江戸の空、水面の風 みとや・お瑛仕入帖 | geezenstacの森

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江戸の空、水面の風

みとや・お瑛仕入帖

 

著者:梶よう子

出版:新潮社 新潮文庫

 

 

 大好きだった兄の長太郎を亡くしたお瑛も、今は成次郎と夫婦になり幸せに暮らしていた。そんな時、圭太という男が現れる。料理茶屋『柚木』の新しい奉公人だ。何くれとなくお瑛を助けてくれた女将のお加津は、優しくて手際のよい圭太を褒めちぎる。でも、何かおかしい……お瑛の胸はざわついた。お加津さんは何を考えているの? お瑛は猪牙舟を大川に漕ぎだしていく。好評「みとや」シリーズ!---データベース---

 

 梶よう子の作品は「広重ぶるう」が最初に読んだ本でした。緻密な時代考証と今まで知らない人物像が読者目線で描き出されています。この本は広重の名前に惹かれて何気なく手に取ったもので、1ページを読み始めて引き込まれ一気見してしまいました。そういう作品であったのでのちにNHKでドラマ化されています。で、文庫本でシリーズものを見つけたので手に取りました。多分、雑誌連載されたものの文庫化だろうと思ったからです。

 

 ひょんなことでこの作品から読み始めることになりました。しかし、この一冊はシリーズ第4作となっていましす。ただ、前3作とはストーリー上は10年の隔たりがあることで、言ってみればこの一冊は第2シリーズの幕開けの一冊となっていました。

 

 巻頭に舞台となるお瑛の営む「みとや」を中心に関連する一帯の地図が掲載されています。北は吉原から南は江戸港のある石川島をカバーしています。なんとなればお瑛は歌詞を使って川を渡ることができず、本所、深川方面へ出かけるときは自ら猪木舟をこいで出かけるのです。そんなことで浅草橋のふもとには自分の舟をもやっているのです。このトラウマは1807年の永大橋の崩落が関係しています。この事故で両親を失い、さらには家も失ってしまったからです。

 

 能天気だが優しかった兄の長太郎を亡くしたお瑛だが、茅町のお馴染みの面々に助けられ、いつしか成次郎と夫婦となり、穏やかに暮らしています。清次郎と結婚して今や5歳の長太郎の母親に、お世話になったご隠居さまも亡くなり、お瑛の兄がふぐにあたって急死してから8年後というのがこの巻の設定です。ということは、菅谷道之進とお花の娘である花甫が登場して七五三の節句を祝うというイベントが描かれます。それと並行して、母親代わりに育ててくれた料理茶屋「柚木」のお加津が気に入って雇った圭太という「苦労人」の男がもう一つのストーリーの軸に登場します。この「柚木」の新しい奉公人です。礼儀正しく、気配りを忘れない圭太を、お加津は褒めちぎります。ただ、お瑛の胸はこの圭太の存在にざわつきます。

 

 金貸しをやっているあん摩の使い走りをやっていたという前職も気になります。確かに商才ももあるのですが、お瑛には騙しのテクニックを上手く使い身代を乗っ取ろうとしているのではと訝しく思えてなりません。店の改革と称して古株の奉公人を次々と辞めさせていくのが気にかかります。お上のお加津は湯治の旅に出るなどしていに介しません。

 

 しかし、店を立て直すという話が持ち上がった特お瑛は立ち上がります。お瑛は店の証文の偽物を作っていたことを覚えていたのです。そのことを圭太に告げに自信の漕ぐ猪木舟で柚木に乗り込みます。この女ながらの江戸っ子気質を舐めちゃいけません。助けてくれる仲間がいる限り今日もお瑛の漕ぐ櫓の音が水面に吹き抜けるていきます。まさに、文庫の表紙通りの展開でほっとします。

 

 「広重ぶるう」とはちょっと違う文体と話の展開でシリーズものの面白さを