うなり声
娘が唸っていた。
そして笑った。
へんな唸り声だった。
何かのまねをしているのか。
ふとそう思った。
そして、妻を思い出した。
不機嫌なとき、ため息とも唸り声ともつかない声をだす。
「どうしたの、その唸り声は」
俺がそうたずねると、娘は面白がって、また唸った。
傍らには、赤ん坊の人形が横たわっている。
娘は赤ん坊の目を指でさわり、そのたびに目がぐるりと反転した。
「もう寝ようね」
娘に声をかける。
娘は、隣の人形の頭を撫でた後、目を閉じた。
楽観?
悲観的になることを、やめようと思う。
悲観することから、何も生まれはしない。
これは、多分確かなことだ。
思い悩み、悲しみに沈むことは、自分自身の心を攻撃しているのに等しいのかもしれない。
思いは具現化する。
昔何かで読んだような気がする。
プラス思考か。
それとも楽観主義か。
その手の読み物に、心のありようを説いたものは、ほとんど無いのだった。
帰宅し玄関を開けた。
深呼吸し、心気を静める。
そして妻に声をかける。
何か言ってきたが、その言葉に棘はなかった。
偶然なのか。
今夜は、不思議なことに娘も泣いてはいなかった。
