司法書士試験、と一口に言っても色々な問題がある。
カンタンな問題、難しい問題。過去問を解いているだけで正解できるサービス問題、多くの受験生を苦しめた難解極まりない問題。
受験生の9割以上が正解する絶対に落とせない問題、5択なのに何故か正解率が2割を切る恐るべき問題etc...。
司法書士試験というのは国家試験だから、その内容は非常にお堅く、いたって生真面目なものである。
だが、40年ぶんもの過去問を解いていると、中には思わず「……なんだこれ?」と思ってしまうような問題も含まれている。
この記事では、そんな「なんだこれ?」と思ってしまった問題を紹介しようと思う。
■珍問その①
***** 平成20年 午前 問23 *****************************
(イ) 自筆証書遺言には日付が記載されていることが必要であるが、「長野オリンピック開会式当日」という記載がされている場合は、遺言は有効である。
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自分が過去問を解いていて初めて「……なんだこれ?」となってしまった問題。
いや、言っていること自体は理解できる。遺言というのは方式の定められた「要式行為」だから、ある一定のルールの従って書かなければ意味がない(でなければ、最悪その遺言は「無効」ということになってしまう)。
「遺言 書き方」などでググると、「全文を自筆で書きましょう」「日付、氏名も自筆で記入しましょう」といった、具体的な遺言の書き方が出てくるだろう。
これは「後で誰が書いたか分かるように、自筆したほうがいいですよ」とかそういうハナシではない。自筆しなければならない事が法律で定められているのである。
民法第968条(自筆証書遺言)
1項 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
もしこのルールに従わなければ、せっかく書いた遺言も無効である。残された遺族は、遺産の相続をめぐって骨肉の争いを繰り広げることになるだろう。
そんなわけで、遺言の書き方というのは厳格にルールが定められている。たとえば、以下のようなルールがある。
・指印による押印 → OK
・花押(サインのようなもの) → ダメ
・パソコンで書いてプリントアウトしたもの → 自筆してないんだから、当然ダメ
・他人に頼んで代筆してもらったもの → 自筆してないんだから、ダメ
・カーボン模写によって作成したもの → 実質的に自書しているのと同視できるので、OK
だから、試験ではこういった「遺言のルール」が問われること自体は、珍しくない。
***** 解説 *******************************************
この問題は、「遺言に記載された日付は、日にちが確定されたものであることを要する」という知識を問うている。
実は、「遺言を書いた日」というのは、極めて重要である。
なぜなら、遺言の目的というのは「死者の最終意思の実現」にあるからだ。もし2つの遺言が作成され、第1の遺言と第2の遺言の内容が矛盾しているときは、第1の遺言が撤回されたとみなされてしまうのである。
民法第1023条
1項 前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
***** 平成18年 午前 問14 *****************************
次の発言は、AからEまでの5人が、留置権、先取特権、質権、抵当権又は譲渡担保権のいずれか一つを代表して、各担保物権の性質について述べたものである。AからEまでのうち質権を代表している者は、後記(1)から(5)までのうちどれか。なお、複数の者が同一の担保物権を代表していることはないものとする。
Aの発言 私もBも不可分性があるけど、私はBと違って法定担保物権なんだよ。
Bの発言 私もCも付従性を有しているわ。
Cの発言 私は、物上代位性がなく、Dと異なり典型担保なんだ。
Dの発言 私は、不動産に対しても設定できるよ。
Eの発言 私は、債権に対しては設定できないんだ。
(1) A (2) B (3) C (4) D (5) E
よく、「推理クイズ」とかで遊んだ人も多いだろう。「犯人はAだよ」「Bは嘘をついている」「Cは犯人じゃないよ」みたいな、アレである。
それ以前に、5人の人物が担保物権を代表して発言するというシチュエーションも謎すぎだが……これは、試験委員がちょっと遊びを入れてきた部分だと思う。
とはいえ、問題そのものは決して悪問というわけではない。ちゃんと、担保物権の基礎的な知識を問う問題にはなっている。
