『本心』 平野啓一郎
母と二人暮らしだった青年が
事故で亡くなった母のアバターを注文するというところから
物語は始まります。
VRのヘッドセットを装着し
母のアバターと交流するわけです。
この設定だけだと
生前の母の面影と暮らす孤独な青年
のような感じがしますよね。
ところが
アバターの母との交流から
彼は、現実世界での人との交流が広がったりもする。
複雑な事情を持った登場人物が、丁寧に描かれていて
誰一人、手前勝手に人を決めつけたりしないのが
この作品全体に流れている温かさなのかなと思いました。
アバターを制作したVRシステムの担当者の
一見冷たく感じられるような態度の中にも
やわらかさ、温かさが感じられました。
作品の中では端役なので
仕事上の彼女しか描かれていませんが
彼女の奥行きも知りたい気がするくらい
人が丁寧に描かれているんです。
ラストの主人公の決断に
心地いい読後感を覚えました。