アイドル戦国時代と呼ばれた日本のアイドルブームは終了して久しいですが、K-POP式アイドルのブームもずいぶんと落ち着きました。
そんな変化の時期に、突如として韓国で「アイドル」になったのが住田愛子。
少し前に彼女を紹介しましたが、それからの間に、在籍していた芸能学校のアクターズスクール広島(略称:ASH)からの卒業を発表して韓国で本格的に活動を開始。民謡出身のトロット少女歌手として有名だったキム・ダヒョンと組んだ〈Lucky팡팡〉で、日本ではなく韓国でデビューしています。
ここでリンクした映像は、住田愛子がASHの実習チーム〈SPL∞ASH〉でのチームメイトだった白娜と松本流歌とともに韓国のステージで〈KARA〉の『Lupin』を披露したもの。
K-POPを聴かない普通の韓国人視聴者の間では「彼女たちならこのまますぐにデビューできるじゃないか!」「なんで彼女たちは日本で無名なんだ?」と驚かれていますが、二人とも日本ではアイドルのオーディションに残念ながら落選しているんですよね。白娜は〈SPL∞ASH〉出身の今村美月、岡田あずみが二代続けてキャプテンを務める〈STU48〉、松本流歌はやはり〈SPL∞ASH〉の先輩で岡田あずみとチームメイトだった永尾梨央がリーダーを務める〈可憐なアイボリー〉のオーディションに参加していたのは見かけました。
そして〈可憐なアイボリー〉オーディションに合格した西原悠桜も〈SPL∞ASH〉のチームメイト。
映像は、オランダ発のオーディション番組『The Voice』日本版にエントリーした西原悠桜。
彼女たちの存在でASHに興味を持つ韓国人も現れていますが、興味深いな、と思うのは、こうした芸能学校でのつながりだけでなく、韓国の放送局MBNでは、親族と歌う昔の日本でもあった家族対抗歌合戦みたいなコーナーに住田愛子の親戚として〈円神〉の中本大河、子役の鈴木かつきを韓国のスタジオに招いています。そして、親戚が中本大河ということは〈#Mooove!〉の中本こまりも親戚ということになるのか(中本兄妹は24年秋それぞれ所属チームからの退団を発表しています)。
日本ではなく韓国の放送局経由で日本のアイドルと子役の人的ネットワークの一端を知ることになるとは。
人的ネットワークというと、ASHではないけれど、〈可憐なアイボリー〉メンバーの福田ひなたの実姉は〈STU48〉副キャプテンの福田朱里。この2チームは実質姉妹チームかのよう。
多くのASH出身者を受け入れている〈STU48〉では、池田裕楽に続いて同じくASH出身でスクール時代は住田愛子とライバルだった岡村梨央が国内外48グループ全体の歌唱コンクールでトップになりました。
ただ、広島を中心とする瀬戸内経済圏の市場の小ささに活動の限界を感じてメンバーが次々と退団して上京している現状があり、〈STU48〉自体も東京での公演を増やす発表をしています。それなら〈STU48〉は東ではなく西に向かってトロット枠で韓国に売り込むのもありなんじゃないか?…とは前にも書きましたね。明らかに人材が日本では活用できていない。
でも、K-POPアイドルのいる韓国で、日本では素人集団視されている48グループが評価されるの? と思う人もいるかもしれません。
大衆イメージとは違って、例えば元〈IZ*ONE〉メンバーで、現在は韓国アイドル界の御意見番ポジションにいるイ・チェヨンは『それでもステージは続いていく K-POPアイドル8人のインタビュー集』でこう印象を述べます。

また音楽という面でも、前述のトロット番組では〈AKB48〉の『ヘビーローテーション』も歌われていますし、〈可憐なアイボリー〉の姉妹チーム〈高嶺のなでしこ〉の『可愛くてごめん』も歌われ、韓国の視聴者からは「日本のアイドル曲は華やかで楽しい」「これが本当のアイドルだ」「もっと日本の曲をやってほしい」などの反応。
まあ、日本における韓国アイドル、韓国における日本のアイドルへの過剰な期待も、「隣の芝生」なのかもしれませんが。
中国ではギタリストのMiyaviが「アイドル」視され始めています。
中国湖南衛視(芒果TV)で配信されている『披荆斩棘的哥哥(Call Me By Fire)』シリーズは、若手芸能人の「弟」たちに芸能界の先輩が「兄」として芸事の「荊の道」を切り拓いて導きステージを完成させ競うリアリティショー。
中国ではサバイバル形式のアイドル・オーディション番組が視聴者の過熱を煽り過ぎだ、と政府に怒られてから、こうした協力型のリアリティショーが主流になっています。
