日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -313ページ目

話さない、訳

「何でいつも、そう驚いた声上げる訳。こっちが驚くじゃない」

娘が味噌汁をこぼし、思わずあっ、と声を上げたのだった。

話しに、ならない。

俺が声を発すると、大体はこうだった。

黙っていた方がいい。

いじめられっ子の心理だった。

相手を刺激しないように、いつも下を向き、ひたすら何事もないことを祈る。

顔を見るだけでも、むかつくなどと言うからだ。

皿を洗い、風呂を沸かす。

その間、テレビを観ようと思い、スイッチを入れた。

「テレビなんか観ないでよね」


すかさず言葉を浴びせられた。

俺はリモコンを、テーブルに叩きつけた。

今日は、自由な時間すら与えられないのか。


朝から酷いものだった。







続きは、明日更新します。

13日の金曜日

何故そこまで、邪険にされなければならないのか。

それを考えると、胸が掻きむしられる。

俺を心底嫌いなのだ。

それ以外考えられなかった。

一緒の部屋で寝たいと言ったことがある。

布団で寝たかったのだ。

「狭いし、窮屈だから」

同じ布団に寝る訳ではない。

同じ部屋ですら、嫌だと言うことか。

こんな事では、いつまでたっても、唇はおろか指一本触れさせないだろう。

どう考えても、一緒に生活する理由はみつからないではないか。

ゴキブリと同じだ。


顔を見れば、叩かれる。

ゴキブリが、すき間に潜み、夜中食い物を漁るように、

いつも、妻が寝静まるのを待って、ネットをやる。

見つかると、遊んでいると罵られるからだ。

つまらない毎日だな。

それとも、人生そのものがつまらないのか。

家に帰りたくなかった。

二杯目のコーヒーを啜りながら、考えていた。

カレンダーを見る。

今日は13日の金曜日だった。

見えないもの

「誰か来た」

娘が言った。

ここ数日、よくそのようなことを言う。

もちろん、誰もいない。


「誰が来たの」


そう聞いても、答えない。

「それじゃ、ご挨拶してきて」

娘は、走って玄関へ向かった。


「こんにちわ」


玄関のドアに向かって、言っていた。


まさかな。

娘には、何か見えるのだろうか。

風呂で娘は、一日の出来事をよく俺に話してくれる。

娘が誰か来たと言う。

それは、日中の出来事なのかもしれない。


「その誰かと、話してごらん」


ちょっと、気味が悪かった。


「ただいまって、いってる」

「びっくりしたって」



テレビなどでよく観る、そういった番組は、サイエンスのかけらも無い。


自称能力者が見えると言えば、驚きとともに、妄信的に信じてしまう。


科学的に検証すらしない。

ほとんどは、幻覚に過ぎないのではないか。

人の知覚など、驚くほど曖昧で、いい加減なものなのである。

ただ、どうしても錯覚や幻覚と思えないことも、しばしば起こったりする。




娘は、妻との会話を再現しているのだけなのか。

もう一度、聞いてみた。

「誰が来たの」


「ままさん」

妻のことなのか。

娘は、妻のことをママさんなどと呼ばない。


いつも、ママである。