宮城県の仙台市で開催された、第9回仙台国際音楽コンクールのピアノ部門が終わった(公式サイトはこちら)。
これまで、ネット配信を聴いて(こちらのサイト)、感想を書いてきた。
とりわけ印象深かったピアニストについて、備忘録的に記載しておきたい。
ちなみに、第9回仙台国際音楽コンクールについてのこれまでの記事はこちら。
36 島多 璃音 SHIMATA Riito (日本 2001年生まれ)
今大会の第5位。
明るく晴れやかなロマン性を持ったピアニストで、音が力強く、リストを得意とする。
いわゆるヴィルトゥオーゾ・タイプだが、あまりガツガツしたり煽ったりせず、丁寧で品が良いため、ロマン派の曲だけでなくハイドンやモーツァルトもサマになる。
そしてリストの協奏曲第1番は彼の性質にぴったりで、今後も持ち曲となりそう。
42 エリザヴェータ・ウクラインスカヤ Elizaveta UKRAINSKAIA (ロシア 1996年生まれ)
今大会の優勝者。
ロシアの華やいだ美音を持ったピアニストで、音が軽やかであり、モーツァルトを得意とする。
セミファイナルおよびファイナルでモーツァルトが課題曲となった本大会は、彼女にぴったりだったと言えるだろう。
のみならず、ファイナリストたちの中で一番ミスが少なかったのも彼女であり、仕上げ力に優れている。
14 キム・ドンジュ KIM Dongju (韓国 2004年生まれ)
セミファイナルで選出されなかった人から一人選ぶなら彼か。
洗練されたスマート系技巧派ピアニストで、クセやデフォルメのない端正な音楽性を持つ。
チョ・ソンジンの流れを汲む、と言ってもいいかもしれない。
彼が今回弾いたハイドンのソナタ第42番、ショパンのスケルツォ第3番、ベートーヴェンのソナタ第31番は、それぞれの曲における最高クラスの演奏だと思う。
そのうちに著名な国際コンクールで良い結果を残しそう。
なお、セミファイナルで選出されなかった人でもう一人、ジョシュア・ハン Joshua HAN (オーストラリア 2002年生まれ)もやはり洗練されたスマート系技巧派ピアニストで、これまた最高クラスの演奏によるリストのパガニーニ大練習曲第6番、バルトークのエチュード、ショパンのアンダンテ・スピアナートが印象に残った。
20 アレクサンドル・クリチコ Aleksandr KLIUCHKO (ロシア 2000年生まれ)
今大会の第2位。
重厚で温かみのある音の持ち主。
パワーもあるが、いわゆる爆音系ピアニストとは違い、ペダリングはどちらかというと薄めで、明瞭性を重視するタイプ。
そのため、ロシアものだけでなく、モーツァルトを得意とする。
セミファイナルおよびファイナルでモーツァルトが課題曲となった本大会は、そんな彼にぴったりだったといえるだろう。
ロマン的すぎない、朗らかなモーツァルトを弾ける人。
10 ユリアン・ガスト Julian GAST (ドイツ 1999年生まれ)
今大会の第4位。
軽快でくっきりした独墺系の音の持ち主。
モーツァルトを弾かせれば、これぞ本場といった様式感。
セミファイナルおよびファイナルでモーツァルトが課題曲となった本大会は、そんな彼にぴったりだったといえるだろう。
また、端正のようでいて無鉄砲なところがあって、その勢いでラフマニノフなども意外に良い味出している。
29 ヤン・ニコヴィッチ Jan NIKOVICH (クロアチア 2001年生まれ)
今大会の第6位。
他のピアニストより一段階も二段階も大きな、存在感のある強靱な音を持つ。
フレージングの息が長く、音楽のスケールが大きい。
21世紀生まれの彼だが、どこか20世紀の香りがする。
こういう人は、現代のせせこましいネット社会においては、もうクロアチアのような国にしか現れないのかもしれない。
チャイコフスキーの協奏曲第1番、両手二重オクターヴの迫力は、かのリヒテルをさえ思わせる(リヒテルほどの底知れぬ巨大さはなく、もう少し素朴な感じだが)。
