和楽衣生活 -2ページ目

長×キョン小説「No Enter」(5)

 落ち着ける場所といっても、俺たちには文芸部室以外に思いあたる場所はなく、当たり前のように部室まで直でやってきた。
 長門がポケットから部室の鍵を取り出すと、いつもの落ち着ける空間を手に入れた。 
 昼の部室棟は人も少なく、俺たちにとって最善の場所だった。
 部室に入ると俺と長門はパイプ椅子を並べて座った。

 「いや~参った、参った。気がついたら、みんなに注目されてるんだもんな。SOS団の活動でもあんなに注目された事はなからビックリしちまった。」

 俺の言葉に長門が一瞬きょとんとする。
 『しまった!』と思ったね。気を付けてはいたんだが、気を抜くとついつい元の世界の事を口にしてしまう。

 「ごめんなさい…。あんな騒ぎになると思わなかったから…。」

 「なに謝ってんだよ。別に大したことじゃねーよ。」

 「みんなに誤解されるようなことになって、彼方に迷惑をかけてしまった。」

 その言葉に、胸の奥がズキンと痛みが走る。

 「誤解…ねぇ。誤解したい奴には誤解させとけ。それより弁当ありがとうな。」

 俺は少しモヤモヤとした気分になり、そんな気分から抜け出すべく長門の作ってくれた弁当を食う事にした。
 包みを解き、弁当の蓋を開けると中には白飯ではなく『海苔巻きおにぎり』に『ゆかりご飯のおにぎり』に『野沢菜の混ぜ込みおにぎり』とそれぞれ違う味のおにぎりが作られていて、おかずにはお弁当の定番といえる卵焼きとウインナー、そして小さなハンバーグとプチトマトが入っていた。
 
 「こりゃ美味そうだな。」

 「あまり見ないで。恥ずかしいから…」

 「そう言われたって、目を瞑って食べるわけにもいかないだろ。それじゃ、いただきまーす!(…いただきます。)」

 長門の作ってくれた弁当は、思ってた以上に美味しくて、箸は進むし手は伸びる。
 あっというまに完食してしまった。 

 「美味かったよ、長門。サンキュー」

 「本当?良かった。」

 あっという間に完食した事が嬉しかったのか、笑顔がキラキラと輝いて見えた。
 美味い弁当を作ってもらった上に、食っただけでこんなに喜んでくれるなんて男冥利に尽きるぜ。
 まぁこのサプライズの仕掛け人はあいつ以外にはいないのだが、やっぱ気なるので長門に直球でぶつけてみることにした。

 「それより何で俺にわざわざ弁当作ってくれたんだよ。」

 「それは…」

 「朝倉になんか言われたろ。」

 「!!」

 「図星だな。別に責めてるわけじゃないから勘違いするなよ。」

 朝倉にも一言礼でも言ってやるとするかな。
 
 


 「で?」

 「いや、だからさ朝倉にもお礼を言っておかなきゃ悪いなと思ってな。」

 帰宅後、俺は朝倉にもお礼を言うために電話をしていた。の・だ・が…

 「いい加減にしなさいよ。私がキョン君にお弁当食べさせるためだけに長門さんに作らせたとでも思ってるの?あんたバッカじゃない!」

 うおぉぉぉ、なんか朝倉さん超怒ってる~

 「はぁ~…なんでキョン君に長門さんを任せようと思ったんだろ。私が愚かだったわよ。」

 「待て待て待て。お前がなんでそこまで俺と長門のためにやってくれているかは分からんが、やってくれてる意味は分かってるぞ。キューピットの朝倉さん。」

 「じゃぁなんでコクんないのよ。このヘタレ!」

 「あのなぁ、あの状況で言えるとでも思ってるのか?」

 そう。美味い長門の手作り弁当を食べた後ちょっと雑談をして楽しい一時を過し、授業開始ギリギリに教室に戻ると、そりゃもう両方の組で『休み時間いっぱいいっぱい二人で何処で何してたんだ』みたいな逆に注目の的になってしまい。授業後両組の担任に呼ばれ俺と長門二人して注意を受ける始末だった。

 「その後、時間あったでしょうに。」

 「なら、お前は出来るのか?散々クラスメートに注目された上、教師には怒られ、その数分後にコクるなんてこと。それにな、その後長門は謝りっぱなしだし、慰めるのに一苦労だったわ!」

 「うぐぐ、長門さんったら………。わかったわよ。じゃ、キョン君にもう一度だけ期待してあげるから。長門さんのこと頼んだわよ。わかった?」

 うわぁ、ものすごく上から目線だ。やっぱこの女好きになれねー!

