ボールトのシューベルト
曲目
シューベルト 交響曲 No.9 ハ長調 D.944 「ザ・グレイト」
1. Andante - Allegro ma non troppo 14:14
2. Andante con moto 14:08
3. Scherzo. Allegro vivace - Trio 14:23
4. Allegro vivace 11:36
5.ベートーヴェン 劇音楽「アテネの廃墟」 Op.113 (1812) - 序曲* 4:15
6.ベートーヴェン 劇音楽「アテネの廃墟」 Op.113 (1812) - トルコ行進曲 * 1:40
7.J.シュトラウスI ラデツキー行進曲 Op.228 (1848) ** 2:51
8.スッペ 喜歌劇「詩人と農夫」序曲 (1846) *** 10:15
さて、ザ・グレートです。ボールトはセッション録音で、この作品を1934年(HMV)と1954年(NIXA)にも録音しており、さらに1969年のライヴ盤もリリースされているため、これは4度目の録音ということになります。
第一楽章冒頭は、浪々として深いホルンの音色で始まります。全体は滑らかに演奏されますが、ただのレガートではなく、広がりをもちながらも決して停滞しない音楽の流れがあります。弦楽パートはヴァイオリンが両翼配置になっています。この当時はクレンペラーが両翼配置で録音していましたが、彼一人のトレードマークではなかったことがこれで分かります。この「ザ・グレート」はこの両翼配置で聴くとその弦が刻む響きがまさに天国的な響きを作っていることがよく分かります。そして、主部に入るときに猛然と加速しますが、一旦主部になるとそのまま流れていくことはなく、店舗は自由に動きどっしりとした歩みになります。楽想によってテンポは細かく動かされていますが、その全てが堂に入っています。ドイツ系の演奏からイメージされるようながっちりとした堅牢さよりは、柔らかく積み上げられたような、懐の深さを感じさせる演奏です。第一楽章の最後になると適度な加速と、高揚感が感じられて、末尾は速度を緩めて木霊を呼ぶように完結します。
第二楽章は木管楽器が人なつっこく、語りかけるように演奏します。この楽章では弦楽パートは単調な刻みが多く、そのためスタジオ録音であってもなおざりに弾いているのが分かるディスクも少なくないのですが、ボールト指揮でのロンドン・フィルの弦楽パートは、ちょっとした弓の返し具合などを聴いていても、極めて真剣にボールトの指揮を見ながら、弾いているのが伝わります。
第三楽章は速くもなく遅くもないテンポです。ここだけを聴けば、何と中庸で、際だって目立つところもない平均的な演奏なんだろう、と思う方がいても不思議ではないと思います。特にティンパニののんびりとした叩き方は、その思いを助長させます。トリオになってもテンポは緩まず、ひたすら進んでいくあたりまで聴いてくると、何となくボールトがこの楽章をどう考えているかが分かるような気がしてきます。この楽章を一つの大きな塊と捉えて其処に煉瓦を一つずつ積み上げて囲むように考え、テンポ、ソロパートなどに遊びを許さずに四角四面さを強調しているように思いました。ボールトは「若い指揮者は細部にこだわりすぎて全体的な構成をないがしろにしている」と語ったと伝えられています。細かいこだわりを捨てて行き着いた解釈なのかもしれません。
第四楽章は一転して颯爽とした演奏です。音楽にも起伏やうねりが与えられて、とても劇的です。これも第三楽章との対比があればこそなのかもしれません。ティンパニも前の楽章でののんびりさは消えて、たたきつけるように轟かせています。多くの演奏なら強く盛り上げるようなところも、やや弱く上品に響かせることで、奥行きをもたらしているところも感心しました。最後はテンポをぐっと落として大見得を切って終わります。こんな感じで流れとしては一昔前の音楽づくりを感じさせますが、レコード時代をこういう演奏で聴き馴染んできた耳には懐かしくも、ほっこりとした気分にさせてくれます。下の音源はこのシューベルトにプラスして、「ラデツキー行進曲」と「詩人と農夫」も一緒に収録されています。このラデツキー行進曲も一味違う演奏で、打楽器が追加され、さらにトランペットの響きにもアレンジが加えられていてまぁ賑やかなこと。そして、「詩人と農夫」もオペレッタの楽しみを前面に押し出したアップテンポで畳み掛けるような演奏て楽しませてくれます。
さて、「アテネの廃墟」の演奏だけはフィルハーモニア管の演奏です。ただ、録音は1957年ながら録音スタッフは一貫してビショップ・パーカーコンビということもありポリシーは一貫しています。ここではどういうわけかベートーヴェンの「田園」とのフィルアップの音源の中に含まれています。
この「田園」については下記の記事で取り上げています。