脚本家/小説家・太田愛のブログ -21ページ目

所用で出かけた折、夜の美術館を訪ねて『バーン=ジョーンズ展』を観る。


場所は東京駅近くの丸の内にある三菱一号館美術館。この建物がまず日常から異空間へと連れて行ってくれる。銀座・有楽町という場所柄もあって周囲には現代的な消費都市のイメージあふれるビル群が立ち並ぶのだが、その中にあって、三菱一号館美術館は異彩を放つ三階建て煉瓦造の古風な建物だ。

1894年創建時の原設計に基づき、明治大正期の姿を復元して2010年に美術館として再生したのだそうで、当時の設計者はジョサイア・コンドル。鹿鳴館を設計した人物でもある。そして、この明治期の洋風モダンな美術館の建物と、その対角に立つ平成の近未来的な丸の内パークビルディングの間には、緑と水の豊かな一号館広場がある。折しも雨の夜で、往時を模した瓦斯灯のやわらかな橙色の光に木々の濡れた葉が映えていた。


さて、バーン=ジョーンズだが、彼は19世紀後半の英国ヴィクトリア朝時代の画家で、ギリシャやローマの神話や中世の物語など文学に題材をとった絵画を多く描いている。だが、どれほど劇的な場面を描いても、どこかに静的な印象があり、それが独特の魅力になっている。勇者ペルセウスとグロテスクな大蛇の一騎打ちも、ペルセウスに復讐を迫るメデューサの姉たちの黒々とした巨大な翼も、緊張感あふれる物語の一場面というよりは見事に構成された意匠を見ているようだ。


そんな中、きわだって印象的だったのが連作『いばら姫』の中の一作『王宮の中庭』だ。午後のやわらかな光が降り注ぎ、荊の花と蔓に覆われた王宮の中庭に、魔法にかかった六人の娘がそれぞれ異なった姿態で眠っている。ある娘は機織りの途中で、ある娘は水汲みの桶を傍らに、また、ある娘は別の娘の膝にもたれて。夢見ているのは娘たちのはずなのだが、静謐でおだやかな時間の中に眠る六人の娘の姿そのものがまるで夢の中の光景のようで、画家の手は、甘く微かな温もりのある寝息までもそのままに、娘たちを永遠の無垢な微睡の中に閉じ込めている。


実は、今回来日しているのは完成した『王宮の中庭』ではなく、六人の娘をそれぞれ別に描いた6枚の習作だ。だが、それでもどの一枚からも、いつにない画家の白熱が確かに伝わってくる。完成した作品を観るにはイギリスまで赴かねばならないのだが、それを厭わせないほど魅力的な絵だった。




お知らせです。


テレビ朝日系列で放映中の『警視庁捜査一課9係』、


担当回のオンエアが、変更になりました。


詳しいことが決まりましたらまたお知らせします。


暑い日が続いていますが、みなさん体調に気を付けて頑張ってください。



オンエアのお知らせです。


今週からテレビ朝日系列で始まる『警視庁捜査一課9係』、


担当回のオンエア日が決まりました。


7月18日(水)21時から


第3話『死者の手の中に(仮)』


ぜひご覧ください。
脚本家・太田愛のブログ-夏の香り

ご無沙汰しています。


オンエアのお知らせです。


7月からテレビ朝日系で始まる『警視庁捜査一課9係 SEASON7』で


『死者の手の中に』(仮)の脚本を担当しました。


水曜夜21時からです。


オンエア日が決まりましたら、またお知らせします。


是非ご覧になってください。


脚本家・太田愛のブログ-ミニバラ2


梅雨の晴れ間にはあちこちの緑濃く、


もう夏まぢか。


ミニバラも咲く。





3月16日、吉本隆明さんが亡くなられた。


吉本さんのお名前を聞くと、お会いしたことのないのに何故か思い浮かぶ吉本さんの姿がある。


1960年6月4日深夜の品川駅構内、吉本さんは全学連の学生の列の中に黙って座り込んでいた。

その姿を「拒否の中心にいしころのように動かない吉本」、「戦争体験と今後の行き方の孤独さが、品川駅の一夜に凝集してあらわれている」と書いていらしたのは橋川文三さんだった。


