長×キョン小説「No Enter」(3)
「私でよければ、相談に乗る。とても楽しみ。」
「おいおい、あんまり期待しないでくれ。プレッシャーになる。」
こうして今日も長門と二人の放課後タイムは終わりを告げる。
楽しい時間は過ぎるのが早いな。
『ピンポーン』
「長門さんいるー?(って、いなかったらキョン君、刺すからね。)」
『ガチャ』
「どうしたの?」
長門の自宅マンションの玄関前に私服姿の朝倉涼子が立っていた。
薄いピンクのふわふわとしたセーターにブラウンのロングスカート、谷口が見たら鼻血を出して火星まで飛んでいってしまうんじゃないかってくらいの女の子らしい似合った出で立ちだ。
一方長門の方はというと、こちらでも基本制服姿ってのは変わらないらしい。
「キョンく~ん、独り言?どうしたの、わき腹なんて擦って。イタイの?」
「いや、別に…。なんとなくな???」
「もう長門さんったら、いつも言ってるでしょ、帰ってきたら服を着替えなさい。さぁ入って、入って。」
長門は朝倉に押し込められるように自室内へ入り、朝倉も自分の家のごとく長門の家に上がりこむ。
そしてタンスを勝手に開け手早くタートルネックのシャツとデニムのスカートを取り出し長門に手渡す。
「はい長門さん。着替えてらっしゃい。」
長門は『制服のままでいい』と拒んだが、無言で寝室を指差す朝倉に抵抗できず、ふてくされ気味にしぶしぶと着替えに寝室へ向かう。
制服を脱ぎハンガーへ掛け、朝倉がチョイスした服に袖を通す。その間に朝倉はリビングのコタツに入り雑誌をパラパラとめくりながら着替え中の長門に話しかける。
「長門さん、ご飯はちゃんと食べた?」
「食べた…」
「洗い物は?」
「終わった…」
「お風呂は?」
「まだ・・・」
「彼とキスくらいした?」
「!!!」
顔を真っ赤にした長門が寝室からの飛び出してくると口をパクパクさせながら朝倉を指差し、声の無い訴えをした。
「馬鹿ね、冗談よ。」
あのヘタレ男がそんな事出来るなんて思っちゃいないわよ。その前にどうせ長門さんに、まだ告白すらしてないでしょうから。
「私戸彼派爽言宇関係邪鳴手、只野友達出、同字文芸部員手岳打殻…」
「長門さん落ち着きなさい。文字が意味不明で訳が分からないわ」
「私と彼はそういう関係じゃなくて、ただの友達で、同じ文芸部員ってだけだから…」
朝倉はコタツに片肘を付きネガティブな考えの長門にヤレヤレといった表情を浮かべた。
「ふーん、ただの友達ねぇ。」
「そう。彼とは友達…それ以上でも、それ以下でもない。」
「キョン君とは友達のままって方が私も賛成だわ。だってアイツ最悪だもんね。人より秀でたものないし、優柔不断だし、事無かれ主義だし、ヘタレ野郎だし、頭は悪いし、顔も悪いし、格好も悪いし、女好きだし、むっつりスケベだし、たまに訳の分からないこと言うし、バカだし、アホだし、マヌケだし、おろカブだし、トンマノマントだし、豚もおだてりゃ木に登るし…」
朝倉が長門の前でキョンの悪口を少し楽しげにスラスラと並べ立てる。
その言葉に長門は手を握り、唇を噛締めて聞いていたが、とうとう我慢できなくなり叫んだ。
「やめて!」
長門有希の感情的爆発だった。
自分のことなら言われても仕方のないこともあるし、我慢もできる。でも彼のことを悪く言われるのは心が引き裂かれてるようで辛かった。我慢できなかった。許せなかった。
「朝倉さん、どうしてそんなこと言うの?彼のこと何もしらないくせに!彼はとても優しいし、私のことを分かってくれる。優柔不断に見えるのは他人のことがほっとけないからだよ。訳の分からないことを言うのは、きっと何か理由があるんだと思う。それに彼は格好悪くなんかない…彼を悪く言うのは私が許さない。」
長門の感情的爆発を受けても朝倉は冷静に長門の顔をじっと見つめる。
そして、朝倉の一言で長門の方が意気消沈する。
「キョン君は、ただの友達…なんじゃないの?」
「そ、それは…」
朝倉は明るく、そして確実に長門を追いこんでいく。
「好きなんでしょキョン君のこと。長門さんは隠してるつもりなのかもしれないけれどバレバレなのよね。」
「彼のことは好き。でも私では無理…私は可愛くないから…。彼は、もっと明るくて綺麗で行動力とかある人が好み…だと思う。」
「あら、それって私のことみたい☆」
「いや、その…朝倉さんってイメージじゃなくて…」
長門が少し困ったような表情で苦笑いしつつ、ツッこんだ。
「悪かったわね(Boo!)。一つ良いこと教えてあげましょうか。キョン君って変わった娘が好きなんだって、うちのクラスの国木田君が言ってたわ。」
「変わった人???」
「そ、長門さんって十分変わってると思うけど。」
「(ううっ)本当のことだけど、ひどい…」
「長門さん、勝手にキョン君の好みを決めつけちゃダメよ。キョン君が長門さんに優しくて、長門さんのことを分かってくれるなら、それはキョン君が長門さんのことを気にかけてるからじゃないかしら?そりゃキョン君が長門さんのことを好きって可能性は100%じゃないけど0%でもない。でしょ。待ってるだけじゃなく、長門さんからも行動してみてもいいんじゃない?」
朝倉涼子の長門有希に一歩を踏み出させるための一芝居。
自分でも『何やってるんだか』と思いはしたが、何も変わらず、奥手な二人に苛立ちを抑えきれなかった。
「さぁ~て、私は帰るかな。」
朝倉は立ち上がりスカートをパタパタと叩くと、玄関へと向う。
長門はその後ろ姿に声をかけ、朝倉は振り返らずに答える。
「ねぇ、朝倉さんはなんで悪役を買ってまで私のために色々してくれるの?」
「私はね、長門さんに幸せになってもらいたいの、ただそれだけよ。そのためなら何だってするわ。」
靴を履き、くるりと回って長門の方を向くと、後ろで手を組み前屈みになり悪戯っぽくウインクをした。
同じ女子から見てもその行動がかわいらしく思えるほどだ。
「明日キョン君にお弁当でも作ってあげたら?じゃぁね。」
「あ朝倉さん…」