 「おう、まかせとけ朝倉。色々ありがとうよ。一応、感謝はしとくぜ。」

 「いえいえ、どういたしまして。一応、期待だけはしてみてあげるわ。」 

 はぁー、なんて女だ。ヤレヤレだぜ。
 俺を襲った時の朝倉は急進派とかそんなの関係なく、もともとの性格だったんじゃねーか。
 そんなことより次は長門だ。長門の電話番号は…っと。

 「キョンく~ん、お電話終わった?」

 「まだだよ。俺の部屋にわざわざ遊びに来ないで、自分の部屋で宿題でもしてなさい!」

 「シャミがキョン君と遊びたいって。ねーシャミ。(にゃ~)」

 シャミセンは一鳴きすると、妹の腕からすり抜け俺の膝の上に飛び乗ってきた。

 「こらシャミセンやめないか。」

 「それじゃぁキョンくん、また後でねぇ~」

 我が妹は俺に猫を押し付けると、ドアをバタンと閉め階段を下りていった。どうやら自室で宿題をする気は無いらしい。
 しかし妹よ、大人になれとは言わん。ただ年相応にはなってくれないか?兄としてお前の言動には不安が募るばかりだ。
 妹が立ち去ったドアをヤレヤレとばかり見ていると、シャミセンが『うにゃ~』と鳴きながら俺の手にある携帯を弄くろうとしていた。

 「おっと、長門に電話しなきゃだな。シャミセン、大人しくしてろよ。」

 「ぅにゃっ」

 今のは肯定の鳴き声と受け取っていいのか?

長×キョン小説「No Enter」(4)

■12月23日■


 朝の冷え込み温度は毎日更新しているようで、今日も無事寒さで耳が痛い。
 少々家を出るのが遅れた俺は、気持ちだけはダッシュで長門との待ち合わせ場所へ急いだ。

 「すまん長門。待たせちまったな。」

 「平気、私も今来たところ。」

 「その割には寒そうなんだが…。無理すんなって。ほれ、そこの自販機で買ったヤツだからまだ暖かいぞ。」

 俺は数分前に買ったホットココアをコートのポケットから取り出し長門に手渡した。

 「でも、彼方の分…」

 「いいんだよ。それは、遅れたお詫びに長門の為に買ったココアなんだから。」

 ハルヒやSOS団におごり慣れている俺だが、長門の為と思うとどうも照れてしまい、ついそっぽを向いて頬を人差し指でポリポリと掻いてしまう。

 「ありがとう。とても暖かい…」

 そう言ってホットココアの缶を両手で握りしめ何だか嬉しそうにしている長門を見てると、こっちまで暖かくなってしまう。心の中だけだがな。
 よく見れば長門の後ろ髪に寝癖を発見し俺はついついその部分を撫でてしまった。
 長門は『きゃっ!』と可愛らしい悲鳴を上げ、朝から得した気分になる。

 「驚かせてすまん。寝癖がついてたからつい…な。」

 俺がにへらと笑っていると、長門は自分で寝癖を確認しコートのフードをカポッと被って頬をぷくっと膨らませた。

 「いじわる…」

 「可愛いからいいんだよ。」

 「……!!……今なんて。」

 目をまん丸にした長門の顔が徐々に赤く染まっていく。
 そして、俺はというと一気に沸騰した血液が顔に達た。
 さっきまで痛かった耳が熱くなり、沸騰した血液が頭頂部へ達すると目眩がしてきた。
 失言だ。あまりの長門の可愛さについ言葉に出しちまった。

 「何でもない。何も言ってない。長門遅刻するから急ぐぞ。」

 「あっ、待って…」 

 俺はマフラーで顔を半分隠し、長門はフードを深く被っていそいそとした登校になってしまった。

 授業も前半戦を無事クリアし、ランチタイムが終了すれば後半戦開始だ。

 「で、今はそのランチタイムなんだが、俺は昼飯をどうしたらいいんだ?」

 「知らないわよ。なんで私がキョン君のお昼ご飯の面倒まで見なきゃいけないのよ。」

 「お前だろうが、昨夜電話かけてきて『弁当は持ってくるな』とか言ったのは!」

 そう、俺は本日弁当無しなのだ。正確には弁当をキャンセルしたのだが。
 昨夜のことだ、俺が自室で宿題をやってる合間の休憩中…大事な所などでもう一度言っておく。宿題をやってる合間の休憩中に携帯の呼び出し音が鳴り、携帯画面を見ると登録した覚えのない『朝倉涼子』の名前が表示されていた。
 不審に思いつつも出た電話の相手は表示通り『朝倉涼子』で電話の内容はこんな感じだった…