***** 解説 *******************************************
せっかくなので、これも解いてみよう。
A~Eの5人は、「留置権」「質権」「先取特権」「抵当権」「譲渡担保」という、5つの担保物権をそれぞれ代表しているという。
担保、という言葉は聞いたことがあると思う。要するに、「カネを返せなかったときのために、お前のダイヤの指輪をオレに預けろ」という、アレである。
そして、貸したカネが返ってこなければ、ダイヤの指輪を自分のものにして埋め合わせをする。これが担保である。
とはいえ、一口に「担保」と言っても、その性質によって様々な種類のものがある。この問題では、担保の中でも特に代表的なものを5つチョイスして、出題してみたというワケである。
まず、この5つの担保物権の中で、1つだけ明らかな仲間外れがある。民法の条文を見てみれば、それは一目瞭然である。
試しに、上記のページで上記のワードを検索してみてほしい。「留置権」は35件、「質権」は87件、「抵当権」に至っては276件もヒットする。
ところが、この中に1件もヒットしないものがある。「譲渡担保」だ。これは、譲渡担保が「非典型担保」と呼ばれる担保物権の1つだからである。
ここでいう「非典型」とは、「民法で定められたものではない」という意味だと思えばいい。民法に条文があるわけではないけれども、裁判所の判例などによってその性質が定められていった担保、それが譲渡担保である。
次にイメージしやすいのが「質権」だろう。質権というのは書いて字のごとく、町の「質屋さん」を思い浮かべれば、おおよそ正しい。
時計、ブランドもののバッグ、宝石etc...そういった高価なものを預け、その引換えとしてお金を借りる。まさに典型的な「担保」のイメージだろう。
その次にイメージしやすいのは「抵当権」だろうか。抵当権、という言葉そのものは聞いたことがなくとも、ドラマなんかで「家を担保に銀行から融資を受けて……」みたいな場面は見たことがあるかもしれない。その「家を担保に~」がいうところの「担保」とは、十中八九「抵当権」のことだとみて間違いない。
質権や抵当権というのは、「設定」するものである。
町の質屋さんにブランドもののバッグを預けて「質権を設定」するのと同じように、銀行からお金を借りるため、家に対して「抵当権を設定」する、という言葉の使い方をする。
では、質権と抵当権、両者の違いはどこにあるのか?
どちらも、「高価なもの」を担保にしてお金を借りるという点では変わりない。しかし、両者は「ある1点」において、その性質を決定的に異にする。
それは、質権は、「相手に」高価なものを預けるのに対し、抵当権は、「自分が」高価なものを使い続けることができるという事である。
想像してみてほしい。町の質屋さんからお金を借りるとき、ブランドもののバッグは質屋さんに置いていくだろう。
しかし、「家を担保に銀行から融資を受けて……」という場面では、銀行に家を取られてしまったわけではない。もちろん、返済が行き詰まればゆくゆくは家から追い出されてしまうかもしれないけれども、とりあえず現時点では、家族は相変わらず家に住むことができる。
実際、それぞれ「質権」と「抵当権」の最初の条文において、これら両者の特徴的な違いをみることができる。
民法第342条
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
民法第369条
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
条文の意味を理解する必要はない。だが、雰囲気としてはよく似ている2つの条文でも、どこか違いがあることに気付くだろう。
赤字の部分にだけ注目してほしい。「質権」は「占有し」、「抵当権」は「占有を移転しないで」。この点において、両者は真逆の表現がなされている。
これはつまり、町の質屋さんは「高価なもの」を自分で預かるが、銀行は「高価なもの」を預かるわけではない、ということを意味している。
しかし、そうなると困ったことが1つある。「抵当権を設定」された銀行は、本当に自分に抵当権が設定されているのかどうか、傍目に分からないのだ。
町の質屋さんなら、ブランドもののバッグは自分の手元にあるのだから、傍目からみても「質権を設定」されていることは明白だろう。
だが、銀行のほうは、本当に「抵当権が設定」されているのかどうか分からない。銀行が家を預かってわけでもないし、その家には相変わらず家族が住み続けているからだ。一体どうやって「自分に抵当権が設定されている」ということを証明すればいいのか?
