発作性の回転性めまいと吐き気の整体治療
腕を上げての作業時に生じる「めまい」に多い原因?!
鎖骨下動脈盗血症候群の疑い、、、
患者Sさん=40才-女性-会社員/主婦の症例
① Sさんの病歴・・・
患者Sさんは「起立性の回転性めまい」の治療で当院に通院されていましたが、ほぼ完治に近い状態にまで改善されていました。ところが当院の通院予約日当日の勤務中に、急に発作的な回転性めまいと強い吐き気が生じたそうです(嘔吐はされていません)。発作後、直ちに勤務を中断し、休息していたそうですが、回転性めまいと吐き気は30分程度続いていたそうです。その後は、回転性めまいは生じなくなったそうですが、閉眼すると「クラクラ」と揺れている感じがするそうです(☚開眼で消失する)。また強い吐き気は改善したものの、軽度の吐き気は続き、さらに頭部全般の重だるい頭重感があり、「ボーッ」として何も考えることが出来ない状態だそうです。この件について病院等の受診はされておられず、そのまま当院へ来院されました。
② Sさんの診察
当院で治療中の「起立性の回転性めまい」については、ほとんど改善し、治療の終了直前の状態でした。その詳細は「起立性の回転性めまい」を参照ください。
来院時、軽度の吐き気は続いており、頭重感が強くて頭がボーッとしているせいか、疲れて焦燥しきった状態でした。しかしめまいは治まっていたそうです。
【今回の発作性の回転性めまいと吐き気の所見】
・今回の、発作性の回転性めまいと吐き気が生じる直前まで、体調も良く、元気に勤務していたそうです。
・普段は椅子に座って机の上のパソコンで仕事をしているそうですが、発作が生じた時の状況は、数人の同僚たちと立ち仕事をしていて、Sさんはその中で棚の上(☚Sさんの胸骨柄付近の高さ)に置いてあるパソコンの操作をして30分ほど経過した時に、突然生じたそうです。
・難聴や耳鳴り、頭痛は無いそうです。表情筋に異常は無く、構語や嚥下も障害はありませんでした。
・手指巧緻運動障害も無く、歩行も正常でした。
・発作の起こる数日前、Sさんは会社の倉庫内で一人で作業をしていたそうですが、あるダンボール箱を持ち上げた際、その前方に置いてあった数段のダンボール箱がSさんに向かって倒れ掛かり、Sさんは右後方に尻もちをつく形で転倒しかけたそうです。その際に、右前腕の筋肉痛(軽度の腱鞘炎?)と、右大腿に打ち身が生じたそうです。この件についても、特段の医療機関での受診はされず、シップ等をご自身でしていたそうです。
・胸頸部聴診上、血管雑音や心音、呼吸音の異常所見はありませんでした。
➂ 治療目標と整体治療
⑴ 通過障害があると推測される左鎖骨下動脈を解放する
・左前・中斜角筋解放テクニック
・鎖骨下動脈盗血症候群の説明と腕を上げる動作の注意
④ 経過と結果・・・
・初診治療後、急に頭がスッキリとし、吐き気も解消して、元気になられました。その後、少し時間がありましたので、本件の説明と腕を上げる動作がめまい発作の誘因になる事の注意、その他雑談を30分ほどしていましたが、Sさんは笑みを浮かべながら、元気におしゃべりされていました。しかし念のため、専門医による精査を受ける事を勧めておきました。
・2診目来院時、「あれからは快調に仕事をしています。(先生に言われた通り)腕を上げるようなことはしていません」と仰っていました。この件で、専門医での受診はしなかったそうです。
⑤ 今回の症例の概説、、、
◆ 鎖骨下動脈が"めまい"の原因…
・今回の発作性の回転性めまいは、今まで当院で治療していた「起立性の回転性めまい」の再発ではないか、と当初は思いましたが、Sさんに問診するうちに、少しその様相が異なるのでは、と考えました。以前の「起立性の回転性めまい」は椎骨動脈の外側からの炎症波及による椎骨動脈の虚血性めまいでは、と考え、その治療をしてきましたが、今回はその現場が鎖骨下動脈にあるのでは、と推察しました。
◆ 鎖骨下動脈盗血症候群とは…脳へ行くべき血液が上肢へ逆流 ?!