24年8月から放映開始した『披荆斩棘的哥哥』第4シーズンでは日本の芸能界出身者も招かれ、「弟」側には解散した〈INTERSECTION〉のモリアティー慶怜、「兄」側にダンサーとして〈EXILE〉のAKIRA、ミュージシャンとして〈THE LAST ROCKSTARS〉のギター担当でもあるMiyaviが参加しています。
で、この番組でMiyaviは「四〇代のおじさんなのに日本のアニメの中から出てきたみたいでかっこいい」と人気に。
中国語圏の視聴者の目には、マッチョで熱血な見かけだけど台湾出身の中国語圏では「国民(的)女神」と呼ばれる妻の林志玲の尻に敷かれてそうな「国民的姉婿」のAKIRAと、クールな見かけだけどかわいいところがあるMiyaviと映り、この日本のおじさん二人の組み合わせが、少年漫画原作のアニメで主人公が加わることになる組織の先輩幹部キャラっぽくて「アニメみたい」になるようです。
あと、「かわいい日本のおじさん」というと韓国では坂口健太郎が人気になってますね。二人よりは若くて三〇代ですが、韓国でこの秋に放映された三〇代の大人の恋愛ドラマ『사랑 후에 오는 것들(愛のあとにくるもの)』で、日本のポップカルチャーに慣れ親しんだ層とは違う大衆的知名度を得ています。
大学卒業後にモラトリアムで日本に留学していたヒロイン。日本人の恋人ととの出会いと別れから時間が経ち、再会。でも私にはもう韓国での生活があって……というストーリーが大人の韓国人女性に大ヒット。
こうした文化交流と、その反応を追いかけるのは新しい視点への気付きを得ることができて面白い。
ここ二十年の韓国ポップカルチャーの日本への流入を振り返る新書『韓流ブーム』に掲載されたテレビ朝日『ニュースステーション』制作会社勤務を経て、2000年代から韓国カルチャーを日本で紹介してきた桑畑優香のコラムから。

対して、ここ数年の変化として、日本人男性に韓国人女性が恋に落ちるドラマが作られ始めていること。『愛のあとにくるもの』の韓国でのヒットはこうした傾向により弾みをつけるかもしれません。
それは韓国だけでなく、「韓男日女」ならぬ「台男日女」作品でも今年24年に公開されたものだと『青春18×2 通往有你的旅程』がありました。
その上で、最近になって"日男韓女"の恋愛ドラマがタブー視されなくなりつつあるのは、「日本」と「韓国」との関係がフラットになったひとつの証明になるのではないか、と。
小栗旬がハン・ヒョジュと主演する『ロマンチックアノニマス』(25年公開予定)はフランス映画『Les Émotifs anonymes』を韓国の制作会社で翻案した作品になりますが、パティシエ女性とチョコレート製造会社を経営する男性の、内気な独身中年男女が恋に落ちるストーリー。
これまで「日本のおじさん」というと世界的、特に韓国と中国では恐怖の対象だったはずですが、最近は韓国でも中国でもかわいげのある存在として扱われる事例が出始めているのが興味深い。もう「日本」は怖い存在ではなくなりつつあるのだろうな。
もちろん、昔ながらのイメージで作られたものは最近でもあるのだけど、Toxic masculinityの権化のように思われていた「日本のおじさん」像が「解毒された男らしさ」の新しい男性ロールモデルとして徐々に広がっている印象があります。
「ただしイケメンに限る、だろ(笑)」とインセルこじらせたおじさんはお呼びじゃないけど。
『愛のあとにあるもの』では李世栄 演じるヒロインの崔紅 を坂口健太郎演じる恋人の青木潤吾が「べに」と日本語読みで呼びます。これもちょっと前なら「日帝時代を思い出させる」と炎上してもおかしくなかったと思うけど、特に問題にはなっていない。それどころか、視聴者の韓国人女性たちが「べに」呼びをかわいいと語っています。もちろんバランスをとるために潤吾 をユンホと韓国語読みする恋人関係として描いていますが。
ちょっと前に〈aespa〉のウィンターこと金旼炡 が「冬子 」と呼ばれているのを本人は喜んでいるのに周囲が「日本語名で呼ぶなんて!」と炎上させた件がありました。「過去の歴史」があるのは知ってます。でも、どっちが上とか下とか考えなくて済む社会のほうが私は健全だと思うんです。
……あと、微妙にジェネレーションギャップを感じるのは、私が学生時代に韓国語を習ってた頃には「韓国人の名前はフルネームで呼ばないと失礼」と教えられた記憶があるのだけど、いつの間にか名前呼び(例えば、イ・セヨンを「セヨンさん」と呼ぶような)もありになっているのですね。これはK-POPアイドルが名前のみの芸名で活動するようになってからなのかな?