答えはカンタンである。「自分に抵当権が設定されている」ということを登録してしまえばいい。それが何よりの証拠になる。
質権者は、その債権の担保として債務者又は第三者から受け取った物を占有し、かつ、その物について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
民法第369条
抵当権者は、債務者又は第三者が占有を移転しないで債務の担保に供した不動産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利を有する。
抵当権のほうにだけ「不動産について」という一節がある。これに対し、質権のほうにはそういった記述がない。これは、質権が動産に対しても、不動産に対しても設定できることを意味している。
さらに言えば、「目に見えない、人に対する権利」に対してすら、質権は設定することが可能である。
どういう事かというと、たとえば友人に100万円のカネを貸して、それを取り立てるための借用証を持っていたとする。
この借用証があれば友人から100万円のカネを取り立てることができるのだから、借用証自体もけっこうなカネになるだろう。多分、90万円ぐらいでなら売れるのではないだろうか。
これは、借用証そのものに価値があるのではない。借用証は単なる紙切れである。そうではなく、「友人に対して100万円を取り立てることのできる権利」にこそ価値があるのだ。
こういった、「目に見えない、人に対する権利」(債権という)に対してすら、質権は設定することができる。いざとなったら、町の質屋さんが友人に対して取立てをするのだ。
このように、よく似ている「質権」と「抵当権」だけれども、両者は決定的に異なる部分がある。抵当権は基本的には不動産に対して設定する。これに対し質権は、動産・不動産・債権、いずれに対しても設定することができる。
さて、残された「留置権」と「先取特権」だが、この2つは、先の「質権」「抵当権」とはそもそものタイプが違う。
それは、質権と抵当権は「約定担保物権」だが、留置権と先取特権は「法定担保物権」だからだ。
「約定」とは、要するに「契約によって設定する」ということである。町の質屋さんから、一方的に質権を設定されるなどという事はあり得ない。質権というのは、カネを借りる者とカネを貸す者、双方の話し合いと合意によって初めて成立する。
「え?じゃあ契約によって成立しない担保があんの?」と思うかもしれないが、それが留置権と先取特権である。
「法定」とは、「法律の定めによって当然に成立する」ことだと思えばいい。ある一定の条件さえ満たせば、たとえ相手が「オレはそんなものの設定を認めた覚えはない!」と文句を言おうと、そんなのお構いなしに「自分には留置権がありまーす」と主張しちゃっていいのだ。
そんな、見ようによっては厚かましい権利だけに、主張するにはそれなりの条件がある。
たとえば、時計の修理を依頼されて預かったのに、修理代をまだ払ってもらってない(留置権が成立するケース)とか、マンションのオーナーが部屋を貸したのに、賃料を払ってもらえない(先取特権が成立するケース)とか、色々である。
せっかく時計の修理をしたのに修理代を払ってもらえないなら、「修理代を払ってもらうまでこの時計は絶対に返さん!」と、その時計を自分の手元に置き留めることができる。これが留置権である。
彼らは、担保の設定について何か契約を交わしたわけではない。
しかし、修理代を払ってもらうまでは時計を「置き留める」ことができるのだから、これもある種の担保だといえるだろう。
契約は何も交わしてないけど、法律がそれを認めているから、時計を「置き留め」ちゃっていいのである。だから「法定」担保物権という。
さて、これら担保物権というのは、それぞれに特徴があるけれども、いずれも大きな括りでは「担保物権」というカテゴリに属する仲間だから、それなりに共通点もある。
その1つが「物上代位性」と呼ばれる性質である。
これは要するに、「家がなくなっても、支払われた保険金に対して『それはオレのものだ』と主張できる性質」のことだと思えばいい。
先ほどの例でいえば、銀行は、家に抵当権を設定していた。銀行としてはたとえ返済が滞ろうと、いざとなれば家を売って、そのお金を受け取ればいいと目論んでいたわけである。
ところがある日、隣の家からの火事によって火が燃え移り、家が丸コゲになってしまった。
銀行としては返済を受けることもできず、家を売ろうにもその家がない。/(^o^)\ナンテコッタイ と途方に暮れることになるだろう。
だが、銀行にはまだ手が残されている。その家に火災保険が掛けられているかもしれないからだ。