==================

 「あっキョン君。一人エッチしようとしてたらかけ直すけど、大丈夫。」
 「朝倉ぁ…イタ電なら切るぞ(怒)」
 「可愛い冗談じゃない。分かりなさいよ。」
 「可愛くもないし、分かりたくもない、ただのエロオヤジなだけだ。ってかキャラ変わってないか、お前?…何の用事なんだよ。」
 「明日のお弁当のことなんだけど。」
 「弁当がどうした。」
 「要らないから。」
 「は?!」
 「持って来なくていいから。」
 「意味が分からないぞ。」
 「意味なんてそのままよ。『弁当持ってくるな』以上!じゃぁね。(ブチッ!)」
==================

 こんなふうに、朝倉はハルヒばりの電話を寄こしてきたのだった。
 素直で律義な俺は母親に弁当をキャンセルし、弁当も無く腹を減らして、今ここにいるのだ。

 「そうだっけ?」

 「朝倉、お・ま・え・なぁ~…って、ちょっと待て。お前のその手に持っている包みは何なんだ?」

 「お弁当。」

 朝倉は、きょとんとした表情で『これは今から私が食べるお弁当ですが、何か不都合でもありますでしょうか?』ってな感じで平然と言ってのけた。

 「お前は本気で俺と喧嘩がしたいみたいだな。」

 「キューピットの朝倉涼子ちゃんが、喧嘩なんてしたいわけないじゃない。」

 もう、開いた口が塞がらねーよ。自分でキューピットって普通言えるかね。それにお前はキューピットじゃないキラーだ!
 朝倉を相手にしても時間の無駄だし、怒る気力と体力も今は勿体ない。もう学食で何か食ってこよう。
 ハルヒはいないが、どうやらこの言葉は健在のようだ。
 『忌々しい、あぁ忌々しい、忌々しい。』

 俺は学食で腹の虫を黙らせようと席を立つと、教室後方出入り口らか国木田が俺を呼ぶ声がした。

 「キョン。隣の組の長門さんが用事があるみたいだよ。」

 『ナイス・タイミング、長門さん。』この時、朝倉はきっとこんなふうに心で叫んでいただろう。

 「珍しいな長門。ってか、訪ねて来るのは初めてか。どうした?」

 「あの…お弁当…」

 「あぁ昼飯か。今日は俺持ってきて無くてさ、仕方ないから今から学食にでも行こうかと思ってたところだよ。長門も一緒に行くか?」 
 
 「その…これ、よかったら。」

 そう言って、少し震える手で俺の目の前に青いハンカチに包まれた四角い物が差し出された。

 「美味しくないかもしれないけど…よかったら、食べて。」

 後ろを振り返ると、朝倉がウインクしてきやがった。すまん朝倉、確かにお前はキューピットだったようだ…今だけは。

 「これ、貰っていいのか?長門。」

 「いい。」

 長門のお手製弁当を食わず、学食へ行くバカがこの世にいるだろうか。
 俺はどんなに美味い食事が用意されていようが長門の弁当の方を選ぶね。

 「長門、ありがとう。」

 長門の差し出してくれた弁当を俺は両手で有り難く受け取った。
 だが、ここで一つ問題がある。それは俺と長門を取り囲むように5組と6組の生徒で輪ができ、それぞれがヒソヒソと話をしている。
 ヒソヒソ話と言っても悪口や陰口ではなく、ちょっとした冷かしと言ったところだ。
 しかし悪口じゃないからといって、この状況で普通に弁当を食うという図太い神経を俺は持っちゃいない。


 「長門…お前は弁当食ったのか?」

 「…まだ。」

 「それじゃ、落ち着ける場所で一緒に食べようか…」

 「…うん。」

 長門が教室へ自分の弁当を取りに戻るとクラスの女生徒から「頑張って、長門さん」とか「有希ちゃんファイト」とか言われて耳を真っ赤にして小走りに出てきた。

長×キョン小説「No Enter」(3)

