日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -124ページ目

無抵抗に支配される屈辱

妄想〜死の世界から

昨夜、夢を観た。

美しい女の子を、愛し、愛されるというものだった。

夢だというのに、俺は全身を震わせるほどの幸福感に包まれ、そして喘いだ。

俺が欲しいものは、これなのだ。

そう悟った瞬間、車の中で目が醒めた。


現実。


それは、死の世界だった。


夢の世界が生で、現実が死。

それがたとえ逆でも、人は毎日朝に目覚め、飯を食い、糞をひり出し、働き、時には交合し、夜になると一旦は死んでしまう。


昨夜。

酒席に出たまでは良かったが、情けない事に、帰りの電車賃すらなく、俺は車の中で眠るしかなかった。

目が覚めると、そのまま仕事だった。




俺は、職場ヘ向かってゆっくりと歩て行く。

途中、一歩も前に歩を進める事が出来なくなり、交差点で立ち尽くしてしまった。

行き交う車も人もまばらで、まるで死んだ街のようだ。

時々、目の前を通る人たちは、殆どが老人かガキどもで、どこか死人を連想させた。

空を見上げてみる。


強烈な夏の日差しは、分厚い灰色の雲に塗り込められ、窒息していた。

疲労のせいなのか、目眩におそわれ、体がぐらつく。

俺の口が無意識に動いていた。

「つまらない、毎日だな」

自分でも驚くくらい、デカい声で呟いていた。

すると目の前を、怪訝な視線を俺に向けたまま、ちょっといい感じの女が通り過ぎていった。

俺は、遠ざかるその女の尻やら、足を眺め続ける。


そして、目を閉じた。

と同時に、何も聴こえなくなった。


俺はふたたび、夢の中に引き込まれていった。

彼女が逝った日

川村カオリ。

彼女の歌を始めて聴いたのは、スキー帰りの車の中だった。

とんでもなく暗い詩と、切な過ぎる歌声に俺は完全に魅了され、翌日には彼女のCDを買っていた。

それはデビュー作で、ZOOというタイトルだった。

彼女は、超絶的な歌唱力で歌い上げるタイプではなく、むしろその逆のように思えた。

しかし、何故だろう?

その歌声は、俺の心に深く突き刺さり、長い余韻を残したのだった。


俺はそのときから、音楽に大切な何かを悟った。

歌や演奏が上手いなどという、テクニック以外の、何かを。


それからずいぶんと後になって(つい最近)彼女のエッセイを書店で見かけた。

子供時代に壮絶な虐めにあい、学校へ行かなくてすむようにと、自ら両腕を折ってしまったという。

そんなバックボーンがあのどうしようもない切なさを、俺に感じさせたのだろうか。


彼女の歌に想いを巡らす。


こんな歌を、彼女は歌っていた。


ライオンや豹に、頭下げてばかりいるハイエナ。



俺はハイエナになど、なりたくはなかった。


しかし


気付いたら、ハイエナ以下だった。


獣のクソをかき集めて、後ろ向きに転がす虫。

なんていったっけ?

その虫の名前は?





最後に、謹んで、川村カオリさんのご冥福をお祈り致します。



もっとも好きな曲


Sweet Little Boy


リング画像はロシア語バージョン



上記記事のZOO