それはそれとして、『披荆斩棘的哥哥』というリアリティショーで披露されるステージは日本人も頭に入れておいた方が良いと思いますよ。
例えばMiyaviの参加した『流行』、AKIRAの参加した『十字街头』など、リアリティショーの番組一シーンで使われるだけのステージが中国ではどんなスケールかを。
『SHOGUN』が話題になったことで米国エンタメの予算規模の大きさに驚くような記事がたくさん出てくるようになりましたが、中国エンタメの予算規模にも驚きます。
「日本」にとって、エンタメの分野でも超大国の米国は比較にならないかもしれませんが、東アジアでソフトパワーを競う中国と韓国が日本人を包摂しつつ新しいエンタメを作ろうと動き続けているのに対し、日本ではどうなんでしょう?
「どうして日本のアイドルはK-POPアイドルのようになれないのか」なんて話はここ数年よく聞きますが、日本の「テレビ」が継続的に大衆的には無名な存在や若者を育てフックアップする気がないのだから、としか言いようがありませんよね。
ここで言う「テレビ」とは、当然ながら、作る方だけでなく見る方もです。
ついでと言ってはなんですが、〈One Direction〉など英語圏の「アイドル」プロデュースに関わってきたサイモン・コーウェルが審査員をする『America's Got Talent』と『Britain's Got Talent』は日本のダンスチームが番組の目玉の一つになっています。
23年は〈Avantgardey〉が日本でも『紅白歌合戦』に出演するほど話題になりましたが、今年24年はAmerica'sで名古屋のダンススクールのチーム〈Sabrina〉、Britain'sではD.LEAGUEのサイバーエージェント社のチーム〈CyberAgent Legit〉ですか。America’sで決勝戦に進出したのもアクロバットダンスの〈AIRFOOTWORKS〉ですし、「日本人のダンス」というものが一つのジャンルになりそうです。
今回は韓国の話をしつつ日本のエンタメについて考えてみようと思って書き始めたのに、脱線しました。
K-POP含む韓国音楽を日本に紹介してきた古家正亨が2022年に発表した『K-POP バックステージパス』の8章部分より。

問題は、"地上波のプライムタイムに放送されたら……全国から実力派がやってきて、隠れた才能を発掘できたら"が日本の「テレビ」になかなかできないこと。
「今どき、テレビなんか誰も見てねーよ(笑)」みたいなことを言う人もいるでしょう。けれど、これは明確に嘘だと私は感じています。
だって実際、例えば「日本の男性アイドル」として大衆がイメージするのはテレビ地上波を独占してきた旧ジャニーズだけでしょ。結局のところテレビの影響下にはあるわけです。先述したASHと〈STU48〉の話で言えば、STUの池田裕楽は、ASHから実力派としてSTUに入団しながら、ルッキズム規範からは外れており(実際に会うと小柄でかわいらしいですよ)なかなかファンがつかないメンバーでした。しかし、「AKBの歌唱トップ」でありながらお笑い芸人がイジリたくなるキャラ「池ちゃん」として地上波プライムタイムのカラオケ番組に出演するようになると一気に知名度が上がり、今現在、STUのショッピングモールなどで行なう営業イベントではSTU本隊とは別に「池ちゃん」のソロステージがあるまでに。
「今どきテレビなんか(笑)ネットだろ」と言う人もいますが、X(旧ツイッター)のホットワードやYahooのコメント欄だって盛り上がっているのはテレビに関わる話が多いですし、インターネットで能動的に情報をサーチ出来ている人が多いとはとても思えないのです。
日本のテレビ局にも音楽を強化したい意思はあるようなんですよね。ただ、日本のプライムタイム(19時~22時)のレギュラー番組は、音楽番組ではなくカラオケ番組がほとんど。宴会芸としてお笑い芸人のイジリありでなければ成立しないという番組作りだから音楽そのものよりもキャラ消費で終わってしまう。