ある日、吉本さんが縁から庭に降りると、少し知恵の遅れたような男の子が着物の裾にまとわりつく。

古風な文人然とした吉本さんはあっちへ行けというように手で追い払うのだが、その所作が実はちっとも男の子を嫌っている風ではなく、二人の間には親密な空気が流れている。

そんな夢を見たと座談で語っていらしたのは、確か蓮實重彦さんだった。


いずれも20年以上も前に読んだ文章の一節だが、虚実入り混じった二つの姿はこの眼で見たように鮮明なイメージとして今も残っている。


同じ頃、一度だけ吉本さんの講演を聴かせていただいた。


若い頃の詩編「エリアンの手記」を演題に掲げた講演会だったが、青年期の詩については含羞んだように二言三言ふれただけで、たった今東北から戻ってきたのだと息を弾ませながら吉本さんは宮沢賢治のお話をなさった。低く、よく通る吉本さんの肉声は、確信をこめて語る誠実な語り口とともに私の耳にしっかり刻まれた。


訃報が流れた後、高橋源一郎さんは追悼文で次のように書いていらした。


――ある時、本に掲載された一枚の写真を見た。吉本さんが眼帯をした幼女を抱いて、無骨な手つきで絵本を読んであげている写真だった。その瞬間、ずっと読んできた吉本さんのことばのすべてが繋がり、腑に落ちた気がした。


僭越な言い方になるが、高橋さんの言葉がとてもよく分かる気がする。

私は決して吉本さんの良い読者ではなかったが、それでも折にふれ、品川駅構内に黙して坐す吉本さんの姿や庭に立つ吉本さんの姿に叱咤され、脳裏によみがえる吉本さんの確かな声に励まされてきた。


詩人であり思想家であった吉本さんは多くの言葉を残された。

それとともに、沈黙の中に多くを語る「姿」を残していかれた、ほんとうに稀有の方だった。


慎んでご冥福をお祈りいたします。


『相棒ten元日スペシャル ピエロ』

ご覧いただきありがとうございました。


さて、お知らせです。


昨年末に発売された『相棒シナリオ傑作選2』(竹書房)に

seoson9の『最後のアトリエ』のシナリオが掲載されています。


また、1月中旬に発売予定の『月刊ドラマ2月号』に

相棒特集の一編として今シーズンの『晩夏』のシナリオが

掲載されています。


よろしければお手にとってご覧ください。


脚本家・太田愛のブログ-獅子舞
初詣に行った際の獅子舞です。

2012年がみなさまにとって良い一年となりますように。





明けましておめでとうございます。


本年もよろしくお願いいたします。


脚本家・太田愛のブログ-rennjisi
元日 夜9時より 『相棒 元日スペシャル ピエロ』

是非、ご覧ください。


伊東プロデューサーのブログに素敵なポスターを発見!

    ↓

   こちら





オンエアのお知らせです。


2012年1月1日 夜9時~11時30分


テレビ朝日系列 『相棒season10 元日スペシャル ピエロ』


脚本を担当しました。


ノンストップサスペンスです。


年の初めの勢いづけに、是非、ご覧ください。


脚本家・太田愛のブログ-hane

昨日、市川森一先生が亡くなられた。


つい最近、テレビでお元気な姿を拝見したばかりだったので、

突然の訃報に茫然となり、まだ信じられないような気持だ。


市川先生にお目にかかったのは、もう十年以上前のこと、

円谷プロの『ウルトラマンティガ』で脚本家として仕事を始めて

間もないころだった。

先生もその昔、円谷プロの『ブースカ』やウルトラマンシリーズを

数多く手掛けられており、その縁で、ある雑誌で対談させていただいた。


先生は開口一番、「あなたはいいね、『ウルトラマン』でデビューできて。

僕は『ブースカ』なの。デビュー作っていうのは一生、変わらないからね。

やっぱり『ブースカ』より『ウルトラマン』がいいね」

と一気に仰って、実に大らかな声で笑われた。

何を話せばいいのかとひどく緊張していたのが、その一瞬でふっと楽になった。


脚本の話になると水の色が変わるようにたちまち真剣な目になる。

それが、たじろぐほど印象的だった。

若いクリエーターに対して、率直に、情熱的に接してくださる方だった。


先生の脚本集は今も本棚の中心にある。


心からご冥福をお祈りいたします。





脚本家・太田愛のブログ-紅葉2


しばらく前に見た紅葉。

天候不順で危ぶまれた今年の紅葉だが、

運よく晴天の秋空の下で鮮やかなさまを眺めることができた。


一年の始まりを、どこか不安な思いを誘う桜花が彩るとすれば、

終わりを告げる紅葉は明朗で、逡巡がなく、明るさに満ちている。


冬の到来を予感させるひんやりとした澄んだ大気の中、

時が熟したことを告げて

色づいた葉々は最後の光を放つ。


生も死も肯定するような決然とした明るさだ、と思う。


  一ひらの濃ゆき紅葉を手向かな  富安風生


  落葉みな天にのぼりてこの夕焼  平井照敏


脚本家・太田愛のブログ-紅葉3