 「私でよければ、相談に乗る。とても楽しみ。」

 「おいおい、あんまり期待しないでくれ。プレッシャーになる。」

 こうして今日も長門と二人の放課後タイムは終わりを告げる。
 楽しい時間は過ぎるのが早いな。


 『ピンポーン』

 「長門さんいるー?(って、いなかったらキョン君、刺すからね。)」

 『ガチャ』

 「どうしたの?」

 長門の自宅マンションの玄関前に私服姿の朝倉涼子が立っていた。
 薄いピンクのふわふわとしたセーターにブラウンのロングスカート、谷口が見たら鼻血を出して火星まで飛んでいってしまうんじゃないかってくらいの女の子らしい似合った出で立ちだ。
 一方長門の方はというと、こちらでも基本制服姿ってのは変わらないらしい。
 「キョンく~ん、独り言?どうしたの、わき腹なんて擦って。イタイの?」
 「いや、別に…。なんとなくな???」
 
 「もう長門さんったら、いつも言ってるでしょ、帰ってきたら服を着替えなさい。さぁ入って、入って。」

 長門は朝倉に押し込められるように自室内へ入り、朝倉も自分の家のごとく長門の家に上がりこむ。
 そしてタンスを勝手に開け手早くタートルネックのシャツとデニムのスカートを取り出し長門に手渡す。

 「はい長門さん。着替えてらっしゃい。」

 長門は『制服のままでいい』と拒んだが、無言で寝室を指差す朝倉に抵抗できず、ふてくされ気味にしぶしぶと着替えに寝室へ向かう。
 制服を脱ぎハンガーへ掛け、朝倉がチョイスした服に袖を通す。その間に朝倉はリビングのコタツに入り雑誌をパラパラとめくりながら着替え中の長門に話しかける。

 「長門さん、ご飯はちゃんと食べた?」

 「食べた…」

 「洗い物は?」

 「終わった…」

 「お風呂は?」

 「まだ・・・」

 「彼とキスくらいした?」

 「!!!」

 顔を真っ赤にした長門が寝室からの飛び出してくると口をパクパクさせながら朝倉を指差し、声の無い訴えをした。

 「馬鹿ね、冗談よ。」  

 あのヘタレ男がそんな事出来るなんて思っちゃいないわよ。その前にどうせ長門さんに、まだ告白すらしてないでしょうから。

 「私戸彼派爽言宇関係邪鳴手、只野友達出、同字文芸部員手岳打殻…」

 「長門さん落ち着きなさい。文字が意味不明で訳が分からないわ」

 「私と彼はそういう関係じゃなくて、ただの友達で、同じ文芸部員ってだけだから…」

 朝倉はコタツに片肘を付きネガティブな考えの長門にヤレヤレといった表情を浮かべた。

 「ふーん、ただの友達ねぇ。」

 「そう。彼とは友達…それ以上でも、それ以下でもない。」

 「キョン君とは友達のままって方が私も賛成だわ。だってアイツ最悪だもんね。人より秀でたものないし、優柔不断だし、事無かれ主義だし、ヘタレ野郎だし、頭は悪いし、顔も悪いし、格好も悪いし、女好きだし、むっつりスケベだし、たまに訳の分からないこと言うし、バカだし、アホだし、マヌケだし、おろカブだし、トンマノマントだし、豚もおだてりゃ木に登るし…」

 朝倉が長門の前でキョンの悪口を少し楽しげにスラスラと並べ立てる。
 その言葉に長門は手を握り、唇を噛締めて聞いていたが、とうとう我慢できなくなり叫んだ。

 「やめて!」

 長門有希の感情的爆発だった。
 自分のことなら言われても仕方のないこともあるし、我慢もできる。でも彼のことを悪く言われるのは心が引き裂かれてるようで辛かった。我慢できなかった。許せなかった。

 「朝倉さん、どうしてそんなこと言うの?彼のこと何もしらないくせに!彼はとても優しいし、私のことを分かってくれる。優柔不断に見えるのは他人のことがほっとけないからだよ。訳の分からないことを言うのは、きっと何か理由があるんだと思う。それに彼は格好悪くなんかない…彼を悪く言うのは私が許さない。」 