また、2020年の〈NiziU〉の成功以後、オーディション番組は把握できないほど大量に作られていますが、これも番組終了後も継続してステージを見せていかないと結成そのものがチームのピークで、リアリティショーとして、司会や解説役としてキャスティングされるお笑い芸人にキャラ消費されるだけで終わってしまう。
……日本におけるK-POPアイドルが日本のアイドルよりも高級感を持って大衆にイメージされるのは、お笑い芸人たちがK-POPアイドルをイジると国際問題になりかねないと、ハラスメントを控えるところにあるように見ていて感じます。それでいて日本のアイドルに対してはイジリで下げるのが「テレビ」のフォーマットでしょ。
エンタメに限らず今の「日本」を下へ下へと足を引っ張っているのは、真面目に何かを作り上げることを茶化す「笑い」にあるんじゃないのかな。「コンプラのせいで面白いものが作れなくなる」なんて主張がされるのはよく見かけますが、日本のエンタメはかえって「コンプラ」とやらを守ったほうが、良いものが下げずに作れるようになるんじゃないかと私は思うんですよね。
リンクしてあるのは、RIIZEの『Love 119』。
2023年秋にSM社からデビューした〈RIIZE〉。唯一の日本人メンバーのショウタロウはLDHグループの経営する芸能スクールEXPG東京校出身。ここのスクール出身者もK-POP含め一大勢力を築いていますよね。
24年1月に公開された『Love 119』MVは90年代日本の高校生をイメージさせるものになっていて、「日本のおじさん」にもノスタルジーを感じさせてくれます。
そんな〈RIIZE〉でしたが、10月、メンバーの一人をファンが嫌がらせによって追放する事件が発生しました。
日本には日本の問題があるように、韓国には韓国の問題がある。
続けていきます。
そんな変化の時期に、突如として韓国で「アイドル」になったのが住田愛子。
少し前に彼女を紹介しましたが、それからの間に、在籍していた芸能学校のアクターズスクール広島(略称:ASH)からの卒業を発表して韓国で本格的に活動を開始。民謡出身のトロット少女歌手として有名だったキム・ダヒョンと組んだ〈Lucky팡팡〉で、日本ではなく韓国でデビューしています。
ここでリンクした映像は、住田愛子がASHの実習チーム〈SPL∞ASH〉でのチームメイトだった白娜と松本流歌とともに韓国のステージで〈KARA〉の『Lupin』を披露したもの。
K-POPを聴かない普通の韓国人視聴者の間では「彼女たちならこのまますぐにデビューできるじゃないか!」「なんで彼女たちは日本で無名なんだ?」と驚かれていますが、二人とも日本ではアイドルのオーディションに残念ながら落選しているんですよね。白娜は〈SPL∞ASH〉出身の今村美月、岡田あずみが二代続けてキャプテンを務める〈STU48〉、松本流歌はやはり〈SPL∞ASH〉の先輩で岡田あずみとチームメイトだった永尾梨央がリーダーを務める〈可憐なアイボリー〉のオーディションに参加していたのは見かけました。
そして〈可憐なアイボリー〉オーディションに合格した西原悠桜も〈SPL∞ASH〉のチームメイト。
映像は、オランダ発のオーディション番組『The Voice』日本版にエントリーした西原悠桜。
彼女たちの存在でASHに興味を持つ韓国人も現れていますが、興味深いな、と思うのは、こうした芸能学校でのつながりだけでなく、韓国の放送局MBNでは、親族と歌う昔の日本でもあった家族対抗歌合戦みたいなコーナーに住田愛子の親戚として〈円神〉の中本大河、子役の鈴木かつきを韓国のスタジオに招いています。そして、親戚が中本大河ということは〈#Mooove!〉の中本こまりも親戚ということになるのか(中本兄妹は24年秋それぞれ所属チームからの退団を発表しています)。
日本ではなく韓国の放送局経由で日本のアイドルと子役の人的ネットワークの一端を知ることになるとは。
人的ネットワークというと、ASHではないけれど、〈可憐なアイボリー〉メンバーの福田ひなたの実姉は〈STU48〉副キャプテンの福田朱里。この2チームは実質姉妹チームかのよう。
