのが普通でしょう。


しかし、ベンチャー企業やインターネット産業に限らず、これだけ変化と競争が激しく、流動的な経済環境の中で、新たなことに踏み込んでいかない(リスクを取らない)ことのリスクを十分に、もっと言えば、「感じている以上」に認識しなければなりません。


こうした背景の中で考え方のベースになるのは、会社(グループ)全体で取れるリスク総量はどのくらいか、というものです。リスクと言っていることに色々なものが含まれるため、これも定量的に算出することは不可能ですが、一例として言えばキャッシュポジションなどは可視化でき、分かり易いでしょう。全体で取れるリスクの範囲の中に納まっているということは常に考えながら、その中にあってはリスクテイカーに振っていく。サントリーではないですが、「やってみなはれ」の価値は非常に高いはずです。これは企業文化も巻き込んだ大きな(深い)論点ですが、ここでは言及しません。


もちろん一つ一つをいいかげんにやるということではありません。事前に考えられることは十分に考え、最善を尽くすことは前提です。事業計画もきちんと作ります。ただそれでも多くの場合その通りにはいかず、常に修正していくことになります。考えを整理し、議論し、実態と乖離が出てきた時に原因を分析し、対応策をスピーディーに打っていくためには、事業計画は大変役に立ちます。従って、始めれば変わることを前提に、やってみないと分からないことを前提に、リスクを取っていくのです。


一方で、取れるリスク総量を拡大する、という視点も常に持ち続けていないといけません。そうでないと、それ自体が成長の制約になってしまいます。しかし取れるリスク総量を拡大することは、それ自体当然コストを伴うものなので、いたづらに大きくしておけば良いという単純なものでもありません。ここでも、客観的に最適な「正解」が無い中で、何が最適なバランスかを、常に考え続けるしかありません。


リスク総量の中はいくらリスクテイカーだと言っても、個々のリスクを無視するという訳ではありません。状況/想定が大きく変わってきたときは、当然個々のリスクの調整をしていく必要があります。ここでも新規事業の例は分かり易いですが、思っていた通りには進まず、今の態勢/枠組みでは修正がきかない、という場面です。存在が自己目的化し、リスクを取る意味がなくなったとき、それは全体のキャパを無駄に喰ってしまうことになります。この場合は速やかに撤退を含めた、あるべき選択肢を検討しなければなりません。


私見を簡単に述べてきましたが、リスクという言葉は、日常よく使われる割には、人それぞれ定義やイメージするものが違うものです。ただヘッジするだけでも進歩がないし、無闇にテイクするだけでも単なる無謀で終わる。真剣に向き合い、適切な取り方を模索し続けることしかないのではないでしょうか。