 長門の感情的爆発を受けても朝倉は冷静に長門の顔をじっと見つめる。
 そして、朝倉の一言で長門の方が意気消沈する。

 「キョン君は、ただの友達…なんじゃないの?」

 「そ、それは…」

 朝倉は明るく、そして確実に長門を追いこんでいく。

 「好きなんでしょキョン君のこと。長門さんは隠してるつもりなのかもしれないけれどバレバレなのよね。」

 「彼のことは好き。でも私では無理…私は可愛くないから…。彼は、もっと明るくて綺麗で行動力とかある人が好み…だと思う。」

 「あら、それって私のことみたい☆」

 「いや、その…朝倉さんってイメージじゃなくて…」

 長門が少し困ったような表情で苦笑いしつつ、ツッこんだ。

 「悪かったわね(Boo!)。一つ良いこと教えてあげましょうか。キョン君って変わった娘が好きなんだって、うちのクラスの国木田君が言ってたわ。」

 「変わった人???」

 「そ、長門さんって十分変わってると思うけど。」

 「(ううっ)本当のことだけど、ひどい…」

 「長門さん、勝手にキョン君の好みを決めつけちゃダメよ。キョン君が長門さんに優しくて、長門さんのことを分かってくれるなら、それはキョン君が長門さんのことを気にかけてるからじゃないかしら?そりゃキョン君が長門さんのことを好きって可能性は100%じゃないけど0%でもない。でしょ。待ってるだけじゃなく、長門さんからも行動してみてもいいんじゃない?」

 朝倉涼子の長門有希に一歩を踏み出させるための一芝居。
 自分でも『何やってるんだか』と思いはしたが、何も変わらず、奥手な二人に苛立ちを抑えきれなかった。

 「さぁ~て、私は帰るかな。」

 朝倉は立ち上がりスカートをパタパタと叩くと、玄関へと向う。
 長門はその後ろ姿に声をかけ、朝倉は振り返らずに答える。

 「ねぇ、朝倉さんはなんで悪役を買ってまで私のために色々してくれるの?」

 「私はね、長門さんに幸せになってもらいたいの、ただそれだけよ。そのためなら何だってするわ。」

 靴を履き、くるりと回って長門の方を向くと、後ろで手を組み前屈みになり悪戯っぽくウインクをした。
 同じ女子から見てもその行動がかわいらしく思えるほどだ。

 「明日キョン君にお弁当でも作ってあげたら?じゃぁね。」

 「あ朝倉さん…」

長×キョン小説「No Enter」(2)

 「で、どうしてなの?」

 「どうしても、こうしても、ない。俺は一応文芸部員だし、長門だって文芸部員だ。たまたま登校時間が一緒になったから、一緒に来たまでさ。」

 「キョン、いつから文芸部に入ったのさ。キョンが本を読んでる所見たこと無いんだけど…興味あったの?」

 「キョンが興味を持つ本なんて、漫画かエロ本くらいだろ。どうせ、長門有希にでも頼まれて鼻の下を伸ばして入部したに決まってるぜ。」

 心外である!俺だってライトノベルくらいの小説は読むし、入部を誘ったのは入部届けを手渡してくれた長門のようなもんだが、決して鼻の下を伸ばして入部などしていない。

 「な~んだ、結局文芸部に入部したんだ。でも嘘は感心しないわね。」

 「嘘だと。」

 「だって今朝、長門さんと学校行こうと思ったら用事があるからって断られちゃったわよ。それってキョン君と約束してたってことよね。」

 ちっ、バレてたか…

 「なにぃ、そうなのかキョン。お前、本当に長門有希と付き合ってるのか?!一人だけ良い目にあいやがってチクショー!!」

 「あ、ちょっと谷口どこ行くの?もうすぐ授業始まるよ。まったく仕方が無いな。」

 谷口はいつものごとく勝手に思い込み走り去ってしまった。
 国木田も谷口を連れ戻しに後を追ってこの場からフェードアウト。
 谷口は知らんが、国木田はホームルーム前には戻って来るだろう。

 「で、キョン君。長門さんと付き合うことにしたの?」

 くそぉ、谷口と国木田のフェードアウトでこの話しは終わりかと思ったのに…しつこいぜ、朝倉。

 「俺は文芸部には入ったばかりだし、長門とも付き合ってない。」

 「ふーん。それって…」

 朝倉が何か言いかけた時、教師がやってきて話は一旦終了をむかえた。が、朝倉は俺の席の真後ろなので授業中にシャーペンで俺の背中を突いたりして話を蒸し返してきやがった。
 しかし、懐かしくなるじゃねーか。その行動、まるでハルヒそのものだな。

