東海道五十三次殺人事件
歴史探偵月村弘平の事件簿
著者 風野真知雄
出版 実業之日本社 ジョイノベル
ご先祖は八丁堀同心!愛すべき名探偵誕生!!若き歴史研究家の月村弘平は、雑誌の取材のために訪れた箱根の街道筋で、女装をした中年男性の変死体を発見する。同じ頃、月村の恋人でもある警視庁刑事の上田夕湖は、品川で起きた殺人事件の捜査を始めていた。二つの事件の謎を解く鍵は「東海道五十三次」にあると、月村は夕湖に助言をするが、その後も次々と旧東海道の宿場町で変死事件が発生して……時代小説で人気沸騰の著者が挑む、初の書き下ろし長編トラベルミステリー!---データベース---
歴史探偵月村弘平の事件簿シリーズの第1弾です。歴史小説の作者が現代を舞台にミステリーを追うというシリーズです。その最初が東海道というのはもってこいの題材です。ただ、せっかくタイトルに五十三次と謳っているならもう少し事件のスケールを大きくして、ちゃんと京都まで連なる事件にして欲しかったなぁと思ってしまいます。それでも、途中までは東京、神奈川、静岡、愛知と殺人事件が続いていくのでこれはタイトル通りだわと期待したのですが、連続殺人事件はここまで、三重、滋賀、京都とは繋がりませんでした。残念です。
設定としては、太田忠司氏の「ミステリなふたり」を真似ているのか刑事とその相方というコンビで、刑事は女性というところと、事件解決のヒントは彼氏が担当という設定も同じです。ただ、こちらは短編ではなく長編というスタイルをとっているところが違うといえば違います。
基本的に殺人事件は所轄署と警視庁が絡む程度ですが、この事件では4都府県に跨っているので最初は品川警察署でしたが、最終的には警視庁に合同捜査本部が設置されることになります。つまり、初動が遅れたのはそれぞれが個別の案件として動いていたからで、言って見れば縦割り行政の弱点が出た事件といってもいいでしょう。
小説ですから彼女が警察情報を漏らしてくれるので、警察よりも歴史探偵の方が柔軟な発想で対処できるところと、歴史的認識の捉え方が根底にあるということで警察をリードしていくところが痛快です。
タイトルの東海道五十三次はもちろん安藤広重の浮世絵に関連があるということはすぐに思い浮かびますが、有名な保永堂版の五十三次ではなく、隷書版の五十三次がモチーフとして使われています。広重は五十三次の浮世絵を何種類も制作していて、他にも行書版、狂歌入、堅絵版など20種ほど制作されています。いずれも版画ものですが、広重は肉筆画も多数残しています。そんなところからこの小説ではこの肉筆画の五十三次があったならという設定でストーリーが構築されています。
コロナ禍で、最近は頓挫しているようですが、この東海道五十三次をバスツァーを利用して踏破するという企画がブームになっていますが、この小説の中でも、そういうバスツァーの企画が利用されています。
ウンチクもいろいろ用意されていて、箱根でも殺人事件が起きるところから箱根の関所の実態の考察はなるほどねと納得しますし、当然表の街道があれば裏もあるというところから、ストーリーは裏の世界へと展開していきます。
いろいろな要素も詰まっていて、主人公の母親の話からチアリーディングのことまで出てきて、なかなか面白い展開を見せます。でも、これが大きなポイントになっていることは後半明らかになります。
まあ、こういう探偵ものは日本ではあり得ないのが現実で、そこに警察をからませるということは、警察の捜査能力が劣っていることを前提としなければ話が進んでいかないというジレンマが付きまといます。この小説もその限りではなく、そういう点はなんだかなぁ、という気持ちになってしまいます。
その一つは、警察の家宅捜索で、なぜこれらの広重の肉質がが発見されなかったのかという疑問です。こういう証拠は絶対天帝が見つけることは不可能なことです。警察がこれを見つけられなかったことが犯人誤認の最大の失態だったといっていいでしょうなぁ。
時代小説は得意な風野氏ですが、現代ものの推理小説となるとまだまだこなれていないですなぁ。まあ、こういうシリーズものは2作目の出来がシリーズを左右するでしょう。