長×キョン小説「No Enter」(5)
落ち着ける場所といっても、俺たちには文芸部室以外に思いあたる場所はなく、当たり前のように部室まで直でやってきた。
長門がポケットから部室の鍵を取り出すと、いつもの落ち着ける空間を手に入れた。
昼の部室棟は人も少なく、俺たちにとって最善の場所だった。
部室に入ると俺と長門はパイプ椅子を並べて座った。
「いや~参った、参った。気がついたら、みんなに注目されてるんだもんな。SOS団の活動でもあんなに注目された事はなからビックリしちまった。」
俺の言葉に長門が一瞬きょとんとする。
『しまった!』と思ったね。気を付けてはいたんだが、気を抜くとついつい元の世界の事を口にしてしまう。
「ごめんなさい…。あんな騒ぎになると思わなかったから…。」
「なに謝ってんだよ。別に大したことじゃねーよ。」
「みんなに誤解されるようなことになって、彼方に迷惑をかけてしまった。」
その言葉に、胸の奥がズキンと痛みが走る。
「誤解…ねぇ。誤解したい奴には誤解させとけ。それより弁当ありがとうな。」
俺は少しモヤモヤとした気分になり、そんな気分から抜け出すべく長門の作ってくれた弁当を食う事にした。
包みを解き、弁当の蓋を開けると中には白飯ではなく『海苔巻きおにぎり』に『ゆかりご飯のおにぎり』に『野沢菜の混ぜ込みおにぎり』とそれぞれ違う味のおにぎりが作られていて、おかずにはお弁当の定番といえる卵焼きとウインナー、そして小さなハンバーグとプチトマトが入っていた。
「こりゃ美味そうだな。」
「あまり見ないで。恥ずかしいから…」
「そう言われたって、目を瞑って食べるわけにもいかないだろ。それじゃ、いただきまーす!(…いただきます。)」
長門の作ってくれた弁当は、思ってた以上に美味しくて、箸は進むし手は伸びる。
あっというまに完食してしまった。
「美味かったよ、長門。サンキュー」
「本当?良かった。」
あっという間に完食した事が嬉しかったのか、笑顔がキラキラと輝いて見えた。
美味い弁当を作ってもらった上に、食っただけでこんなに喜んでくれるなんて男冥利に尽きるぜ。
まぁこのサプライズの仕掛け人はあいつ以外にはいないのだが、やっぱ気なるので長門に直球でぶつけてみることにした。
「それより何で俺にわざわざ弁当作ってくれたんだよ。」
「それは…」
「朝倉になんか言われたろ。」
「!!」
「図星だな。別に責めてるわけじゃないから勘違いするなよ。」
朝倉にも一言礼でも言ってやるとするかな。
「で?」
「いや、だからさ朝倉にもお礼を言っておかなきゃ悪いなと思ってな。」
帰宅後、俺は朝倉にもお礼を言うために電話をしていた。の・だ・が…
「いい加減にしなさいよ。私がキョン君にお弁当食べさせるためだけに長門さんに作らせたとでも思ってるの?あんたバッカじゃない!」
うおぉぉぉ、なんか朝倉さん超怒ってる~
「はぁ~…なんでキョン君に長門さんを任せようと思ったんだろ。私が愚かだったわよ。」
「待て待て待て。お前がなんでそこまで俺と長門のためにやってくれているかは分からんが、やってくれてる意味は分かってるぞ。キューピットの朝倉さん。」
「じゃぁなんでコクんないのよ。このヘタレ!」
「あのなぁ、あの状況で言えるとでも思ってるのか?」
そう。美味い長門の手作り弁当を食べた後ちょっと雑談をして楽しい一時を過し、授業開始ギリギリに教室に戻ると、そりゃもう両方の組で『休み時間いっぱいいっぱい二人で何処で何してたんだ』みたいな逆に注目の的になってしまい。授業後両組の担任に呼ばれ俺と長門二人して注意を受ける始末だった。
「その後、時間あったでしょうに。」
「なら、お前は出来るのか?散々クラスメートに注目された上、教師には怒られ、その数分後にコクるなんてこと。それにな、その後長門は謝りっぱなしだし、慰めるのに一苦労だったわ!」
「うぐぐ、長門さんったら………。わかったわよ。じゃ、キョン君にもう一度だけ期待してあげるから。長門さんのこと頼んだわよ。わかった?」
うわぁ、ものすごく上から目線だ。やっぱこの女好きになれねー!
「おう、まかせとけ朝倉。色々ありがとうよ。一応、感謝はしとくぜ。」
「いえいえ、どういたしまして。一応、期待だけはしてみてあげるわ。」
はぁー、なんて女だ。ヤレヤレだぜ。
俺を襲った時の朝倉は急進派とかそんなの関係なく、もともとの性格だったんじゃねーか。
そんなことより次は長門だ。長門の電話番号は…っと。
「キョンく~ん、お電話終わった?」
「まだだよ。俺の部屋にわざわざ遊びに来ないで、自分の部屋で宿題でもしてなさい!」
「シャミがキョン君と遊びたいって。ねーシャミ。(にゃ~)」
シャミセンは一鳴きすると、妹の腕からすり抜け俺の膝の上に飛び乗ってきた。
「こらシャミセンやめないか。」
「それじゃぁキョンくん、また後でねぇ~」
我が妹は俺に猫を押し付けると、ドアをバタンと閉め階段を下りていった。どうやら自室で宿題をする気は無いらしい。
しかし妹よ、大人になれとは言わん。ただ年相応にはなってくれないか?兄としてお前の言動には不安が募るばかりだ。
妹が立ち去ったドアをヤレヤレとばかり見ていると、シャミセンが『うにゃ~』と鳴きながら俺の手にある携帯を弄くろうとしていた。
「おっと、長門に電話しなきゃだな。シャミセン、大人しくしてろよ。」
「ぅにゃっ」
今のは肯定の鳴き声と受け取っていいのか?