 「で、どうするの?」

 「どうするって何がだよ。」

 「これから長門さんと付き合うかどうかって事よ。まぁキョン君が本気なのは[Enter]キー押さなかった事で分かったけど。」

 「なんだって?」

 「なんでもないわよ。それより長門さん、今かなり有頂天になってるわよ。ちゃんと長門さんのこと真剣に考えてあげてね。私の話はここまでよ。」

 朝倉は言いたいことだけ言うと、勝手に話を終わらせやがった。俺としては根掘り葉掘り詮索されずにラッキーではあったが…
 それにしても、なんで[Enter]キーの事しってたんだ?俺は『鍵』の事も『緊急脱出プログラム』の事も『パソコン画面に表示された長門のメッセージ』の事も朝倉には話してないぞ。
それとも長門にでも聞いたのか?長門は俺の隣で元の自分が書いたメッセージを見ていたはずだからな。可能性は無きにしも非ずか。

 それ以降、本当に朝倉は質問してこなくなり普通に放課後をむかえた。
 俺は長門の待つ文芸部室へと足を運ぶが、その足が知らず識らずのうちに早足になってしまうのは何故だろうな。
 部室棟で朝比奈さんとすれ違ったが、あの後なんとか暴漢者という汚名は払拭してもらい、おっかなびっくりではあるが挨拶をしてくれるようになった。
 部室に着くと『コンコン』とノックをし許可は無いがドアを開け部室に入る。

 「よーっす。長門だけ…」

 慣れとは怖いモノで、いつもの調子で『長門だけか?』と言うところだった。こんな事を口にすれば、長門にまた不信がられるかもしれないからな。それだけは御免被りたい。

 部室内にはメイド服の朝比奈さんもいなければ、ニヤケ顔でレトロゲームを誘ってくる古泉もいない、そして団長机にふんぞり返って『遅ーい、バカキョン』などと暴言を吐く団長様もいない。そして窓際で石膏像のように動かない長門の姿もない。
 俺の中だけの真実。数日前まで目にしていた光景をそう簡単には忘れられそうにない。

 ドアの前で感傷に浸り立ち尽くす俺を長門がじっと見ていた。

 「あ、悪い。長…部長、遅くなりました。」

 そう言うと俺は机の上にカバンを置きこっちの世界の指定席となりつつある、元の世界での古泉の座っていた場所に腰を下ろす。

 「あの…部長って呼ばなくていいから。私たち二人しかいないし、名前で呼んでもらった方が………それに、部長って言われると他人行儀で、あまり好きじゃないから。」

 「あー…そうか、俺もその方が助かるよ。どうも『部長』ってのは呼び慣れていないから言い辛くてさ。」

 「無理は良くない。」

 「そうだな。」

 「そう。」

 (クスクスクス…)
 (アハハハハハ…)

 後で聞いた話だが、文芸部から笑い声が聞こえてくる事は今まで一度も無かったそうだ。慢性人材不足だったのか、それともそれまでの慣習だったのか?
 しかし、これからは前任者はいないし、だんまりを決め込んだ他の部員もいない。根暗な文芸部から脱却し、新たな楽しい文芸部のスタートって事でいいだろ。その方が部員も集まるかもしれないしな。

 俺は長門のようにハードカバーの分厚い小説をまだ読むようなレベルじゃないわけで、おそらくチャレンジしても5分後には枕と化している自信がある。ってなわけで読みなれたライトノベルを読んでいるのだが…。

 「なぁ、長門。」

 「なに?」

 「前にも聞いたけど、小説書いたりしないのか?」

 もちろん、俺が始めてこの部室に来たとき、長門が移動させていたパソコンのデータはこいつが書いた小説だと思っているわけなんだが。

 「………」

 長門はというと4秒の沈黙の後に首を左右に振るだけだった。

 「そっかぁ…」

 わざと残念そうな素振りで言いながら長門を見ると、長門は気まずそうに俯き視線をそらす。そしてちらりと俺を覗き、また俯く。その仕草が可愛くてたまらない…って俺はSか!

 「いやな、すぐにって訳じゃないけど、いずれ小説でも書いて見ようかなって思っていてな。良かったらその時は色々相談に乗ってくれると助かるんだが…」

 長門は俺の要望に最初キョトンとしていたが、そのうち目を輝かせてニコリと笑い頷いた。
 そして俺は長門の笑顔に釘付けになる。

おっと、いけねぇ、いけねぇ

小説UPするの忘れてたf^_^;)
まぁ誰も読んじゃくれまいが、今から未来記事で自動UPされるように、書き込んできます。
まぁ、兎に角続きをすぐにUPしよう!