多くのASH出身者を受け入れている〈STU48〉では、池田裕楽に続いて同じくASH出身でスクール時代は住田愛子とライバルだった岡村梨央が国内外48グループ全体の歌唱コンクールでトップになりました。
ただ、広島を中心とする瀬戸内経済圏の市場の小ささに活動の限界を感じてメンバーが次々と退団して上京している現状があり、〈STU48〉自体も東京での公演を増やす発表をしています。それなら〈STU48〉は東ではなく西に向かってトロット枠で韓国に売り込むのもありなんじゃないか?…とは前にも書きましたね。明らかに人材が日本では活用できていない。
でも、K-POPアイドルのいる韓国で、日本では素人集団視されている48グループが評価されるの? と思う人もいるかもしれません。
大衆イメージとは違って、例えば元〈IZ*ONE〉メンバーで、現在は韓国アイドル界の御意見番ポジションにいるイ・チェヨンは『それでもステージは続いていく K-POPアイドル8人のインタビュー集』でこう印象を述べます。

日本人メンバーのもつ自信はほんとかっこいいです。カメラの前でもステージ上でも常に自然体です。プロフェッショナルなんです。アイドル生活のある子たちなので周りのスタッフにも礼儀正しいし、行動も慎重です。「わあ、芸能人だ」と自然に思います。これって経験がなければ絶対に作れない長所なので、学ぶ点が多いです。大衆イメージと、実際に受け入れた韓国側の印象は異なるものです。
また音楽という面でも、前述のトロット番組では〈AKB48〉の『ヘビーローテーション』も歌われていますし、〈可憐なアイボリー〉の姉妹チーム〈高嶺のなでしこ〉の『可愛くてごめん』も歌われ、韓国の視聴者からは「日本のアイドル曲は華やかで楽しい」「これが本当のアイドルだ」「もっと日本の曲をやってほしい」などの反応。
まあ、日本における韓国アイドル、韓国における日本のアイドルへの過剰な期待も、「隣の芝生」なのかもしれませんが。
中国ではギタリストのMiyaviが「アイドル」視され始めています。
中国湖南衛視(芒果TV)で配信されている『披荆斩棘的哥哥(Call Me By Fire)』シリーズは、若手芸能人の「弟」たちに芸能界の先輩が「兄」として芸事の「荊の道」を切り拓いて導きステージを完成させ競うリアリティショー。
中国ではサバイバル形式のアイドル・オーディション番組が視聴者の過熱を煽り過ぎだ、と政府に怒られてから、こうした協力型のリアリティショーが主流になっています。
24年8月から放映開始した『披荆斩棘的哥哥』第4シーズンでは日本の芸能界出身者も招かれ、「弟」側には解散した〈INTERSECTION〉のモリアティー慶怜、「兄」側にダンサーとして〈EXILE〉のAKIRA、ミュージシャンとして〈THE LAST ROCKSTARS〉のギター担当でもあるMiyaviが参加しています。
で、この番組でMiyaviは「四〇代のおじさんなのに日本のアニメの中から出てきたみたいでかっこいい」と人気に。
中国語圏の視聴者の目には、マッチョで熱血な見かけだけど台湾出身の中国語圏では「国民(的)女神」と呼ばれる妻の林志玲の尻に敷かれてそうな「国民的姉婿」のAKIRAと、クールな見かけだけどかわいいところがあるMiyaviと映り、この日本のおじさん二人の組み合わせが、少年漫画原作のアニメで主人公が加わることになる組織の先輩幹部キャラっぽくて「アニメみたい」になるようです。
あと、「かわいい日本のおじさん」というと韓国では坂口健太郎が人気になってますね。二人よりは若くて三〇代ですが、韓国でこの秋に放映された三〇代の大人の恋愛ドラマ『사랑 후에 오는 것들(愛のあとにくるもの)』で、日本のポップカルチャーに慣れ親しんだ層とは違う大衆的知名度を得ています。
大学卒業後にモラトリアムで日本に留学していたヒロイン。日本人の恋人ととの出会いと別れから時間が経ち、再会。でも私にはもう韓国での生活があって……というストーリーが大人の韓国人女性に大ヒット。
こうした文化交流と、その反応を追いかけるのは新しい視点への気付きを得ることができて面白い。
