妄想〜死の世界から | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

妄想〜死の世界から

昨夜、夢を観た。

美しい女の子を、愛し、愛されるというものだった。

夢だというのに、俺は全身を震わせるほどの幸福感に包まれ、そして喘いだ。

俺が欲しいものは、これなのだ。

そう悟った瞬間、車の中で目が醒めた。


現実。


それは、死の世界だった。


夢の世界が生で、現実が死。

それがたとえ逆でも、人は毎日朝に目覚め、飯を食い、糞をひり出し、働き、時には交合し、夜になると一旦は死んでしまう。


昨夜。

酒席に出たまでは良かったが、情けない事に、帰りの電車賃すらなく、俺は車の中で眠るしかなかった。

目が覚めると、そのまま仕事だった。




俺は、職場ヘ向かってゆっくりと歩て行く。

途中、一歩も前に歩を進める事が出来なくなり、交差点で立ち尽くしてしまった。

行き交う車も人もまばらで、まるで死んだ街のようだ。

時々、目の前を通る人たちは、殆どが老人かガキどもで、どこか死人を連想させた。

空を見上げてみる。


強烈な夏の日差しは、分厚い灰色の雲に塗り込められ、窒息していた。

疲労のせいなのか、目眩におそわれ、体がぐらつく。

俺の口が無意識に動いていた。

「つまらない、毎日だな」

自分でも驚くくらい、デカい声で呟いていた。

すると目の前を、怪訝な視線を俺に向けたまま、ちょっといい感じの女が通り過ぎていった。

俺は、遠ざかるその女の尻やら、足を眺め続ける。


そして、目を閉じた。

と同時に、何も聴こえなくなった。


俺はふたたび、夢の中に引き込まれていった。