ボールト、最後の田園
曲目/
Mozart/Symphony No.35 in D major "Haffner", K.385
1.Allegro con spirito 5:27
2.Andante 4:07
3.Menuetto & Trio 3:07
4finaje.Presto 3:55
5.Mozart: Die Zauberflöte, K.622. Overture* 6:57
Beethoven: Symphony No.6 in F major "Pastoral", Op.68**
6.Erwachen heiterer Empfindungen bei der Ankunft auf dem Lande. Allegro ma non troppo 12:33
7.Szene am Bach. Andante molto mosso 11:21
8.Lustiges Zusammensein der Landleute. Allegro 5:28
9.Gewitter, Sturm. Allegro 3:51
10..Hirtengesang. Frohe und dankbare Gefuhle nach dem Sturm. Allegretto 9:03
11.Beethoven: Coriolan. Overture Op.62*** 7:43
指揮/エイドリアン・ボールト
演奏/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団***
録音/1974/09/23,10/16,1975/04/18
1967/04/03,29*
1977/04/17,05/10,15 ** アビー・ロード・スタジオ、ロンドン
1970/09/17*** キングスウェイホール、ロンドン
P:クリストファー・パーカー、アンソニー・グリフィス*
E:クリストファー・ビショップ、ミッシェル・グレイ***
EMI 6356602
演奏/ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団***
録音/1974/09/23,10/16,1975/04/18
1967/04/03,29*
1977/04/17,05/10,15 ** アビー・ロード・スタジオ、ロンドン
1970/09/17*** キングスウェイホール、ロンドン
P:クリストファー・パーカー、アンソニー・グリフィス*
E:クリストファー・ビショップ、ミッシェル・グレイ***
EMI 6356602

ネットを検索しましたがボールトのハフナー交響曲は誰も取り上げていないようです。限定盤なのに、未だにディスカウント価格で販売されているところを見ると、このボックスセットはそれほど売れなかったのでしょうか。まあ、そんなこともあり、応援の意味でこのCDを取り上げる事にします。小生は、ボールトには一目を置いていて、以前「STUDIO」シリーズで発売されていたボールトのチャイコフスキーを取り上げた事があります。この時アップした音源のリムスキー・コルサコフの歌劇「雪娘」より「軽業師の踊り」が聴かれているのが以外に思ったほどです。そんなこともあり、期待していたのですが、ボールト人気は低空飛行のままのようです。
ところで、EMIから発売された「エードリアン・ボールト/バッハからワーグナーまで(11CD限定盤)」は中途半端な枚数とドイツモノに偏っていたという事で盛り上がらなかったのでしょうかね。音源も翼下のWorld Recordに録音されているメンデルスゾーンのイタリアが無視されているのは納得がいきません。これだけでCD1枚分の音源は確保出来ますからね。そんなわけで企画としてはやはり片手落ちです。
さて、そんな中でモーツァルトの交響曲第35番「ハフナー」は初CD化されたものです。レコード時代は交響曲第41番とのカップリングで1975年に発売されています。今で言うシンフォニックな演奏で、古き良き時代の雰囲気を漂わせています。第1楽章から力強い演奏で、ぐいぐい飛ばしていきます。ちょいとティンパニがうるさいぐらい鳴ります。まあ、EMIの録音ですからそれほど期待してはいけません。それなりの音です。オーケストラは対向配置で第2ヴァイオリンは右チャンネルから聴こえます。繊細なモーツァルトではありませんが、意外に生き生きとした演奏で悪くありません。ディスコグラフィで確認するとモーツァルトの交響曲は32、34番とこの35番は別にコンサートホールに1959年に録音しています。あとは39、40番です。しかし、レコード会社がバラバラなので纏めての発売は無理のようです。