ここ二十年の韓国ポップカルチャーの日本への流入を振り返る新書『韓流ブーム』に掲載されたテレビ朝日『ニュースステーション』制作会社勤務を経て、2000年代から韓国カルチャーを日本で紹介してきた桑畑優香のコラムから。

潮目が変わったと感じたのは、二〇二四年一月末、恵比寿駅で友達が発した一言だった。「どうして今頃? 既視感あるよね」。目線の先にあったのは、駅のホームに飾られた、二階堂ふみとチェ・ジンヒョプが仲睦まじく微笑むTBSのドラマ『Eye Love You』(二〇二四年)の大型ポスター。二〇年近く韓国ドラマに親しんできた彼女にとっては、日韓のカップルがモチーフの作品は「もう目新しくない」という。日本人女性が韓国人男性と恋に落ちる恋愛ドラマは昔から作られ続けてきました。特に『冬のソナタ』(2002年)が日本で大ヒットして以来、日本でも韓国でも絶えず作られ続け、今年24年も二階堂ふみ主演で『Eye Love You』が放映されています。
~(中略)~
日韓カップル作品で興味深いのが、「男性が韓国人、女性が日本人」というこれまで大勢を占めてきたパターンと逆の「男性が日本人、女性が韓国人」というパターンが、ここにきて増えつつあるという点だ。坂口健太郎とイ・セヨン主演のドラマ『愛のあとにくるもの』が韓国のチームによって企画され、小栗旬とハン・ヒョジュによるドラマ『ロマンチックアノニマス』がネットフリックスジャパンオリジナルドラマとして撮影中だと伝えられている。
対して、ここ数年の変化として、日本人男性に韓国人女性が恋に落ちるドラマが作られ始めていること。『愛のあとにくるもの』の韓国でのヒットはこうした傾向により弾みをつけるかもしれません。
「日男韓女」が少ない理由について調べてみたら、二〇〇四年の東亜日報の記事に「韓国は日帝強占期を経験したことがあり、韓国人たちが『キーセン(日本でいう芸者)観光』のため、日本男性に悪いイメージを持っているので、ドラマに『日男韓女』カップルを設定するのは時期尚早であるようだ(原文ママ)」というMBC(韓国の地上波放送局)ドラマ局長のコメントがあった。「日男韓女」の作品が増えているのは、こうしたイメージを脱しつつある証なのか。完成した作品を観た韓国での反応が気になるところだ。"日男韓女"の恋愛ドラマがタブー視されてきたのは過去の歴史的経緯があります。どうしても日本人男性と韓国人女性の恋愛ドラマを作ると宗主国男性と植民地女性という権力勾配を感じさせてしまい、韓国では受け入れられなったのですね。
それは韓国だけでなく、「韓男日女」ならぬ「台男日女」作品でも今年24年に公開されたものだと『青春18×2 通往有你的旅程』がありました。
その上で、最近になって"日男韓女"の恋愛ドラマがタブー視されなくなりつつあるのは、「日本」と「韓国」との関係がフラットになったひとつの証明になるのではないか、と。
小栗旬がハン・ヒョジュと主演する『ロマンチックアノニマス』(25年公開予定)はフランス映画『Les Émotifs anonymes』を韓国の制作会社で翻案した作品になりますが、パティシエ女性とチョコレート製造会社を経営する男性の、内気な独身中年男女が恋に落ちるストーリー。
これまで「日本のおじさん」というと世界的、特に韓国と中国では恐怖の対象だったはずですが、最近は韓国でも中国でもかわいげのある存在として扱われる事例が出始めているのが興味深い。もう「日本」は怖い存在ではなくなりつつあるのだろうな。
もちろん、昔ながらのイメージで作られたものは最近でもあるのだけど、Toxic masculinityの権化のように思われていた「日本のおじさん」像が「解毒された男らしさ」の新しい男性ロールモデルとして徐々に広がっている印象があります。
「ただしイケメンに限る、だろ(笑)」とインセルこじらせたおじさんはお呼びじゃないけど。
