ホルスト・シュタインのシベリウス | geezenstacの森

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ホルスト・シュタインのシベリウス

曲目/シベリウス
1. 交響詩「フィンランディア」Op.26 8:05
2.トゥオネラの白鳥* 7:23
3. 交響詩「夜の騎行と日の出」Op.55 14:21
4. 同「ポヒョラの娘」Op.49 13:09
5. 同「エン・サガ」Op.9 16:15

 

指揮/ホルスト・シユタイン
演奏/スイス・ロマンド管弦楽団
録音/1970/01
1980/06*  ヴィクトリアホール、ジュネーブ
P:リチャード・ウィズベック
E:コリン・ムファット

 

DECCA 417 697-2

 

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 ホルスト・シュタインがスイス・ロマンド管弦楽団を振っていたCDだったので迷わず買ってしまいました。珍しいとは思ったのですがホルスト・シュタインは1980-1985のシーズンこのスイス・ロマンド管弦楽団の常任指揮者をしていたのですね。

 

 この録音はそのスイス・ロマンド管弦楽団(以下OSRと略します)の常任になる前の1970年の録音です。シュタインとシベリウスというと意外な感じがしますが、何とこのOSRとかなりのシベリウスを録音しています。余程相性が良かったのでしょう。このシベリウス、実にいい味出しています。確かに北欧は冬は雪と氷の世界ですが、考えてみればスイスも同じなんですね。ですからシベリウスが合わない訳がないのです。アンセルメ時代は弦がやや薄く響く時があったのですがこのシュタインのもとのOSRは分厚い響きを出しています。ちょっと驚きました。考えてみればこのホルスト・シュタインの前はヴォルフガング・サヴァリッシュが常任(1970-1978)をしていたのですからこの時期にドイツ的響きを植え付けられたのでしょうね。それがここでは生きています。国内盤ではこういう形で発売された事は無いようです。

 

 1曲目の「フィンランディア」からしてその響きに引込まれます。さすがワーグナーのスペシャリストです。中心となる金管を重厚に鳴らしていますし、弦も大健闘で決してバランスは崩れていません、OSRの痕跡はわずかに木管の音色に感じられる程度です。その内容は手堅いだけでなく、金管をときに思い切り強奏させながらもカラヤンのように粘着質な壮麗さとは無縁の演奏で、ストレートで勝負しています。意外なほどの明晰さと軽さもあって情緒的なものは乏しいが、シベリウスの演奏に必要な熱き歌心は、その簡潔な響きの中に聴いてとることが出来ます。ここではロマンド管弦楽団のフランス的な香りは全くしません。ここ最近、バルビローリ、カラヤン、カムと聴いてきましたがこのシュタインの演奏が一番しっくりときます。スタンダードな名演です。

 

 

 続く「トゥオネラの白鳥」は「4つの伝説」として録音された中からの一曲ですが、こちらは一転して澄み切った弦の響きが往時のOSRを偲ばせる音がします。この録音だけが80年の録音で、シュタインがいよいよ常任に就任する直前のものです。オーボエの鄙びた音も聴き所です。一番OSRらしい音がする演奏です。

 

 

 聴きものは3曲目の交響詩「夜の騎行と日の出」です。あまり演奏される機会のない作品ですが、お気に入りの曲です。金管による咆哮で幕を開けるこの曲はフィンランディアの流れを汲みますが、初期の作品群の単純さと分かりやすさを内包しているので意外と取っ付きやすいかも知れません。弦の刻むようなリズムが特徴的ですが、オペラにも精通しているシュタインは微妙に旋律に変化をつけながらドラマチックに仕上げています。シベリウス自身はオペラを書いていません(塔の乙女」という短い作品がありますが、成功作ではありません)が、この演奏を聴くとオペラの一場面でも見ているかのような情景が浮かんできます。

 

 

 「ポヒョラの娘」は弦が活躍する作品でこちらは「トゥオネラの白鳥」に近い印象でOSRのきめの細かい透明感ある弦のアンサンブルを楽しむことができます。チェロの愁いを帯びた旋律はいい味出しています。OSRの録音は名ホールといわれた「ヴィクトリア・ホール」で収録されています。久々にこのホールの録音を満喫出来るといった仕上がりです。アンセルメ時代よりも低音の音が豊かで素晴らしいバランスの音がデッカの録音スタッフによって再現されています。シュタインのアプローチはシベリウスの音楽がやはり、ワーグナーのサウンドの延長にある事を感じさせる演奏です。金管はドイツ風の響きで咆哮し、弦はフランス風の繊細で美しく応えます。このOSRの絶妙な音のパレットを使ってドラマチックなシベリウスを演出しています。

 

 

 最後は「エン・サガ」です。これは最初期の作品ですが、シベリウスの作品の中では良く知られています。木管の特徴的なリズムと執拗に繰り返されるメロディが微妙に変化して不思議な効果を上げています。アンセルメ時代のOSRは交響曲第2、4番と交響詩「タピオラ」ぐらいしか録音していなかったので派内でしょうか。そこで聴かれたシベリウスはちょっと分析的で情熱的とは程遠い演奏でしたが、ここでは別物のように変化したOSRの響きを堪能出来ます。

 

 
 OSRはアンセルメ亡き後パウル・クレツキが後任になりましたがぱっとしないままで終わってしまい、サヴァリッシュにバトンタッチしています。しかし、サヴァリッシュ時代は契約の関係かOSRとはレコーディングしていません。つまりは、ホルスト・シュタインはアンセルメ以来久しぶりにOSRとデッカに録音した指揮者になるわけなのです。70年代から80年代の空白を埋める貴重な時代の録音はあまり復活していません。彼のシベリウスは交響曲第1、2番を始め、数々の管弦楽曲を録音していますが1995年に2枚組のCDが発売されただけで後はCD化されていないようです。日本ではけっこう人気があり、N響にも頻繁に登場していたのにどうした事なんでしょう。彼の演奏で再発されるのはグルダと組んだベートーヴェンのピアノ協奏曲ぐらいなのではないでしょうか。引退はしていますが、故人にならないと商売にはならないのでしょうかね。

 

 それにしても、このシベリウスは小生にとっては愛聴盤です。