その保険金というのは、本来であれば家の持ち主が受け取るべきものである。しかし、「抵当権を設定」していた銀行には、この保険金を受け取る権利がある。
民法第304条(物上代位)
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。
「目的物」とは家のこと、「滅失」とは火事によって丸コゲになること、「債務者」とはカネを借りた家主、「受けるべき金銭」とは火災保険金である。
要するにこの条文は「火事のせいで家が丸コゲになったら、家主が受け取るであろう火災保険金を代わりに受け取っていいよ」という事を言っているのである。
これは、火事によって「家」が「火災保険金」という、別のものに姿を変えたと考えるためである。だから、家に対して抵当権を設定していた銀行は、火災保険金に対しても権利を主張できる。これを「物上代位性」という。
これは先取特権の条文だが、抵当権についても同様である。どちらも同じ担保物権なので、同じ性質を持つのだ。
ところが、この「物上代位性」が適用されない担保物権がある。留置権である。
留置権というのは先ほども述べたように、物を「置き留める」権利だから、物そのものを失ってしまったら主張できない。
「修理代を払ってくれるまでは絶対に返さん!」と時計を置き留めてみたものの、何らかの事故に巻き込まれて時計をなくしてしまった。こうなると、もう置き留めるもヘッタクレもない。
留置権というのは物を「置き留める」権利なのに、その置き留める物がないのである。これでは留置権の主張のしようがなく、したがって物上代位性も認められない。
まとめよう。5つの担保物権には、それぞれ以下の特徴がある。
譲渡担保 … この中で唯一の非典型担保
質権 … 約定担保物権。動産、不動産、債権なんでもござれ
抵当権 … 約定担保物権。動産や債権に対しては設定できない(登録できないから)
先取特権 … 法定担保物権
留置権 … 法定担保物権。物上代位性がない
これで、改めて問題を解くことができる。A~Eの発言をもう一度見てみよう。
Aの発言 私もBも不可分性があるけど、私はBと違って法定担保物権なんだよ。
Bの発言 私もCも付従性を有しているわ。
Cの発言 私は、物上代位性がなく、Dと異なり典型担保なんだ。
Dの発言 私は、不動産に対しても設定できるよ。
Eの発言 私は、債権に対しては設定できないんだ。
この中で一番有益なことを言っているのはCである。「Dと異なり典型担保」、これはすなわち、Dは非典型担保であることに他ならない。したがって、Dは「譲渡担保」である。
さらにCは、「私は、物上代位性がなく」と言っている。この中で、物上代位性がないとハッキリ断言できるのは留置権しかない。したがって、Cは「留置権」である。
次にAに注目しよう。「私はBと違って法定担保物権」と言っている。法定担保物権といえば留置権と先取特権だが、留置権はCだと確定したから、Aは「先取特権」である。
残るは「質権」と「抵当権」である。そこでEの発言に注目すると、「私は、債権に対しては設定できないんだ」と言っている。ということは、Eは「抵当権」であり、残されたBは「質権」である。
この問題は、「質権を代表している者はどれか」というものであった。
したがって、答えは (2) B である。
***** 平成10年 午前 問23 *****************************
Aに深い恨みをもつBが、ある日の夜中、人里離れた山中で、頭にろうそくを立て手に五寸釘を持ち、大木に向かって「Aよ、死ね!」と叫びながら、Aのわら人形を打ちつけていたところ、偶然通りかかったAがそれを見て尋常ではないBの様子に驚き、その場に卒倒した。卒倒しているAに気付いたBは、それを奇貨として、持っていた金槌でAの頭部を数回強打して、Aを死に至らしめた。
(以下略)
ところで、冒頭で司法書士試験にはカンタンな問題も、難しい問題もあると述べた。では、司法書士試験の中で「最もカンタンな問題」と「最も難しい問題」はどれか?
先ほど挙げた「質権はどれか」を当てる問題は、司法書士試験の中ではかなりカンタンな部類だと思う(1番かと言われると微妙だが)。
逆に、「最も難しい問題」ということになると、どうしても難しかった年度の記述式問題ということになってしまう。
なぜなら、択一式が1問2~3分で解くのに対し、記述式はそもそも問題文が15~20ページとボリュームが多く、1問1時間かけて解くものだからだ。単純に難しさのレベルが違う。
⇒さらに言えば、この記述式問題は「ふつうにやったら3時間はかかる」レベルの問題を1時間で解かされる。その意味でも択一式の難易度とは一線を画している。
では、「択一式に限定して」最も難しい問題を選んだ場合はどうか?