『愛のあとにあるもの』では李世栄 演じるヒロインの崔紅 を坂口健太郎演じる恋人の青木潤吾が「べに」と日本語読みで呼びます。これもちょっと前なら「日帝時代を思い出させる」と炎上してもおかしくなかったと思うけど、特に問題にはなっていない。それどころか、視聴者の韓国人女性たちが「べに」呼びをかわいいと語っています。もちろんバランスをとるために潤吾 をユンホと韓国語読みする恋人関係として描いていますが。
ちょっと前に〈aespa〉のウィンターこと金旼炡 が「冬子 」と呼ばれているのを本人は喜んでいるのに周囲が「日本語名で呼ぶなんて!」と炎上させた件がありました。「過去の歴史」があるのは知ってます。でも、どっちが上とか下とか考えなくて済む社会のほうが私は健全だと思うんです。
……あと、微妙にジェネレーションギャップを感じるのは、私が学生時代に韓国語を習ってた頃には「韓国人の名前はフルネームで呼ばないと失礼」と教えられた記憶があるのだけど、いつの間にか名前呼び(例えば、イ・セヨンを「セヨンさん」と呼ぶような)もありになっているのですね。これはK-POPアイドルが名前のみの芸名で活動するようになってからなのかな?
それはそれとして、『披荆斩棘的哥哥』というリアリティショーで披露されるステージは日本人も頭に入れておいた方が良いと思いますよ。
例えばMiyaviの参加した『流行』、AKIRAの参加した『十字街头』など、リアリティショーの番組一シーンで使われるだけのステージが中国ではどんなスケールかを。
『SHOGUN』が話題になったことで米国エンタメの予算規模の大きさに驚くような記事がたくさん出てくるようになりましたが、中国エンタメの予算規模にも驚きます。
「日本」にとって、エンタメの分野でも超大国の米国は比較にならないかもしれませんが、東アジアでソフトパワーを競う中国と韓国が日本人を包摂しつつ新しいエンタメを作ろうと動き続けているのに対し、日本ではどうなんでしょう?
「どうして日本のアイドルはK-POPアイドルのようになれないのか」なんて話はここ数年よく聞きますが、日本の「テレビ」が継続的に大衆的には無名な存在や若者を育てフックアップする気がないのだから、としか言いようがありませんよね。
ここで言う「テレビ」とは、当然ながら、作る方だけでなく見る方もです。
ついでと言ってはなんですが、〈One Direction〉など英語圏の「アイドル」プロデュースに関わってきたサイモン・コーウェルが審査員をする『America's Got Talent』と『Britain's Got Talent』は日本のダンスチームが番組の目玉の一つになっています。
23年は〈Avantgardey〉が日本でも『紅白歌合戦』に出演するほど話題になりましたが、今年24年はAmerica'sで名古屋のダンススクールのチーム〈Sabrina〉、Britain'sではD.LEAGUEのサイバーエージェント社のチーム〈CyberAgent Legit〉ですか。America’sで決勝戦に進出したのもアクロバットダンスの〈AIRFOOTWORKS〉ですし、「日本人のダンス」というものが一つのジャンルになりそうです。
今回は韓国の話をしつつ日本のエンタメについて考えてみようと思って書き始めたのに、脱線しました。
K-POP含む韓国音楽を日本に紹介してきた古家正亨が2022年に発表した『K-POP バックステージパス』の8章部分より。

韓国では今、トロット(演歌)がブームになっていますが、その火付け役はTV朝鮮が放送した『ミスタートロット』というオーディション番組でした。この番組を観た時に僕は、真っ先にこう思ったのです。「日本で『ミスター演歌』という番組はできるのか」と。このままでは絶滅危惧種になりかねない日本の演歌ですが、このようなオーディション番組が、地上波のプライムタイムに放送されたら……全国から実力派がやってきて、隠れた才能を発掘できたら……演歌というジャンルの新たな発展につながることは間違いないですが、残念ながら、それは日本においては現実味を帯びていません。実現までに高いハードルがあるからです。この本が書かれた22年時点で、日本人K-POPアイドルの存在感は念頭にあっても、韓国のトロット番組に日本人が大挙参加し人気になり、韓国のテレビ番組を介して日本でも知名度が上がる状況は想定していなかったでしょう。
