ごんざの辞書では(牢屋)の(牢)は、全部ウ段母音の『どぅ』になっている。(ただし、ごんざの別の著作の『項目別露日単語集』では(doja)『ドヤ』)
(ろうそく)の(蝋)は、全部オ段母音だ。
旧仮名づかいで(牢)は(ラウ)、(蝋)は(ラフ)だから、それがごんざのことばでは母音のちがいになっている、ということなんだろうか。
母音についてはそれでいいけど、(蝋)には『ど』と『ろ』のふたつのつづりがある。その上、『ろ』は「ро」(ro)ではなく「ло」(lo)とつづられている。
「ロシア語」(ラテン文字転写) 「村山七郎訳」 『ごんざ訳』
1「воскъ」(vosk') 「蝋」 『ろ』
2「восковый」(voskovyi) 「蝋でできた」 『どそくのと』
3「вощу」(voshchu) 「蝋をぬってみがく」『どぬる』
4「свЕща」(sveshcha) 「蝋燭」 『ろ』
5「свЕщникъ」(sveshchnik') 「燭台」 『ろつくい』(蝋つくり)
鹿児島県立図書館で原本のコピーをみたら、4は最初「до」『ど』とかいたものを「ло」『ろ』にかきかえてあった。
ごんざの別の著作の『日本語会話入門』には『ど』ででてくるけど、『項目別露日単語集』には『ろ』ででてくる。
「447. jak dosok andon, 蝋燭をもやす。
ヤク ドソク アンドン
(焼く・蝋燭・行燈) 」
「31.食卓 19 zim' lo ジミ ロ 燭台」(「ジミ」はろうそくの灯心)
オ段母音の(ろ)が語頭にある場合、『ど』か『ろ』か、ごんざもまようほど微妙な発音の差だったということなんだろうか。