これは人によって意見が分かれるところであろうが、個人的に「……いや、難しすぎじゃね?これ」と感じた問題があるので、紹介したい。自分が選ぶ「司法書士試験の最難択一問題」である。
ちなみにこれは民法の問題なので、司法書士試験を受けたことがなくとも、挑戦できる人は多い(司法書士試験以外にも、民法が試験科目になっている国家資格は多いので)。
さらに言えば、これは「学説問題」という「国語の問題」だから、仮に法律知識がゼロであっても、ズバ抜けた国語力さえあれば正解することが可能である。国語力に自信のある人は、ぜひ挑戦してみてほしい。
ちなみにこれは午前の部の問題なので、1問約3分で解かなければならないのだが、自分は初見時、まず問題の意味を理解するのに5分かかった。
***** 平成12年 午前 問9 ******************************
次のⅠからⅢまでは、不動産の取得時効と登記に関するある見解を分解して要約したものである。この見解に関する下記AからCまでの批判についての後記(1)から(5)までの記述のうち、誤っているものはどれか。
[見解]
Ⅰ 時効期間の満了前に原所有者が当該不動産を譲渡して所有権移転の登記を経由した後、時効期間が満了した場合、占有者は、譲受人に対し、登記なくして時効による所有権の取得を対抗することができる。
Ⅱ 時効期間が満了した後、原所有者が当該不動産を譲渡して所有権移転の登記を経由した場合、占有者は、譲受人に対し、登記なくして時効による所有権の取得を対抗することはできない。
Ⅲ 時効期間の起算点は客観的に占有を開始した時点であり、その起算点を任意に選択して時効取得を主張することは許されない。
[批判]
A 原所有者による当該不動産の譲渡が、時効期間が満了する前である場合と時効期間が満了した後である場合とを比較すると、占有期間の長い後者の方が占有者の保護が弱くなる。
B 原所有者が当該不動産を譲渡して所有権移転の登記を経由するまでに占有の開始が10年を経過しているが、20年は経過していない場合、占有者が善意無過失であるときの方が保護が弱くなる。
C 不動産の時効取得について占有の継続だけを要件とする民法の原則に反する。
[批判についての記述]
(1) Aは、Ⅰ、Ⅱの結論を採り、Ⅲとは逆の結論を採る見解からの批判となり得る。
(2) Aは、Ⅱ、Ⅲの結論を採り、Ⅰとは逆の結論を採る見解からの批判となり得る。
(3) Bは、Ⅰ、Ⅱの結論を採り、Ⅲとは逆の結論を採る見解からの批判となり得る。
(4) Bは、Ⅰ、Ⅲの結論を採り、Ⅱとは逆の結論を採る見解からの批判となり得る。
(5) Cは、Ⅱ、Ⅲの結論を採り、Ⅰとは逆の結論を採る見解からの批判となり得る。
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これは民法・物権編からの出題だから、司法書士試験の勉強を始めて、まだ間もなかった頃にぶつかった問題である。
それまで全く法律の勉強をしたことがなく、ド素人に毛が生えたぐらいの頃に挑んだ問題で、そのうえこの難易度なので、「ま、全く分からん……」と頭を抱えたのを覚えている。
では、今なら解けるだろうかと思って改めて問題を読んでみたが…………うーん、分からん。
※ ここから先は、ちょっと話がマニアックになる
■その他②
珍問ではないが、自分が妙に印象に残っている問題がある。令和元年、午後の部、問13だ。
まず正答率が猛烈に低い。わずか21%である。
⇒司法書士試験は5肢択一だから、どんなに適当にマークしようと20%は正解できる。それなのに正解率が21%なのだから、いかに難問かが分かるだろう。
こういった「正答率の低い問題」というのは、難しくて誰も分からず、答えがバラバラになってしまう(つまり、5つの選択肢を選んだ人が均等にバラけてしまう)ケースが多い。
ところが、この問題は違う。正解の「4」を選んだ人は21%しかいないのに、誤りの「2」を選んだ人が66%もいるのである。
つまりこれは、大半の人が「ひっかけ」の2を選んだか、もしくは正解を見抜いて4を選んだか、という問題だったのである。それ以外の答えを選んだ人はほとんどいない。
初めてこの問題を目にしたとき、「司法書士試験の受験生の7割がひっかかるってスゲー問題だな……」と思い、強烈に頭に焼き付いたのを覚えている。
***** 令和元年 午後 問13 *****************************
次のアからオまでの情報のうち、相続又は合併を登記原因とする所有権の移転の登記の申請情報と併せて提供すべき登記原因証明情報とはなり得ないものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 所有権に関する被相続人名義の登記済証
イ 被相続人の戸籍の附票の写し
ウ 検認がされていない自筆証書による遺言書
