先日、今から36年前に発行されたテレビ情報誌『週刊ザテレビジョン』1985年1月19‐25日号掲載の「'85のブラウン管が見えてくる TVマン40人の只今企画進行中!」なる特集記事を振り返って読んでいたら面白い発見をした。メインの記事は、著名なTVマンたちが今年(つまり1985年)の豊富と春改編期に送り出す新番組の準備具合を一様に述べているだけのものなんだけど、「テレビ制作者の本棚を覗いたら」というコーナー記事が目を見張った。必殺シリーズのプロデューサーとして知られる、朝日放送の山内久司は前年にベストセラーの丸谷才一著『忠臣蔵とは何か』を提示していたのだ。そのコメントは以下の通り。

 

「日本人にとっての忠臣蔵をみごとに分析してますね。僕自身は本で得たことを、一度身体の中で濾過して役立てようと思っています。それが何年先に開花するかは分からないけどね。」

 

昨年末、ツイッター界隈で話題になった映像があった。時代劇で、早駕籠(かご)に乗って街道を急いで行くという描写なのに、その背景には現代の産物である新幹線がビューン!と走っているというもの。コーナー記事から“何年先”の二年後、1987年1月2日に放送した『新春仕事人スペシャル 必殺忠臣蔵』からの一場面で、如何にも必殺らしいメタ演出であった。ほかにも、いまではひとつのパターンである“仇討ちには消極的だった大石内蔵助”が描かれるなどして、それまでの忠臣蔵ものとは一風変わった設定は、やはり『忠臣蔵とは何か』から影響を受けているのだろうか。

 

時代劇の背景に新幹線が走る?! 古い時代劇のシーンが話題に - Togetter

 

それから興味深いことに、この「テレビ制作者の本棚を覗いたら」のコーナーには、元TBSの名物ドラマプロデューサーで制作プロダクション・カノックスの代表であった久世光彦も『忠臣蔵とは何か』を提示していた。「丸谷氏の評論は日本人のものの考え方が文化論にまで高められていて触発されるところがいっぱい」と同じようなコメントを残していたが、カノックスの制作で忠臣蔵ものは作られることはなかった。

 

シンクロニシティのように、同じ時期に同じ題材とそこにあるテーマを同じ思いで汲み取るのは、よくあることである。だが、すでに完成して世に放たれたものを見て同じものにして作るのはパクリ以外の他でもない。

 

あいかわらず、前置きは長くなってしまったけど、今回その題材にしたいのが、『太陽にほえろ!』第674話「友よ、君が犯人なのか」である。1985年12月6日放送分のもので、もうこのころは『太陽にほえろ!』に飽きていて本放送では観ていない。四半世紀近く経ってからスカパー!でやっていたのを観たのが初見であった。前年にレギュラー入りした石原良純演じるマイコン刑事の主演エピソード回で、その人物設定のコンピューター犯罪への応対がテーマとなっている話である。で、それを観ていて驚いたのだ。“「侵入者の夜」とまったく同じだ!”って。

 

手書き&ガリ版刷りでホチキス止めという小学校のクラスで出す文集みたいなつくりの台本

 

「侵入者の夜」とは、NHKが「NHK特集」(現・NHKスペシャル)の大型企画として1985年4月から一年間にわたって放送した、10年後の日本社会について予測したドキュメントとドラマを掛け合わせた『THE DAY その日・1995年日本』の一編で、第3回として1985年6月3日に放送されたものである。当時、大人ぶりたかった小学6年生の茶屋町少年はこの『THE DAY その日 1995年・日本』のシリーズを毎回熱心に観ていて、とくにこの回は印象に残ったものとなっている。

 

NHK特集 THE DAY その日・1995年日本 | NHK放送史(動画・記事)

 

THE DAY その日・1995年日本「冬の蝶翔んだ 若者はどう変わる」 | 茶屋町弥五郎の趣味シュミtapestry (ameblo.jp)

 

「侵入者の夜」 … 大手工業機械メーカー・大和製作所の重役・岸部は、秘密裏に進めていた新技術満載のプラント計画と同じようなものがライバルの武蔵工業から発表されたことによって、内部から機密情報が流れているのではないかと疑う。そこでコンピューターに強く、関連会社の社長を父に持つなどして信頼が厚い社員の戸田清之に対して普段の仕事から離れてデータベースの端末操作による選別で該当社員を絞り出すように特命を出した。早急な解決を望まれたことから、公開されている情報だけではなく、部外秘である勤務評価や給与の査定などクローズにされた情報、果ては外部のハッカーを雇って金融機関などにある信用情報に触れることも許諾する。連日、戸田は同じ会社に勤める社員たちのプライバシー情報を覗き込むことに罪悪感を抱く。杞憂に終わったが、検索条件によって父親の安雄が最後のほうまでリストに残ってしまうなど、自分が実際に知る人物像とは剝離した、検索情報だけで判断する人物像に危うさを感じつつ、三人の社員を絞り出す。

 

「友よ、君が犯人なのか」 … 病死したルポライターの部屋で警視庁のコンピューターから引き出された機密情報のファイルが発見された。知人によれば、ルポライターが警察の人間から買ったと話していたもので、それを裏付けるようにルポライターの口座からは情報が流出した時期に200万円が引き出されていた。事態を重視した警視庁上層部の浜野警視監は、今回の初動捜査を担当した七曲署捜査一係へ引き続いて捜査するように特命を出し、そのなかのひとり、マイコン刑事と本庁勤めのコンピューター技師で浜野警視監の甥である村岡には、データベースの端末操作による選別で、情報を売ったとされる警視庁職員を絞り出すように指示を出した。早急な解決を望まれたことから、公開されている情報だけではなく、部外秘である勤務評価や人物査定などクローズにされた情報、果ては警察の権限で金融機関などにある信用情報に触れることも許諾する。連日、マイコン刑事は同じ警視庁職員たちのプライバシー情報を覗き込むことに罪悪感を抱く。杞憂に終わったが、検索条件によってマイコン刑事の同僚であるデューク刑事が最後のほうまでリストに残ってしまうなど、自分が実際に知る人物像とは剥離した、検索情報だけで判断する人物像に危うさを感じつつ、三人の警視庁職員を絞り出す。

 

プロローグは別にして、上層部からの特命を受けて三人の容疑者を絞り出すところまでがまったく一緒の展開なのだ。「友よ、君が犯人なのか」では正味45分あるところの三分の二近くの尺をここまで使ってきている。結局、どちらも絞られた三人は無実で、「友よ、君が犯人なのか」のほうではそこから刑事ドラマらしい展開となる。マイコン刑事とともにデータベースで選別をしていた村岡警部補がその作業中に知人の誰かを真犯人だと疑い、独りで直接会いに行くも逆に殺される事件が起こって、村岡が遺していた検索結果を頼りにして七曲署捜査一係が捕まえるというかたちで締める。

 

前回の記事のように、同じ時期の放送だったり、見過ごしてしまうようなただ一度きりの放送だけならば、「偶然の一致」と言われればそれまでのことだけど、「侵入者の夜」は8月24日に再放送が行われ、それに合わせてNHK放送出版協会(現・NHK出版)からドキュメント部分の取材過程とドラマ部分の脚本を掲載したものが書籍化されているのだ。「侵入者の夜」の本放送から半年、再放送と書籍化から3か月半としても、12月6日放送の「友よ、君が犯人なのか」まで充分に時間がある。