長×キョン小説「No Enter」(2) | 和楽衣生活

長×キョン小説「No Enter」(2)

 「で、どうしてなの?」

 「どうしても、こうしても、ない。俺は一応文芸部員だし、長門だって文芸部員だ。たまたま登校時間が一緒になったから、一緒に来たまでさ。」

 「キョン、いつから文芸部に入ったのさ。キョンが本を読んでる所見たこと無いんだけど…興味あったの?」

 「キョンが興味を持つ本なんて、漫画かエロ本くらいだろ。どうせ、長門有希にでも頼まれて鼻の下を伸ばして入部したに決まってるぜ。」

 心外である!俺だってライトノベルくらいの小説は読むし、入部を誘ったのは入部届けを手渡してくれた長門のようなもんだが、決して鼻の下を伸ばして入部などしていない。

 「な~んだ、結局文芸部に入部したんだ。でも嘘は感心しないわね。」

 「嘘だと。」

 「だって今朝、長門さんと学校行こうと思ったら用事があるからって断られちゃったわよ。それってキョン君と約束してたってことよね。」

 ちっ、バレてたか…

 「なにぃ、そうなのかキョン。お前、本当に長門有希と付き合ってるのか?!一人だけ良い目にあいやがってチクショー!!」

 「あ、ちょっと谷口どこ行くの?もうすぐ授業始まるよ。まったく仕方が無いな。」

 谷口はいつものごとく勝手に思い込み走り去ってしまった。
 国木田も谷口を連れ戻しに後を追ってこの場からフェードアウト。
 谷口は知らんが、国木田はホームルーム前には戻って来るだろう。

 「で、キョン君。長門さんと付き合うことにしたの?」

 くそぉ、谷口と国木田のフェードアウトでこの話しは終わりかと思ったのに…しつこいぜ、朝倉。

 「俺は文芸部には入ったばかりだし、長門とも付き合ってない。」

 「ふーん。それって…」

 朝倉が何か言いかけた時、教師がやってきて話は一旦終了をむかえた。が、朝倉は俺の席の真後ろなので授業中にシャーペンで俺の背中を突いたりして話を蒸し返してきやがった。
 しかし、懐かしくなるじゃねーか。その行動、まるでハルヒそのものだな。

 「で、どうするの?」

 「どうするって何がだよ。」

 「これから長門さんと付き合うかどうかって事よ。まぁキョン君が本気なのは[Enter]キー押さなかった事で分かったけど。」

 「なんだって?」

 「なんでもないわよ。それより長門さん、今かなり有頂天になってるわよ。ちゃんと長門さんのこと真剣に考えてあげてね。私の話はここまでよ。」

 朝倉は言いたいことだけ言うと、勝手に話を終わらせやがった。俺としては根掘り葉掘り詮索されずにラッキーではあったが…
 それにしても、なんで[Enter]キーの事しってたんだ?俺は『鍵』の事も『緊急脱出プログラム』の事も『パソコン画面に表示された長門のメッセージ』の事も朝倉には話してないぞ。
それとも長門にでも聞いたのか?長門は俺の隣で元の自分が書いたメッセージを見ていたはずだからな。可能性は無きにしも非ずか。

 それ以降、本当に朝倉は質問してこなくなり普通に放課後をむかえた。
 俺は長門の待つ文芸部室へと足を運ぶが、その足が知らず識らずのうちに早足になってしまうのは何故だろうな。
 部室棟で朝比奈さんとすれ違ったが、あの後なんとか暴漢者という汚名は払拭してもらい、おっかなびっくりではあるが挨拶をしてくれるようになった。
 部室に着くと『コンコン』とノックをし許可は無いがドアを開け部室に入る。

 「よーっす。長門だけ…」

 慣れとは怖いモノで、いつもの調子で『長門だけか?』と言うところだった。こんな事を口にすれば、長門にまた不信がられるかもしれないからな。それだけは御免被りたい。

 部室内にはメイド服の朝比奈さんもいなければ、ニヤケ顔でレトロゲームを誘ってくる古泉もいない、そして団長机にふんぞり返って『遅ーい、バカキョン』などと暴言を吐く団長様もいない。そして窓際で石膏像のように動かない長門の姿もない。
 俺の中だけの真実。数日前まで目にしていた光景をそう簡単には忘れられそうにない。

 ドアの前で感傷に浸り立ち尽くす俺を長門がじっと見ていた。

 「あ、悪い。長…部長、遅くなりました。」

 そう言うと俺は机の上にカバンを置きこっちの世界の指定席となりつつある、元の世界での古泉の座っていた場所に腰を下ろす。

 「あの…部長って呼ばなくていいから。私たち二人しかいないし、名前で呼んでもらった方が………それに、部長って言われると他人行儀で、あまり好きじゃないから。」

 「あー…そうか、俺もその方が助かるよ。どうも『部長』ってのは呼び慣れていないから言い辛くてさ。」

 「無理は良くない。」

 「そうだな。」

 「そう。」

 (クスクスクス…)
 (アハハハハハ…)

 後で聞いた話だが、文芸部から笑い声が聞こえてくる事は今まで一度も無かったそうだ。慢性人材不足だったのか、それともそれまでの慣習だったのか?
 しかし、これからは前任者はいないし、だんまりを決め込んだ他の部員もいない。根暗な文芸部から脱却し、新たな楽しい文芸部のスタートって事でいいだろ。その方が部員も集まるかもしれないしな。

 俺は長門のようにハードカバーの分厚い小説をまだ読むようなレベルじゃないわけで、おそらくチャレンジしても5分後には枕と化している自信がある。ってなわけで読みなれたライトノベルを読んでいるのだが…。

 「なぁ、長門。」

 「なに?」

 「前にも聞いたけど、小説書いたりしないのか?」

 もちろん、俺が始めてこの部室に来たとき、長門が移動させていたパソコンのデータはこいつが書いた小説だと思っているわけなんだが。

 「………」

 長門はというと4秒の沈黙の後に首を左右に振るだけだった。

 「そっかぁ…」

 わざと残念そうな素振りで言いながら長門を見ると、長門は気まずそうに俯き視線をそらす。そしてちらりと俺を覗き、また俯く。その仕草が可愛くてたまらない…って俺はSか!

 「いやな、すぐにって訳じゃないけど、いずれ小説でも書いて見ようかなって思っていてな。良かったらその時は色々相談に乗ってくれると助かるんだが…」

 長門は俺の要望に最初キョトンとしていたが、そのうち目を輝かせてニコリと笑い頷いた。
 そして俺は長門の笑顔に釘付けになる。