未修、ダメ、ゼッタイ | 司法試験情報局(LAW-WAVE)

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※2019年5月(令和元年)の投稿です。

 

司法試験情報局の更新を(いちおう)停止してから数年が経ちました。

停止後も、本文の表現を訂正したり、【補足】を書き加えたりはしましたが、個々のエントリーの主旨は変わっていません。

 

ブログに書いたいくつかの予想の中で、当たったものもあれば、外れたものもあります

 

たとえば、ロースクール制度の正当性についての異見(2011年7月15日)で、ロー組が予備試験組に合格率で圧倒される(ロー組が予備組に「食い殺されることになる」だろう)と書きましたが、これはその通りになりました(今からみれば難しくない予想ですが、当時はロー組vs予備組の戦いが始まる前で、ここまで断言するのは勇気が必要でした)。

 

その他にも、ロースクールが大きく数を減らすとか、ロースクールの正当性により一層疑問符が付くようになるとか、予想めいたことをいくつか書きましたが、これらは概ね正しかったと思っています。

 

ただ、その中で、自分でも「これだけは大外しだったなぁ」と認めざるを得ない予想があります。

それは、未修・既修の近接化傾向(2011年7月8日)に書いた、

 

「10年後には、未修・既修の司法試験合格率の差が、今より縮小している」

 

という予想です。

10年後を待つまでもなく、この予想は完全に間違っていました。

 

司法試験合格者の状況(弁護士白書)

 

↑こちらの日弁連の資料(特に59ページを参照)をみれば分かりますが、年度によって多少のブレはあるものの、未修と既修の差が縮まるような気配は全くみられません(むしろ状況は悪くなっています)。

 

未修の留年率(さらには非卒業率)の高さを併せて考えれば、ロースクール設立当初よりも、未修が既修に合格率で大きく水をあけられてしまった事実は認めざるを得ません。

 

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未修のデメリット(あるいは既修のメリット)の分析は、すでにたくさん行われています。

私自身も、既修のススメ①  既修のススメ② など複数のエントリーで既修進学を推奨しています。

 

さらに最近の記事として、

未修入学が危険であることの「意味」 (えるにえさん)

未修者の合格率はたったの15%!?ある未修者の悲劇 (BEXA)

未修者の合格率はたったの15%!?未修者が合格できない3つの理由 (BEXA)

をおすすめしておきます。

 

これからロースクール受験をする方には、是非読んでいただきたいです。

 

今回のエントリーでは、上の記事に書かれていることを前提に、そこには書かれていない内容にスポットをあててみたいと思っています。

 

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もっとも、私自身は、ロースクール「既修者」の変遷 ロースクール「未修者」の実態 で書いた内容

既修の法学レベルが(ロースクール初期より)下がった

未修の法学レベルが(ロースクール初期より)上がった

という認識については、いずれも間違っていないと考えています。

 

つまり、未修-既修の法学レベルが縮まったのは事実だと思っています。

 

しかし、だからといって、未修-既修の司法試験合格率までが縮まるわけではなかったのです。

私が間違えたのはここでした。

 

重要なのは、未修-既修の差が縮まったことではなく、両者の間に依然として差があることだったからです。

 

私は、この未修-既修の間に差がある(これからもずっとあり続ける)という事実を、軽く評価していました。そのため、既修者の先行利益(未修者の後行不利益)に目が行かなかったのです。

 

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そもそも、勉強であれスポーツであれ何であれ、先行者の利益 は、常に、確実に存在します。

 

スポーツ選手に第1四半期(4~6月)生まれが多い(早生まれが少ない)のはよく知られた事実ですが、日本では何となく「言ってはいけない」雰囲気があるだけで、勉強も実は似たり寄ったりです。

 

誕生日と学業成績・最終学歴

 

↑こういった研究(データ)をみれば明らかです。

小学1年次の先行者利益(後行者不利益)は、その後もずっと尾を引き、最終学歴にまで及びます

この論文では認定されていませんが、最終的には、この差は生涯年収にまで及んでいることでしょう。

 

これは、欧米では一般によく知られた事実です。

 

