「ロシア語」(ラテン文字転写) 「村山七郎訳」 『ごんざ訳』
「тать」(tati) 「盗人、賊」 『ぬすど』
「татбище」(tatbishche) 「盗む所」 『ぬすどするとこる』
(どろぼう)+(-ище)(-ishche)(場所をあらわす接辞)と、ごんざがかんがえて『ぬすどするとこる』という訳語をかいたことはすぐにわかった。
だけど、『ぬすどするとこる』というのが何を意味するのか、今もわからない。
(どろぼうする場所)というのがきまっているのなら、だれもそんなあぶない場所にはいかない。逆に、役人はそこでまっていてどろぼうをつかまえるだろう。
役人がつかまえたどろぼうをいれておく(ブタ箱)の意味なら『するとこる』じゃないし、ごんざは『どぅや』「牢屋」という訳語をかくだろう。
ごんざが何かまちがえているんじゃないか、(-ище)があやしいんじゃないか、とおもって、ごんざの辞書に(-ище)の後方一致検索をかけてみた。といっても、電子辞書じゃないから、丸一日かけて手作業でさがすんだけど。
「виталище」(vitalishche) 「客として滞在するところ」『なくさむとこる』
「вмЕстилище」(vmestilishche)「収容する場所」 『ふとつぃなるとこる』
「гульбище」(gulibishche) 「遊楽する所」 『あすぶとこる』
「златолiялище」(zlatoliyalishche) 「金を鋳造するところ」 『きんにるとこる』
「зрелище」(zrelishche) 「見物する所」 『みるとこる』
「игрыще」(igryshche) 「遊ぶために集まる所」 『あすぶとこる』
「молбище」(molbishche) 「祈祷所」 『おがむとこる』
「обиталище」(obitalishche) 「居住する所」 『おるとこる』
「прибЕжище」(pribezhishche)「走り込む所、避難所」『ふぁしるこむとこる』
「судилище」(sudilishche) 「法廷、裁判所」 『さばくとこる』
「хранилище」(khranilishche)「保管所」 『たしなむとこる』
「чтилище」(chtilishche) 「異教徒寺院」 『おがむとこる』
「блудилище」(bludilishche) 「女郎屋」 『わるかことするとこる』
「требище」(trebishche) 「生贄を祭る所」 『まつるとこと』
「сонмище」(sonmishche) 「古代ユダヤ人が法律の解釈を聞くために集まったところ。また国民の紛争問題を長老たちが解決したところ。」 『わるたくむとこる』
「юзилище」(yuzilishche) 「牢屋」 『どぅや』
「борбище」(borbishche) 「格闘競技場」 『すもといば』
「влагалище」(vlagalishche) 「容れ物」 『いいぇもん』
「жилище」(zhilishche) 「住宅地」 『むら』
「капище」(kapishche) 「寺院」 『てら』
「пристанище」(pristanishche)「碇泊所」 『みなと』
「училище」(uchilishche) 「学校」 『ししゃ』
「торжище」(torzhishche) 「市場」 『いちば』
「вiнопро(да)лище」(vinopro(da)lishche)「酒売り場」 『さかや』
「сЕдалище стулъ」(sedalishche stul') 「椅子」 『ちょくろく』
「страннопрiятелище」(strannopriyatelishche)
「遍歴者を泊める所」『ふぁちふぃらくのいぇ』
(鉢ひらきの家)
なるほど『とこる』がたくさんあって、しかも「学校」のような基本語彙もあるから、ごんざの頭の中に(-ище)は(場所をあらわす接辞)という意識があったのはまちがいない。
でも、(場所をあらわす接辞)といっても、どれも(~するために用意した施設)という意味だから、『ぬすどするとこる』(どろぼうするために用意した施設)というのはちがうとおもう。