この曲の最近の名演というと、Kevin CHENとAngel Stanislav WANGが印象に残っているが(その記事はこちら)、今回のJan NIKOVICHの演奏もこれらに並べていいように思った(技巧と洗練のKevin CHEN、音圧と迫力のJan NIKOVICH、それらのバランスの取れたAngel Stanislav WANG、といったところか)。
40 辻本 莉果子 TSUJIMOTO Rikako (日本 1998年生まれ)
予選で選出されなかった人から一人選ぶなら彼女か。
切れ味鋭い、野性味のあるスカルラッティやプロコフィエフを弾く。
ハイドンのソナタ第6番は、浜コンでの鈴木愛美の伸びやかで詩的な名演が記憶に新しいが(その記事はこちらなど)、今回の辻本莉果子のシャープで直情的な演奏もまた別の魅力がある。
なお、予選で選出されなかった人でもう一人、大山 桃暖 OYAMA Modan (日本 2005年生まれ)は対照的に爽やかな優しい演奏が印象に残った。
01 天野 薫 AMANO Kaoru (日本 2013年生まれ)
今大会の第3位。
また、私の中での個人的な今大会のMVP。
たいていのピアニストは大学生か高校生の間に音楽的に成熟していくものだと思うが、中学生でも早いと感じるところを、彼女の場合は小学生にしてすでにほぼ完成されている。
その意味では小林愛実と同じ、神童タイプである。
2人ともロマン的なピアニストだが、特色としては違いがあり、小林愛実が甘美な音楽性を持つのに対し、天野薫は清澄な音楽性を持つ。
前者をコルトーにたとえるとすると、後者はリパッティにたとえられようか。
天野薫の音は、色とりどりというよりは無色透明で澄んでいて、その透明度があまり高いが故に、無色であるとかえって青みがかって見える水晶体のごとく、ほのかに憂いを帯びて聴こえる。
彼女のバッハやモーツァルトが、ことさらに悲しみを表現するのでないのに、陽気よりは哀切をもって聴き手の心に迫るのは、そういうわけなのだと思った。
矢代秋雄の協奏曲も見事だったが、彼女のシューマンやグリーグの協奏曲がどう響くのか、いつか聴いてみたいものである。
彼女は今後様々なコンクールやコンサートで間違いなく活躍するだろうから、機会もきっとあろう。
以上のようなピアニストが、印象に残った。
先日のエリザベートコンクール(その記事はこちらなど)の1次予選では、著名な大物コンテスタントが勢揃いだった一方、新しい才能はそれほど見られなかった。
今回の仙台コンクールの予選では、大物があまりいなかった一方、まだ名の知られていない若き才能がたくさんいた。
大物と新人、両者とも驚くほど粒ぞろいだったのが先日の浜コン(その記事はこちらなど)の1次予選であり、仙台コンクールはまだそこまでの域には達していないものの、名高いエリザベートコンクールにも引けを取らないのではないかと思われるほどの、相当なレベルの予選になってきているように感じた(ファイナルはさすがにエリザベートコンクールに軍配が上がるように思うが)。
仙台コンクールは新人の登竜門としての地位を、かなりのところ確立したのではないか。
そして、それは仙台コンクールが低年齢の制限を設定していないことにもよるだろう。
こうした一定の地位を確立した国際ピアノコンクールで、小学生が入賞するなどということは、通常あり得ない。
前代未聞のことが起こったのも、仙台コンクールが幅広く門戸を開いている証左である。
あまりにも若い段階で国際コンクールに出場することには賛否あるのかもしれないが、指導者でなく単なる一鑑賞者としては、才能や将来性の発展につながる良い経験だと私は思う。
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