ホルスト・シュタイン
シベリウス交響曲第2番
曲目/シベリウス
交響曲第2番 ニ長調 Op. 43
1.Allegretto 9:57
2.Tempo andante, ma rubato 13:48
3.Tempo andante, ma rubato 6:13
4.Finale: Allegro moderato 13:12
指揮/ホルスト・シュタイン
演奏/スイス・ロマンド管弦楽団
録音/1983/10 ヴィクトリア・ホール ジュネーヴ
P:マイケル・ハース
E:コリン・ムファット
DECCA SXDL7565
レコードは英デッカのものですが、ジャケットには堂々と右上に「LONDON」のマークがあります。このレコードが発売された1980年第中頃はまだ日本国内では「デッカ」の商標が使えなかったということなんでしょうなぁ。ちなみに裏面も「ロンドン」のシールが貼ってありますが、そのすぐ横には「DECCA」がトレードマークですよときっちり表記されています。こういう現象はEMIの発売する「ODEON」盤も「His Master Voice」というニッパー犬の部分がシールで隠されていました。このマークは日本ビクターが商標登録していましたからねぇ。
ただ、この頃になるとこういうラベルはジャケットのみの処理で本体のレコードはシールは貼られていません。堂々と「DECCA」の表示のままです。まあ90年代に入るとポリグラムグループに「米デッカMCA」が吸収されましたから自然消滅しています。
まだまだCDは黎明期でレコードが全盛の時代の産物です。そんなことで交響曲第2番1曲しか収録されていません。シベリウスは初期の作品などでは独墺系作曲家の影響も受けており、ドイツ的な演奏スタイルが功を奏することが多いのもそのためとも思われます。ドイツ・ロマン派の音楽やオペラで他の追随を許さないエネルギッシュな指揮芸術は、ドイツの正統的なカペル・マイスターの伝統に根ざしており、滋味溢れる深い味わいは感動と充足を誘う。デッカにフリードリッヒ・グルダと入れたベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集が印象深く、それも名門ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団とやっている。しかし、レコード点数はオランダ・フィリップスから発売された〈バイロイト・ライヴ〉を除くと目ぼしい物はなく、ヴォルフの管弦楽作品は追悼盤として初めてCD化されたほどだ。本盤もデッカから発売されていてレア・アイテムのカテゴリーに入る。それもそのはず製作陣はリチャード・ベズウィック、エンジニアはコーリン・マーフォートですから録音も優秀です … わざわざこうした英国デッカ一軍がジュネーブまで出張セッション組むシュタインの実力が証明されている。特別興味深いのはエルネスト・アンセルメに鍛え上げられたラテン的明度と彩度の高いスイス・ロマンド管が、その良さを保持したまま珍しくも強力なバスを響かせガッチリとした響きを放っている。ここでシュタインは重みのある充実した演奏を展開、ロマン派オーケストラ作品の傑作としての位置づけを誇示するかのような説得力も持ち合わせています。
ホルスト・シュタインは1980年から85年までスイス・ロマンド管弦楽団の音楽監督も務めていました。アンセルメ亡き後のスイス・ロマンドはパウル・クレツキが後任に指名されましたが不評でわずか5年で退任し、その後をヴォルフガング・サヴァリッシュが1970-1980年常任を務めその後をホルスト・シュタインが継いだというわけです。あれだけ広いレパートリーを誇ったアンセルメでしたがレコードとして録音したのは交響曲第2番と4番、そして交響詩「タピオラ」しか録音を残していません。そんなこともあり、シュタインにお鉢が回ったのでしょう。ところで、デッカには1960年代にマゼールがウィーンフィルと録音した全集が残されています。そのデジタル版をシユタインに委ねようとしてのでしようが、交響詩は常任になる前から録音を開始していて、いざ、常任時の1980-1985年に一気に録音を完成させようと動いた気配はあるのですが、実際にはこの交響曲第2番しか録音されませんでした。
まあ、この演奏を聴けばなるほどね、と納得してしまいます。第1楽章冒頭のテンポは普通なのですが、どうも響き自体が重たく感じられます。北欧の凜とした張り詰めた空気感というものとはやや異質の響きです。そして、結構頻繁にテンポが動いて音楽の流れが淀みます。録音はデッカ本社のスタッフが乗り込んで担当していますからサウンド的には十全なのですが、どうも素直に曲に入っていけません。まあ、こんな演奏です。
第1楽章とは異なり、第2楽章はゆったりとしたテンポで進んでいきます。それも、非常に重厚なサウンドでさすがデッカと言いたくなります。ただ、この場合はこの重厚さがちょっと裏目に出たところがあり、ここでは楽章全体がまるでブルックナーの作品のように聴こえてくるではありませんか。
シベリウスの作品は交響曲と名乗りながら、楽章がアタッカで繋がり、全体が巨大な交響詩のような構成の作品が多いのが特徴ですが、この第2番も例外でなく第3楽章と第4楽章は切れ目なく演奏されます。テンポでいうとアンダンテからアレグロモデラートが渾然となっているわけです。その中でシュタインは細かくテンポを揺れ動かします。そこはちょっと違うだろうというツッコミもしたくなるほどです。そして、第4楽章のコーダはもう少し盛り上がるのかなという期待を裏ぎり、かなりあっさり目に終わってしまいます。
ドイツ・オーストリアものでは素晴らしい演奏を繰り広げるシュタインですが、このシベリウスは個人的にはどちらかというと失望に近い一枚でした。このシュタインの交響曲第2番は国内ではあまり人気がなかったようで、CDでシベリウスものが発売されるときはモントゥー/ロンドン響の演奏に差し替えられています。
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