LPレコード再発見
円盤に棲む魔物の魅力に迫る
著者/編集: 山口克巳
出版社: 誠文堂新光社
LPレコードにまつわる、これまでの疑問がイッキに氷解! LPレコードの録音年代と音質との相関分析や、レコード会社による音の違いの原因を追究する。また、各レコード会社および年代ごとに違う最適再生方法も解説。---データベース---
著者の三部作の第2弾です。著者は1960年に大学を卒業していますから、生まれは1938年、昭和でいうと19年の生まれでしょうか。小生よりも一回り半年上ということになります。年代的にいえばまさにレコード世代です。その著者はレパートリー的には、ジャズが7割、残りの3割がクラシックという配分でこの本の記述が成り立っています。ちょうど裏表の表紙で20枚のレコードが取り上げられていますが、14枚がジャズ、6枚がクラシックです。
下がこの本の目次です。拡大できます。
ジョー・スタッフォードは何歳若返る
何がオリジナル盤か
ここに、「ルディ・ヴァン・ゲルダー印」がついている
ジャズのステレオはいつ頃から?
ロイ・デュナンの「特設」スタジオ
「刷り込み」と「SP復刻」
モノとステレオは別モノ
同じレコードを20枚聴きくらべる
古くて新しい、ダイレクトカッティング
ダイレクトディスクとデジタル録音を聴きくらべる
といった内容で、いきなりジャズのレコードからスタートします。冒頭の「ジョー・スタツフォード」というのは下のアルバムです。
この一枚のアルバムを巡り、初出から再プレスはたまたは国内版との音質の違いが語られます。話は、そこからレコードのカッティング方式の変遷、リカッティングによるプレスの違い等サブタイトル通り、LP盤レコードをめぐるオーディオの話題が中心で、アナログレコードの持つ奥深い世界のダンジョンの世界が語られています。
著者はデザインの仕事がメインなのですが、一時期徳間音工のシャルプラッテンのレコードデザインも手がけていました。ここではLP初期から20世紀終わりまでのレコード技術史としてジャズを中心にその変遷氏がコンパクトに語られます。1958年にRIAAというイコライザーカーブが制定されますが、それまでに発売されたレコードは各社特性がバラバラだったということです。さらに、規格は決まっていても、それだけでは音は決まりません。マスターテープの録音でのマイクセット、カッティングやプレス工程など、細かい要素で音が大きく左右されていきます。
この本では安心じるしの目安としい「ルディ・ヴァン・ゲルダー」を取り上げています。ジャズ界で最も有名な録音技師で、自分の専用スタジオを持っていて、彼が録音カッティングしたもにはその目印が刻印されているそうです。レコードには内周部分にマトリックスナンバーが記載されるのですが、そのマトリックスの頭がRVGで始まるものはこの「ルディ・ヴァン・ゲルダー」がカッティングしたものということのようです。ちなみに手元にあるCTIのオリジナル版を調べてみましたが、ほぼこのRVGマークがあります。もともとCTIのレコードはルディ・ヴァン・ゲルだー・スタジオで録音されたものなのでそうじゃないかと思って確認したらまさにその通りでした。
この「ルディ・ヴァン・ゲルダー」印は主にサヴャイ、プレスティッジ、ブルーノート、インパルスのレコードがそうで、クラシックではヴォックスが彼の手がけたもののようです。ただし、国内プレスの話ではありません。全てアメリカプレスのレコードのことです。
ベージを繰るとレコードの究極系「ダイレクトカッティング」についても言及されています。小生もこの本で紹介されている「シェフィールド・ラボ」のダイレクト・カッティングレコードを何枚か所有しています。それらについてはこちらとこちらで書いていますからここでは触れませんが、素晴らしい音質で聴くことができます。
もう一つ「同じレコードを20枚聴きくらべる」というしょうがありますが、ここで取り上げられているのがMJQの「大運河」というアルバムです。これは映画のサントラでもあるのですが、これがモノラルとステレオがあり、それぞれがいろいろな形でリリースされているようなので混乱するのです。こんなジャケットのアルバムです。MJQのアルバムとしては「黄昏のヴェニス」として発売されています。
上はモノラル盤下はステレオ盤
上はこのアルバムに含まれる「ゴールデンストライカー」です。
この本ジャズが好きなら読んでおいた方がいいでしょう。レコードが最近売れていますが、レコードに興味がある人も読むに越したことはありません。でも、この世界に足を踏み入れるとひょっとすると抜け出せなくなる恐れもあります。