こうした障害物は、様々なところに存在していて、日本の音楽市場の閉そく感を生み出しているように思います。だからこそ、パフォーマーを含む作り手も、皆、日本を飛び出し、外へと向かい始めているのではないでしょうか。若者たちがK-POPアイドルに憧れ、韓国に渡り、世界を目指す理由もそこにあると思うのです。
問題は、"地上波のプライムタイムに放送されたら……全国から実力派がやってきて、隠れた才能を発掘できたら"が日本の「テレビ」になかなかできないこと。
「今どき、テレビなんか誰も見てねーよ(笑)」みたいなことを言う人もいるでしょう。けれど、これは明確に嘘だと私は感じています。
だって実際、例えば「日本の男性アイドル」として大衆がイメージするのはテレビ地上波を独占してきた旧ジャニーズだけでしょ。結局のところテレビの影響下にはあるわけです。先述したASHと〈STU48〉の話で言えば、STUの池田裕楽は、ASHから実力派としてSTUに入団しながら、ルッキズム規範からは外れており(実際に会うと小柄でかわいらしいですよ)なかなかファンがつかないメンバーでした。しかし、「AKBの歌唱トップ」でありながらお笑い芸人がイジリたくなるキャラ「池ちゃん」として地上波プライムタイムのカラオケ番組に出演するようになると一気に知名度が上がり、今現在、STUのショッピングモールなどで行なう営業イベントではSTU本隊とは別に「池ちゃん」のソロステージがあるまでに。
「今どきテレビなんか(笑)ネットだろ」と言う人もいますが、X(旧ツイッター)のホットワードやYahooのコメント欄だって盛り上がっているのはテレビに関わる話が多いですし、インターネットで能動的に情報をサーチ出来ている人が多いとはとても思えないのです。
日本のテレビ局にも音楽を強化したい意思はあるようなんですよね。ただ、日本のプライムタイム(19時~22時)のレギュラー番組は、音楽番組ではなくカラオケ番組がほとんど。宴会芸としてお笑い芸人のイジリありでなければ成立しないという番組作りだから音楽そのものよりもキャラ消費で終わってしまう。
また、2020年の〈NiziU〉の成功以後、オーディション番組は把握できないほど大量に作られていますが、これも番組終了後も継続してステージを見せていかないと結成そのものがチームのピークで、リアリティショーとして、司会や解説役としてキャスティングされるお笑い芸人にキャラ消費されるだけで終わってしまう。
……日本におけるK-POPアイドルが日本のアイドルよりも高級感を持って大衆にイメージされるのは、お笑い芸人たちがK-POPアイドルをイジると国際問題になりかねないと、ハラスメントを控えるところにあるように見ていて感じます。それでいて日本のアイドルに対してはイジリで下げるのが「テレビ」のフォーマットでしょ。
エンタメに限らず今の「日本」を下へ下へと足を引っ張っているのは、真面目に何かを作り上げることを茶化す「笑い」にあるんじゃないのかな。「コンプラのせいで面白いものが作れなくなる」なんて主張がされるのはよく見かけますが、日本のエンタメはかえって「コンプラ」とやらを守ったほうが、良いものが下げずに作れるようになるんじゃないかと私は思うんですよね。
リンクしてあるのは、RIIZEの『Love 119』。
2023年秋にSM社からデビューした〈RIIZE〉。唯一の日本人メンバーのショウタロウはLDHグループの経営する芸能スクールEXPG東京校出身。ここのスクール出身者もK-POP含め一大勢力を築いていますよね。
24年1月に公開された『Love 119』MVは90年代日本の高校生をイメージさせるものになっていて、「日本のおじさん」にもノスタルジーを感じさせてくれます。
そんな〈RIIZE〉でしたが、10月、メンバーの一人をファンが嫌がらせによって追放する事件が発生しました。
日本には日本の問題があるように、韓国には韓国の問題がある。
続けていきます。