エ 相続人の欠格事由に該当する相続人が作成した当該欠格事由が存在する旨の証明書
オ 新設合併の当事者である会社が作成した新設合併契約書
1 アイ 2 アウ 3 イエ 4 ウオ 5 エオ
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これを見ても分かるとおり、近年の司法書士試験としてはかなり文章量が短く、シンプルである。このシンプルな記述の中に、司法書士試験の受験生の7割が引っかかった恐るべき「ひっかけ」が潜んでいる。
実際、これは予備校講師が解けば「ウとオの〇が明らかだから答えは4だな。これなら7~8割は正解できるだろう」と思うに違いない。
しかし実際の正答率はわずか2割であった。同じ受験生である自分には、その気持ちが痛いほど理解できる。というか、自分も受けていたら、たぶん同じミスを犯していたと思う。
恐らく、以下のように考えて間違ってしまったのではないだろうか。
■理由その1:アを登記識別情報(TSJ)と間違えた
多分、これが多い気がする。
正解の4は「ウオ」、ひっかけの2は「アウ」である。これはつまり、ほとんどの受験生はウが「〇」であることを見抜いた。しかし、7割の受験生はアが「〇」だと判断してしまった、ということを意味している。
多くの受験生が、「ア」に騙されたのだ。
アは「所有権に関する被相続人名義の登記済証」だが、ほとんどの受験生にとって、登記済証なんて「TSJの前身」ぐらいのイメージしかないだろう。
しかも、この問題は相続登記について問うている。だから、以下のように考えたのではないか。
相続登記 → 単独申請 → TSJがいらない → TSJの前身である登記済証もいらない → アは〇だ!
しかし、この問題で聞かれているのは「登記原因証明情報とはなり得ない」ものである。TSJとはなり得ないもの、ではない。
恐らく、後から見返せば「あ、これ聞かれてるの登記原因証明情報についてじゃん!なんでTSJと勘違いしちまったんだ!?」と気付けるようなミスだが、本試験の午後の部はとにかく時間が足りていないから、1つの問題をじっくり検討している余裕がない。
だから、受験生が反射的にアが〇だと判断してしまうのも、やむを得ないのである。
■理由その2:オが「なり得ない」とまでは言えないと思った
こちらも多いのではないかと思う。
正しい肢であるオは「新設合併の当事者である会社が作成した新設合併契約書」だが、これが〇であること自体は見抜いた受験生が多いのではないかと思う。単独申請である合併の所有権移転登記に、こんな私文書を登記原因証明情報とするはずがないからだ。
しかし、「なり得ない」とまで言われてしまうと、どうか?
問題文は、「登記原因証明情報とはなり得ないもの」はどれかと聞いている。
「なり得ない」とまで言われると、オに大きな〇を付けるのは、ちょっと勇気がいる。
そりゃあ登記事項証明書なんかを添付すれば合併を証する情報としては十分だろうが、ひょっとしたら、自分が知らないだけで合併契約書を添付するケースだってあるかもしれないじゃないか。
それに、合併に関する登記なんだから、合併契約書を添付するケースがあったとしても、そんなに不自然じゃない。
それに比べたらアの「登記済証」のほうが、添付が必要になるケースが思いつかないし、TSJの前身だし、こっちのほうが「なり得ない度」が高いような気がする……こんな感じに考えて、2を選んでしまったのではなかろうか。
このほか、令和元年の午後の部には正答率12%(当てずっぽうでマークしたほうがまだマシ)という、恐るべき問題も出題されている。
令和元年の午後の部が「異常な難易度」として受験界で語り継がれるのも、納得である。
■その他③
最後にものすごくどうでもいい話なのだが、余談でもう1つ、自分の気になった問題を紹介する。
***** 平成12年 午後 問35 *****************************
(ア) 定款において取締役の員数の定めがなければ、旧取締役の退任の登記の申請を怠ったことによる過料の制裁は免れない。
(イ) 定款において取締役の員数が5名と定められているのであれば、新取締役の選任手続を怠ったことによる過料の制裁は免れない。
(ウ) 定款において取締役の員数が5名と定められているのであれば、旧取締役の退任の登記を怠ったことによる過料の制裁は免れない。
(エ) 選任又は登記の申請が遅れたことにつき故意又は過失がなくても、過料の制裁は免れない。
(オ) 登記の申請を怠ったことによる過料の制裁は、代表取締役が受ける。
まったく珍問でも難問でもないのだが、この「過料の制裁は免れない」って言い回し、なんかカッコよくない?
本なんかで気に入った言い回しを見つけるとすぐ真似したくなる自分としては、いつかブログでもこの表現を使ってみたいなあと思う(こんなフレーズ、いつ使うんだって話だが……)。