(上原ひろみの名曲 第1位 Music for Three-Piece-Orchestra) | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

今回は演奏会の感想ではなく、別の話題を。

しばらく間が空いてしまったが、好きなジャズピアニスト、上原ひろみのオススメの名曲を勝手にセレクトして紹介するシリーズの続きである(順位付けは私の独断と偏見に基づく)。

映えある第1位は、「Music for Three-Piece-Orchestra」。

 

 

第1楽章 「Open Door - Tuning - Prologue」

 

第2楽章 「Déjà vu」

 

第3楽章 「Reverse」

 

第4楽章 「Edge」

 

 

彼女の3rdアルバム“Spiral”に収録された一曲である。

ピアノ、エレキベース、ドラムによるピアノ・トリオ曲。

「完成度部門」(?)の代表曲だと思う。

 

 

幼少時にクラシック畑で訓練を受けた彼女は、ジャズとクラシックの両方に造詣が深いが、そんな彼女の一つの集大成がこの曲。

なんと、4楽章形式で構成されている。

第1楽章「オープン・ドア/チューニング/プロローグ」は、コンサートの始まりを描写した幻想的な序奏と、チューニングを模した間奏ののち、7拍子の物悲しいワルツがベースでゆったりと奏され主部に入る。

この楽章の主要主題は4拍子で、ピアノで爽やかに連綿と奏されるが、この主題は先の7拍子のワルツより派生している。

主要主題が何度も変奏された後、最後は7拍子のワルツでこの楽章を閉じる。

 

 

第2楽章「デジャヴ」は3拍子の軽快で親しみやすい楽章だが、実はそのコード進行はきわめて個性的で、プロコフィエフもショスタコーヴィチもびっくりといったところ。

近年のジャズやゲーム音楽では、これくらい普通なのだろうか?

少なくとも私には天才の所業にみえる。

また、構成もA-B-C-D-C'-B-Aという、まるでブルックナーの交響曲第7番終楽章のような対称性を持っており、ジャズでは滅多にみられない引き締まった構成感、まとまりの良さがある。

変奏を重ねじわじわ盛り上げていく中間部のDに、和音を欠き霧の中を模索するようなC'、それをくぐり抜けて感動的に再現するB、そして対照的にさらりと再現し終結するA、こうした構成のセンスの良いこと。

上原ひろみの曲(楽章)から一つ選ぶとしたら、私ならこれだろう。

 

 

第3楽章「リヴァース」は5拍子のスケルツォで、親しみやすい第2楽章とは打って変わって、ただならぬ曲想となる。

そして終楽章「エッジ」はテンポの速い無窮動風の音楽だが、なんとストラヴィンスキーもびっくりの「4+5+4+6拍子」である。

空虚五度かつ全音音階からなる上行パッセージを、ベースおよびピアノ左手が何度も繰り返す上で、ピアノ右手が変奏を重ねていくパッサカリア(というとあまりに古風な言い方だが)となっている。

この急速なテンポ、この複雑な拍子で、右手が自由かつエキサイティングに即興していくのは、信じがたい名技と言わざるを得ない。

そしてコーダでは、第1楽章の7拍子のワルツ、および第2楽章のBの主題が再現するという、まるで循環形式のような展開となる。

ベートーヴェンの第九に始まり、ブルックナー、フランク、チャイコフスキーらに受け継がれたロマン派の交響曲やソナタを熟知しているのでなければ、決してこうは書けなかっただろう。

それでも最後はさらりと終わるのが彼女らしいセンスである。

 

 

つい長くなってしまったが、この曲は、私の好きなクラシックの三大ピアノ・トリオ(ベートーヴェン「大公」、メンデルスゾーン第1番、ショスタコーヴィチ第2番)にも並ぶ、21世紀きっての名ピアノ・トリオだと思うのだが、いかがだろうか。

 

 

 

 

 

この曲のライヴ映像もあり、より一層白熱した演奏となっている(DVD)。

また、彼女がクラシック畑で訓練を受けてきたことを確かめたいなら、15歳時の彼女がNHKのゴルノスタエヴァのピアノレッスン番組で弾いた、シューマンの幻想小曲集op.12より第2曲「飛翔」がオススメ。↓

 

 

 

 

 

なお、「勝手に選ぶ上原ひろみの名曲」シリーズのこれまでの記事はこちら。

 

第2位 Wind Song

第3位 Dancando No Paraiso

 

 


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