アメリカやイギリスは9月始まりですから、日本でいう「早生まれ」の子どもは「夏生まれ」(summer-born)と呼ばれます。夏生まれの子どもは、親の希望によって小学校や幼稚園への入学を1年遅らせることができます(たとえばイギリスの例)。

 

日本でも、中学受験においては、生まれ月に応じて得点調整を行っている学校があります。さらに、その事実(生まれ月による格差が存在しているという事実)は、保護者の側にとっても、だんだん周知のものとなってきています。

 

どうやら今のところ、日本でこの「格差問題」が持ちだされるのは、中学受験に限られているようです。

しかし、すでに述べたように、実際は中学受験の段階で解消するような軽微な問題ではありません。

 

和田秀樹氏は、以前から(公のデータはないものの)東大合格者にもまた、この生まれ月による格差が存在していると指摘しています(これを否定する論者もいますが、根拠を提示している人は一人もいません)。

 

大学の(生まれ月による)格差が実証されている中で、東大だけ例外ということは考えられませんから、和田氏の指摘する通り、歴代の東大生の生まれ月が、4月>5月>6月・・・>3月と綺麗に並んでいるのはまず間違いないでしょう。

 

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さて、ここまで述べてきたのは、先行者利益(後行者不利益)の宿命性とでもいうべき話でした。

しかしながら、今回のエントリーで私が主張したいのは、そういう宿命論ではありません。

 

たしかに、大学受験までは(特に日本人にとって)生まれ月は「宿命」かもしれません。


しかし、ロースクールへの入学については、あなたが4月生まれになるか(先行利益を得るか)、3月生まれになるか(後行不利益を負うか)は、自分で選ぶことができます

 

ここでいう「4月生まれ」とは、言うまでもなく既修進学のことです。

 

ロースクール経験者は皆知っていますが、基本的に、未修者はローに入学した最初の段階から既修者に対して気後れを感じています。露骨にいうと、劣等感・コンプレックスを抱えています。

 

未修者がそういう(3月生まれの子どもが感じるような)劣等感を背負わされているということは、一方の既修者は、未修者に対してちょうどその逆の感情、つまりは(4月生まれの子どもが感じるような)優越感を抱いているということです(こんなことはいちいち指摘するまでもない当たり前の話です)。

 

そして、その優劣の感覚は、その後、5年10年と、あなたの内部に残存することになります。

これが、日本人が軽視しがちな先行者利益の怖さです。

 

一度、心の底に刻印されたトラウマは、そう簡単に消えることはない、ということです。

日本人は、このホラーのような現実を、あまりにも甘く見ています。

 

繰り返しますが、しかしこれは宿命ではありません。

 

余計な劣等感を背負わざるを得ない環境に身を置くか、それとも優越感を得られる環境に身を置くか。

それまでの学校制度と異なり、ロースクールでは、このどちらかを自分で選ぶことができるのです。

 

この「選択権」を生かさない手はありません。

 

最終的に司法試験合格レベルに到達する「本気」があなたにあるのであれば、既修に受かることなど何でもないことです。上位ロー既修に受かることさえ(GPAなどに問題がなければ)容易なはずです。

 

反対に、何年やっても既修(上位ロー既修)合格レベルになれないのであれば、司法試験合格に辿り着くことなど端から絶望的です。そういう人は、既修に合格できなかったという事実をもって、司法試験から退場するべきなのです。

 

【図解】

初心者(未修合格) ==⇒ 既修合格 ⇒ 上位ロー既修合格 ============⇒ 司法試験合格

司法試験合格に至るためには、その過程で必ず(必ずです)、既修合格レベルは通過しなければなりません。

 

たとえば、あなたが未修志望だとして、自分が(何年か勉強すれば)司法試験合格レベルに到達できると確信しているのであれば、そんなあなたが未修に行こうとしているのは、実におかしなことです。

私なら、あなたの言動(内心)のどこかに嘘があると考えます。

 

あるいは、あなたが未修志望だとして、自分が(何年勉強しても)司法試験合格レベルに到達する確信が持てないというのであれば、そんなあなたが未修に行こうとしているのは、もっとおかしなことです。