次の歌劇「魔笛」の序曲は本来は「World Record Club」の為に録音されたものです。そんなことで、本来のEMIのスタッで録音されていません。録音はこちらの方が古いのですが、音のバランスは断然こちらの方が優れていて、生々しい音がします。このバランスで35番の方も録音されていたら、もうちょっと評価が変わったかもしれません。
ボールトはニキシュのもとで研鑽し、ドイツ音楽の王道を学んでいます。しかるにディスコグラフィを確認するとベートーヴェンの交響曲は1、3番と5番から8番までの6曲しか残していません。これはいささか驚きです。で、EMIには6番の「田園」しか録音していないのです。1番と8番は何とSP時代に録音しているだけです。そして残りの曲は当時の新興レーベルの「Vanguard」が押さえていました。まあ、ボールトはEMIの専属ではなかったのでこういう結果になってしまったのでしょう。なにしろステレオ初期には大クレンペラーが君臨していましたからね。そんなことで、イギリス地元の指揮者のバルビローリやボールト、サージェントなんかは割を喰ったのか知れません。
さて、そのEMI録音のベートーヴェンの「田園」です。老境のボールトの録音ですがいささかも枯れていません。この時期はロンドンフィルのシェフはハイティンクが務めていました。そのハイティンクはもう一つの手兵であったコンセルトヘボウとではなく、このロンドンフィルと第1回目のベートーヴェン交響曲全集を1974-1977にかけて録音しています。その感性と前後してこのボールトとロンドンフィルは「田園」を録音した事になります。そういう時代背景を考えながら聴くと、このボールトの演奏、自然体でありながらハイティンクの演奏を下敷きにしているのではないかと思えてしまうのです。もう、今ではこのロンドンフィルとのベートーヴェンは顧みられる事はありませんが、この演奏を聴いて、その懐かしいハイティンクの演奏を思い出してしまいました。という事はボールトの指揮は正統派の解釈です。何も足さない、何も引かないというスタンスです。まあ、そういうところが合って、ハイティンクのベートーヴェンはあまり評価されないのですが、逆に言うと安心して聴いていられるという事です。
ただし、ボールトが霞んで見えないという演奏ではありません。そこはドイツ音楽を学んでいる重鎮です。第1楽章なんかはどっしりと構えたテンポで先を急ぎません。レガートで音を繋ぎながらも、要所々々ではきっちり句読点を付けていて非常に解り易い演奏です。この頃のオーケストラはハイティンクに鍛えられていますからアンサンブルは見事です。ボールトは1957年にもこの「田園」をLPOと録音しています。しかし、その録音では提示部の繰り返しを行なっていません。そういう時代だったのでしょう。ここでは、きちんと提示部を繰り返しているので演奏時間は12分を超えています。ただし、テンポはほとんど一緒です。年を撮ってもボールトの体内時計は老化していないという事でしょう。第2楽章も自然体の演奏で、ゆったりとしたテンポの中まるで風景画のように音楽がさらさらと流れていきます。我が家の娘などは普段はクラシックなんかまったく聴きませんが、このボールトの「田園」の第2楽章をかけていたら、ソファで本を読んでいると思ったらいつの間にかすやすやと寝入ってしまいました。α波の出る心地よい演奏なんでしょうなぁ。
後半の3楽章以降もこの調子の演奏です。「Vanguard」の録音では音の経年変化で丸くはなっていますが、そちらの方が録音バランスがよくて、分厚い音がします。ただし演奏はやや荒くホルンの響きなどはちょっとぶきっちょさが目立ちます。ここでは、そういう部分は影を潜め安定したバランスで音楽が進んで行きます。バンガードの演奏も捨てがたいのですが、全体の纏まりはこのEMIの録音でしょうか。とにかく癒される「田園」です。不思議な事に、1977年のこのボールドの「田園」は音源がありませんでした。そんなことで、何時もながらアップする事にします。ここでは第1楽章をEMIとVanguardの録音で聴き比べてみましょう。
1957年録音
最後の収録は「コリオラン」序曲です。プロデューサーは一貫してクリストファー・パーカーですが、バランス・エンジニアが変わると音がごろっと変わります。録音会場もこれだけキングスウェイ・ホールが使われています。左右一杯に音場が広がり、まるで4チャンネル録音を先取りしたような録音です。演奏はダイナミックでボールトの面目躍如といった感があります。ただ、よくこれでプロデューサーがOKを出したなぁという金管のフライング気味の飛び出しが冒頭あります。EMIはレッグ以降クラシック部門では大したプロデューサーに恵まれなかったのかもしれませんなぁ。