・いわゆる「鎖骨下動脈盗血症候群」は、動脈硬化や血栓症が鎖骨下動脈に生じ、その結果鎖骨下動脈から腋窩-上腕動脈以遠の血流が阻害されている状態下で、上肢の筋肉活動が高まって上肢の血管が拡張した際に上記原因で血流が充分流れず、上肢の血管が虚血状態に陥って血管内圧が陰圧となり、陽圧である反対側の椎骨動脈から血液が脳底動脈を経由して低圧である同側の椎骨動脈に逆流し、その血流が鎖骨下動脈から上腕動脈以遠に流れ込む現象です。
その際に脳底動脈血流が低下しているせいで小脳や脳幹-大脳後頭野を中心とした脳虚血発作をきたすものです。
◆ 上肢の使用時にめまいが、、、鎖骨下動脈盗血症候群の疑い…
・Sさんの今回の回転性めまい発作は、上記の機序の可能性が示唆されました。その重要因子は、それまで全然元気だったSさんが「棚の上(☚Sさんの胸骨柄付近の高さ)に置いてあるパソコンの操作をして30分ほど経過した時に(回転性めまい発作が)突然生じた」事だと思われます。
つまりSさんは、上肢の位置が「臍の位置」から「胸骨柄の位置」に挙上した状態でパソコン作業をしていた事になり、それは上肢の筋肉活動が高まっている証拠(上肢の血流需要↗)に他ならないからです。この上肢を挙上して30分も作業している事で「鎖骨下動脈盗血症候群」が生じたのでは、と推測されます。
◆ 鎖骨下動脈盗血症候群の成因は、、、頸部筋肉の緊張による血管絞扼 ?!
・ではSさんの鎖骨下動脈などに動脈硬化や血栓症があったのでしょうか。
それは「否」と思われます。
鎖骨下動脈の血流を阻害していたものは血栓や動脈硬化では無く、筋肉性の可能性が考えられるからです。
その根拠として、めまい発作が生じる数日前に、Sさんは「会社の倉庫内で一人で作業をしていたそうですが、あるダンボール箱を持ち上げた際、その前方に置いてあった数段のダンボール箱がSさんに向かって倒れ掛かり、Sさんは右後方に尻もちをつく形で転倒しかけた」エピソードにあると思われます。つまりSさんはこの時に軽度の「むち打ち症」的な損傷も負っていたのでは、と推測されます。
・Sさんは右斜め後方に転倒しかけたわけですから、そのむち打ち症的損傷、つまり伸張反射は左斜め前の筋肉群、頸部であれば「左の前・中斜角筋」に相当します。つまり両筋に何らかの損傷-緊張が生じている可能性が高まります。鎖骨下動脈は両筋の間隙を縫って腋窩に進みますが、この部位で後方に「左椎骨動脈」を出します。Sさんの「左の前・中斜角筋」にむち打ち的損傷が付加されている場合、その緊張が鎖骨下動脈を絞扼し、鎖骨下動脈盗血症候群を生じうる可能性は否定できないのでは、と思われます。
◆ Sさんの治療目標…鎖骨下動脈を解放する !!
・本件はこの仮説に基づいて上記③「治療目標と整体治療」の「左前・中斜角筋解放テクニック」を施術をしたわけです。運よくSさんは、治療直後には改善し、元気な状態に回復しました。しかし動脈硬化や血栓症、あるいはその他の原因の可能性を全面否定する事も出来ないので、念の為にSさんに精査する事を勧めておきました。
・ちなみに当院では、Sさんと似た様な、筋肉性の鎖骨下動脈盗血症候群を疑わせる「めまい」の症例が少なくありません。ご興味のある方は、以下を参照してください。
●めまい(立ちくらみ)と整体治療
患者=Tさん-23才-女性-主婦/パート
●めまいと整体治療
患者Mさん=41才-女性の症例
●めまい、立ちくらみ、不眠症の整体治療=総合案内
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