山本貴志 佐藤卓史 兵庫公演 モーツァルト プーランク 2台のピアノのためのソナタ ほか | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

山本貴志×佐藤卓史 衝撃のデュオ2018

 

【日時】

2018年12月6日(木) 開演 19:00

 

【会場】

兵庫県立芸術文化センター 神戸女学院小ホール
 

【演奏】

ピアノ:山本貴志、佐藤卓史

 

【プログラム】

モーツァルト:2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448(375a)
シューベルト:幻想曲 ヘ短調 D940 (連弾)
プーランク:2台のピアノのためのソナタ FP156
シャブリエ:3つのロマンティックなワルツ
サン=サーンス:死の舞踏 Op.40 (作曲者による2台ピアノ版)

 

※アンコール

ラフマニノフ:2台のピアノのための組曲 第2番 Op.17 より 第4楽章 タランテラ

シューベルト:軍隊行進曲 D733-1 (連弾)

 

 

 

 

 

山本貴志と佐藤卓史のピアノ・デュオ・コンサートを聴きに行った。

極上の演奏、というほかない。

日本を代表する2人のピアニストによるデュオである。

ということは、とりもなおさず、世界を代表する2人のピアニストによるデュオ、ということになる。

 

 

なぜか。

20世紀は東欧(主にロシア)のピアニズムの時代だったが、21世紀は東アジアのピアニズムの時代である、と私は考えている。

21世紀の東アジアのピアニスト(生年でいうと、1980年前後生まれ以降のピアニスト)は、世界でもトップクラスの実力を持つ。

その少し前、1970年前後生まれだと、ムストネン、アンスネス、アンデルジェフスキ、ベレゾフスキー、キーシン、タラソフ、ヴォロドス、ルガンスキー、メルニコフ、マツーエフといった、北欧・東欧の名ピアニストがたくさんいた。

それに対し、1980年前後生まれのピアニストでは、北欧・東欧の実力者はめっきり減り、代わりに東アジアからは中国のユンディ・リやラン・ラン、韓国のイム・ドンミン/イム・ドンヒョク兄弟らが登場する。

同じ頃、日本からも世界レベルのピアニストが数多く輩出し、その筆頭に挙げるべき存在が、山本貴志と佐藤卓史である。

この2人のデュオを聴く豪華さといったら、ユンディ・リとラン・ランのデュオを聴くようなものである。

 

 

私は、昨年にもこの2人によるデュオ・コンサートを聴いた。

 

山本貴志 佐藤卓史 兵庫公演 チャイコフスキー/エコノム 「くるみ割り人形」組曲 ほか

 

聴いた印象はこのときとほぼ同じである。

モーツァルトのソナタ(この曲では山本貴志がプリモ)、このクラシカルな曲を2人ともきちんと端正に弾いているのに、こうも違うか、というほどにそれぞれの個性の違いがよく出ていた。

七色に輝く豊かな音を持つ山本貴志に、かっちりと折り目正しい清涼な音を持つ佐藤卓史。

これだけ個性が異なると、2台ピアノ演奏はよく映える。

特に、第2楽章の提示部終盤(コデッタというべきか)、高音域からゆっくりと降りてくるメロディにおける、山本貴志の夢見るように美しい演奏が印象的だった。

聴き手の琴線に触れ涙さすような、エモーショナルで限りなくショパンに近い、それでもきちんとモーツァルトである、そんな演奏。

 

 

次のシューベルトの幻想曲では(佐藤卓史がプリモ)、担当交代により雰囲気ががらっと変わり、カラフルな華やかさよりもシックな味わいが優勢となって、これまた曲調によく合っていた。

 

 

休憩を挟んで、後半の最初はプーランクのソナタ(佐藤卓史がプリモ)。

この曲では、2人の個性の違いがよりいっそう明瞭に表れていた。

余裕のある整然とした演奏の佐藤卓史に、この曲の悲痛な叫びやロマン的な情感を前面に出した山本貴志。

前者は「新古典主義」として、後者は「新ロマン主義」としてプーランクを捉えた演奏、と言ってもいいかもしれない。

これだけ個性が異なっていても、音楽は決して破綻していない。

むしろ、2台ピアノ演奏にはこれくらいの「丁々発止」があったほうがスリリングで良い。

そもそもプーランクの音楽は、上述のどちらの要素をも内包しているように思われる。

同じ作曲家のクラリネット・ソナタにおける、小川典子(そのときの記事はこちら)と高御堂なみ佳(そのときの記事はこちら)の解釈の違いが思い出された。

 

 

おしゃれなシャブリエのワルツ(山本貴志がプリモ)を経て、最後はサン=サーンスの「死の舞踏」(山本貴志がプリモ)。

こちらもプーランク同様、火花も飛び散らんばかりの、すさまじい名演だった。

アンコールのラフマニノフの組曲第2番終楽章タランテラ(佐藤卓史がプリモ)、こちらも全く同様のすさまじさ。

ルガンスキー/ルデンコ盤のような分厚いロシアの音はないけれど、ほとばしる情熱の激烈さは同盤にも勝るほど。

この迫力は、2台ピアノ演奏の醍醐味である。

 

 

アンコール2曲目のシューベルトの軍隊行進曲は(山本貴志がプリモ)、特に中間部において、単なるユニゾンがどれだけ美しい歌になりうるのかを存分に知らしめる演奏だった。

昨年のこの2人のデュオ・コンサートでは、フォーレの「ドリー」において同じことを感じたものである。

ユニゾンを美しく歌わせるピアニストとして、山本貴志の右に出る人を私はぱっと思い浮かべることができない。

 

 

日本のピアノ人口は減ってきているという。

現在、日本には若き名ピアニストたちが綺羅星のごとくいるけれど、それも今後収束していってしまうのでは、と私は危惧している。

そう考えると、山本貴志&佐藤卓史による「W(ダブル)・タカシ」デュオの贅沢さ、貴重さがよりいっそう際立つ。

彼ら2人は、これまでに2008年、2017年、そして今回と、3回のツアーを行っている。

そのときの写真は、以前の記事にも載せたことがある。

 

名ピアニストのツーショット写真集

 

彼らは、今後可能な限り毎年のようにデュオ・ツアーをやる予定とのこと。

朗報である。

必ずや、上記記事に書いたようなアムラン/アンスネス、ル・サージュ/ブラレイといった名デュオに続く存在となるに違いない。

 

 

 

(画像はこちらのページよりお借りしました)

 

 


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