こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
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【緊急告知】
第72回カンヌ国際映画祭最高賞パルムドールに韓国のポン・ジュノ監督作、ソン・ガンホ兄貴主演の『Parasite』が輝きました!
昨年の『万引き家族』に続き、アジア勢の映画作家たちのクォリティの高さがますます注目されることでしょう。
いよいよ最高潮【ダメ男再生可能 ソン・ガンホを見よ!】
『密偵』 밀정 (‘16) 140分
梗概
1920年代、日帝時代の朝鮮。反日独立運動組織“義烈団”と朝鮮総督府警察のせめぎ合いも激化。朝鮮人でありながらも日本の警察官でもあるイ・ジョンチュル(ソン・ガンホ)は日本人上司ヒガシ(鶴見辰吾)から同僚ハシモト(オム・テグ)と組み“義烈団”メンバーのキム・ウジン(コン・ユ)に近づき監視する任務を与えられる。ジョンチュルとウジンは懇意になるが、これは団長チョン・チェサン(イ・ビョンホン)の思惑-警察内部に協力者を作るための策動だった。
図らずも二重スパイになったジョンチュルは、上海からソウルへの列車に大量の爆弾を運び込む計画に関わることになる。が、その情報は警察へも漏れていた。“義烈団”内部に潜伏する内通者は誰か。ウジンから大量の爆薬を預かったジャンオク。己の保身と民族的アイデンティティーの狭間で揺さぶられるジョンチュルはどう出るのか・・・。
ソンは朝鮮人でありながら日帝配下の警察で諜報活動も行うといふ立場ゆえ、又裂き状態を強いられる予感しかないキャラクターに扮する。
悪い予感は往々にして的中するもので、彼が演じるジョンチュルは日帝の走狗としての役割りと“義烈団”シンパとしての役割りをこなさねばならなくなる。ちょっと時代がかった単語だが“密偵”とは言い得て妙だ。ま、“間諜”よりはまだ分かりやすい。
こうなると彼の心中における相克はハンパないことが知れる。
警察官としての地位は己の家族にとって経済的安定をもたらす。しかし、被併合側の朝鮮人としてのアイデンティティーは独立運動組織にも肩入れしたい気分だろう。
ソンは反日側に深入りすることにより、自分でも思いがけないシンパシーを感じることになる。
常に緊張した強張る面持を持続。普段見せる独特の間抜け面とはかけ離れた渋面だが、これはこれでしっくり馴染んで安定した演技を展開する。
また、韓国映画に欠かせない泣きのシーンもあるにはあるが、『グエムル-漢江の怪物-』(‘06)や『観相師 -かんそうし-』(‘13)で見せたような感情全開絶叫型の慟哭ではない。まさに男泣きともいふべき嗚咽である。珍しくも感情を押し殺すことであふれ出る泣きである。この芝居にも感心した。
感心と言へば、巻頭早々かつての友人である“義烈団”メンバーを追い詰める攻防ではちゃんと聞き取れる日本語を駆使している。もちろん上司の鶴見との対話もしかり。どの場面でも妙な違和感がないのは見事。
いや、役者ってのは全くもって大したものだ。『リンダ リンダ リンダ』(‘05)ではペ・ドゥナがブルーハーツを日本語でシャウトしていたが、あれも凄かった。ちゃんと「つ」の発音もマスターできていたし。
さて、本作は時代背景がアレなので日韓両国の近代史に触れないわけにはいかない。本編中ではあからさまな反日を煽る場面は見受けられないが、朝鮮人として独立願望に傾くのは正義。といった既定路線の描写に終始する。結末が透けてしまうので、ソンの煩悶・葛藤もあって無きことのような感じもする。よってエンディングもショッキングではあるが工夫は少ない。
一方、他の俳優陣の芝居はどれも非の打ちどころが無い。
鶴見は『カラスの親指』(‘12)の不気味なヤクザ、『Zアイランド』(‘15)ではゾンビ相手に闘うヤクザ、『セーラー服と機関銃 -卒業-』(‘16)の怪しげな市長候補者。といった具合に今やヒール役すらも自家薬篭中のものとする。
このヒガシ役も抑制された演技で静かに凄みを放ち続ける。適役だろう。
コン・ユは愛国心に満ちて武装闘争にひた走る“義烈団”メンバー役。武闘派のわりにいささかも殺気を伴わずむしろ飄逸感が漂う。どことなく品が良い。そんなキャラがよく似合う。彼のルックスがそう感じさせるのだろう。
ソンや鶴見同様オーバーアクトになり過ぎず抑えた芝居が好印象を残す。
邦画『龍が如く 劇場版』(‘07)にも大きな役で出演していたのも印象深い。
ソンのライバルで足の引っ張り合いを演じるハシモト役のオム・テグもそのルックスがキャラにぴったりだ。奸計に長けソンをてこずらせた。腹に一物ある人物を好演。最も印象に残る人物だ。
→ダメ男奮起!ソン・ガンホの真骨頂『タクシー運転手 約束は海を越えて』
“義烈団”団長に扮するは、今や国際スターとしてステップアップしたイ・ビョンホン。だが、登場時間はごくわずか。ほぼ特別出演の枠内といったところか。
『JSA』(‘00)や『グッド・バッド・ウィアード』(‘08)でソン・ガンホと主役を張っている。
全編に亘り緊張感を持続させる中、ところどころに銃撃戦を交えほどよくアクションシーンを挿入。よく計算されているので飽きることのない2時間強。
西洋と東洋の魔物が跋扈する中国と朝鮮を結ぶ鉄路。その列車内での戦闘も衣装や車内のセットが中々に雰囲気があって画になる美しさだ。
ソン、コン、オム、ハン・ジミン、鶴見らの見応えある演技合戦も注目に値しよう。
【ダメ男再起可能 ソン・ガンホを見よ!】特集
●ダメ男奮起!ソン・ガンホの真骨頂『タクシー運転手 約束は海を越えて』
●『反則王』の英語表記はそのまま「The Foul King」だった
●コリアン・ファミリーVS米軍の鬼っ子『グエムル-漢江の怪物-』←最強タッグ
●的中率百発百中千里眼の目を持つ男『観相師 -かんそうし-』
●ポン・ジュノとソン・ガンホの最強タッグ『殺人の追憶』←最強タッグ
参考
■『スノーピアサー』で『ソイレント・グリーン』の衝撃を←最強タッグ
■パルムドール受賞記念だ『ほえる犬は噛まない』←ポン・ジュノ監督作