2018年ピティナ・ピアノコンペティション特級 ファイナル および結果発表 | 音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

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クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

東京で開催中の、2018年ピティナ・ピアノコンペティション。

本日(8月21日)は、特級のファイナルが行われた。

私は、ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。

ちなみに、2018年ピティナ特級についてのこれまでの記事はこちら。

 

(1次予選 結果)

(2次予選 結果)

(3次予選 結果)

セミファイナル

 

 

以下は、いずれも岩村力の指揮、日本フィルハーモニー交響楽団の演奏である。

 

 

1. 角野隼斗 すみの・はやと (22歳)

 

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18

 

男性らしい力強くダイナミックな演奏であり、テクニック的にもかなりのもので、この曲らしい魅力が活きている。

ただ、細部の表現ということになると、やはり少しのっぺりしている箇所もみられる。

第1楽章の第2主題のような聴かせどころのメロディはなかなか情感豊かなのだが、第2楽章のピアノの出だしの伴奏音型だとか、終楽章の弦のピッツィカートを伴奏にピアノがゆったりと単旋律を奏する箇所のような、比較的地味な部分が、どうも味気なくなってしまう。

こういう何でもないような箇所でも、(例えばリヒテルのように)情緒的な味わいを出してほしいところ。

とはいえ、力強くクライマックスを形作るさまはなかなかのもの。

ソロ曲以上にコンチェルトで映えるタイプのピアニストといえるかもしれない。

 

 

2. 古海行子 ふるみ・やすこ (20歳)

 

ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43

 

最高の名演。

タッチの滑らかさ、安定性が別格であり、惚れぼれするほど完成度が高い。

第6変奏の最後の上行音型や、第12変奏の和音のスタッカートのような何気ない箇所も含め、あらゆるパッセージが実に滑らかに美しくフレーズ付けされている(「スタッカートが滑らか」とは矛盾したような書き方だが、まさにその通りなのである)。

技巧的な第15変奏も、きわめてスムーズで流麗(ここはわずかに焦り気味のような気もしたが)。

第11変奏のような緩徐な部分も、べたつかない爽やかな情感に満ちている。

そして、暗中を模索するような第17変奏を抜けて、有名な第18変奏にいたる。

ここの演奏のあまりに晴朗な美しさに、私は涙が溢れるのを抑えることができなかった。

その後の、第19変奏から最終変奏にかけてのキレ味も抜群。

先ほどの角野隼斗のような充実したラフマニノフらしい音はないにしても、古海行子の音も力感は十分である。

それに、ロマンに溺れない、彼女のいくぶんスケルツァンドな味わいのある演奏様式は、この曲によく合っていると思う。

 

 

3. 武岡早紀 たけおか・さき (22歳)

 

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18

 

きっちり弾けているのだが、同曲を弾いた角野隼斗と比べてしまうと、音の力強さやドラマティックな表現においてどうしてもひけを取るか。

テクニック的にも、やや余裕のない感じ。

ただ、第2楽章中間部は端正な情感が出ていて、なかなか良かった。

 

 

4. 上田実季 うえだ・みき (21歳)

 

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 Op.58

 

音が柔らかく美しい。

しっとりとしたみずみずしい表現力もなかなかのもの。

全篇が「歌」になっている。

きわめて雄弁とまでは言わないし(例えば2017年クライバーンコンクールで同曲を弾いたレイチェル・チャンほどには)、もう少し技巧的な流麗さが欲しくなる瞬間もないではない。

しかし、古典派の曲にはこれくらいの朴訥さでも良いかもしれない。

 

 

そんなわけで、私の中で勝手に順位をつけるとすると

 

1: 古海行子 ふるみ・やすこ (20歳)

2: 角野隼斗 すみの・はやと (22歳)

3: 上田実季 うえだ・みき (21歳)

4: 武岡早紀 たけおか・さき (22歳)

 

というような感じになる。

あるいは、2位と3位は逆でも良いかもしれない。

 

 

さて、結果はどうなるか。

発表は、明日の14時とのことである。

 

 

 

 

 

―追記(2018/08/22)―

 

さて、ファイナルの結果は下記のようになった。

 

【ファイナル結果】

グランプリ: 角野隼斗 すみの・はやと (22歳)

銀賞: 上田実季 うえだ・みき (21歳)

銅賞: 古海行子 ふるみ・やすこ (20歳)

第4位: 武岡早紀 たけおか・さき (22歳)

 

文部科学大臣賞: 角野隼斗 すみの・はやと (22歳)

 

失礼なことを言って大変申し訳ないのだが、正直に言うと、私にとってにわかには信じがたい結果だった。

ぶっちぎりで古海行子が優勝すると思っていたのに。

生演奏を聴いたならば、ネット配信とは印象が違っていたのかもしれない。

とはいえ、全く納得のいかない結果だった。

私の感覚では、今大会の中では古海行子が唯一、世界レベルのピアニストである。

もちろん、他のコンテスタントの方々の音楽を否定するつもりは毛頭ないし、皆それぞれの持ち味があって素晴らしかったのだけれど。

 

 

なお、会場に聴きに行った人が投票で選ぶ聴衆賞は、下記の通り。

 

※聴衆賞

1位: 古海行子 ふるみ・やすこ (20歳)

2位: 上田実季 うえだ・みき (21歳)

3位: 角野隼斗 すみの・はやと (22歳)

4位: 武岡早紀 たけおか・さき (22歳)

 

私の予想した順位とよく似ている。

こちらならば、大いに納得である。

昨年のクライバーンコンクール等でもそうだったが、私は聴衆賞と気が合うことが多い。

おそらく、私はわりあい標準的な聴き手なのだろう。

 

 


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