言葉を選ばずにいえば、それはほとんど常軌を逸しています

 

もちろん、今まで述べてきたことは、既修進学者・未修進学者という“集団”に対する評価であり、特定の一個人が方法と努力を尽くして未修から司法試験に合格することを全否定する趣旨ではありません。

 

しかし、そうだとしても、どんな角度からみても、未修進学がナンセンス(何の利益も見い出せないもの)であることに変わりはありません

 

まさか、ロースクールで1年多く勉強ができることを「利益」と思っている大馬鹿者人がいるのでしょうか(まあ、いるのでしょうけれど・・・)。

 

どうか、これからロースクールを受験される方は、絶対に未修などに逃げずに、未修の不利益(後行者不利益)の存在をすべて知ったうえで、きちんと既修に行ってください

 

そうして、既修の先行者利益を得てください

 

 

未修、ダメ、ゼッタイ

 

 

 

 

 

 

 

 

【補足】 ここに書いたのは本当に補足的な細かい話なので、暇な方だけ読んでください。

 

①前に、どこかのコメント欄で(どこだったか忘れました)、「司法試験と既修入試の評価基準にはズレがあるため、司法試験に受かっても既修入試には落ちることがある」みたいな記述をしたことがあります。

 

この話は現在では成立しません

 

(理由1)

ロースクール初期の頃と比べると、現在は、ロー入試の傾向も、定期試験の傾向も、おそらくはそれらの採点基準も、司法試験に合わせる方向に大きく変わっているからです。

 

(理由2)

それにそもそも、現在ではロー入試自体のレベルが大きく下がっているからです。

ロースクール初期の既修者と、現在の既修者は、同じ「既修者」という名称で括るのに無理があるくらいレベルが違います(だから現在の既修者に法曹の適格性がないと言いたいのでは全くありません)。

現在の既修入試は、司法試験合格者が万が一にも落ちるような試験ではなくなっています。

 

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②かつてこちらのエントリーで、ロースクール(未修)に入ってしまえば、嫌でも勉強するしかなくなる」ということを、私個人の未修進学の理由として挙げたことがあります。

 

これは、(私個人の話と留保をしたつもりではいますが)ロー受験を考えている方には絶対に真に受けて欲しくない話です。こういうのは言い訳でしかありません

 

もしあなたが、「○○だから→私は未修に行こう」と考えているとしたら、その論理には必ず誤魔化しがあると思ったほうがいいです。「○○だから→未修に行こう」を正当化してくれる「○○」など、この世には存在しません。

 

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③上の日弁連の資料には、実は、既修vs未修の合格率だけでなく、法学部卒vs非法学部卒の合格率も記載されています。それによると、法学部卒の合格率が非法学部卒より高いことが分かります。

 

その原因は、本文で述べた先行者利益もありますが、その他に、法学部卒→ロー生の法律の適性が、法学部というフィルターによって一度ふるいにかけられている、ということが大きいと思います。

 

ここでいう「適性」とは、好き嫌い・向き不向きなどのことです。

 

法学部というフィルターを通過したロー生は、それ以外のロー生と違い、自分の法律に対する適性を、(ロー入学前に)一定の時間をかけて吟味しています

 

そして、吟味の結果、「自分に法律の適性なし」と判断した学生は、その後ロースクールに入ることはありません。

 

これはつまり、「自分に法律の適性なし」と判断した法学部の学生は、上記資料の分母に組み込まれていないということです。

 

このように、法律の適性を欠く(一定数の)学生が、事前に分母から間引かれているであろうことも、法学部卒→ロー生の合格率を引き上げている一因だと私は考えます。

 

※ちなみに、フィルターにかけられるのは、法学部卒だけではなく、既修者も同様です。

既修者にかけられる「フィルター」とは、もちろん既修入試のことです。

 

この補足部分で述べたフィルターの話と、本文部分で述べた先行者利益の話は、(今回は先行者利益の話を主題にしたかったもので)本文のほうでは完全に混ざってしまっているのでご容赦を。