ホーダー (Hoarder) とは


一見不要なものを部屋に溜め込むことにより、精神的安定を図るという行為をホーディング(Hoarding)、その行為をする人をホーダー(Hoarder)と呼びます。

 

Hoarding Disorder (ため込み症)は、精神疾患の統計マニュアルに正式に記載されている障害です。物の価値にかかわらずためこみ生活スペースが深刻に散らかり、それにより日常の様々な分野において支障が出る障害です。

 

様々な要因が考えられますが、幼少期のトラウマ体験が原因となる場合や、過去の貧困体験により、捨ててしまったら二度と手に入らないのではという不安感から生じることもあります。

 

ホーディング障害を持つ人の半数以上が他の精神疾患を併せ持っていると言われています。だらしがないとか、スキルがないとかの問題ではなく精神疾患という観点からのアプローチが必要になります。家族や近しい人が片づけを指示したり許可なく代行したりすることは、逆効果になることが多いです。医師や支援機関などの専門家の助けを借りることをお勧めします。

 

ここからは、私がサポートワーカーとしてのホーダリング支援の経験をお話します。


ホーダーの人のサポートをする時

他の人からはどんなに不要なゴミに見えても、本人にとってはそれはゴミではなく、全て必要で大切なもの。だから、まずそこを認めてあげることが大切です。決してゴミという表現をせず、全てあなたの大事な物なんだね、と。本人にとっては、溜め込んである物をゴミとして表現される事は、自分を否定される事と同じなのです。だから否定ではなく肯定し、本人に安心してもらい信頼を築きます。

私は今まで何人もホーダーの方々と接して来ました。その経験から言うと、その溜め込んである物全てが大事だと本人は思っているけれど、実は中に本人も見過ごしている、本人にとっても不要な本物のゴミも隠されている場合が多いです。

例えば、道端で綺麗な大きな石を拾うとします。がっと手を広げて掴むと、その石と一緒にそこにあった砂や細かいゴミ、小さな不要な石まで掴んでしまう。それごとポケットに入れて持って帰って来る。その全てを部屋にとっておく。

この場合、拾ってこようとしたのは綺麗な大きな石のみで、他の小さな石や砂は本来必要のないもの。本人にとってもよく見たらそれは実は不要なのですが、全て一緒くたに保管しているので、本人も気がつかない。

だからその区別を本人にさせる。この大きな石綺麗だね、大切なんだね、じゃあこれはとっておこう、その周りの砂は拭いた方が石が綺麗に見えるね、と。

他の例だと、例えば食品などその時は価値があると思って保管してあっても、時が過ぎて腐ってしまったり明らかにもう食べられなくなってしまったものなどは、本人も諦めがつきやすい。

そういった物から、本人と一緒に処分していきましょう。大事なのは、必要か不要かその判断を本人にさせること。最初は難しいかもしれませんが、ここにあるのはゴミではなく全て本人の大切な物だと、周りの人が認めて寄り添う事で、本人は安心して、物を捨てれるようになってきます。

最初は長時間しない方がいい。ホーダーの人にとって捨てるという行為には多大な苦痛を伴うので、5分でも難しいかもしれません。その時はスパッとやめる事。無理に進めるとますます苦痛を感じて捨てる事を拒むようになってしまう可能性があります。5分でもできた事をほめて感謝を伝えましょう。そしてそれをまた次回。だんだん時間も長くなって来ると思います。

大事なのは、捨てるものを選ばせるのではなく、必要なものを選ぶ手伝いをすることです。本人が必要だと言うものが衛生上保管して大丈夫な物であるなら(腐らない衣類など)、ケースや箱などに保管すると言う方法もあります。

私のあるクライアントさんは、ホーダーで部屋が足の踏み場もないくらいの物やゴミで埋まっていました。特に尋常ではない量の靴がその部屋のほとんどを占めていました。彼は毎日街中を歩いて靴を拾って来て自分の部屋に溜め込んでしまうのです。

そのクライアントさんに私は、プラスチックの大きなケースを用意して、ここに大事な靴はしまって綺麗に保管しとこう、と提案しました。正直に言って、なぜ取っておくのだろうと思うような古い汚い靴ばかり。ほとんどがボロボロで汚れていて、片方しかない靴もある。でも本人にとっては大切な物。それを尊重して、あなたの大切な靴達を、宝物としてケースの中に保管しようよ、と。それを今度の水曜日に手伝わせて欲しい、と。(日時を前もって決めておく事、余裕のある日程である事が、心の準備のために彼には必要でした)。

必要な靴をケースにいれて行く過程で、そのクライアントさんは不要なものを捨てられるようになっていきました。驚いた事に、片方しかない靴は捨てようかな、この靴は実はあんまり好きじゃないな、とか処分できるようになったのです。

一つの衣装ケースでは足らず、来週水曜日にもう一つ買って来て欲しいとそのクライアントさんが私に頼みました。それだけでもすごい進歩です。大切な物には誰にも触らせない、という頑なな姿勢だったのが、もっと片付けたいから手伝って欲しい、という方向に変化したからです。

水曜日毎にもう一つ、もう一つ、と増やして片付けて行き、そうやって少しずつ、ケースの中に大事な靴を安全に保管できると、次はその他の不要な物を捨てる事もできるようになり、徐々に部屋に床が見えて来るようになりました。

私の経験だと、そうやって信頼関係を築くと、やがて掃除を任せてもらえるようになる事が多いです。この人は大事な物はわかってくれる、勝手に捨てない、と思ってもらえる。そうすると、大量に捨てたりなど大掛かりな大掃除も手伝わせてもらえるようになります。

人によって様々な要因があり、大切な物の種類も様々です。まずはその人に寄り添って、ゴミではなく大事な物だと尊重し、信頼を築くところから始めてみると良いと思います。