ボールト/シューマン交響曲第3番「ライン」、4番 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

 ボールト/シューマン

交響曲第3番「ライン」、4番

 

シューマン

1.交響曲第3番変ホ長調Op.97『ライン』

1. Lebhaft

2. Scherzo: Sehr mäßig

3. Nicht schnell

4. Feierlich

5. Lebhaft

2.交響曲第4番ニ短調Op.120

1. Ziemlich langsam - Lebhaft

2. Romanze: Ziemlich langsam

3. Scherzo: Lebhaft

4. Langsam; Lebhaft

 

指揮/

/エイドリアン・ボールト

演奏/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

プロデューサー:カート・リスト

プリンシパル・バランス・エンジニア:ヘルベルト・ツァイトハマー

録音時期:1956/08月21-24、ウォルサムストウ・アッセンブリー・ホール、ロンドン

 

テイチク UDL-3067-Y(原盤パイ)

 

 

 

 

 多分ほとんどの人がこんなレコードが出ていたことを知らないのではないでしょうか。テイチクは演歌中心のレコードメーカーのイメージがありましたが、クラシックの1000円盤が商売になると見ると後発ながら参入し、初期は「オーバーシーズ」レーベルで主に一本街のマイナーレーベルのソースを発売していました。ドイツの「ゲルミダス」とか「ステレオ・テープ」という聞いたことのないレーベルで、他社にないことをということで、長時間録音盤を投入していました。ベートーヴェンの交響曲第3番と6番をカップリングしたり、ブラームスの交響曲第1番、4番を1枚のレコードに収録しています。今のCDより収録時間は長いのではないでしょうか。指揮者もハンス・ユルゲン=ワルターとかジョージ・ハースト、ロベルト・シュテーリなんていう指揮者が登場していました。まあ、ハンス・ユルゲン=ワルターはコロムビアのダイヤモンド1000シリーズでは初期にたくさん登場していましたから一本買いの産物だったんでしょうなぁ。

 

 そんなこともあり、当初はあまり触手が動かないシリーズでした。ところが途中からイギリスのパイ(PYE)レーベルと契約すると、ジョン・バルビローリやエイドリアン・ボールトらの音源を惜しみなくつぎ込んできました。そのパイレーベルの音源の一枚がこのレコードで、ボールドが録音したシューマンの交響曲が全曲発売された中の一枚です。これは廉価盤として初めて登場したレコードでした。目を皿のようにして新譜発売を追っていた身としては大注目の一枚でした。

 

 このPYEレーベル、もともとはNIXAに由来します。1950年に創設者ニクソンの苗字からこう命名された。英国では大手デッカに次いでLPレコードを発売し、ポップス界の歌姫ペトゥラ・クラークを専属とするなど、それなりにシェアを有していましたが、53年にはパイ(Pye)と合併しています。しばらくはレーベル名パイ=ニクサとして存続し、モノーラル末期からステレオ初期にかけてエイドリアン・ボールト卿、ジョン・バルビローリ卿が指揮した数多くの名盤を輩出しています。小生が知っているのはその後のPYEレーベルで、1970年代には廉価盤の「PYE Collector」シリーズなどを発売していました。その後パイは経営主体がいろいろ転変したのち1980年あえなく消滅してしまいます。音源はしばらくPRT(Precision Records and Tapes)管理下にあり、一時は「ニクサ」の名のもと旧譜のCD覆刻もなされたものの、最終的にはEMIに吸収されています。

 

 さて、この録音、若き日にライプツィヒ留学を果たし、アルトゥール・ニキッシュ師事したこともあるエイドリアン・ボールトは、同時代の英国音楽の熱心な擁護者であるばかりか、ドイツ古典音楽の正統的な解釈者としての貌をもつ。1960年代にはイギリスには3大Bといわれるバルビローリ、ビーチャムに並んでボールトが存在していましたが、そこには他にサージェントが存在していてちょっと影の薄い存在でした。EMIもボールト以外の指揮者を起用していました。そんな中、ニクサはこのボールトを使って積極的にステレオ録音を集中して行なっています。このシューマンの交響曲もそうで、この1956年に集中的に録音しています。当時、新興レーベル「ニクサ」が米国の「ウェストミンスター」と組んで、最新のステレオ収録を敢行したことも、この録音の存在意義をいやが上にも高めています。ステレオ録音でトップを走るデッカへの対抗心もあったのでしょうなぁ。

 

 データを見ると、4日間でシューマンの交響曲を4曲すべて仕上げ、その前後に英国の交響曲の大作を二曲(エルガーの《第二》とウォルトンの《第一》)、エルガーの《ファルスタッフ》と《コケイン》序曲、ブリテンの《四つの海の間奏曲》《青少年のための管弦楽入門》《マティネ・ミュジカル》《ソワレ・ミュジカル》、さらにベルリオーズの八つの序曲を収録する半月間の日程は、明らかにハード・スケジュール、六十代後半でなお意気軒昂だったエイドリアン卿にとっても、当時の手兵だったロンドン・フィルにとっても、これは相当な強行軍だったことが伺い知れます。ボールトは1950年から1957年までこのオーケストラの常任指揮者を勤めていましたから、多分その集大成の思い入れもあったように感じます。

 

 

 A面は第3番が収録されています。シューマンの交響曲というと、オーケストレーションに難があることがしばしば指摘されますが、このボールトの演奏はその特有の蟠った停滞感やオーケストレーションの淀んだ混濁は感じられません。特にこの第3番「ライン」は優雅なラインの流れというよりは、力強い川の流れを彷彿させるように音楽が一気呵成に突き進んでいきます。普通の演奏は33分前後が普通なんですが、なんとこのボールトの演奏は27分ほどで全曲を駆け抜けています。まさに特急の演奏です。第1楽章の冒頭などはライン川のほとりを疾駆する列車の風景が目に浮かびます。自ら鍛えたオーケストラの尻を叩いて煽るように前に突き進んでいきます。この演奏に比べるとクレンペラーは各駅停車ですな。また同じように速い演奏ではシューリヒトのものもありますが、ちょっと音色がすっきりしていてシューマンらしい重厚さがやや不足しているように感じます。その点、シューマンの交響曲がなんかモタモタして座り心地が悪いと感じている向きの人には絶対オススメの演奏です。

 

 

 第4番の方は同様の傾向の演奏です。このレコードの解説はこ宇野功芳氏が書いていますが、単なる曲の説明だけでなくボールトの略歴、そしてこのレコードに収められている交響曲第4番の演奏にも言及しています。そこでは、第1楽章の翳りの濃い響きやテンポの揺らし、スケルツォの強いアクセント、フィナーレの燃え立つような生命力をたたえています。

 

 まことに、この演奏は後にフルトヴェングラーの名演に出会うのですが、この曲の素晴らしさを伝えてくれた演奏として自分の記憶の中に残っています。3番では金管をやや抑え気味にしていたのですが、この4番ではその箍を外し、シューマンの重厚な響きを盛り立てています。