ダメ男奮起!ソン・ガンホの真骨頂『タクシー運転手 約束は海を越えて』 | 徒然逍遥 ~電子版~

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こんにちは。行政書士もできる往年の映画ファンgonzalezです。
訪問ありがとうございます。

 

昨年の今頃は何故か【漢祭り】を勝手に開催するに至った。

遅い春のパン祭り。みたいな感じなのか。そこは自分の企画ながらちょっと分からないが、本年はその流れを汲んだ特集を組んでみたい。きっと面白くねえ。との反応ばかりになりそうだ。名付けて、


【ダメ男再起可能 ソン・ガンホを見よ!】


あ~、もうみなさんスル―でしょうね(爆)


『タクシー運転手 約束は海を越えて』 택시운전사 (‘17)137分
梗概
1980年5月。ソウル市では光州市との通信と交通が途絶えた。TVのニュースや新聞では暴動が発生し、軍が出動したものの死亡する兵士がいることを伝えている。

タクシー運転手キム・マンソプ(ソン・ガンホ)は、往復で10万ウォンの支払いを条件にドイツ人記者のピーター(トーマス・クレッチマン)を乗せ光州へと向かう。軍の検問をかわして市内に入ると、そこで二人は市民の抗議デモに遭遇し、軍による容赦ない虐殺を目撃。その事実を全世界に発信するため撮影フィルムを国外に持ち出すことに。キムも率先して協力し、カメラを没収しようとする追手を振り払い命からがらソウルへと舞い戻る。

『戦場のピアニスト』(02)、『ヒトラー ~最期の12日間~』(04)、『キングコング』(05)、『ワルキューレ』(08)などに出演した独逸人俳優トーマス・クレッチマンを迎えての撮影。
「光州事件」が世界に知られるようになったいきさつを映像化。主役の二人は実在の人物をモデルにしている。


「光州事件」
一つの地方都市との通信・交通手段が全てシャットアウトされるといふ国家主導の隠蔽工作。そこで何が起こっているのか。地元の新聞紙面には何故か空白のままの欄が目立つ。黒塗りならぬ記事差し止めの結果だ。なんとも空恐ろしい事件である。


ちょうどこの頃、韓国では学生による抗議運動が盛んで、ニュース映像でもよく見かけた。学校の教師が、韓国は日本に十年遅れている。と言っていた。
当時の自分も、確かに70年前後の全共闘運動は十年前だったなあ。似たようなことを今頃やっているのか。おっくれてるぅ~。と内心同意したものだ。


だが、大人になって韓国人の知人・友人も増え、嫁いでいった知人女性までいて、現代韓国史を知る機会も増大。我が邦の全共闘運動とは全く異質であることがすぐに知れた。あまりにも無知だった。教師も自分も。


そんな個人史はさておき、ソン・ガンホである。
妻に先立たれ幼い娘と二人暮らしのしがない個人タクシー・ドライバー役。家賃も滞納し、娘の靴も新調せねばならぬ。といふ事情がある。女性の影こそないものの何だか成瀬巳喜男作品の貧しい登場人物みたいだ。


これぞまさにソンにとっては十八番てなもんだろう。
『反則王』(99)、『グエムル-漢江の怪物-』(06)などと親和性あるキャラだ。頼りなさげなダメ男があることをきっかけに奮起。やる時ゃやるぞ。的な。


『弁護人』(13)でもそうだったが、当初は政治情勢に無知無関心。意図せずして現実を目の当たりにして政治的事件に身を投じる。といふパターンとも重なる。

金目当てで小賢しく行動するのも、中途で一旦は市外へと逃走するのも全ては一人娘のため。あくまでも日常生活レベルでの思考回路に基づく行為。無知無教養なおっさんだ。


その風貌からしてぱっとしないゆへ、ソン本人までそんな人物に思えてくる。が、徐々に現実に向き合ううちにお気楽モードから真剣モードへとスイッチが切り替わる。

その内面に漢の燃ゆる意気込みがふつふつとわき立つ。顔の表情が微妙に変化していくのだが、そこにはわざとらしさが微塵もない。心の機微を表現するに手練れの役者である。


スターとは言い難い。スターとしての華やかさよりも庶民的な親しみを感じる人だ。個人的には、これこそ役者。と、呼びたい。役者としての度量で勝負だ。


しかし、マイケル・ケインのように、名優。との表記もそぐわない気もする。演技派も然り。スターや名優といった肩書よりも、
役者。といふ表記が一番似合うと思うのだ。


太平楽な笑顔と緊迫感でこわばる顔。どちらも自然でおおよそ演技と思えない。普段の日常生活の延長線上に過ぎないようにさえ見える。とは言へ、スタニスラフスキー・システムのメソッド演技とはまた異質でもある。


国民的スターの大先輩アン・ソンギは端正な顔立ちでジェントルマンな雰囲気を醸す。

今や国際スターの仲間入りを果たしたイ・ビョンホンはワイルドな魅力をにじませる。

いずれも芝居巧者である。だが、ソンは前述通りもっと庶民的なオーラを立ち昇らせる。自分などそこに親近感を抱くのだ。顔を観ているだけで楽しくなってくる。


喜劇からシリアスまで。時代劇からSFまで。あの顔で全方位的な芝居をし続ける役者魂に敬意を表したい。

 *緊迫の山場を迎える一幕に汗*

 *『密偵』で暗躍する人物に扮するオム・テグが不気味*

本日も最後までお読み下さりありがとうございました。

*タクシー軍団疾走す!*

 

【ダメ男再起可能 ソン・ガンホを見よ!】特集

『弁護人』でソン・ガンホの底力を思い知るがいい

ダメ男奮起!ソン・ガンホの真骨頂『タクシー運転手 約束は海を越えて』

日韓野球対決『爆烈野球団!』

『反則王』の英語表記はそのまま「The Foul King」だった

コリアン・ファミリーVS米軍の鬼っ子『グエムル-漢江の怪物-』←最強タッグ

大統領の髪は伸びたか『大統領の理髪師』

的中率百発百中千里眼の目を持つ男『観相師 -かんそうし-』

日本語の台詞もあるよ『密偵』のソン・ガンホ

ポン・ジュノとソン・ガンホの最強タッグ『殺人の追憶』←最強タッグ

家族のために頑張るお父さんの悲哀『優雅な世界』

参考

韓流傍流の実力派~ソン・ガンホ

『スノーピアサー』で『ソイレント・グリーン』の衝撃を←最強タッグ

パルムドール受賞記念だ『ほえる犬は噛まない』←ポン・ジュノ監督作